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白銀のハイエルフ
第二章第23話 エルムデン
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2020/08/21 誤字を修正しました
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ヨハンナさんのおススメに従い、セムル川を舟で下り二日。北の港町エルムデンへとやってきた。セムル川は穏やかで揺れも少なく、なかなかに快適な旅だった。
エンジンもないのに川を上るときはどうしているのかと気になっていたのだが、帆を立てて登ったり、場合によってはロープで引っ張ったりするらしい。それを聞いて帰りは陸路にしようと決意したのだった。
さて、ここからが本番だ。ルーちゃんのお母さんを救出する必要があるのだが、とりあえずはいつも通りの熱烈歓迎を受ける。
「聖女様、ようこそエルムデンへ。私奴は町長を務めておりますダンケと申します」
「お出迎え頂きありがとうございます。フィーネ・アルジェンタータと言います。こちらはクリスティーナとルミアです。よろしくお願いします」
いつも通りのテンプレ挨拶の後、ホテルに案内してもらう。ハスラン・グランドホテル、アスランさんのところの最高級ホテルのスイートルーム、自力で泊まったら懐がガシガシと削られる値段がするやつだ。若干この待遇に慣れてしまいつつあるが、さすがにどこの国でもこんな待遇を受けられるとは限らないわけで、あまり慣れてしまうと危険な気もする。だから当然と思わず感謝を忘れないようにしなくては。
少なくとも今の私は仕事もしていないただの旅人なわけだしね。
荷物を部屋に置いた私たちは夕食をとるべくホテルのレストランへとやってきた。
「姉さま、エルムデンはシーフードが美味しいらしいですよ!」
「さすが、港町なだけはありますね」
「ムール貝の白ワイン蒸しとフライドポテトが定番だそうです。他にも獲れたての魚を使った香草焼きやアクアパッツァも美味しいそうです。肉料理ですと、この地方の郷土料理である牛肉のビール煮込みなども美味しいそうです」
「どれも楽しみですね」
「全部食べますー!」
ルーちゃんのこの全部食べたいは比喩じゃなくて一食で全部食べるから恐ろしい。ちなみに私はアクアパッツァを、クリスさんは香草焼きを頼んだ。普通は一皿でお腹いっぱいになるよね?
「こちらがデザート、季節のフルーツジュレでございます」
「おー、美味しそうですー!」
ルーちゃんが喜びの声をあげる。フルーツはぶどうと洋梨だ。冷えたゼリーの食感とフルーツの甘みと酸味が絶妙にマッチしていて美味しい。
おや?
私に配膳されたジュレの器の下にカードが添えられている。なになに、「今晩、お部屋にお伺いいたします。ご都合が悪い場合は赤札をお出しください。ヨハンナ」だそうだ。なるほど、アスランさんのホテルだからいくらでも都合がつくのか。ちなみに、赤札というのは現実世界のホテルでいうところの『Don't Disturb me』の札の事で、宿泊客が休んでいる時にルームサービスが間違って入らないようにするためのものだ。
さあ、いよいよだ。
最高のディナーを堪能した私たちは部屋へと戻ったのだった。
****
コンコン
私たちの部屋のドアが叩かれる。
「ようこそ。ヨハンナさん」
クリスさんが出迎える。
「夜分遅くに失礼いたします。聖女様がた。ご無沙汰しております」
ヨハンナさんが優雅に礼を取る。
「ヨハンナさん、お待ちしていました。どうぞおかけください」
「失礼します」
応接室のソファーに私たちも腰かける。
「ヨハンナさん、私たちの部屋にお越しいただいたということは、準備が整っているということでしょうか?」
「はい。ルミア様のお母さまは今もランベール・バティーニュの本邸におります」
「お母さんは無事なんですか?」
「はい。生きている、という意味では無事ですが、何分奴隷とされておりますので……」
ルーちゃんが伏し目がちな表情をする。
やはり、女性の尊厳を踏みにじられているのだろうだろうか。本当に胸糞悪い話だ。
「救出作戦はいつ決行できるんでしょうか?」
「聖女様さえよろしければ明日にでも。ランベール・バティーニュの本邸には我々の手の者を潜り込ませてありますので、動きがあればすぐにわかります。また、今回聖女様の護衛に当たる衛兵隊も全てこちらの息のかかった者で固めておりますので、そのまま捕縛作戦を決行することが可能となります」
「私たちの準備はいつでも大丈夫です。なるべく早く助けてあげられるように取り計らって頂けますか?」
「もちろんです。最善を尽くします」
「よろしくお願いいたします」
その後、多少の作戦の打ち合わせをしたのち、ヨハンナさんは退出していった。
「姉さま、クリスさん……」
ルーちゃんが不安げな表情でこちらを見ている。
「大丈夫ですよ。私が必ず解呪してあげますから」
「そうだぞ。フィーネ様も、それに私もいる。それに町の衛兵たちも味方だ。大丈夫。ルミアのお母さんは絶対に救い出してやる」
「……はい、はい!」
作戦開始予定時刻は午前 10 時。教会の鐘を合図に一斉に突入する。
さあ、かわいい妹分のお母さんを助けるぞ!
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ヨハンナさんのおススメに従い、セムル川を舟で下り二日。北の港町エルムデンへとやってきた。セムル川は穏やかで揺れも少なく、なかなかに快適な旅だった。
エンジンもないのに川を上るときはどうしているのかと気になっていたのだが、帆を立てて登ったり、場合によってはロープで引っ張ったりするらしい。それを聞いて帰りは陸路にしようと決意したのだった。
さて、ここからが本番だ。ルーちゃんのお母さんを救出する必要があるのだが、とりあえずはいつも通りの熱烈歓迎を受ける。
「聖女様、ようこそエルムデンへ。私奴は町長を務めておりますダンケと申します」
「お出迎え頂きありがとうございます。フィーネ・アルジェンタータと言います。こちらはクリスティーナとルミアです。よろしくお願いします」
いつも通りのテンプレ挨拶の後、ホテルに案内してもらう。ハスラン・グランドホテル、アスランさんのところの最高級ホテルのスイートルーム、自力で泊まったら懐がガシガシと削られる値段がするやつだ。若干この待遇に慣れてしまいつつあるが、さすがにどこの国でもこんな待遇を受けられるとは限らないわけで、あまり慣れてしまうと危険な気もする。だから当然と思わず感謝を忘れないようにしなくては。
少なくとも今の私は仕事もしていないただの旅人なわけだしね。
荷物を部屋に置いた私たちは夕食をとるべくホテルのレストランへとやってきた。
「姉さま、エルムデンはシーフードが美味しいらしいですよ!」
「さすが、港町なだけはありますね」
「ムール貝の白ワイン蒸しとフライドポテトが定番だそうです。他にも獲れたての魚を使った香草焼きやアクアパッツァも美味しいそうです。肉料理ですと、この地方の郷土料理である牛肉のビール煮込みなども美味しいそうです」
「どれも楽しみですね」
「全部食べますー!」
ルーちゃんのこの全部食べたいは比喩じゃなくて一食で全部食べるから恐ろしい。ちなみに私はアクアパッツァを、クリスさんは香草焼きを頼んだ。普通は一皿でお腹いっぱいになるよね?
「こちらがデザート、季節のフルーツジュレでございます」
「おー、美味しそうですー!」
ルーちゃんが喜びの声をあげる。フルーツはぶどうと洋梨だ。冷えたゼリーの食感とフルーツの甘みと酸味が絶妙にマッチしていて美味しい。
おや?
私に配膳されたジュレの器の下にカードが添えられている。なになに、「今晩、お部屋にお伺いいたします。ご都合が悪い場合は赤札をお出しください。ヨハンナ」だそうだ。なるほど、アスランさんのホテルだからいくらでも都合がつくのか。ちなみに、赤札というのは現実世界のホテルでいうところの『Don't Disturb me』の札の事で、宿泊客が休んでいる時にルームサービスが間違って入らないようにするためのものだ。
さあ、いよいよだ。
最高のディナーを堪能した私たちは部屋へと戻ったのだった。
****
コンコン
私たちの部屋のドアが叩かれる。
「ようこそ。ヨハンナさん」
クリスさんが出迎える。
「夜分遅くに失礼いたします。聖女様がた。ご無沙汰しております」
ヨハンナさんが優雅に礼を取る。
「ヨハンナさん、お待ちしていました。どうぞおかけください」
「失礼します」
応接室のソファーに私たちも腰かける。
「ヨハンナさん、私たちの部屋にお越しいただいたということは、準備が整っているということでしょうか?」
「はい。ルミア様のお母さまは今もランベール・バティーニュの本邸におります」
「お母さんは無事なんですか?」
「はい。生きている、という意味では無事ですが、何分奴隷とされておりますので……」
ルーちゃんが伏し目がちな表情をする。
やはり、女性の尊厳を踏みにじられているのだろうだろうか。本当に胸糞悪い話だ。
「救出作戦はいつ決行できるんでしょうか?」
「聖女様さえよろしければ明日にでも。ランベール・バティーニュの本邸には我々の手の者を潜り込ませてありますので、動きがあればすぐにわかります。また、今回聖女様の護衛に当たる衛兵隊も全てこちらの息のかかった者で固めておりますので、そのまま捕縛作戦を決行することが可能となります」
「私たちの準備はいつでも大丈夫です。なるべく早く助けてあげられるように取り計らって頂けますか?」
「もちろんです。最善を尽くします」
「よろしくお願いいたします」
その後、多少の作戦の打ち合わせをしたのち、ヨハンナさんは退出していった。
「姉さま、クリスさん……」
ルーちゃんが不安げな表情でこちらを見ている。
「大丈夫ですよ。私が必ず解呪してあげますから」
「そうだぞ。フィーネ様も、それに私もいる。それに町の衛兵たちも味方だ。大丈夫。ルミアのお母さんは絶対に救い出してやる」
「……はい、はい!」
作戦開始予定時刻は午前 10 時。教会の鐘を合図に一斉に突入する。
さあ、かわいい妹分のお母さんを助けるぞ!
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