勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
41 / 625
吸血鬼と聖女と聖騎士と

第一章第39話 感染拡大

しおりを挟む
昨日、夜遅くまで頑張りすぎたせいだろうか?私はいつもよりも少し遅く目を覚ました。

「おはようございます」

私は手早く着替えと質素な朝食を済ませると、ミイラ病対策室の看板を掲げた部屋に入る。

「おはようございます。フィーネ様」

クリスさんは既に部屋でスタンバイしている。

「おはようございます。フィーネ様。昨晩は遅くまでお疲れ様でした」

神殿の治療部隊も衛兵長も既に揃っている。

「すみません。遅くなりました」
「いえ、構いません。それでは、各自状況を報告してください」

人出が足りていないのか、ローラン司祭が対策室長のようのな仕事をしてくれている。本当はローラン司祭も現場に出たいそうなのだが、他の仕事が忙しくてなかなかそういうわけにもいかないらしい。

「それではまずは衛兵部隊より報告いたします。北の貧民街は夜のうちに完全に封鎖が完了しております。通してよいのは治療にあたる関係者のみと通達済みであります。また、配給物資は午前 10 時の鐘のなる頃に北の貧民街への入り口である広場に到着予定です。また酒精のみを分離した酒については薬師協会に発注をかけました。本日の夕方より徐々に納品される手筈となっております」
「ご苦労様です。フィーネ様を含めて我々には 6人の治癒師がおりますので、6 部隊に別れ、治癒師と一緒に閉鎖区域に入ってください。配給業務終了後は護衛を残して速やかに撤退し、必ず洗浄魔法による洗浄を受けてください。それでは次は、フィーネ様、ご報告をお願いいたします」
「はい。昨晩回った建物は 4、訪問した部屋数は 83、うち処置ができたのは 45 です。その際、既に感染していたのは 20 名です。これには第一感染者とその家族も含みます。全ての部屋を処置できた建物はありません。また、洗浄した井戸の数は 5 です」
「おお、すごい数ですな。では、神殿の治癒部隊ですが、回った建物は 6 、訪問した部屋数は 163、うち治療のみができたのは 71、治療と洗浄ができたのが 19 です。感染していたのは 2 名です」

感染者の割合が明らかに低い。どうやら、デールくん達の家のあたりが発生源と考えてよさそうだ。

「こちらも夜でしたので全ての部屋を処置できた建物はありません。また、洗浄した井戸の数は 2 です。また、事態が事態ですので現在王宮へと掛け合い、処置の強制執行権限を申請しております。こちらについては数日中で成果が出るように交渉を続けております」

そう。素直に治療を受けてくれる人達ならば良いのだが、問題は治療を受けてくれない人が一定数いるのだ。この人たちが病原菌をばら撒く事態にならないようにするためには、感染者を強制隔離する必要があるのだ。

あとは、感染が他の地域に飛び火しないことを願うしかない。

****

冬晴れの空の下、私たちは懸命に治療と洗浄を行った。昨日の今日で疲れが取れていないのか、昨晩のように絶好調というわけにはいかず、たまに MP 回復薬のお世話になることになった。だが、どうにかデールくん達の家の一角の住民は全員処置することができた。これには、最初に治療したデール君とダン君が部屋から出てこない人を説得してくれたことが非常に大きかった。

私たちが尋ねても扉を開けてくれなかったが、デール君とダン君が私のことを、無償で自分の姉を治療してくれた聖女様だから大丈夫だ、と言って回ってくれたおかげだ。聖女様になる気はないが、いつの間にかこの町に愛着が湧いてきているのも事実だ。そんなこの町が疫病で壊滅する様は見たくない。

いくらゲームの中の世界とはいえ、ね。

というか、最近は本当にここがゲームの中なのだろうか、と疑問に思うこともある。あまりにもリアルな風景、臭いも、味覚もあるし、食事もしたくなるしトイレにも行きたくなる。他人に触れば暖かいし、今まで体験してきた VRMMO と比べて何もかもがあまりにもリアルだ。

「フィーネ様?」

おっと、クリスさんが心配そうな表情で私を見ている。

「大丈夫です」

私はグイっとまずい MP 回復薬を飲み干して苦笑いを浮かべる。

「この薬の味、ちょっと苦手なんですよ。さあ、次に行きましょう」

そうして私たちは次の区画の処置へと向かうのだった。

そして、夕方。MP 回復薬を 7 本使って何とか一日の仕事を終え、へとへとになって神殿へと戻った私たちは、最も聞きたくない言葉を耳にすることとなってしまった。

「フィーネ様、大変残念なお知らせです。中央商業区で新たにミイラ病の患者が確認されました」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...