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その口、お開けになる必要ありますの?
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「ごめん、もう無理……。婚約破棄する……」
「なんですって?」
わたくしが訊き返すと、彼はびくっと震えました。
本当に怯えていらっしゃるようです。
婚約破棄、という単語に焦っているのはわたくしのほうですのに。
「もっと優しく喋ってほしかった……」
「はい? わたくしの言葉から優しさが感じられないとおっしゃるのですか? 心の不感症なのではなくって?」
「うう……」
わたくしの切実な問いかけにも応じてくださいません。
これではもう、会話にならないではありませんか。
「あなた、お話にならないのね」
「ひどいよそれ……」
「それってどれですの? 先ほどから潰れた青虫みたいにモゾモゾうごめいていらっしゃいますが、ちゃんとお聞きいたしますから、人間の言葉でおっしゃってください」
誠心誠意、耳を傾けました。
これはちょっとした行き違いだと思っております。
だから、お互いに思うところをしっかり伝えあえば、必ず解決することができるはずです。
「こ、言葉が痛すぎるんだよ!」
「あら、やればできるではありませんか。今のは聞こえました。そうやって汚いツバを飛ばして大きな声でおっしゃればいいのです。あとは意味がわたくしにもわかるように、そこだけ気をつけておっしゃって?」
「……」
また黙りこまれます。
わたくし、あなたとちゃんと会話がしたいのに。
心を通わせるのが最終目標ですが、そのためにもまず、濃密なコミュニケーションが大切です。
「言葉が痛いというのはどういった意味ですの? わたくし、そのようなことを言われたのは生まれてはじめてですから、もっと噛みくだいてお願いいたします。ご立派なその頭は飾りではありませんよね?」
「……それだよ」
「はい? また聞こえません。喉か脳みそがお悪いのですか?」
「その言いかたが、いちいちキツいんだよ!」
言いかたが、キツい。
キツいというのは窮屈という意味です。
なるほど、ようやくわかってまいりました。
「もっとフランクに喋ればいいのね? 生まれの卑しいあなたにはこれで充分と。身のほどわかってる~」
「……」
「たしかにこれいいわね。あなたみたいな人と対等にコミュニケーションをとるにはこれがベストかも。ごめんね、ずっと劣等感でつらかったのね? これからはあなたの薄汚れた色にわたくしも合わせるわ」
彼は再び口を閉ざし、下を向いてしまわれました。
はい、言葉はもう要りません。
こうやって理解しあえたのですから。
わたくしたちの口は、言葉ではなく、愛のためにあります。
そう、キスをするために――
「と、とにかく婚約は破棄するよ!」
チワワほどにも度胸のない愛しの彼は、慌てて部屋を出ていかれました。
本当に、水たまりに落ちた蟻のように可愛い。
わたくしは絶対に彼を手放しません。
「なんですって?」
わたくしが訊き返すと、彼はびくっと震えました。
本当に怯えていらっしゃるようです。
婚約破棄、という単語に焦っているのはわたくしのほうですのに。
「もっと優しく喋ってほしかった……」
「はい? わたくしの言葉から優しさが感じられないとおっしゃるのですか? 心の不感症なのではなくって?」
「うう……」
わたくしの切実な問いかけにも応じてくださいません。
これではもう、会話にならないではありませんか。
「あなた、お話にならないのね」
「ひどいよそれ……」
「それってどれですの? 先ほどから潰れた青虫みたいにモゾモゾうごめいていらっしゃいますが、ちゃんとお聞きいたしますから、人間の言葉でおっしゃってください」
誠心誠意、耳を傾けました。
これはちょっとした行き違いだと思っております。
だから、お互いに思うところをしっかり伝えあえば、必ず解決することができるはずです。
「こ、言葉が痛すぎるんだよ!」
「あら、やればできるではありませんか。今のは聞こえました。そうやって汚いツバを飛ばして大きな声でおっしゃればいいのです。あとは意味がわたくしにもわかるように、そこだけ気をつけておっしゃって?」
「……」
また黙りこまれます。
わたくし、あなたとちゃんと会話がしたいのに。
心を通わせるのが最終目標ですが、そのためにもまず、濃密なコミュニケーションが大切です。
「言葉が痛いというのはどういった意味ですの? わたくし、そのようなことを言われたのは生まれてはじめてですから、もっと噛みくだいてお願いいたします。ご立派なその頭は飾りではありませんよね?」
「……それだよ」
「はい? また聞こえません。喉か脳みそがお悪いのですか?」
「その言いかたが、いちいちキツいんだよ!」
言いかたが、キツい。
キツいというのは窮屈という意味です。
なるほど、ようやくわかってまいりました。
「もっとフランクに喋ればいいのね? 生まれの卑しいあなたにはこれで充分と。身のほどわかってる~」
「……」
「たしかにこれいいわね。あなたみたいな人と対等にコミュニケーションをとるにはこれがベストかも。ごめんね、ずっと劣等感でつらかったのね? これからはあなたの薄汚れた色にわたくしも合わせるわ」
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はい、言葉はもう要りません。
こうやって理解しあえたのですから。
わたくしたちの口は、言葉ではなく、愛のためにあります。
そう、キスをするために――
「と、とにかく婚約は破棄するよ!」
チワワほどにも度胸のない愛しの彼は、慌てて部屋を出ていかれました。
本当に、水たまりに落ちた蟻のように可愛い。
わたくしは絶対に彼を手放しません。
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