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02 憎む
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ある日の午後。
授業の合間に、庭園のガゼボでコリンとお茶を飲んでいると、第一王子のファビオがやってきた。
アタシの憎むクソ男だ。
「ようコリン、女連れで優雅なことしてんな。
おれにも参加させてくれよ」
「兄上。先生に失礼です」
弟がとがめるのを意に介さず、彼はアタシの顔を見ながら勝手に椅子に座った。
よくあることで、いつもこの調子である。
「センセ、あいかわらず美人だね。
コリンじゃなくておれの教師にならないか?
おれだったら毎晩放っておかないのに」
「あら知らないの。
コリン様もなかなかのものよ?」
「まったまた~」
弟の髪をくしゃくしゃにかき混ぜながら笑う。
子供っぽく怒るコリン。
ファビオは顔は悪くないので、そうしていると、まるで弟と仲の良いやんちゃで愛すべき男のように見える。
だがアタシは彼の本性を知っている。
落としたい女のまえで、そういう男を演じているだけだ。
10年前に捨てた少女がアタシだということに、彼はまったく気づいていない。
付き合っていたときによく褒めていた目のかたちを手術ですこし変えたというのもあるが、それ以外の部分も、変わっていないところを探すほうが難しいだろう。
彼の肩ほどしかなかった身長も、かかとのある靴を履けば彼と並ぶほどに伸びた。
胸も尻も、ずいぶんと肉がついて女の身体になった。
声は意識して低くしゃべってはいるが、あの頃のような、お伽話の恋を信じる無垢な少女の声はもう出ない。
ようするに、少女からおとなになった。
当時のアタシはいまとは似ても似つかないほど子供で、未熟だったということだ。
それは悪いことではなかったけれど。
そんなうぶなアタシが彼のような男と出会ったのは、間が悪いことではあった。
「センセ、はっきり訊くけど、いま彼氏いる?」
「教えない」
「うわー、こりゃいるのかなあ。
使用人でセンセのこと狙ってるやつ多いから、もしいるってなったら士気だだ下がりで王宮がほこりだらけになっちまう」
困った困った、と大笑い。
くだらない男のくだらない探り。
「アタシは仕事が恋人だから。
いまはコリン様をご立派にお育てするだけ」
「ありがとうございます、先生」
休憩はこのくらいにしておこう。
アタシとコリンは紅茶を飲み干して立ち上がる。
と、そこでファビオ王子が不意に言った。
「そのあとはどうするんだ?」
「え?」
そのあとは、復讐。
憎いあんたと、この国への復讐よ。
なんてことは口が裂けても言えない。
「どうした?
午後の授業が終わったあとの予定を訊いたんだが」
「ああ、ええ……。
夜は夜で、コリン様の補習があるわ」
「ふうん」
彼は興味が失せたとばかりに紅茶に口をつけた。
話は終わりだ。
アタシたちは部屋に戻る。
「……ほんとに熱心なんだな。
コリンが熱上げるのもわかるぜ」
部屋への扉を閉めるときに、誰にともなく発したファビオ王子のつぶやきが聞こえてきた。
授業の合間に、庭園のガゼボでコリンとお茶を飲んでいると、第一王子のファビオがやってきた。
アタシの憎むクソ男だ。
「ようコリン、女連れで優雅なことしてんな。
おれにも参加させてくれよ」
「兄上。先生に失礼です」
弟がとがめるのを意に介さず、彼はアタシの顔を見ながら勝手に椅子に座った。
よくあることで、いつもこの調子である。
「センセ、あいかわらず美人だね。
コリンじゃなくておれの教師にならないか?
おれだったら毎晩放っておかないのに」
「あら知らないの。
コリン様もなかなかのものよ?」
「まったまた~」
弟の髪をくしゃくしゃにかき混ぜながら笑う。
子供っぽく怒るコリン。
ファビオは顔は悪くないので、そうしていると、まるで弟と仲の良いやんちゃで愛すべき男のように見える。
だがアタシは彼の本性を知っている。
落としたい女のまえで、そういう男を演じているだけだ。
10年前に捨てた少女がアタシだということに、彼はまったく気づいていない。
付き合っていたときによく褒めていた目のかたちを手術ですこし変えたというのもあるが、それ以外の部分も、変わっていないところを探すほうが難しいだろう。
彼の肩ほどしかなかった身長も、かかとのある靴を履けば彼と並ぶほどに伸びた。
胸も尻も、ずいぶんと肉がついて女の身体になった。
声は意識して低くしゃべってはいるが、あの頃のような、お伽話の恋を信じる無垢な少女の声はもう出ない。
ようするに、少女からおとなになった。
当時のアタシはいまとは似ても似つかないほど子供で、未熟だったということだ。
それは悪いことではなかったけれど。
そんなうぶなアタシが彼のような男と出会ったのは、間が悪いことではあった。
「センセ、はっきり訊くけど、いま彼氏いる?」
「教えない」
「うわー、こりゃいるのかなあ。
使用人でセンセのこと狙ってるやつ多いから、もしいるってなったら士気だだ下がりで王宮がほこりだらけになっちまう」
困った困った、と大笑い。
くだらない男のくだらない探り。
「アタシは仕事が恋人だから。
いまはコリン様をご立派にお育てするだけ」
「ありがとうございます、先生」
休憩はこのくらいにしておこう。
アタシとコリンは紅茶を飲み干して立ち上がる。
と、そこでファビオ王子が不意に言った。
「そのあとはどうするんだ?」
「え?」
そのあとは、復讐。
憎いあんたと、この国への復讐よ。
なんてことは口が裂けても言えない。
「どうした?
午後の授業が終わったあとの予定を訊いたんだが」
「ああ、ええ……。
夜は夜で、コリン様の補習があるわ」
「ふうん」
彼は興味が失せたとばかりに紅茶に口をつけた。
話は終わりだ。
アタシたちは部屋に戻る。
「……ほんとに熱心なんだな。
コリンが熱上げるのもわかるぜ」
部屋への扉を閉めるときに、誰にともなく発したファビオ王子のつぶやきが聞こえてきた。
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