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第一章
第4話 死霊術士、最強の美少女勇者とギルドに行く
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「わあぁぁぁ……おっきな町ですね……」
「ああ、でかいな……」
平原を進んだ俺たちは、大きな町に辿り着いた。
町全体を囲む石塀は物凄い高さがあり、更にその周囲は堀で囲まれている。石塀の上部には小窓のようなものが設えられており、そこからは大砲の砲身が覗いている。
まるで要塞のような防衛機能を備えた町だな。
このあたりはデスマウンテンも近くにあるし、魔物の襲撃を受けやすいためだろう。
もう一つ特徴的なのが、町の外壁を取り囲むように咲いている赤い花だ。
俺たちが立っているあたりにもちらほらと咲いている。三枚の花弁で構成された、珍しい花だ。少なくとも俺の故郷や王都の方では見たことがない。
ジョーキットたちもこの町に来ているのだろうか。
「確かサラマンドって町だな。ギルドにあった地図に載ってた気がする。リリスの時代にはあったのか?」
「たぶん、なかったと思います。もっとも、わたしはデスマウンテンで死んじゃったのでここには来れませんでしたけど……」
「あ、そうだよな、ごめん……」
「いえいえ。全然気にしてませんから! わたし、五百年も死んでたんですよ? 今更そんなこと気にしませんよ!」
「おお、そうか……。うーむ、ってことは、この五百年の間にできて栄えた町ってことか」
俺たちは橋がかけられた町の入口へ向かった。
橋を進み、門の前に着いた。
門の両脇には門兵が詰めている。
「あ、そうだ……リリス、一旦憑依してくれるか?」
「いいですけど、何故です?」
「門のところに兵士がいるだろ? 通行する際に身分を証明するものがないといけないかもしれないんだ」
「あ、なるほどです。五百年前の冒険者証ならありますけど、さすがに使えないでしょうしね」
五百年前の冒険者証……ちょっと見てみたい気もする。
俺はリリスに憑依してもらい、門を通ろうとすると、やはり兵士が寄ってきて身分証明書を要求された。
自分の冒険者証を差し出すと「遠路、お疲れ様です!」の声とともに門を通してくれた。
俺の冒険者証には魔王討伐パーティーの一員だけが捺される印があるからな。その印があるだけで、色々と優遇されるのだ。
町に入り、人目につかない裏路地に入ってから再びリリスを実体化させた。
「すまないな、憑依やら実体化やら忙しくて。魔力は大丈夫か?」
当然ながら憑依や実体化にはリリスの魔力を借りている。俺の魔力ではリリスほどの強力な存在を憑依させたり実体化させたりはできないからな。
「これくらいなら大丈夫ですよ。問題ありません!」
結構な量の魔力を消費しているはずだが、当の本人は至って元気そうだ。
「それじゃ、この町の冒険者ギルドに行こうか。俺が到着したことを知らせないといけないし。あと、リリスの冒険者登録もしておいた方がいいかもな」
「確かに。でも、登録できますかね? 五百年前の冒険者証しかないですけど……」
「大丈夫じゃないか? 冒険者になるのに特に何か必要なわけでもないし。この町にいる時点で身分はしっかりしていると証明されているようなものだしな」
「あ……普通は門のところで確認されてるわけですしね」
「そういうこと。じゃ、冒険者ギルドを探しにいくか」
大通りに出ると、その人通りの多さに俺は驚いた。
デスマウンテンの向こう側の集落なんて寂れた田舎町くらいだろうと思っていたのだが、こちら側はこちら側でここまで発展しているとはな。
俺の生まれ育った死霊術士の集落の方が何百倍も田舎だ。
リリスはそんな俺よりも驚いているのか、しきりに周囲を見渡してため息をついている。
「そんなに凄いか?」
「はい……。五百年前ではこんな町、見たことないです……。王都よりも栄えているかも……」
王都には俺も滞在していたことがあるが、こんなものではなかったな。
この町も栄えているとはいえ、王都ほどではない。
やはり五百年前と今とではだいぶ違うようだ。
すぐに冒険者ギルドに向かおうと思っていたのだが、リリスがあまりにも楽しそうに町を見ているのでしばらくそのまま散策することにした。
◇◇◇◇◇
「ここがギルドだな」
「大きな建物ですね……」
町の中央広場の中心部にそびえる冒険者ギルドは七階建ての立派な建物だった。
入り口脇の看板を見る限り、一階には受付と酒場があり、二階には武器や防具の店、三階より上には宿泊施設があるらしい。
「それじゃあ入るか」
扉を開くと、人々の足音や、がやがやした声、右手にある酒場から聞こえる怒声やグラスの乾いた音などがわっと押し寄せてきた。
正面にはギルドの受付があり、たくさんの冒険者がクエストを受注したり報酬を受けるべく列を作っている。
右手には酒場スペースが設けられており、仕事上がりの老若男女がぎゃーぎゃー騒いでいたり、机で居眠りしていたりとそれはもうカオスだ。
左手壁際には上階へ進む階段がある。
ざっと見回してみたが、ジョーキットたちはここにはいないようだ。
周囲から、ちらちらとこちらを窺うような視線を感じる。リリスは 一際目を引く美人だからな。
当の本人はそんなことには気づきもせず、目を輝かせて 五百年後を楽しんでいるようだが。
俺たちは冒険者登録などを扱う事務コーナーに向かった。受付カウンターの一番左端だ。
こちらは空いており、すぐに順番がやってきた。
「冒険者ギルドへようこそ。ご用件は何でしょうか?」
受付の若い女性はとても愛想が良く、笑顔で俺たちを迎えてくれた。
ブラウンのセミロングヘアーが特徴の、綺麗な人だ。黒いブラウスの上に赤いチェック柄のベストを着ている。
「ええと、まず俺はデスマウンテンの向こう、王都からコステリアの町を経由して来た魔王討伐パーティーの冒険者でして、こちらに到着したことを報告しに参りました。これが冒険者証です」
「はい、お預かりしますね」
受付の女性は上品な白い手袋をつけた手で俺の冒険者証を受け取ると、後ろの棚からファイルを取り出して確認を始めた。
「何を確認しているんでしょう?」
リリスが俺に耳打ちしてきた。
「すべての冒険者ギルドはギルド間で連携をとるために情報を共有しているんだよ。まぁ俺もギルドの細かい仕事には詳しくないけど、大方俺の所属とかを確認しているんじゃないかな」
「なるほど……さすが五百年後、ですね……」
妙に感心したようにリリスは頷いた。
確認が終わったのか、受付の女性はファイルから顔を上げた。
「はい、確認致しました。勇者ジョーキット・フロイダー様のご一行ですね。残りのメンバーは後からいらっしゃるのでしょうか?」
「え? まだ来ていませんか?」
「そうですね……。まだ確認できていないようですが」
受付の女性は怪訝そうな顔でこちらを見ている。
S級とA級の他のメンバーが来ていないのにC級の俺だけがデスマウンテンを越えてきたというのは、そりゃおかしな話だもんな。
それにしてもジョーキットたちはどうしたんだ?
新しい町に到着して真っ先にすることは冒険者ギルドへの報告だということを知らないわけじゃないだろうに。
俺が不思議そうにしていることに気がついたのだろう、受付の女性は空気を変えるように俺から視線を外し、リリスの方を見た。
「そちらの方は?」
「あ、この子を新しく冒険者として登録してほしいんですが」
「よ、よろしくお願いします」
俺の紹介を受け、リリスはお辞儀をした。
「かしこまりました。ではこちらの書類に記入をお願いできますか?」
リリスの丁寧な態度に好感をおぼえたのか、受付嬢は微笑んでからリリスに用紙を手渡した。
しかし、渡された書類を一通り眺めたリリスは、どういうわけか困り果てたような表情でこちらを見た。
「ああ、でかいな……」
平原を進んだ俺たちは、大きな町に辿り着いた。
町全体を囲む石塀は物凄い高さがあり、更にその周囲は堀で囲まれている。石塀の上部には小窓のようなものが設えられており、そこからは大砲の砲身が覗いている。
まるで要塞のような防衛機能を備えた町だな。
このあたりはデスマウンテンも近くにあるし、魔物の襲撃を受けやすいためだろう。
もう一つ特徴的なのが、町の外壁を取り囲むように咲いている赤い花だ。
俺たちが立っているあたりにもちらほらと咲いている。三枚の花弁で構成された、珍しい花だ。少なくとも俺の故郷や王都の方では見たことがない。
ジョーキットたちもこの町に来ているのだろうか。
「確かサラマンドって町だな。ギルドにあった地図に載ってた気がする。リリスの時代にはあったのか?」
「たぶん、なかったと思います。もっとも、わたしはデスマウンテンで死んじゃったのでここには来れませんでしたけど……」
「あ、そうだよな、ごめん……」
「いえいえ。全然気にしてませんから! わたし、五百年も死んでたんですよ? 今更そんなこと気にしませんよ!」
「おお、そうか……。うーむ、ってことは、この五百年の間にできて栄えた町ってことか」
俺たちは橋がかけられた町の入口へ向かった。
橋を進み、門の前に着いた。
門の両脇には門兵が詰めている。
「あ、そうだ……リリス、一旦憑依してくれるか?」
「いいですけど、何故です?」
「門のところに兵士がいるだろ? 通行する際に身分を証明するものがないといけないかもしれないんだ」
「あ、なるほどです。五百年前の冒険者証ならありますけど、さすがに使えないでしょうしね」
五百年前の冒険者証……ちょっと見てみたい気もする。
俺はリリスに憑依してもらい、門を通ろうとすると、やはり兵士が寄ってきて身分証明書を要求された。
自分の冒険者証を差し出すと「遠路、お疲れ様です!」の声とともに門を通してくれた。
俺の冒険者証には魔王討伐パーティーの一員だけが捺される印があるからな。その印があるだけで、色々と優遇されるのだ。
町に入り、人目につかない裏路地に入ってから再びリリスを実体化させた。
「すまないな、憑依やら実体化やら忙しくて。魔力は大丈夫か?」
当然ながら憑依や実体化にはリリスの魔力を借りている。俺の魔力ではリリスほどの強力な存在を憑依させたり実体化させたりはできないからな。
「これくらいなら大丈夫ですよ。問題ありません!」
結構な量の魔力を消費しているはずだが、当の本人は至って元気そうだ。
「それじゃ、この町の冒険者ギルドに行こうか。俺が到着したことを知らせないといけないし。あと、リリスの冒険者登録もしておいた方がいいかもな」
「確かに。でも、登録できますかね? 五百年前の冒険者証しかないですけど……」
「大丈夫じゃないか? 冒険者になるのに特に何か必要なわけでもないし。この町にいる時点で身分はしっかりしていると証明されているようなものだしな」
「あ……普通は門のところで確認されてるわけですしね」
「そういうこと。じゃ、冒険者ギルドを探しにいくか」
大通りに出ると、その人通りの多さに俺は驚いた。
デスマウンテンの向こう側の集落なんて寂れた田舎町くらいだろうと思っていたのだが、こちら側はこちら側でここまで発展しているとはな。
俺の生まれ育った死霊術士の集落の方が何百倍も田舎だ。
リリスはそんな俺よりも驚いているのか、しきりに周囲を見渡してため息をついている。
「そんなに凄いか?」
「はい……。五百年前ではこんな町、見たことないです……。王都よりも栄えているかも……」
王都には俺も滞在していたことがあるが、こんなものではなかったな。
この町も栄えているとはいえ、王都ほどではない。
やはり五百年前と今とではだいぶ違うようだ。
すぐに冒険者ギルドに向かおうと思っていたのだが、リリスがあまりにも楽しそうに町を見ているのでしばらくそのまま散策することにした。
◇◇◇◇◇
「ここがギルドだな」
「大きな建物ですね……」
町の中央広場の中心部にそびえる冒険者ギルドは七階建ての立派な建物だった。
入り口脇の看板を見る限り、一階には受付と酒場があり、二階には武器や防具の店、三階より上には宿泊施設があるらしい。
「それじゃあ入るか」
扉を開くと、人々の足音や、がやがやした声、右手にある酒場から聞こえる怒声やグラスの乾いた音などがわっと押し寄せてきた。
正面にはギルドの受付があり、たくさんの冒険者がクエストを受注したり報酬を受けるべく列を作っている。
右手には酒場スペースが設けられており、仕事上がりの老若男女がぎゃーぎゃー騒いでいたり、机で居眠りしていたりとそれはもうカオスだ。
左手壁際には上階へ進む階段がある。
ざっと見回してみたが、ジョーキットたちはここにはいないようだ。
周囲から、ちらちらとこちらを窺うような視線を感じる。リリスは 一際目を引く美人だからな。
当の本人はそんなことには気づきもせず、目を輝かせて 五百年後を楽しんでいるようだが。
俺たちは冒険者登録などを扱う事務コーナーに向かった。受付カウンターの一番左端だ。
こちらは空いており、すぐに順番がやってきた。
「冒険者ギルドへようこそ。ご用件は何でしょうか?」
受付の若い女性はとても愛想が良く、笑顔で俺たちを迎えてくれた。
ブラウンのセミロングヘアーが特徴の、綺麗な人だ。黒いブラウスの上に赤いチェック柄のベストを着ている。
「ええと、まず俺はデスマウンテンの向こう、王都からコステリアの町を経由して来た魔王討伐パーティーの冒険者でして、こちらに到着したことを報告しに参りました。これが冒険者証です」
「はい、お預かりしますね」
受付の女性は上品な白い手袋をつけた手で俺の冒険者証を受け取ると、後ろの棚からファイルを取り出して確認を始めた。
「何を確認しているんでしょう?」
リリスが俺に耳打ちしてきた。
「すべての冒険者ギルドはギルド間で連携をとるために情報を共有しているんだよ。まぁ俺もギルドの細かい仕事には詳しくないけど、大方俺の所属とかを確認しているんじゃないかな」
「なるほど……さすが五百年後、ですね……」
妙に感心したようにリリスは頷いた。
確認が終わったのか、受付の女性はファイルから顔を上げた。
「はい、確認致しました。勇者ジョーキット・フロイダー様のご一行ですね。残りのメンバーは後からいらっしゃるのでしょうか?」
「え? まだ来ていませんか?」
「そうですね……。まだ確認できていないようですが」
受付の女性は怪訝そうな顔でこちらを見ている。
S級とA級の他のメンバーが来ていないのにC級の俺だけがデスマウンテンを越えてきたというのは、そりゃおかしな話だもんな。
それにしてもジョーキットたちはどうしたんだ?
新しい町に到着して真っ先にすることは冒険者ギルドへの報告だということを知らないわけじゃないだろうに。
俺が不思議そうにしていることに気がついたのだろう、受付の女性は空気を変えるように俺から視線を外し、リリスの方を見た。
「そちらの方は?」
「あ、この子を新しく冒険者として登録してほしいんですが」
「よ、よろしくお願いします」
俺の紹介を受け、リリスはお辞儀をした。
「かしこまりました。ではこちらの書類に記入をお願いできますか?」
リリスの丁寧な態度に好感をおぼえたのか、受付嬢は微笑んでからリリスに用紙を手渡した。
しかし、渡された書類を一通り眺めたリリスは、どういうわけか困り果てたような表情でこちらを見た。
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