どこぞのドアと澄香とすみか 〜妹と同じくらい好きな彼女が出来たら神と喧嘩する羽目になったのは一体どういう了見だ〜

板坂佑顕

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#9 I’m in a different world 〜時に異世界はいい世界なこともあると思ったりした(4)

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 帰る時に居酒屋のドアを開ければ、すぐに新潟の家に戻れると感じていた。思った通り現れたドアの光の中、再会を約束しながら恵美子に別れを告げる。部屋に入ると澄香が起きていて、不安げな表情で貴明の帰りを待っていた。

「ごめん、起こしちゃったか」

「ううん、なんだか気になって…待ってたの」

 澄香の顔を見た瞬間、一気に感情が昂った。恵美子が生きていた安堵。本気で心配してくれる妹。いろんな想いが複雑に入り混じる。普通じゃいられない。


「お兄ちゃん…泣いてるの?どこか痛いの?」

「んなわけねえよ!」


 貴明は澄香に背を向けて胡座をかく。澄香は何も聞かずその背を優しく抱き、後ろから貴明にぴたりと重なった。貴明はドキッとしつつも、首に回された澄香の手をきゅっと握る。

「俺は…勝手にいじけて、輪に入るのを拒んで…嫌な奴だよな…」
「お兄ちゃん…」

 澄香はより強く貴明を抱きしめる。それはどんな言葉も上回る、澄香にしか表現できない優しさと温もり。包み込まれ、貴明は改めて泣いた。背後の澄香の表情はわからないが、彼女の貴明を見つめる眼差しは、柔らかな慈愛に満ちていた。



 翌日、貴明は両親に恵美子のことを聞く。

「親父、天枷さんのこと覚えてる?」

「ああ、旭川の。娘さんは残念だったな」

「ご両親はよほど辛かったのね。自殺から3ヶ月くらい経って、2人ともいなくなっちゃったのよ」

 恵美子の話と符合する。やはり彼女が親をアザーサイドに呼び寄せたのだ。

「それがさ、えみちゃん、生きてたんだ。しばらく行方不明だったけど何年か前に家に戻っ
たってさ。昨日連絡が取れて、ご両親も元気だって」

「えっ⁉︎」「本当か!」


 ここで、なぜか澄香が泣き始めた。昨日はあえて聞かなかったが、貴明の辛そうで複雑な表情が気がかりだったようだ。

「よ…よかったねお兄ちゃん…」

「うんよかった。本当によかったよ」


 母が、泣きじゃくる澄香の頭を撫でながらしみじみと言う。

「やっぱりね、それぞれ理由はあってもさ、子が親より先に死ぬのはね。ね、お父さん」

「そうだな。辛かったろうなあ天枷さん。でもよかったよ、生きてたんなら何よりだ」

「よがっだねお兄ぢゃーん!びえーん!」

「お前それしか言ってないな、ほら顔拭け!」
 

 
 1月7日、東京。学校が始まるまでしばらくあるが、貴明はライブがあるため戻ってきた。澄香も今は実家にいるより貴明と一緒にいたかったようで、明日から貴明の部屋に泊まり込む気らしい。いつものように寮まで澄香を送り届け、別れ際、

「澄香…今回はありがとな。お前って本当に…」

「うん。なあに?」

「いや、もしお前が妹じゃなかったら、俺様が付き合ってやってもいいと思ってさ。実は意外にモテないらしいし?はははー」

「ばっばっばっ馬鹿なんじゃないの!何言ってんだかほんと変態!ガチ変!」


 澄香はバンッと破裂したように一瞬で赤面。なぜかちょっかいを出した貴明も真っ赤だ。いつもながらの馬鹿兄妹である。
 

 貴明が部屋に戻ると当たり前のように梨杏がいた。すっかり部屋に馴染んでいる。

「お帰り。疲れたろ」

「うん疲れた。いろいろありすぎたわ」

 貴明は興奮気味に恵美子のことを話す。一通り聞いた梨杏は、


「それが本当なら、その娘は『エクストリーム』だな」

「エクスペリエンストじゃなくて?」

「エクストリーム・エクスペリエンスト【極端な経験者】。エクスペリエンストの中でも特殊な力を持つ者だよ。非能力者を遠隔でゲートに通すなんて驚異的だわ。ありえない」

「でも能力のおかげでえみちゃんは生きてたんだ。神もたまにはいいことするね」

「そりゃそうさ、神はいつも人間のことを考えてる…わけでもないか」

「だろ?勝手なやつらだぜ。はは」


「ただ、状況を作るのも打破するのも人間だからね。私たちは中立を保つ傍観者でしかなく、手助けはできない。というより手助けは人間に対しておこがましい行為とみなされて、我々の間では禁忌とされているんだよ」

「へえ、神のくせに人間を尊重するのか。てか梨杏がまともなことを言うと不気味だな」


 貴明が梨杏をからかう。梨杏は逆襲だとばかりに、悪い笑顔で話題を変えた。

「うふふ。ところで貴明。2年参りはずいぶんと熱かったようだねえ」

「なっ、なんだ!何を知っている⁉︎うっわ、とめどなく悪い顔!」

「ふふん、おおむね全部だよ。紗英とキスしたのもすみかとキスしたのも。新年早々、美女とキス三昧のエロエロ大王ですなあ」

「うわあああ、どこで見てた!梨杏のアホー!ヨゴレ使い魔!」


「私は神出鬼没なんだよ。神だけにね。ふふふ」

「別に上手くねえよ、そのまんまじゃねえか。ならむしろ鬼のように没してくれ。ちっくしょー火から顔、いや顔から火が出そうだ」

「はっはっはー、いいねえ人間の恋愛は。一番面白いわ」


 梨杏がいると気が休まらないが、ドアについて推測混じりでも情報を得られるのは大きい。彼女はさらに驚くことを言い出した。


「確証はないけど私の見立てでは、すみかもエクストリームじゃないかと思うんだ」

「そういや能力が強めとは言っていたな。どんな力があるんだ?」

「わからない。エクストリームの力は一人一人違うから」

「ふうん。ま俺には、すみかちゃんは存在自体がエクストリームだけどな」

「はいはいよしよし。もうお休み」


 正負入り混じった様々な想いに遭遇し、貴明たちが少し大人になった正月も過ぎてゆく。明日から澄香が部屋に来る。今は澄香には素直に感謝しているし、優しくしてやろうなどと考えながら、貴明は眠りについた。
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