3 / 41
第一部 ディオンヌと仮面
01
しおりを挟む
ブランドン家の末路は呪われたものでした。
借金のために屋敷を手放すことを余儀なくされた両親は、田舎に移り住むことを計画していました。
大勢いた使用人に暇を出し、父の家系にゆかりのある土地で再起を図るつもりだったのです。
でも――
その下見の道中、馬車を土砂崩れが襲いました。
わたしはわがままを言って屋敷に残っていたので、難を逃れました。
家族を失いひとりで生き残ることが幸運とは思えませんが……。
あとから聞いた話ですが、谷底に落ちた馬車は、ひどい有様だったそうです。
ふたりとも即死だったはず……ということでした。
母の遺体は野犬に食い荒らされ、ほとんど人の形をしていなかったと聞かされました。
それでも埋葬することができただけでも、よかったと思うべきなのかもしれません。
父のほうは、結局、遺体すら見つかりませんでした。
扱いとしては行方不明ですが、捜索はすぐに打ち切られました。
現場に残された出血の量から考えて、生存の可能性はゼロとされたからです。
屋敷で両親の帰りを待ち続けていたわたしは、すべてを人づてに聞かされました。
あまり記憶がありませんが、放心するばかりで、叫んだり泣いたりはしなかったと思います。
ただひとつ、
(わたしも馬車に乗ればよかった)
そう悔やんだことだけを覚えています。
ブランドン家が滅びるなら、ひとり娘であるわたしも一緒に滅びるべきでした。
――なぜ、生き残ってしまったのか。
自問を繰り返しながら、わたしはジョーデン家に買われました。
「いつまで支度してるんだい! さっさとお客様をお迎えする準備をおし」
「はい、申し訳ありません」
使用人まとめ役のメアリが、わたしの部屋にノックもなしに入ってきました。
8人いる使用人の中で、彼女はいちばんの古株です。
年齢は50を過ぎているのではないでしょうか。
身支度すら自分でしたことのなかったわたしを怒鳴り散らしながらも、文字どおり手取り足取り教えてくれた女性です。
口は悪いけど、悪い人ではありません。
「今日はジョサイア坊っちゃまの婚約者がいらっしゃるんだから、いつも以上に気をつけるんだよ」
「婚約者……」
ジョサイアの、婚約者。
わたしは胸がざわつくのを感じました。
幼かった彼との他愛もない口約束が、頭の片隅に蘇ります。
でも、わたし以外に婚約者がいるということは、彼はもう昔のことを覚えていないに違いありません。
メアリはわたしの呟きをどう解釈したのか、
「大丈夫だよ。エレノア様はすこし気性の荒いお方だけど、何も斬り殺されるわけじゃないんだから」
「はい。わかっております」
答えながらわたしは思いました。
(斬り殺してもらったほうが、ずっと楽かも)
わたしがこうして生き残っている意味を考えると、そう思わずにはいられません。
生き残ったわたしが、使用人としてここにいる意味。
なぜこんなことになったのかずっと考えてきましたが、最近、ひとつの結論に達していました。
これは『復讐せよ』という、天の配剤なのではないでしょうか。
ブランドン家が受けた仕打ちに対する復讐です。
争いごととは無縁の18年でしたが、ここから先は、騙しあい殺しあいの人生となります。
とても気が進まないけど――
(敵に買われてまで生き続けるなんて、目的がないと絶対に無理)
わたしは唇を噛みしめ、メアリに続いて客間へ向かいました。
借金のために屋敷を手放すことを余儀なくされた両親は、田舎に移り住むことを計画していました。
大勢いた使用人に暇を出し、父の家系にゆかりのある土地で再起を図るつもりだったのです。
でも――
その下見の道中、馬車を土砂崩れが襲いました。
わたしはわがままを言って屋敷に残っていたので、難を逃れました。
家族を失いひとりで生き残ることが幸運とは思えませんが……。
あとから聞いた話ですが、谷底に落ちた馬車は、ひどい有様だったそうです。
ふたりとも即死だったはず……ということでした。
母の遺体は野犬に食い荒らされ、ほとんど人の形をしていなかったと聞かされました。
それでも埋葬することができただけでも、よかったと思うべきなのかもしれません。
父のほうは、結局、遺体すら見つかりませんでした。
扱いとしては行方不明ですが、捜索はすぐに打ち切られました。
現場に残された出血の量から考えて、生存の可能性はゼロとされたからです。
屋敷で両親の帰りを待ち続けていたわたしは、すべてを人づてに聞かされました。
あまり記憶がありませんが、放心するばかりで、叫んだり泣いたりはしなかったと思います。
ただひとつ、
(わたしも馬車に乗ればよかった)
そう悔やんだことだけを覚えています。
ブランドン家が滅びるなら、ひとり娘であるわたしも一緒に滅びるべきでした。
――なぜ、生き残ってしまったのか。
自問を繰り返しながら、わたしはジョーデン家に買われました。
「いつまで支度してるんだい! さっさとお客様をお迎えする準備をおし」
「はい、申し訳ありません」
使用人まとめ役のメアリが、わたしの部屋にノックもなしに入ってきました。
8人いる使用人の中で、彼女はいちばんの古株です。
年齢は50を過ぎているのではないでしょうか。
身支度すら自分でしたことのなかったわたしを怒鳴り散らしながらも、文字どおり手取り足取り教えてくれた女性です。
口は悪いけど、悪い人ではありません。
「今日はジョサイア坊っちゃまの婚約者がいらっしゃるんだから、いつも以上に気をつけるんだよ」
「婚約者……」
ジョサイアの、婚約者。
わたしは胸がざわつくのを感じました。
幼かった彼との他愛もない口約束が、頭の片隅に蘇ります。
でも、わたし以外に婚約者がいるということは、彼はもう昔のことを覚えていないに違いありません。
メアリはわたしの呟きをどう解釈したのか、
「大丈夫だよ。エレノア様はすこし気性の荒いお方だけど、何も斬り殺されるわけじゃないんだから」
「はい。わかっております」
答えながらわたしは思いました。
(斬り殺してもらったほうが、ずっと楽かも)
わたしがこうして生き残っている意味を考えると、そう思わずにはいられません。
生き残ったわたしが、使用人としてここにいる意味。
なぜこんなことになったのかずっと考えてきましたが、最近、ひとつの結論に達していました。
これは『復讐せよ』という、天の配剤なのではないでしょうか。
ブランドン家が受けた仕打ちに対する復讐です。
争いごととは無縁の18年でしたが、ここから先は、騙しあい殺しあいの人生となります。
とても気が進まないけど――
(敵に買われてまで生き続けるなんて、目的がないと絶対に無理)
わたしは唇を噛みしめ、メアリに続いて客間へ向かいました。
5
あなたにおすすめの小説
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
落ちこぼれで婚約破棄されて周りから醜いと言われる令嬢は学園で王子に溺愛される
つちのこうや
恋愛
貴族の中で身分が低く、落ちこぼれで婚約破棄されて周りから醜いと言われる令嬢の私。
そんな私の趣味は裁縫だった。そんな私が、ある日、宮殿の中の学園でぬいぐるみを拾った。
どうやら、近くの国から留学に来ているイケメン王子のもののようだけど…
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる