どこぞのドアと澄香とすみか 〜妹と同じくらい好きな彼女が出来たら神と喧嘩する羽目になったのは一体どういう了見だ〜

板坂佑顕

文字の大きさ
22 / 59

#6 Your song will fill the air 〜愛しい歌声が思うさまハートに火をつけた(2)

しおりを挟む
 貴明は重い足取りと重い腹を引きずりながら、澄香とに東急ハンズに入る。澄香は友だちのプレゼントを選ぶため、羽ばたいて飛んで回る勢いであちこち物色していた。

「これ可愛いな…あっこれも!どうしようお兄ちゃん、澄香はもうだめかもしれません」

「ったくよ、女ってのは、女友達のプレゼントにそこまで燃えられるのな」

「本当にわかってないねえ。女の子は愛し合ってるからね。愛する者にプレゼントするのは当然ですよ」

「へいへいそうですか」

「で、お兄ちゃんは誰にプレゼントするの?」


 悪い顔で覗き込む澄香に対し、貴明は平静を装う。

「んな相手いるかよ、俺は音楽に情熱の全てを捧げてるの」

「つまんないなー、紗英さんとか可能性ないの?そうだ、ライブに通ってるファンの娘は?」

「ああ、一応会えたよ」

「会ったの⁉︎どうだった、可愛かった?欲情した?」

「可愛かった。いやいきなり欲情はしねえけどね⁉︎」

「ふーん。でも好みだったんでしょ。顔に描いてあるよ」


 可愛くて地味で小柄で知的で音楽好き。白い肌にショートカット。オプションでメガネっ娘。確かにすみかの全てが貴明のストライクゾーンだ。さすがに澄香は熟知している。

「そ、そうだ驚け!あの娘の名前さ、すみかっていうんだぜ」

「え?…私と同じ?」

「そう。ひらがなだけどな」

「なら私と同じくらい可愛くて、私と同じくらいお兄ちゃんの好みなんでしょお」

「そう同じくらい可愛い…うわ違う、何しろすみかちゃんは上品だからな」

「一瞬本音が!てか今、どさくさで澄香の評価を相対的にに下げましたね、まいっか、ついにお兄ちゃんにも春が…」

「でもな。向こうは俺とはあまり会いたくないみたいでさ」

「どして?」

「わかんないよ。何もないのに突然泣きそうになって帰っちゃったんだよな」

 
 それを聞いた澄香はしばし無言で、少し悲しそうな表情を浮かべる。

「…澄香?どした?」

「お兄ちゃん。澄香は断言しますが、その人は絶対にお兄ちゃんのことが好きです」

「そうかな。だったらなんで変なとこで帰っちゃうんだよ」

「本当にわかってないねー」

「わかるか!」

「女の子はね、いや男の人もそうかもしれないけど、相手のことを好きになり過ぎると、そのぶん悲しくなる時があるんだよ」

「禅問答か?日本語で頼む」

「お兄ちゃんには一生わからないでしょーねっ!次に会った時は優しくしてあげてね。絶対に責めちゃだめだよ」

「お、おう、別に責めるつもりはないけどさ、わかったよ」


 対人関係自体が苦手な貴明に女心などわかるはずもないが、澄香の切なげな表情を見ているうち、貴明はその言葉を信じてみようと思えてきた。



 普段は賑やかな兄妹には珍しく、割としっとりした雰囲気に流されたのかもしれない。貴明はアクセサリー売場にあった楽器型のシルバー製チャームを何気なく手にすると、未だかつてない想いが湧いてきた。

「なあ澄香、どれがいい?」

「え、えええええ??まさかお兄ちゃんが私にクリスマスプレゼントを??」

「驚き過ぎだろ腹立つわ。でもこないだの病気でも迷惑かけたしさ、今年は…」

 澄香は気のせいか涙目のようにも見える。が、すぐにいつもの調子で、

 
「みなさーん!この鈍感で冷たくて面倒くさい男が、初めて私にプレゼントしてくれるそうですよー!えー、えー、どれにしようかなあ」

「お前な…いいから早く選べ。でも楽器もこうなると可愛いな」

「全部可愛くて。うーん、ここはやはりお兄ちゃんのキーボードかな、でもカッコいいのは透矢さんのギターだし…レホールだっけこれ?」

 その言葉に、貴明はついムキになる。

「そりゃ付け合わせだろ、レスポールだよっ。それより、今はキーボードがバンドの音を作るんだぞ。だからキーボードのがカッコよくて偉い。ギターなんざむしろ飾りだ」

「わあー、面倒くさーい。じゃこれでいい?」


 と言って澄香はアップライトピアノ型のチャームを手にするが、

「いや澄香はうるさくて賑やかだから、イメージ的にピアノではないな。こっちだろ」
 と、シンセサイザー型のチャームを澄香の掌に乗せた。

「ぶー、板みたーい。ピアノの方が可愛いけど、でもいいや。お兄ちゃんが言うならこれにする」

「板ってお前な、これプロフェット5だぞ。いやオーバーハイムかな?パネルの再現性が甘くて判別しにくいな…まあどっちにしろ名機中の名機だ」

「際限なく面倒くさいからこれにするね。あー/澄香/これが/いいなー」

「テキトーに棒読みすんな!それじゃラッピングを…」

「いいの。カバンにつけて帰るの。だから包装紙とかいいの」

 箱や包装紙なんかあったら惜しくて捨てられない…と、澄香はかすかにつぶやいた。



 その後ショップ巡りをし、気づいたらもう夕方。結局澄香は10人分はあろうかというプレゼントを買い込み、貴明に寮の入り口までその荷物を持たせて、部屋に帰るところだ。


「お兄ちゃん今日はありがとう。澄香は楽しかったです」

「これから寮で本当のパーティーなんだろ」

「うん、また連絡するね。あっこれ、メリークリスマス!」
 
 澄香は貴明に小さなギフトボックスを手渡す。

「あとで開けてね!」と言いながら寮に入っていく澄香。バッグにつけたシンセのチャームと、ポニーテールが、嬉しそうに同時に揺れた。


 澄香と別れ、ギフトボックスを掌で転がしながら帰途につく貴明。妹の言葉に刺激されたからかもしれないが、無性にすみかに会いたくなってきた。

「今頃どうしてんのかな。ま、あんな素敵な人がイブに1人でいるはずないか…」

 などと考えつつ、食事のためにいったん池袋駅に戻る。さて飯はどうしようかな、牛丼太郎か…すなっくらんどで立ち食いもいいな。あの怪しいエスニックカレーでクリスマスをデストロイだと考えつつ、地下を歩く。すると真っ白なダウンに身を包み、何かを探すようにキョロキョロしている少女の存在に気づいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...