あなたは勝手に生きればいい

monaca

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帰宅して安堵する

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「ただいま~」

 わたしはひとり暮らし。
「おかえり」を言ってくれる人間は誰もいません。
 でも、玄関を抜けてリビングのドアを開けると、出迎えてくれます。

「にゃんにゃ!」

 猫のルリです。
 保護猫で雑種だけど、ロシアンブルーに見えるから、わたしにとってはロシアンブルーの立派な子。
 去勢済みだからオスじゃなくて天使です。

「ありがと~。いいこにしてたね」
「んにゃ~ん」

 頭、首、しっぽの付け根と撫でまわすわたしに、ルリは甘い声で、「そんなことよりご飯!」と訴えてきました。

「はいはい、ちょっと待ってね。今日はすこしだけ豪華にしましょ」

 いつもより柔らかいフードの量を増やしてあげます。
 カリカリした固いフードより、ウェットのほうがルリは好きなのです。
 カロリーを摂りすぎないよう、逆にカリカリを減らして調節します。

「おあーん」
「うん、ごはんだよ。えらいね~」

 置いたお皿にがっつくルリを見ながら、わたしは満足感を覚えていました。

 今日は記念日。

 さっき婚約破棄してきたから、婚約破棄記念日です。

 わたしから告げられた彼は、しばらく固まっていました。
 そして出てきた言葉が、

「他に男ができたのか?」

 そんなわけないでしょう。
 愛した人間はあなただけです。
 そういう心配は、しなくて大丈夫。

 でも、わたしにはルリがいるから。

 気づいたんです。

 わたしはこれまでも、仕事終わりのデートのまえに、必ず一度帰宅して、ルリに晩ごはんをあげていました。
 そのままお泊りしたときも、朝ごはんを待つルリがお腹を空かせているのが手にとるようにわかるので、すぐに帰ります。
 1日2回の食事は、ルリにとって欠かせないものです。

 自動給餌器も買ってみたけど、一度残したことがあったから、きっと駄目なのです。
 わたしがそばにいて、あげないと。

 彼も好きだけど、ルリには絶対に敵いません。

「わたし、ひとりで生きていくことにしたの」
「そうか……」

 彼は残念そうにうなだれていました。
 わたしのことを、好きでいてくれたのは知っています。

 でも、ごめんなさい。
 ひとりで生きていきます。
 ひとりというのは、人間の数のこと。
 わたしは、ルリとふたりで生きていくことに決めました。

「にゃ~にゃん!」
「ん? うれしそうだね。わたしもいま、すごくうれしいんだ」

 だって、彼があれからどうしているかなんて、まったく気になりません。
 朝ごはんも勝手に食べるし、晩ごはんだってきっと勝手に食べているでしょう。

 これが答えです。

 わたしはルリを撫でながら、婚約破棄記念日をゆっくりと噛み締めました。
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