1 / 1
妹に悲しい思いはさせたくない!
しおりを挟む
「ご予約のかたですね。こちらへどうぞ」
案内されたわたしが個室に入ると、そこには彼ではなく、妹がいました。
たまに帰る実家で見る妹とは違ってずいぶんとおめかししていますが、見間違うはずがありません。
「え、あんた何してんの?」
「お姉こそ、どうしてここに……?」
ふたりでわけもわからず戸惑っていると、彼が颯爽と入室してきました。
「うん、揃ってるね」
最近は出張続きでなかなか会えていませんでしたが、でも、ちゃんとわたしと婚約している愛しい愛しい彼氏です。
長身でイケメンの、未来の旦那様。
「あ、ふたりで向かい合わせじゃなくて並んで座って。ぼくがこっちに座るから」
姉妹で横に並び、彼と向かい合わせに座りました。
たしかにテーブルには三人ぶんのナイフやフォークなどが置かれています。
でも、こんなの聞いていません。
「どういうことなの? 妹に紹介しろってこと……?」
「え? お姉を紹介するんじゃないの?」
混乱するわたしたちに、彼はよく通るきれいな声で、
「並ぶとすごいね。ほんとに似ている。ぼくがふたりともに惚れたのもうなずけるよ」
「はあ⁉︎」
妹と見事にハモりました。
そりゃ似てはいるんでしょうけど。
そこは認めますけど……惚れた?
えっと……?
呆気にとられるわたしたち姉妹をよそに、そこからは彼の独壇場でした。
最初に出会ったのは妹だったこと。
結婚の口約束を交わしてから、都内に転勤になり、そこでわたしと出会ったこと。
姉であることはあとになって知ったこと。
女性の悲しむ顔が苦手で、別れを切り出せない性格だということ。
わたしたちは黙って聞いていましたが、彼がひと息入れたところで、妹が言いました。
「あたしと婚約破棄するってことだよね。もう長いあいだ連絡なかったから、だめなんじゃないかとは思ってた。でも……お姉と結婚したらこれからも顔合わせるよ……」
涙を流してわたしを見ます。
わたしは、まさか自分が妹の婚約者を寝取ることになるとは思っていなかったので、どう慰めていいのか言葉が出てきません。
すると彼は、
「大丈夫。お姉さんともきちんと別れる。これがぼくの誠意だよ」
「え?」
わたしとも別れる?
「姉妹ふたりと同時に別れれば、ぼくがいなくなっても、お互いの涙を拭きあうことができる。家族で憎みあうこともなく、むしろ絆が深まるんじゃないかな。ぼくは共通の敵なんだから」
遠くを見る目で、ふっ……と悲しく微笑んでいます。
いやいや。
何ですかこれ……。
「お姉……」
「うん。よくわからんけど、前菜が運ばれてきたから、とりあえず食べるしかないわ、もう」
カチャカチャと食器の鳴る音だけが響きます。
「ぼくは身を引き裂かれるほどつらいけど、きみたち姉妹はふたりだから――」
「黙って食べて?」
わたしとの婚約破棄はこの際もう構いません。
でも、妹を泣かせたのは許さない。
妹との婚約破棄を撤回させるというのも考えましたが、はたしてそれで妹が幸せになるかというと、かなり疑問です。
「お姉、あたし平気だからお姉はこのまま結婚していいよ」
「ううん、それはない」
否定はしましたが、妹の気づかいで心がすこし温かくなったのはたしかでした。
むしろ絆が深まる――
合ってるけど、たぶん結果的にそうなるんだけど、あんたに言われるとマジむかつくんですけどっ!
案内されたわたしが個室に入ると、そこには彼ではなく、妹がいました。
たまに帰る実家で見る妹とは違ってずいぶんとおめかししていますが、見間違うはずがありません。
「え、あんた何してんの?」
「お姉こそ、どうしてここに……?」
ふたりでわけもわからず戸惑っていると、彼が颯爽と入室してきました。
「うん、揃ってるね」
最近は出張続きでなかなか会えていませんでしたが、でも、ちゃんとわたしと婚約している愛しい愛しい彼氏です。
長身でイケメンの、未来の旦那様。
「あ、ふたりで向かい合わせじゃなくて並んで座って。ぼくがこっちに座るから」
姉妹で横に並び、彼と向かい合わせに座りました。
たしかにテーブルには三人ぶんのナイフやフォークなどが置かれています。
でも、こんなの聞いていません。
「どういうことなの? 妹に紹介しろってこと……?」
「え? お姉を紹介するんじゃないの?」
混乱するわたしたちに、彼はよく通るきれいな声で、
「並ぶとすごいね。ほんとに似ている。ぼくがふたりともに惚れたのもうなずけるよ」
「はあ⁉︎」
妹と見事にハモりました。
そりゃ似てはいるんでしょうけど。
そこは認めますけど……惚れた?
えっと……?
呆気にとられるわたしたち姉妹をよそに、そこからは彼の独壇場でした。
最初に出会ったのは妹だったこと。
結婚の口約束を交わしてから、都内に転勤になり、そこでわたしと出会ったこと。
姉であることはあとになって知ったこと。
女性の悲しむ顔が苦手で、別れを切り出せない性格だということ。
わたしたちは黙って聞いていましたが、彼がひと息入れたところで、妹が言いました。
「あたしと婚約破棄するってことだよね。もう長いあいだ連絡なかったから、だめなんじゃないかとは思ってた。でも……お姉と結婚したらこれからも顔合わせるよ……」
涙を流してわたしを見ます。
わたしは、まさか自分が妹の婚約者を寝取ることになるとは思っていなかったので、どう慰めていいのか言葉が出てきません。
すると彼は、
「大丈夫。お姉さんともきちんと別れる。これがぼくの誠意だよ」
「え?」
わたしとも別れる?
「姉妹ふたりと同時に別れれば、ぼくがいなくなっても、お互いの涙を拭きあうことができる。家族で憎みあうこともなく、むしろ絆が深まるんじゃないかな。ぼくは共通の敵なんだから」
遠くを見る目で、ふっ……と悲しく微笑んでいます。
いやいや。
何ですかこれ……。
「お姉……」
「うん。よくわからんけど、前菜が運ばれてきたから、とりあえず食べるしかないわ、もう」
カチャカチャと食器の鳴る音だけが響きます。
「ぼくは身を引き裂かれるほどつらいけど、きみたち姉妹はふたりだから――」
「黙って食べて?」
わたしとの婚約破棄はこの際もう構いません。
でも、妹を泣かせたのは許さない。
妹との婚約破棄を撤回させるというのも考えましたが、はたしてそれで妹が幸せになるかというと、かなり疑問です。
「お姉、あたし平気だからお姉はこのまま結婚していいよ」
「ううん、それはない」
否定はしましたが、妹の気づかいで心がすこし温かくなったのはたしかでした。
むしろ絆が深まる――
合ってるけど、たぶん結果的にそうなるんだけど、あんたに言われるとマジむかつくんですけどっ!
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
3年も帰ってこなかったのに今更「愛してる」なんて言われても
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢ハンナには婚約者がいる。
その婚約者レーノルドは伯爵令息で、身分も家柄も釣り合っている。
ところがレーノルドは旅が趣味で、もう3年も会えていない。手紙すらない。
そんな男が急に帰ってきて「さあ結婚しよう」と言った。
ハンナは気付いた。
もう気持ちが冷めている。
結婚してもずっと待ちぼうけの妻でいろと?
婚約者は幼馴染みを選ぶようです。
香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。
結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。
ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。
空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。
ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。
ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
婚約破棄したので、元の自分に戻ります
しあ
恋愛
この国の王子の誕生日パーティで、私の婚約者であるショーン=ブリガルドは見知らぬ女の子をパートナーにしていた。
そして、ショーンはこう言った。
「可愛げのないお前が悪いんだから!お前みたいな地味で不細工なやつと結婚なんて悪夢だ!今すぐ婚約を破棄してくれ!」
王子の誕生日パーティで何してるんだ…。と呆れるけど、こんな大勢の前で婚約破棄を要求してくれてありがとうございます。
今すぐ婚約破棄して本来の自分の姿に戻ります!
【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。
はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。
周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。
婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。
ただ、美しいのはその見た目だけ。
心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。
本来の私の姿で……
前編、中編、後編の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる