転生令嬢なのですけど……

monaca

文字の大きさ
1 / 1

ここは?

しおりを挟む
 気がつくと、わたくしは真っ白いベッドに寝かされていました。

 自分で横になったのではないというのは、すぐにわかりました。
 手足を固定されていますから。

(これ……何ですの?)

 口に何かを入れられ、声を出すことができません。
 苦しくはないので、猿ぐつわではなさそうです。

「ああ、気がついた」

 淡い緑色の服を着た男が、わたくしを覗きこんで言いました。
 知らない男です。

(あなた、誰?)
「ぐう、うう……」

 口がふさがれていて言葉になりません。
 そんなわたくしに彼はほほえみ、

「もう大丈夫。きみは一命を取り留めたんだよ。胃にあった薬はすべて除去したから心配しなくていい」

 その言葉は、まるでわたしが、薬によってみずからの命を絶とうとしたかのような響きでした。

 たしかにわたくしには、命を絶つ決心をした記憶があります。
 でも、その方法は薬ではなくて縄だったし――

 確実に死んだはずでした。

「しばらくはここで療養していきなさい。もうすぐ旦那さんも来られるから」

 彼は忙しいのか、そう言い残すとすぐに部屋を出て行きます。
 わたくしは、再びひとりになりました。

 頭がぼうっとしていますが、記憶に間違いはありません。
 伯爵令嬢だったわたくしは、ひどい目に遭って深く傷つき、みずから命を絶ちました。

 つまりここは、来世というものなのでしょう。

(わたくし、生まれ変わったのね。今は動けないけど、新しい人生がもらえたなら、今度こそ幸せになってみせる)

 前世ではタチの悪い男に引っかかってしまいました。
 顔もよく優しかったのだけれど、婚約して夜になると豹変したのです。
 縛られ、叩かれ、肉が裂け、血が流れ――
 思いだすのもおぞましい、獣の調教のような行為でした。

 わたくしはどうにか婚約破棄しました。

 お父様の力添えにより、その男は処刑されたと聞きます。
 わたくしは心から感謝しましたが、心の傷は癒えることがなく……。

(そういえば、さっきの人、もうすぐ誰か来るって言ってましたわね)

 旦那……さん?

 わたくしは結婚しているのでしょうか。
 一から恋愛をできないのは残念ですが、結婚までしているということなら、前のように『合わない』ということはないと思います。

 相手からすれば奥さんかもしれませんが、わたくしからすれば初対面。
 これから好きになればよいのです。
 わたくしは新しい世界の何もかもに、心をときめかせました。

 そのとき、部屋の扉が開き、

「無事だったそうだね」

 先ほどとは違う男の声が、わたくしに近づいてきました。

 ベッドから動けないわたくしを覗きこんだ、その顔は――

「おや? 昨日までと反応が違う。もしかして、きみも転生したのか? 顔がそっくりだからまさかと思ってはいたが、どうやらぼくらは本当に縁があるらしい。ほら、あのときのようにベッドから動けないね。こっちにはあの憎たらしい伯爵もいない。ふたりで心から楽しむとしよう」

 わたくしは、男の笑顔を見ながら、再び意識を失いました。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

乙女ゲームの世界じゃないの?

白雲八鈴
恋愛
 この世界は『ラビリンスは恋模様』っていう乙女ゲームの舞台。主人公が希少な聖魔術を使えることから王立魔術学園に通うことからはじまるのです。  私が主人公・・・ではなく、モブです。ゲーム内ではただの背景でしかないのです。でも、それでいい。私は影から主人公と攻略対象達のラブラブな日々を見られればいいのです。  でも何かが変なんです。  わたしは主人公と攻略対象のラブラブを影から見守ることはできるのでしょうか。 *この世界は『番とは呪いだと思いませんか』と同じ世界観です。本編を読んでいなくても全く問題ありません。 *内容的にはn番煎じの内容かと思いますが、時間潰しでさらりと読んでくださいませ。 *なろう様にも投稿しております。

じゃあ婚約破棄してみて?

monaca
恋愛
わたしは乙女ゲームの世界に転生するようです。 まずは女神様からチュートリアルを受けています。

王族とかどうでもいいけど

monaca
恋愛
婚約者から、じつは王族出身だと告白されました。 現代でそういう話をされてもピンときませんが……。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

婚約破棄される予定のご令嬢

きんのたまご
恋愛
どうやら婚約破棄されるらしい 作者本人は王道を目指してます(一応)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...