勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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巫女の治める国

第四章第7話 雪中行軍

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「私たちが寝ている間に随分と積もりましたね」
「雪ですか? それとも石ですか?」
「フィーネ様、もちろん雪の事です。フィーネ様が練習熱心なことはよく存じていますから」

私は冗談めかして聞いたつもりだったのに真顔で答えられてしまった。ぐぬぬ。

私たちは味噌汁におにぎりという和風な朝ごはんを食べながら話をしている。ちなみにこのお味噌汁とおにぎりは麓の村で買ったもので、当然私の収納に入れて運んできた。

さて、昨日の昼から降り続いた雪は明け方ごろには止んでいたのだが、雪はかなり積もってしまった。

私の腰くらいの高さまほど新雪が積もっているのだが、果たしてこの状態で前に進むことができるのだろうか?

「これ、先に進めますかね? ルーちゃんがいるので道には迷わないとは思いますけど」
「そうですね。私も騎士見習いをしていた時にラッセル行軍の訓練を受けたことはありますので進むことはできます。ただ、これだけの積雪ですと進むスピードはかなり遅くなってしまうと思います」
「うーん、難しいところですが、このままここにいて雪がさらに降ったらもっと困りますしね。ちょっとずつでも進むことにしましょう」
「はい」

こうして私たちは先へと進むことにした。だが、想像していたよりもその道のりはかなり厳しいものだった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

歩き始めて一時間ほどでクリスさんが息を荒くしている。クリスさんがずっと先頭で新雪をかき分けては私たちのために道を作り続けてくれているのだ。

というのも、私とルーちゃんでは小柄すぎて腰まですっぽりと雪に埋もれてしまい、上手く雪をかき分けられないのだ。その点、クリスさんは私たちよりもかなり背が高いのでそうはならない。そのため、必然的にクリスさん頼みになってしまったのだ。

「クリスさん、お疲れ様です。ちょっと休憩にしましょう」

こうしてクリスさんの息が上がってきたらすぐに休憩し、私が【回復魔法】で体力を回復させてあげているのだ。

「フィーネ様、ありがとうございます」

私の魔法に対してお礼を言ってくれるがお礼を言いたいのはこちらのほうだ。こういうった骨の折れることも嫌な顔一つせずにやってくれるクリスさんには本当に頭が上がらない。

「クリスさん、こちらこそ、ですよ。本当は私たちも先頭を交代できればいいんですけど……」

私のその言葉にクリスさんはかぶりを振る。

「フィーネ様とルミアでは体格的に厳しいですから。それに、私はフィーネ様のお役に立てるのが嬉しいのです」
「クリスさん……」

いつもそうだが、クリスさんは私に本当に優しくしてくれる。でも、聖女候補、という立場がなくなってもきっと、とは思うがどうなるのかという不安がないわけでもない。

「ちょっと、姉さま! あたしだって役に立ちたいんですよ?」
「はい。ルーちゃんもいつも助かっています。森で迷わないのはルーちゃんのおかげだし、はじめての町で美味しいご飯が食べられるのも、楽しく旅ができるのもみんなルーちゃんのおかげです」

私の回答が気に入ったのかルーちゃんが「姉さまー」と抱きついてくる。

うちのパーティーの元気印がいてくれるおかげで気分が明るくなる。

私はルーちゃんの背中をポンポンと叩いて感謝の意を伝えてルーちゃんを引き離すと一人で小さく呟いた。

「ほんとに、私は恵まれていますね……」
「え? 姉さま、何か言いました?」
「いえ。何も」
「むぅ、何か良いこと言われたような気がしたのにー」

むむ、鋭い。

「さあ、そろそろ出発しましょう。休憩はもう十分です」

クリスさんのその一言を合図に私たちはまた新雪の積もった街道を歩き出したのだった。

****

陽が傾き始めた頃、私たちは小さな村へと辿りついた。この村の名前はマツハタ宿じゅくと言うらしい。もともとの予定では昨日のお昼過ぎにはこの村を通過している予定だったのだから、雪がどれほど私たちの歩みを邪魔をしているかは想像に難くないだろう。

さすがに村内ということもあり雪かきはしっかりとされておりとても歩きやすい。クリスさんがかき分けてくれた後ろを歩いている私ですらその感想なのだから、クリスさんはやはり相当大変だったはずだ。

そう思った私は宿屋を探そうと、近くを歩いていた村人と思しきおじさんに声をかける。

「こんにちは」

声をかけた瞬間、ビクッとされた。なんだか、声をかけるなオーラを出していたような気もしていたが、何かまずかったのだろうか?

そういえば、周りからジロジロと見られているような気もする。

「な、なんだ? あんたら」
「ええと、旅の者なのですが、宿屋はどちらですか?」
「あれだ」

そう言って村の奥を指さすとそのまま足早に立ち去ってしまった。

「うーん、私何か失礼なことをしちゃったんでしょうか……」
「そうではなく、黒目黒髪でない者が珍しいのではないでしょうか? 先ほどから痛いほど視線を感じますし」
「あー、なるほど。ここで宿を取る人は少なそうですしね」

そう、特に何もなければ麓の村を朝出発すると夕方までには峠を越えて次の宿場町へと辿りつけるはずなのだ。

ただでさえ宿泊客の少ないこの村で、カラフルな頭をした三人組の外国人女性がやってきたとなればそれは一大事なのかもしれない。

私たちはとりあえず教えてもらった方向へと歩いていくと、どうやらそれらしき建物を発見した。旅籠はたごミナグチ屋と看板が出ている。

「ごめんくださーい」

入り口の引き戸を開けて私たちは旅籠の中へと入る。

「いらっしゃい。おや、外人さんじゃないか。こんな雪の中大変だったでしょう。どうぞお上がり」

着物を着たおばさんが出てくると笑顔で私たちを迎え入れてくれる。旅籠の中には味噌の香ばしい香りが漂っていた。
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