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#3 Beat it 〜この場合殴るのはいいとしてもできれば別の物を使いたかった(4)
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貴明の部屋のドアが開く。光の中から、腫れとアザと出血でズタボロの貴明が転がり出てきた。
「いたか梨杏。なんで俺がこんな目に…」
「バカ!ちゃんと話を聞く前に、勝手にゲートを使うからでしょ」
「勝手なのはそっちだろ!もうこんなの懲り懲りだ」
「懲りるくらいでちょうどいいかもね。ゲートはね、純粋な思い以外は拒否するんだよ」
梨杏は貴明の手当てをしながら話を続ける。殴られてほてった頬に、細く冷たい指の感触が心地いい。
「何を言う、俺の斉藤由貴ちゃんへの思いはピュアそのものだ」
「リアルバカなのはわかってるけど、次からそんな不純な気持ちでドアを開けちゃダメよ。いつか死ぬよ」
「次も何も、もうあんなドア開けたくねえよ。もう出さないでくれ」
「そこなのよね。本来ならアイドルに会いたいくらいのふざけた気持ちで、ゲートが出るはずがないんだけどなあ。おかしいなー」
「まるで俺がおかしいみたいな言い方だなオイ。こっちは被害者…」
「あんたは確実におかしいわよ!まあどっちにしろ、アザーサイドで死なれると神的にもいろいろと処理が厄介なんで、やめてよね」
「俺だってこっちで死にたいわ!いや死にたくねーけどね?」
話しているうち、何故かみるみる痛みが取れてくる。腫れの引きも早い。
「もう痛くないでしょ?神のハンドパワーを思い知るがよい。あ、お礼はいいから」
「へえ、実はすごいのか?お前。でも礼など言うかよ。だいたい誰のせいで…」
お礼の流れで貴明は思い出す。
「そういえばさ、女の子だと思うんだけど、誰かが帰り方を教えてくれたんだよ」
「嘘でしょ?ゲートを知ってる人間が同じ場所にいるケースなんてまずありえない。また妄想じゃない?」
「そうかもな。でもさあ、なんとなく聞き覚えのある声だったような…」
「ないない!ほんと妄想癖は一流なんだから。さ、疲れたでしょ。もう休んだ方がいいよ」
「そうだな。横になりたい…」
ベッドに入る貴明の隣に、あくまでそうするのが自然という体で梨杏が潜り込んできた。その温もりに無事に戻れたことを実感し、つい、梨杏の子鹿のようにほっそりした体をふんわりと抱きしめる貴明。心地よい体温を感じながらも、数十秒後に我に返り…
「うっわ、だから捕まるっての!」
「誰も見てないし、合意の上なら大丈夫だってー、もう、女慣れしてないんだからあ」
「女だったらいいけど児童はアレなの!…とっととベッドから出ろ」
「しょうがないなあ。じゃあ見ててあげるから寝なよ」
梨杏は床に座ってベッドに頬杖をつき、貴明の顔を見つめる。指が彼の頬を軽く撫でる。
「こんなんで寝られるかよ、落ち着かねえな…」
だが、すぐ近くにある梨杏の顔を見ていると、不思議に眠くなってきた。たぶんこの安心感は美しさが理由ではなく、梨杏の表情に不思議な慈しみを感じたおかげだろう。
そのまま朝まで眠り続ける。目を覚ますとすっかり痛みも腫れも、傷さえもなくなっていた。だが梨杏の姿はない。貴明はホッとしつつも、親しみを感じ始めていた彼女の不在に一抹の寂寥感を覚える。通学路にも梨杏は現れなかったが、学校に着くと、友人たちが賑やかに出迎えてくれた。
「お、タカアキ!よかったなやっと復活か」
「待ってたよ、やっぱお前がいないと曲がまとまらないわ」
「今日は1曲完成するまでセッションだからな」
バンドメンバーの透矢、達哉、純一。貴明の不在でバンド活動は滞っており、本人への心配も相まって気が気じゃなかったらしい。
「貴明…だ、だいじょ…」
紗英が、理恵を伴って不安そうな表情で寄ってくる。あの夜を思い出した貴明は照れが出てしまい、つい目をそむけて斜め下を見ながら答える。
「や、やあ紗英、心配かけたね」
「か、勘違いしないでよね、誰が心配なんて…」
ああ、やっぱり紗英はいつもの紗英だ。でもこの方がなんだか安心だ。談笑するうち、すぐに仲間ならではのこなれた空気感が戻る。そんな中、貴明は梨杏の話を思い出す。
(俺がいなくなったら、誰が悲しんでくれるのかな。やっぱ、こいつらは裏切れないよな)
やがて授業の時間になり、各々が専科の教室に向かう。紗英はひとしきりいつも通りの悪態をついていたが、立ち去り際に、
「でも本当によかった。心配させないでよ…」
他の者には聞こえないほどの小さな声で、深い安堵を込めてそうつぶやいた。
「いたか梨杏。なんで俺がこんな目に…」
「バカ!ちゃんと話を聞く前に、勝手にゲートを使うからでしょ」
「勝手なのはそっちだろ!もうこんなの懲り懲りだ」
「懲りるくらいでちょうどいいかもね。ゲートはね、純粋な思い以外は拒否するんだよ」
梨杏は貴明の手当てをしながら話を続ける。殴られてほてった頬に、細く冷たい指の感触が心地いい。
「何を言う、俺の斉藤由貴ちゃんへの思いはピュアそのものだ」
「リアルバカなのはわかってるけど、次からそんな不純な気持ちでドアを開けちゃダメよ。いつか死ぬよ」
「次も何も、もうあんなドア開けたくねえよ。もう出さないでくれ」
「そこなのよね。本来ならアイドルに会いたいくらいのふざけた気持ちで、ゲートが出るはずがないんだけどなあ。おかしいなー」
「まるで俺がおかしいみたいな言い方だなオイ。こっちは被害者…」
「あんたは確実におかしいわよ!まあどっちにしろ、アザーサイドで死なれると神的にもいろいろと処理が厄介なんで、やめてよね」
「俺だってこっちで死にたいわ!いや死にたくねーけどね?」
話しているうち、何故かみるみる痛みが取れてくる。腫れの引きも早い。
「もう痛くないでしょ?神のハンドパワーを思い知るがよい。あ、お礼はいいから」
「へえ、実はすごいのか?お前。でも礼など言うかよ。だいたい誰のせいで…」
お礼の流れで貴明は思い出す。
「そういえばさ、女の子だと思うんだけど、誰かが帰り方を教えてくれたんだよ」
「嘘でしょ?ゲートを知ってる人間が同じ場所にいるケースなんてまずありえない。また妄想じゃない?」
「そうかもな。でもさあ、なんとなく聞き覚えのある声だったような…」
「ないない!ほんと妄想癖は一流なんだから。さ、疲れたでしょ。もう休んだ方がいいよ」
「そうだな。横になりたい…」
ベッドに入る貴明の隣に、あくまでそうするのが自然という体で梨杏が潜り込んできた。その温もりに無事に戻れたことを実感し、つい、梨杏の子鹿のようにほっそりした体をふんわりと抱きしめる貴明。心地よい体温を感じながらも、数十秒後に我に返り…
「うっわ、だから捕まるっての!」
「誰も見てないし、合意の上なら大丈夫だってー、もう、女慣れしてないんだからあ」
「女だったらいいけど児童はアレなの!…とっととベッドから出ろ」
「しょうがないなあ。じゃあ見ててあげるから寝なよ」
梨杏は床に座ってベッドに頬杖をつき、貴明の顔を見つめる。指が彼の頬を軽く撫でる。
「こんなんで寝られるかよ、落ち着かねえな…」
だが、すぐ近くにある梨杏の顔を見ていると、不思議に眠くなってきた。たぶんこの安心感は美しさが理由ではなく、梨杏の表情に不思議な慈しみを感じたおかげだろう。
そのまま朝まで眠り続ける。目を覚ますとすっかり痛みも腫れも、傷さえもなくなっていた。だが梨杏の姿はない。貴明はホッとしつつも、親しみを感じ始めていた彼女の不在に一抹の寂寥感を覚える。通学路にも梨杏は現れなかったが、学校に着くと、友人たちが賑やかに出迎えてくれた。
「お、タカアキ!よかったなやっと復活か」
「待ってたよ、やっぱお前がいないと曲がまとまらないわ」
「今日は1曲完成するまでセッションだからな」
バンドメンバーの透矢、達哉、純一。貴明の不在でバンド活動は滞っており、本人への心配も相まって気が気じゃなかったらしい。
「貴明…だ、だいじょ…」
紗英が、理恵を伴って不安そうな表情で寄ってくる。あの夜を思い出した貴明は照れが出てしまい、つい目をそむけて斜め下を見ながら答える。
「や、やあ紗英、心配かけたね」
「か、勘違いしないでよね、誰が心配なんて…」
ああ、やっぱり紗英はいつもの紗英だ。でもこの方がなんだか安心だ。談笑するうち、すぐに仲間ならではのこなれた空気感が戻る。そんな中、貴明は梨杏の話を思い出す。
(俺がいなくなったら、誰が悲しんでくれるのかな。やっぱ、こいつらは裏切れないよな)
やがて授業の時間になり、各々が専科の教室に向かう。紗英はひとしきりいつも通りの悪態をついていたが、立ち去り際に、
「でも本当によかった。心配させないでよ…」
他の者には聞こえないほどの小さな声で、深い安堵を込めてそうつぶやいた。
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