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巫女の治める国
第四章第1話 サキモリの港町
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2021/10/15 誤字を修正しました
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シズクさんが遺書めいた手紙を残して去った翌日、私たちは彼女を大急ぎで追いかけた。
聞き込みの結果、シズクさんは舟で川を下ったことが判明したため、同じように舟を利用しようした。だが、私たちがブルースター共和国でクラウブレッツから利用した時とは違い川の流れが見るからに激しく、クリスさんとルーちゃんが船酔いでグロッキー状態になるのが目に見えていたため陸路を選択した。
しかし、この選択が裏目に出てしまった。あっという間に私たちはシズクさんから引き離されてしまい、レッドスカイ帝国の玄関口となるナンハイに着くころには一週間ほどの差が出来てしまった。
さらに定期船の運航スケジュールの関係からナンハイで三日間も足止めされ、ゴールデンサン巫国の玄関口であるサキモリの港に着いた時にはその差は十日と広がってしまったのだ。
ともあれ、私たちは無事にシズクさんの母国であるゴールデンサン巫国の大地を踏みしめる事となった。
「ここがサキモリの港町ですか」
何とも日本的な雰囲気が漂う町並みだ。木造の建物に漆喰で塗り固められた壁、瓦や茅葺の屋根を見ると何だか時代劇の世界に迷い込んだような気分になる。
サキモリって、やっぱり防人のことなのかな?
位置的にもレッドスカイ帝国との玄関口だし、もしかしたら昔は戦争とかあったのかもしれない。
「ああ、やっと地面が揺れない……」
「なんだか、美味しいものがたくさんある気がしますっ!」
ちなみにクリスさんは前回と同じく船酔いでグロッキー状態になっていたが、ルーちゃんは多少は船酔いはしていたもののそこまで酷いことにはならなかった。やはりシルツァの里で手に入れた副職業、漁師のスキルである【船酔い耐性】が効いたのだろう。
ということは、私が船酔いしないのはきっと【状態異常耐性】が MAX だからなんだろうと思う。
「あっ! ごめんなさい。今はシズクさんのことが先でした……」
「いえ、大丈夫です。焦ってもいいことはありませんでしたから。いつも通りでいるほうがきっと良い結果になると思います。だからルーちゃんもそんな風に気を遣わないでいつも通りにしていてください」
「姉さま……」
ルーちゃんが気を使ってそう言ってくれるが、これに関しては私が悪かったと思う。
私はレッドスカイ帝国を抜ける時はちょっと焦りすぎていた。ピリピリした雰囲気になっていたと思うし、焦って追いつこうと頑張っても結局は空回りしてしまい、大きく引き離されるという結果に終わった。
急いては事を仕損じる、とはよく言ったものだ。ゴールデンサン巫国までやってこれたのだから、後はじっくりとシズクさんの行き先を探す。そして事の真相を聞き出す、それだけのはずだ。
「日も傾いていますし、まずは宿を取りましょう。後のことはそれから考えましょう」
「「はい」」
****
「背の高い女性のお侍さん、ですか?」
「はい。シズク・ミエシロさんという方なんですが、ご存じないでしょうか?」
旅館で部屋を取った私たちはそこの女将さんに話を聞いてみた。
「十日くらい前にサキモリに凛々しい女性の剣士が来た、という話は聞いたことがございます。とても背の高いお方だと町で噂にはなっていましたよ」
パッと見て小柄な人が多いという印象のこの国ではやはりシズクさんのような背の高い女性というのは珍しいようだ。
ま、それでもみんな私よりも背が高い人たちばかりなんだけどね。
ぐぬぬ。
ちなみに、この町の人たちはほぼ全員黒目黒髪で、ごくたまにこげ茶の髪の人がいるくらいだ。なので、私たちはとんでもなく目立っている。私たちは白銀、金、緑ととってもカラフルな髪色をしているので、町を歩くとこれまで以上に視線を感じる。
「その人はどこに行ったか分かりませんか? 私たちは彼女に大切なものを返さなくてはいけないんです」
これは嘘というわけではないがそう答えようと予め話し合って決めておいたことだ。
というのも、追いかけている、と言うと相手に警戒されてしまうかもしれないが、大切な友人であるシズクさんに大切な刀を返すため、という設定ならば問題ないと考えたからだ。
「申し訳ございません。そこまでは。ですが、そういった事情でしたらお調べすることはできると思います。ただお時間を頂戴することになりますのでもう一晩お泊りいただければ、でございますが」
「わかりました。お願いします」
私は女将さんに調査をお願いする。きっと闇雲に探すよりもこうしたほうが確実な気がする。
「畏まりました。さて、夕食は午後 6 時、朝食は午前 7 時から食堂にてご用意しております。食堂はこちらの廊下をまっすぐ歩いていただき突き当り左手にございます」
「わかりました。ありがとうございます」
「それでは、お部屋にご案内いたします」
そうして女将さんが私たちを部屋へと案内してくれた。
「こちら、朝霧の間がお客様のお部屋でございます。外出される際は鍵をフロントにお預けください」
「わかりました」
「それと、履物はこちらでお脱ぎ下さい」
「ここで?」
土足で部屋に上がろうとしたクリスさんが女将さんに注意を受ける。
「はい。左様でございます。巫国ははじめてでらっしゃいますか?」
「ああ」
「左様でございますか。巫国では外の汚れを家の中に持ち込まぬように履物は玄関でお脱ぎ頂くことになっております。他にもベッドはなく布団を床に敷いてお休み頂く、ですとか、様々な独自の文化がございます。是非楽しんでいってくださいませ」
どうやら本格的に日本っぽいようだ。もしかして醤油とか刺身もあったりするんだろうか?
「それでは、どうぞごゆっくりおくつろぎください」
女将さんは一通り設備の説明をしてくれると、お茶を出してくれてから退出していった。
「この薄い緑色の床は一体何だ?」
「姉さま、これはなにかの植物でできているみたいです」
クリスさんとルーちゃんは畳に興味津々だ。
「それは畳ですね。確か特殊な草で作った絨毯のようなものだったはずです」
「おお、そうなのですね」
クリスさんが不思議そうに畳を指でつついている。
「姉さまっ、引き戸が紙でできています。なんだか絵まで描いてありますっ!」
「それは、襖ですね」
「すごい、姉さま物知りですね!」
「いえ、たまたま知っていただけです」
そもそも、私はそんなに建築に詳しいわけではないのでこれ以上細かいことを聞かれてもわからない。
それにしてもこの旅館、値段の割には随分と設備が立派な気がする。
私たちは三人一部屋で取っているのだが、部屋がやたらと広いうえに簾で仕切られた部屋がもう一つある。そして床の間には掛け軸に屏風が飾られ花が活けてあり、部屋に彩を添えている。更に部屋には縁側もあり、目の前には美しい純和風の庭園が広がっている。
これで三人一泊金貨 1 枚というのはずいぶんとリーズナブルだと思ってしまうのは私だけだろうか?
室内を不思議そうに見回す二人を横目に私はそんなことを考えていた。
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シズクさんが遺書めいた手紙を残して去った翌日、私たちは彼女を大急ぎで追いかけた。
聞き込みの結果、シズクさんは舟で川を下ったことが判明したため、同じように舟を利用しようした。だが、私たちがブルースター共和国でクラウブレッツから利用した時とは違い川の流れが見るからに激しく、クリスさんとルーちゃんが船酔いでグロッキー状態になるのが目に見えていたため陸路を選択した。
しかし、この選択が裏目に出てしまった。あっという間に私たちはシズクさんから引き離されてしまい、レッドスカイ帝国の玄関口となるナンハイに着くころには一週間ほどの差が出来てしまった。
さらに定期船の運航スケジュールの関係からナンハイで三日間も足止めされ、ゴールデンサン巫国の玄関口であるサキモリの港に着いた時にはその差は十日と広がってしまったのだ。
ともあれ、私たちは無事にシズクさんの母国であるゴールデンサン巫国の大地を踏みしめる事となった。
「ここがサキモリの港町ですか」
何とも日本的な雰囲気が漂う町並みだ。木造の建物に漆喰で塗り固められた壁、瓦や茅葺の屋根を見ると何だか時代劇の世界に迷い込んだような気分になる。
サキモリって、やっぱり防人のことなのかな?
位置的にもレッドスカイ帝国との玄関口だし、もしかしたら昔は戦争とかあったのかもしれない。
「ああ、やっと地面が揺れない……」
「なんだか、美味しいものがたくさんある気がしますっ!」
ちなみにクリスさんは前回と同じく船酔いでグロッキー状態になっていたが、ルーちゃんは多少は船酔いはしていたもののそこまで酷いことにはならなかった。やはりシルツァの里で手に入れた副職業、漁師のスキルである【船酔い耐性】が効いたのだろう。
ということは、私が船酔いしないのはきっと【状態異常耐性】が MAX だからなんだろうと思う。
「あっ! ごめんなさい。今はシズクさんのことが先でした……」
「いえ、大丈夫です。焦ってもいいことはありませんでしたから。いつも通りでいるほうがきっと良い結果になると思います。だからルーちゃんもそんな風に気を遣わないでいつも通りにしていてください」
「姉さま……」
ルーちゃんが気を使ってそう言ってくれるが、これに関しては私が悪かったと思う。
私はレッドスカイ帝国を抜ける時はちょっと焦りすぎていた。ピリピリした雰囲気になっていたと思うし、焦って追いつこうと頑張っても結局は空回りしてしまい、大きく引き離されるという結果に終わった。
急いては事を仕損じる、とはよく言ったものだ。ゴールデンサン巫国までやってこれたのだから、後はじっくりとシズクさんの行き先を探す。そして事の真相を聞き出す、それだけのはずだ。
「日も傾いていますし、まずは宿を取りましょう。後のことはそれから考えましょう」
「「はい」」
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「背の高い女性のお侍さん、ですか?」
「はい。シズク・ミエシロさんという方なんですが、ご存じないでしょうか?」
旅館で部屋を取った私たちはそこの女将さんに話を聞いてみた。
「十日くらい前にサキモリに凛々しい女性の剣士が来た、という話は聞いたことがございます。とても背の高いお方だと町で噂にはなっていましたよ」
パッと見て小柄な人が多いという印象のこの国ではやはりシズクさんのような背の高い女性というのは珍しいようだ。
ま、それでもみんな私よりも背が高い人たちばかりなんだけどね。
ぐぬぬ。
ちなみに、この町の人たちはほぼ全員黒目黒髪で、ごくたまにこげ茶の髪の人がいるくらいだ。なので、私たちはとんでもなく目立っている。私たちは白銀、金、緑ととってもカラフルな髪色をしているので、町を歩くとこれまで以上に視線を感じる。
「その人はどこに行ったか分かりませんか? 私たちは彼女に大切なものを返さなくてはいけないんです」
これは嘘というわけではないがそう答えようと予め話し合って決めておいたことだ。
というのも、追いかけている、と言うと相手に警戒されてしまうかもしれないが、大切な友人であるシズクさんに大切な刀を返すため、という設定ならば問題ないと考えたからだ。
「申し訳ございません。そこまでは。ですが、そういった事情でしたらお調べすることはできると思います。ただお時間を頂戴することになりますのでもう一晩お泊りいただければ、でございますが」
「わかりました。お願いします」
私は女将さんに調査をお願いする。きっと闇雲に探すよりもこうしたほうが確実な気がする。
「畏まりました。さて、夕食は午後 6 時、朝食は午前 7 時から食堂にてご用意しております。食堂はこちらの廊下をまっすぐ歩いていただき突き当り左手にございます」
「わかりました。ありがとうございます」
「それでは、お部屋にご案内いたします」
そうして女将さんが私たちを部屋へと案内してくれた。
「こちら、朝霧の間がお客様のお部屋でございます。外出される際は鍵をフロントにお預けください」
「わかりました」
「それと、履物はこちらでお脱ぎ下さい」
「ここで?」
土足で部屋に上がろうとしたクリスさんが女将さんに注意を受ける。
「はい。左様でございます。巫国ははじめてでらっしゃいますか?」
「ああ」
「左様でございますか。巫国では外の汚れを家の中に持ち込まぬように履物は玄関でお脱ぎ頂くことになっております。他にもベッドはなく布団を床に敷いてお休み頂く、ですとか、様々な独自の文化がございます。是非楽しんでいってくださいませ」
どうやら本格的に日本っぽいようだ。もしかして醤油とか刺身もあったりするんだろうか?
「それでは、どうぞごゆっくりおくつろぎください」
女将さんは一通り設備の説明をしてくれると、お茶を出してくれてから退出していった。
「この薄い緑色の床は一体何だ?」
「姉さま、これはなにかの植物でできているみたいです」
クリスさんとルーちゃんは畳に興味津々だ。
「それは畳ですね。確か特殊な草で作った絨毯のようなものだったはずです」
「おお、そうなのですね」
クリスさんが不思議そうに畳を指でつついている。
「姉さまっ、引き戸が紙でできています。なんだか絵まで描いてありますっ!」
「それは、襖ですね」
「すごい、姉さま物知りですね!」
「いえ、たまたま知っていただけです」
そもそも、私はそんなに建築に詳しいわけではないのでこれ以上細かいことを聞かれてもわからない。
それにしてもこの旅館、値段の割には随分と設備が立派な気がする。
私たちは三人一部屋で取っているのだが、部屋がやたらと広いうえに簾で仕切られた部屋がもう一つある。そして床の間には掛け軸に屏風が飾られ花が活けてあり、部屋に彩を添えている。更に部屋には縁側もあり、目の前には美しい純和風の庭園が広がっている。
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