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01 筆おろしって筆おろし?
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「聖女様、筆おろしの儀式が始まります。
そろそろ会場のほうへお向かいください」
「えええっ?
ふ、筆おろしですか?」
聖女と呼ばれたわたしは、その呼び名に似合わぬ素っ頓狂な声をあげてしまった。
声をかけてくれたシスターレイチェルが驚いた顔で見ている。
「聖女アシュリー様。
いまのお声は、いったい……?」
「ごめんなさい、なんでもないのです。
わかりました。
筆おろしですね、すぐ参ります」
わたしは聖女アシュリー。
半年ほどまえに異世界転生でこの世界の聖女となった、元・日本人だ。
三十代なかばで男を知らぬまま病没したわたしを、女神様が「清い存在」と勘違いして聖女に転生させたのだ。
えっちな漫画をふつうに読んでいたわたしは全然清くなんてないのだけれど、聖女という響きがなんだか素敵で、ひそかに今度の人生こそ人のためになる良い人生にしようと心に決めていたりする。
ちなみに、聖女として転生したわたしは、「この世界のことは知らないが教義については完璧」という、いやーな勘違いを周りからされている。
否定したかったが、じゃあ教義も知らないでなにが聖女なのかと問われれば「はて……?」としか答えることができず、それだと教会を叩きだされそうな気がしたので、話を合わせている。
教義については聖典だか経典だかを探してこっそり勉強しようと考えていた。
だが、それが甘かった。
このセイアイ教会と呼ばれる宗教は、教義を文字として書き記すことが禁止されている。
すべてを聖なる乙女の清らかな口伝のみで伝えてゆくことが最重要とされている、とても面倒くさい宗教だった。
つまりわたしは伝える側の立場でこそあれ、誰かから教義を教わることなどできないのだ。
いつかボロが出るボロが出ると思いながらも、ここまでなんとか、持ち前の空気読みスキルでしのいできた。
前世で経験者のみ募集の求人に知ったかぶりで応募し、「なるほど、この会社ではそうやるんですね」の連発で10年働いていた経験が活かされているといっても過言ではない。
我ながら地獄に落ちなかったのがふしぎな前世である。
では、筆おろしに話を戻そう。
筆おろしという言葉を、わたしはえっちな単語として認識している。
本来の意味はたぶん、「新しい筆を使う」が転じて「なにかをはじめて使う」ということなのだろうが、日本ではもはやそのような広い意味では使われていない。
たとえば男の同僚が「筆おろししようかな」などと職場で口にすれば、それがどういう意味で発した言葉だったにせよ、女性陣からは白い目で見られることになるだろう。
いわゆる、シモ限定の言葉になりつつあるのだ。
わたしは言葉を慎重に選んで、シスターレイチェルに尋ねる。
「ここでの筆おろしは、どのように……?」
「ああ、緊張なさらずとも大丈夫ですよ。
とってもいい子たちばかりですから」
「あーよかったー」
なにもよくない。
言葉を選びすぎたせいで、得られた情報が少なすぎる。
いい子たち、とはいったいどういう意味だ。
ムスコたちのことか?
成人した男性を相手として、やっぱりアレをやらされるというのだろうか。
それも複数。
聖女の務めとして、そんな性風俗みたいなことってある?
でも、世界が違えばあるかもしれないところがすごく怖い。
「うー、助けて……」
「聖女様、なにかおっしゃいました?」
「あ、いいえ。
人々の助けになることを頑張ろうと思っただけです」
「まあ、さすがですわ」
シスターレイチェルの尊敬のまなざしに、わたしはあきらめた。
この世界では人の役に立とうと決心したではないか。
(……でも、あの筆おろしじゃないといいなあ)
そう思いながら、わたしは会場へと足を進めた。
そろそろ会場のほうへお向かいください」
「えええっ?
ふ、筆おろしですか?」
聖女と呼ばれたわたしは、その呼び名に似合わぬ素っ頓狂な声をあげてしまった。
声をかけてくれたシスターレイチェルが驚いた顔で見ている。
「聖女アシュリー様。
いまのお声は、いったい……?」
「ごめんなさい、なんでもないのです。
わかりました。
筆おろしですね、すぐ参ります」
わたしは聖女アシュリー。
半年ほどまえに異世界転生でこの世界の聖女となった、元・日本人だ。
三十代なかばで男を知らぬまま病没したわたしを、女神様が「清い存在」と勘違いして聖女に転生させたのだ。
えっちな漫画をふつうに読んでいたわたしは全然清くなんてないのだけれど、聖女という響きがなんだか素敵で、ひそかに今度の人生こそ人のためになる良い人生にしようと心に決めていたりする。
ちなみに、聖女として転生したわたしは、「この世界のことは知らないが教義については完璧」という、いやーな勘違いを周りからされている。
否定したかったが、じゃあ教義も知らないでなにが聖女なのかと問われれば「はて……?」としか答えることができず、それだと教会を叩きだされそうな気がしたので、話を合わせている。
教義については聖典だか経典だかを探してこっそり勉強しようと考えていた。
だが、それが甘かった。
このセイアイ教会と呼ばれる宗教は、教義を文字として書き記すことが禁止されている。
すべてを聖なる乙女の清らかな口伝のみで伝えてゆくことが最重要とされている、とても面倒くさい宗教だった。
つまりわたしは伝える側の立場でこそあれ、誰かから教義を教わることなどできないのだ。
いつかボロが出るボロが出ると思いながらも、ここまでなんとか、持ち前の空気読みスキルでしのいできた。
前世で経験者のみ募集の求人に知ったかぶりで応募し、「なるほど、この会社ではそうやるんですね」の連発で10年働いていた経験が活かされているといっても過言ではない。
我ながら地獄に落ちなかったのがふしぎな前世である。
では、筆おろしに話を戻そう。
筆おろしという言葉を、わたしはえっちな単語として認識している。
本来の意味はたぶん、「新しい筆を使う」が転じて「なにかをはじめて使う」ということなのだろうが、日本ではもはやそのような広い意味では使われていない。
たとえば男の同僚が「筆おろししようかな」などと職場で口にすれば、それがどういう意味で発した言葉だったにせよ、女性陣からは白い目で見られることになるだろう。
いわゆる、シモ限定の言葉になりつつあるのだ。
わたしは言葉を慎重に選んで、シスターレイチェルに尋ねる。
「ここでの筆おろしは、どのように……?」
「ああ、緊張なさらずとも大丈夫ですよ。
とってもいい子たちばかりですから」
「あーよかったー」
なにもよくない。
言葉を選びすぎたせいで、得られた情報が少なすぎる。
いい子たち、とはいったいどういう意味だ。
ムスコたちのことか?
成人した男性を相手として、やっぱりアレをやらされるというのだろうか。
それも複数。
聖女の務めとして、そんな性風俗みたいなことってある?
でも、世界が違えばあるかもしれないところがすごく怖い。
「うー、助けて……」
「聖女様、なにかおっしゃいました?」
「あ、いいえ。
人々の助けになることを頑張ろうと思っただけです」
「まあ、さすがですわ」
シスターレイチェルの尊敬のまなざしに、わたしはあきらめた。
この世界では人の役に立とうと決心したではないか。
(……でも、あの筆おろしじゃないといいなあ)
そう思いながら、わたしは会場へと足を進めた。
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