カレの弟と婚約したい

monaca

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男は顔じゃない

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 顔で男を選ぶと後悔するって言いますよね?

 あれ、本当です。
 気をつけたほうがいいと思います。

「兄貴と婚約破棄するって本当なのか?」
「ごめんなさい……」

 あたしは婚約者の弟と、ふたりで会っていました。
 ホテルだけど、ちゃんとしたホテルのロビーです。
 やましい関係ではありません。

「兄貴、わけがわからないって泣いてたぞ?」

 眉間にしわを寄せてそう語る彼の顔は、お兄さんとそっくり。
 五歳も離れているのにふたごかと思うほど似ている、イケメンです。

 でも、性格は全然違います。

 兄が弱気で、弟が強気。
 婚約してから知りあった弟のほうが、あたし好みの性格でした。

 顔と性格が好みの男と出会う可能性があるのだから、顔だけで男を選ぶのはやめるべきだったと後悔しています。

「きみは兄貴の何が気に入らないっていうんだ? 理由もちゃんと伝えてないんだろう?」
「気に入らないわけじゃないんだけど……」

 あなたのほうが好みなの、と言いたいけれど。
 そんなことを言う女は、彼はたぶん好きではないと思います。
 いつものこの調子で、「尻軽女はお断りだ」とあっさり拒絶されるのが関の山でしょう。
 そのはっきりした性格がまた好きなのですけど。

 というか、女から婚約破棄を告げられて泣きだす男ってどうなんでしょう?
 軟弱すぎませんか?

 これまで、顔が好みだったからすべて許せていましたが、顔だけが男のすべてじゃないとわかった今は、かなり本気で腹が立っています。
 納得いかないときくらい、納得いくまで食らいついてみてほしい。

 腹立ちついでに、目のまえの彼が、あたしに対して本当に脈がないか見てみようと思い立ちました。

「あたしって女として魅力あると思う?」
「なんだいきなり。自信がなくなったから婚約破棄したいとでも言うのか?」
「ええそんな感じ。ねえ、どう思う?」

 彼は腕を組んで、値踏みするようにあたしを見ます。
 ああ、もっと見て。

「そうだな……。顔は兄貴の好きなタイプだ。すこしつり目なところがいい」
「へえ、そうなんだ。あなたは好み?」
「おれ? おれはべつにいいだろう」

 つれない返事。

「じゃあ性格は?」
「兄貴は優柔不断なところがあるから、行動力と決断力があるのは悪くない。婚約破棄を決断するのはダメだが」
「なるほどね、ありがと」

 決断力。
 あたしは決断しました。

 やっぱり、弟の彼に言おう。

「あたしね、あなたのほうが好きなんだ。だから婚約破棄するの。ダメ?」
「はっ」

 鼻で笑う彼に、すかさずあたしは、

「尻軽女と思われてもいい。でも、あなたが本当に好き!」
「う……」

 機先を制された彼は、すこしひるみました。
 ここで畳みかける!

「あたし考えたの。自分を婚約破棄した女と弟が婚約したら、あなたとお兄さんの仲が悪くなるかもしれない。だから、あなたが引き留めたことにする。お兄さんと別れて遠くに行ってしまうあたしを、あなたが自分と無理やり婚約させることで近くに引き留めたってことにしたら、どうかな?」

 懸命に考えた作戦を披露しました。
 でも彼はすぐに、

「おれだったらそんなことはしない。無理やり婚約させるなら、兄貴とだ。婚約破棄はやめて、兄貴と一緒にいろ」
「え、それってーー」
「命令だよ。あんた、おれが好きなんだろう? だったらおれの言うとおりにしろ。兄貴とあんたは、合ってるんだ。一緒になったほうがいい。幸せに暮らしていれば、たまにおれも会いに行ってやる。わかったか?」

 あたしのあごを指先で持ち上げ、目の中を覗きこむようにして言いました。

 このあたしに、命令……。
 本当にすてき。
 こんな顔で、こんな性格の男は、他にいないと思いました。

「あたし、お兄さんのこと、愛せるかな?」
「おれに命令されて断るってのか?」
「……ううん、やるわ」

 あたしは決めました。
 婚約破棄は中止。
 婚約者に謝って、許してもらわなきゃ。

「会いに来たら何してくれる?」
「そうほいほいお望みのことはできないな。兄貴と幸せそうなところを見せつけて、おれのことを煽ってくれよ」
「うん」

 男は顔だけじゃありません。
 性格だって大事。

 でもーー
 この彼と同じ顔の人のことなら、愛せそうな気がしてきました。
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