71 / 625
白銀のハイエルフ
第二章第23話 エルムデン
しおりを挟む
2020/08/21 誤字を修正しました
================
ヨハンナさんのおススメに従い、セムル川を舟で下り二日。北の港町エルムデンへとやってきた。セムル川は穏やかで揺れも少なく、なかなかに快適な旅だった。
エンジンもないのに川を上るときはどうしているのかと気になっていたのだが、帆を立てて登ったり、場合によってはロープで引っ張ったりするらしい。それを聞いて帰りは陸路にしようと決意したのだった。
さて、ここからが本番だ。ルーちゃんのお母さんを救出する必要があるのだが、とりあえずはいつも通りの熱烈歓迎を受ける。
「聖女様、ようこそエルムデンへ。私奴は町長を務めておりますダンケと申します」
「お出迎え頂きありがとうございます。フィーネ・アルジェンタータと言います。こちらはクリスティーナとルミアです。よろしくお願いします」
いつも通りのテンプレ挨拶の後、ホテルに案内してもらう。ハスラン・グランドホテル、アスランさんのところの最高級ホテルのスイートルーム、自力で泊まったら懐がガシガシと削られる値段がするやつだ。若干この待遇に慣れてしまいつつあるが、さすがにどこの国でもこんな待遇を受けられるとは限らないわけで、あまり慣れてしまうと危険な気もする。だから当然と思わず感謝を忘れないようにしなくては。
少なくとも今の私は仕事もしていないただの旅人なわけだしね。
荷物を部屋に置いた私たちは夕食をとるべくホテルのレストランへとやってきた。
「姉さま、エルムデンはシーフードが美味しいらしいですよ!」
「さすが、港町なだけはありますね」
「ムール貝の白ワイン蒸しとフライドポテトが定番だそうです。他にも獲れたての魚を使った香草焼きやアクアパッツァも美味しいそうです。肉料理ですと、この地方の郷土料理である牛肉のビール煮込みなども美味しいそうです」
「どれも楽しみですね」
「全部食べますー!」
ルーちゃんのこの全部食べたいは比喩じゃなくて一食で全部食べるから恐ろしい。ちなみに私はアクアパッツァを、クリスさんは香草焼きを頼んだ。普通は一皿でお腹いっぱいになるよね?
「こちらがデザート、季節のフルーツジュレでございます」
「おー、美味しそうですー!」
ルーちゃんが喜びの声をあげる。フルーツはぶどうと洋梨だ。冷えたゼリーの食感とフルーツの甘みと酸味が絶妙にマッチしていて美味しい。
おや?
私に配膳されたジュレの器の下にカードが添えられている。なになに、「今晩、お部屋にお伺いいたします。ご都合が悪い場合は赤札をお出しください。ヨハンナ」だそうだ。なるほど、アスランさんのホテルだからいくらでも都合がつくのか。ちなみに、赤札というのは現実世界のホテルでいうところの『Don't Disturb me』の札の事で、宿泊客が休んでいる時にルームサービスが間違って入らないようにするためのものだ。
さあ、いよいよだ。
最高のディナーを堪能した私たちは部屋へと戻ったのだった。
****
コンコン
私たちの部屋のドアが叩かれる。
「ようこそ。ヨハンナさん」
クリスさんが出迎える。
「夜分遅くに失礼いたします。聖女様がた。ご無沙汰しております」
ヨハンナさんが優雅に礼を取る。
「ヨハンナさん、お待ちしていました。どうぞおかけください」
「失礼します」
応接室のソファーに私たちも腰かける。
「ヨハンナさん、私たちの部屋にお越しいただいたということは、準備が整っているということでしょうか?」
「はい。ルミア様のお母さまは今もランベール・バティーニュの本邸におります」
「お母さんは無事なんですか?」
「はい。生きている、という意味では無事ですが、何分奴隷とされておりますので……」
ルーちゃんが伏し目がちな表情をする。
やはり、女性の尊厳を踏みにじられているのだろうだろうか。本当に胸糞悪い話だ。
「救出作戦はいつ決行できるんでしょうか?」
「聖女様さえよろしければ明日にでも。ランベール・バティーニュの本邸には我々の手の者を潜り込ませてありますので、動きがあればすぐにわかります。また、今回聖女様の護衛に当たる衛兵隊も全てこちらの息のかかった者で固めておりますので、そのまま捕縛作戦を決行することが可能となります」
「私たちの準備はいつでも大丈夫です。なるべく早く助けてあげられるように取り計らって頂けますか?」
「もちろんです。最善を尽くします」
「よろしくお願いいたします」
その後、多少の作戦の打ち合わせをしたのち、ヨハンナさんは退出していった。
「姉さま、クリスさん……」
ルーちゃんが不安げな表情でこちらを見ている。
「大丈夫ですよ。私が必ず解呪してあげますから」
「そうだぞ。フィーネ様も、それに私もいる。それに町の衛兵たちも味方だ。大丈夫。ルミアのお母さんは絶対に救い出してやる」
「……はい、はい!」
作戦開始予定時刻は午前 10 時。教会の鐘を合図に一斉に突入する。
さあ、かわいい妹分のお母さんを助けるぞ!
================
ヨハンナさんのおススメに従い、セムル川を舟で下り二日。北の港町エルムデンへとやってきた。セムル川は穏やかで揺れも少なく、なかなかに快適な旅だった。
エンジンもないのに川を上るときはどうしているのかと気になっていたのだが、帆を立てて登ったり、場合によってはロープで引っ張ったりするらしい。それを聞いて帰りは陸路にしようと決意したのだった。
さて、ここからが本番だ。ルーちゃんのお母さんを救出する必要があるのだが、とりあえずはいつも通りの熱烈歓迎を受ける。
「聖女様、ようこそエルムデンへ。私奴は町長を務めておりますダンケと申します」
「お出迎え頂きありがとうございます。フィーネ・アルジェンタータと言います。こちらはクリスティーナとルミアです。よろしくお願いします」
いつも通りのテンプレ挨拶の後、ホテルに案内してもらう。ハスラン・グランドホテル、アスランさんのところの最高級ホテルのスイートルーム、自力で泊まったら懐がガシガシと削られる値段がするやつだ。若干この待遇に慣れてしまいつつあるが、さすがにどこの国でもこんな待遇を受けられるとは限らないわけで、あまり慣れてしまうと危険な気もする。だから当然と思わず感謝を忘れないようにしなくては。
少なくとも今の私は仕事もしていないただの旅人なわけだしね。
荷物を部屋に置いた私たちは夕食をとるべくホテルのレストランへとやってきた。
「姉さま、エルムデンはシーフードが美味しいらしいですよ!」
「さすが、港町なだけはありますね」
「ムール貝の白ワイン蒸しとフライドポテトが定番だそうです。他にも獲れたての魚を使った香草焼きやアクアパッツァも美味しいそうです。肉料理ですと、この地方の郷土料理である牛肉のビール煮込みなども美味しいそうです」
「どれも楽しみですね」
「全部食べますー!」
ルーちゃんのこの全部食べたいは比喩じゃなくて一食で全部食べるから恐ろしい。ちなみに私はアクアパッツァを、クリスさんは香草焼きを頼んだ。普通は一皿でお腹いっぱいになるよね?
「こちらがデザート、季節のフルーツジュレでございます」
「おー、美味しそうですー!」
ルーちゃんが喜びの声をあげる。フルーツはぶどうと洋梨だ。冷えたゼリーの食感とフルーツの甘みと酸味が絶妙にマッチしていて美味しい。
おや?
私に配膳されたジュレの器の下にカードが添えられている。なになに、「今晩、お部屋にお伺いいたします。ご都合が悪い場合は赤札をお出しください。ヨハンナ」だそうだ。なるほど、アスランさんのホテルだからいくらでも都合がつくのか。ちなみに、赤札というのは現実世界のホテルでいうところの『Don't Disturb me』の札の事で、宿泊客が休んでいる時にルームサービスが間違って入らないようにするためのものだ。
さあ、いよいよだ。
最高のディナーを堪能した私たちは部屋へと戻ったのだった。
****
コンコン
私たちの部屋のドアが叩かれる。
「ようこそ。ヨハンナさん」
クリスさんが出迎える。
「夜分遅くに失礼いたします。聖女様がた。ご無沙汰しております」
ヨハンナさんが優雅に礼を取る。
「ヨハンナさん、お待ちしていました。どうぞおかけください」
「失礼します」
応接室のソファーに私たちも腰かける。
「ヨハンナさん、私たちの部屋にお越しいただいたということは、準備が整っているということでしょうか?」
「はい。ルミア様のお母さまは今もランベール・バティーニュの本邸におります」
「お母さんは無事なんですか?」
「はい。生きている、という意味では無事ですが、何分奴隷とされておりますので……」
ルーちゃんが伏し目がちな表情をする。
やはり、女性の尊厳を踏みにじられているのだろうだろうか。本当に胸糞悪い話だ。
「救出作戦はいつ決行できるんでしょうか?」
「聖女様さえよろしければ明日にでも。ランベール・バティーニュの本邸には我々の手の者を潜り込ませてありますので、動きがあればすぐにわかります。また、今回聖女様の護衛に当たる衛兵隊も全てこちらの息のかかった者で固めておりますので、そのまま捕縛作戦を決行することが可能となります」
「私たちの準備はいつでも大丈夫です。なるべく早く助けてあげられるように取り計らって頂けますか?」
「もちろんです。最善を尽くします」
「よろしくお願いいたします」
その後、多少の作戦の打ち合わせをしたのち、ヨハンナさんは退出していった。
「姉さま、クリスさん……」
ルーちゃんが不安げな表情でこちらを見ている。
「大丈夫ですよ。私が必ず解呪してあげますから」
「そうだぞ。フィーネ様も、それに私もいる。それに町の衛兵たちも味方だ。大丈夫。ルミアのお母さんは絶対に救い出してやる」
「……はい、はい!」
作戦開始予定時刻は午前 10 時。教会の鐘を合図に一斉に突入する。
さあ、かわいい妹分のお母さんを助けるぞ!
10
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる