8 / 625
吸血鬼と聖女と聖騎士と
第一章第7話 初めての味
しおりを挟む
次に気が付いた時、灯りのない暗い部屋で私はベッドの上に寝かされていた。どうやら夜になったようで、あのドレスは脱がされてシンプルだけれど明らかに初期装備のものより上質なワンピースを着せられている。
──── あれが、吸血衝動……
あれは強烈だった。今はそれなりに治まってはいるが、いずれ抑えられなくなる日が来るのは目に見えている。そうなった時、私は自分自身を一体どうやって止めればいいんだろうか?
しかし、事ここに至っても自動でログアウトしないということは、どこぞのアニメのようにアニュオンの世界から出られなくなるような事故が発生しているのだろう。これは、相当な期間この世界で過ごすことになりそうだ。であれば、ここを現実世界と同じようなものとみなして生活したほうが良いだろう。
そうなると、だ。明らかに私は世界の脅威。だって、吸血鬼対策の切り札である聖属性も太陽の光も吸収するんだぜ? それに【成長限界突破】なんてついているから、放っておいたらますますヤバいことになるだろう。ハッキリ言って、自分のことじゃなかったら今この場で切り捨てるというのが最善の選択肢だろう。だが、死んだときに何が起こるかが分からない以上、はいそうですか、とやられるわけにはいかない。どこぞのアニメでもゲーム内での死が現実世界での死と直結していたのだから。
「フィーネ様、お目覚めになられたのですね」
クリスさんの心配そうな声が聞こえる。
「クリスさん。すみません。ご心配をおかけしました」
「お加減はいかがですか?」
「はい。大分マシになりました」
それは良かった、とクリスさんは安堵してくれる。
やっぱり心配かけているよなぁ。
「料理に何か苦手なモノが入っておりましたでしょうか? 残った料理を毒見させましたが、問題なかったようなのです」
「あ、いえ。頂いた料理はとても美味しかったですし、倒れた原因は毒ではありません」
「え? ということはフィーネ様は原因をお分かりなのですか?」
「あ……はい。まあ」
しまった。迂闊なことを言ってしまった。クリスさんは心配してくれているのだから、答えないというのも失礼だし、どうやって誤魔化せば良いだろうか。
「あの、もし差し支えなければお教え頂けませんでしょうか? フィーネ様は我々の命の恩人です。どんなことでもしますので、我々に恩返しをさせてください!」
あー、ですよねー。やっぱりそうなっちゃうか。
仕方ない。話してみるか。ダメだったら逃げよう。まだ報酬もらっていないけれど。
「ええとですね。実は私吸血鬼でして。血を吸いたい衝動を抑えていたら倒れちゃいました♪」
てへぺろ、という感じで明るくいってみた。
あ、ダメだ。あの目は絶対信じていない。
「フィーネ様、冗談はおやめください。太陽の下で元気に活動して浄化魔法と治癒魔法を使う吸血鬼なんて、いるわけないじゃないですか!」
やばい、めっちゃ怒られた。どうしよう。あなたの目の前にそんな吸血鬼がいるんですよー、と言っても信じてもらえないんだろうなぁ。
「ダメでしょうか?」
「ダメです。嘘をついて誤魔化すにしても、もっと上手な嘘にしてください」
うーん、今でも割とがんばって吸血衝動を抑えてるんだけどなぁ。
ん? 待てよ? 吸血鬼だって信じてもらえていないってことは、血を飲ませてもらってもバレないんじゃね?
こ・れ・だ!
「じゃあ、クリスさんの血を飲ませてください。そこのティーカップ一杯分くらいで良いですから」
「フィーネ様……本当にその設定で続けるんですか? フィーネ様が望まれるなら私、本当にやりますよ?」
私のことをジト目で見ているクリスさん。だが、私の作戦は完璧のようだ。設定だと思いこんでくれている。
「はい。よろしくお願いします」
すると、クリスさんは一瞬マジか、という顔をしたが、その後自分の左手首をナイフで躊躇なく切り裂き、そしてティーカップにその指を差し入れた。
ポタリ、ポタリとティーカップに血が滴り落ちる。そして血はティーカップを満たす。
私は少し罪悪感を覚えつつ、クリスさんにお礼を言って生き血の注がれたティーカップを受け取った。悪いのでクリスさんの傷は治癒してあげた。
「では、いただきます」
そして私はティーカップに口をつけた。それは待ちわびた味だった。ほんのりと暖かい血液と鉄の香り。それはどんな食べ物よりも甘美な蜜の味で、血が喉を通るたびに体中の乾きが潤されていくのがわかる。
ああ、ヤバい。これは飲まずにはいられない。
身体だけではなく心までもが満たされていく。強烈な快感が脳を貫き、多幸感に包まれる。
気付けば私は最後の一滴まで飲み干し、そして唇に残った血をも舐めとっていた。
そして、不思議なことにあれほど私を苛んでいた衝動はさっぱりと消えてなくなっていた。
「ごちそうさまでした。血を飲んだのははじめてですが、とても美味しかったです」
「そ、そうですか。それは良かったです」
クリスさんが少し顔を赤らめ、そして何とも言えない表情をしている。そんな彼女を尻目に私はもうひと眠りすることにした。
「それでは、クリスさん。おやすみなさい。また明日」
──── あれが、吸血衝動……
あれは強烈だった。今はそれなりに治まってはいるが、いずれ抑えられなくなる日が来るのは目に見えている。そうなった時、私は自分自身を一体どうやって止めればいいんだろうか?
しかし、事ここに至っても自動でログアウトしないということは、どこぞのアニメのようにアニュオンの世界から出られなくなるような事故が発生しているのだろう。これは、相当な期間この世界で過ごすことになりそうだ。であれば、ここを現実世界と同じようなものとみなして生活したほうが良いだろう。
そうなると、だ。明らかに私は世界の脅威。だって、吸血鬼対策の切り札である聖属性も太陽の光も吸収するんだぜ? それに【成長限界突破】なんてついているから、放っておいたらますますヤバいことになるだろう。ハッキリ言って、自分のことじゃなかったら今この場で切り捨てるというのが最善の選択肢だろう。だが、死んだときに何が起こるかが分からない以上、はいそうですか、とやられるわけにはいかない。どこぞのアニメでもゲーム内での死が現実世界での死と直結していたのだから。
「フィーネ様、お目覚めになられたのですね」
クリスさんの心配そうな声が聞こえる。
「クリスさん。すみません。ご心配をおかけしました」
「お加減はいかがですか?」
「はい。大分マシになりました」
それは良かった、とクリスさんは安堵してくれる。
やっぱり心配かけているよなぁ。
「料理に何か苦手なモノが入っておりましたでしょうか? 残った料理を毒見させましたが、問題なかったようなのです」
「あ、いえ。頂いた料理はとても美味しかったですし、倒れた原因は毒ではありません」
「え? ということはフィーネ様は原因をお分かりなのですか?」
「あ……はい。まあ」
しまった。迂闊なことを言ってしまった。クリスさんは心配してくれているのだから、答えないというのも失礼だし、どうやって誤魔化せば良いだろうか。
「あの、もし差し支えなければお教え頂けませんでしょうか? フィーネ様は我々の命の恩人です。どんなことでもしますので、我々に恩返しをさせてください!」
あー、ですよねー。やっぱりそうなっちゃうか。
仕方ない。話してみるか。ダメだったら逃げよう。まだ報酬もらっていないけれど。
「ええとですね。実は私吸血鬼でして。血を吸いたい衝動を抑えていたら倒れちゃいました♪」
てへぺろ、という感じで明るくいってみた。
あ、ダメだ。あの目は絶対信じていない。
「フィーネ様、冗談はおやめください。太陽の下で元気に活動して浄化魔法と治癒魔法を使う吸血鬼なんて、いるわけないじゃないですか!」
やばい、めっちゃ怒られた。どうしよう。あなたの目の前にそんな吸血鬼がいるんですよー、と言っても信じてもらえないんだろうなぁ。
「ダメでしょうか?」
「ダメです。嘘をついて誤魔化すにしても、もっと上手な嘘にしてください」
うーん、今でも割とがんばって吸血衝動を抑えてるんだけどなぁ。
ん? 待てよ? 吸血鬼だって信じてもらえていないってことは、血を飲ませてもらってもバレないんじゃね?
こ・れ・だ!
「じゃあ、クリスさんの血を飲ませてください。そこのティーカップ一杯分くらいで良いですから」
「フィーネ様……本当にその設定で続けるんですか? フィーネ様が望まれるなら私、本当にやりますよ?」
私のことをジト目で見ているクリスさん。だが、私の作戦は完璧のようだ。設定だと思いこんでくれている。
「はい。よろしくお願いします」
すると、クリスさんは一瞬マジか、という顔をしたが、その後自分の左手首をナイフで躊躇なく切り裂き、そしてティーカップにその指を差し入れた。
ポタリ、ポタリとティーカップに血が滴り落ちる。そして血はティーカップを満たす。
私は少し罪悪感を覚えつつ、クリスさんにお礼を言って生き血の注がれたティーカップを受け取った。悪いのでクリスさんの傷は治癒してあげた。
「では、いただきます」
そして私はティーカップに口をつけた。それは待ちわびた味だった。ほんのりと暖かい血液と鉄の香り。それはどんな食べ物よりも甘美な蜜の味で、血が喉を通るたびに体中の乾きが潤されていくのがわかる。
ああ、ヤバい。これは飲まずにはいられない。
身体だけではなく心までもが満たされていく。強烈な快感が脳を貫き、多幸感に包まれる。
気付けば私は最後の一滴まで飲み干し、そして唇に残った血をも舐めとっていた。
そして、不思議なことにあれほど私を苛んでいた衝動はさっぱりと消えてなくなっていた。
「ごちそうさまでした。血を飲んだのははじめてですが、とても美味しかったです」
「そ、そうですか。それは良かったです」
クリスさんが少し顔を赤らめ、そして何とも言えない表情をしている。そんな彼女を尻目に私はもうひと眠りすることにした。
「それでは、クリスさん。おやすみなさい。また明日」
21
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる