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巫女の治める国
第四章第30話 カンエイ・ミツルギ
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2020/09/11 誤字を修正しました
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「サイトウ、貴様は未だにあのミエシロの忌々しい女を守ろうとしているのじゃな。まったく、愚かなことよ」
「何だと!」
「くくく、キリナギを奪われたときはどうなるかと思ったがのう。所詮は頭の悪いミエシロの愚かな女じゃったということじゃ。今頃、あの女は八頭龍神様に捧げられて無様にくたばっておることじゃろうて。ふはははははは」
「貴様!」
「ソウジさん、落ち着いてください。挑発ですよ」
ソウジさんが怒りをあらわに斬りかかろうとするが私が窘めてそれを止める。この酷い言い草にはものすごく腹が立つが、ここでこいつのこんな安い挑発に乗ったらますます相手の思う壺というやつだ。
「あ、ああ、すまないでござる。フィーネちゃん。大丈夫。ちゃんとフィーネちゃんを守るでござるよ」
「はい」
「くく、スイキョウ様に足を治していただいたこの儂に勝てるとでも思っておるのか?」
そう言うとカンエイが抜刀し、そして凄まじい速さで斬りかかってきた。
「がっ」
ソウジさんもとっさに反応はしたが避けきれず、右の肩口を浅く切られてしまう。
「くくく。いかにシンエイ流といえど、テッサイのクソジジイとあの忌々しい女以外は敵ではない」
カンエイが見下すような口調でそう言い放つ。私はこっそりとソウジさんに近づいて治癒魔法で治療する。
「一体なぜ、こんな愚かなことを?」
ソウジさんを治癒しつつ時間稼ぎに話を向ける。
私のこの質問は普通に考えれば何を聞いているのか分かりづらく意味不明にも思えるが、一応ちゃんと意図はある。このカンエイというおじいさん、ちょっと何かコンプレックス的なものを抱えていそうなので、うまくそこをつついてあげれば勝手に喋り出すんじゃないかと思ったのだ。
私としては馬鹿にされたと勘違いしてくれたらいいな、くらいのものだったのだが、どうやらピンポイントで怒りのスイッチを押すことに成功したようだ。
私にそう聞かれたカンエイは一瞬にして顔を真っ赤にして私を怒鳴りつけてきた。
「なぜ、じゃと? 愚か、じゃと? 分家の分際で! 分家は本家の糧となれば良いのじゃ! じゃというのに、スイキョウ様にミツルギの姓を賜り剣としてお認め頂き、生贄は分家のみでよいとお約束頂いたというのに!」
ただ、あまりにも怒っているせいなのか、言っていることが滅茶苦茶で何を言っているのかいまいちよく分からない。
「それを何じゃ! 子も残さず死におって! 女なぞ適当に攫ってきて力づくで孕ませればよいのじゃ! 責任も果たさず! 分家が愚かなせいで! しかもキリナギまで奪っていきよって!」
ええと、つまり、ミエシロのご本家様は生贄の役目を分家に全て押し付けて国剣の地位を得たけど、分家のご当主様が子供を作らないで亡くなったせいでお家断絶になりそうなことを怒っている?
あれ? ということは、最終的に自分達にお鉢が回ってきそうだから怒っている、ということ?
それで女性を誘拐して乱暴しなかったのが悪いと?
あ、何だかすごい腹が立ってきた。こいつ、女性を、いや人を一体なんだと思ってるんだ!
「ルーちゃん、ソウジさん、私、こいつは許せません」
「あたしも同感ですっ。やっちゃいましょう」
「で、でも僕の腕ではあいつには」
ルーちゃんはやる気満々だが、ソウジさんは先ほどやられたせいか気後れしているようだ。
「大丈夫です。ソウジさん、私があいつの動きを止めます。合図したら攻撃してください」
治療を終えた私はソウジさんの目を見ながらそう宣言する。
「くくく、貴様のような小娘に一体何ができるというのじゃ! 切り刻んでぐれるわ!」
明らかにこちらを舐め切っているカンエイが一気に距離を詰めると上段からの刀を打ち込んできた。
「防壁」
私は目の前に防壁を作り出してカンエイの一撃を受け止める。冥竜王の一撃に比べれば何という事はない軽い攻撃だ。
「なんじゃと!? 怪しげな術を使うなぞ卑怯な!」
「は?」
それをお前が言うか? そっちなんか鬼になっている奴がいるくせに!
「このテロリストめが!」
「ルーちゃん!」
「はいっ!」
ルーちゃんが矢を打ち込み、それを刀で弾きながらカンエイが後退する。
「マシロちゃんも!」
「はいっ! マシロっ! 出番だよっ!」
ルーちゃんはマシロちゃんを召喚すると、マシロちゃんが風の刃を打ち込んでいく。
「ぐおおおお」
カンエイは必死になって避けようとするが、私はそれを許さない。
「はい、防壁」
カンエイの動く先にその足運びを邪魔するように防壁を立ててあげる。すると防壁にぶつかったカンエイはバランスを崩し、そこにマシロちゃんの風の刃が襲い掛かる。
「ぐあっ!」
マシロちゃんの風の刃がカンエイの左足に命中し、ふくらはぎがばっくりと開き鮮血が飛び散る。
「ソウジさん!」
「は、はい。任せるでござるっ!」
ソウジさんがカンエイにトドメを刺すべく駆け出す。
「ルーちゃん、援護!」
「はいっ!」
ルーちゃんが矢で援護射撃をする。もちろん、誤射対策に結界を張るのは忘れない。
ちなみにテッサイさんの紹介でルーちゃんは近所の弓術道場に通っていたのだが、このルーちゃんの誤射癖はついぞ改善されなかったと聞いている。なので、私だけでなくソウジさんの安全のためにもこの結界は必要不可欠なのだ。
幸いなことに今回はルーちゃんの誤射は発動せず、狙いすまされた矢がカンエイの眉間に、左胸にと打ち込まれていく。左足に傷を負ったカンエイがその矢を弾いた隙にソウジさんが距離を詰め、そしてがら空きの胴にソウジさんが一撃を入れる。
「が、はっ……」
ソウジさんの胴斬りをまともに受けたカンエイは血を吹き出して倒れこむ。
「お、親父ぃぃぃぃぃぃっ!」
その様子を視界の端で見ていたのか、クリスさんと鍔迫り合いをしていたヨシテルが悲痛な叫び声を上げた。
その隙を見逃さなかったクリスさんはヨシテルの刀をかち上げ、そして冷静に胴へと一撃を入れたのだった。
================
一応、カンエイさんは弱いわけではありません。いくらブランクがあるとはいえ、相当な強者の部類に入る人です。ただ、三対一なうえに防壁と結界による守りがカンエイさんには相性が悪すぎました。フィーネちゃんも司令塔として確実に成長していっていますね。
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「サイトウ、貴様は未だにあのミエシロの忌々しい女を守ろうとしているのじゃな。まったく、愚かなことよ」
「何だと!」
「くくく、キリナギを奪われたときはどうなるかと思ったがのう。所詮は頭の悪いミエシロの愚かな女じゃったということじゃ。今頃、あの女は八頭龍神様に捧げられて無様にくたばっておることじゃろうて。ふはははははは」
「貴様!」
「ソウジさん、落ち着いてください。挑発ですよ」
ソウジさんが怒りをあらわに斬りかかろうとするが私が窘めてそれを止める。この酷い言い草にはものすごく腹が立つが、ここでこいつのこんな安い挑発に乗ったらますます相手の思う壺というやつだ。
「あ、ああ、すまないでござる。フィーネちゃん。大丈夫。ちゃんとフィーネちゃんを守るでござるよ」
「はい」
「くく、スイキョウ様に足を治していただいたこの儂に勝てるとでも思っておるのか?」
そう言うとカンエイが抜刀し、そして凄まじい速さで斬りかかってきた。
「がっ」
ソウジさんもとっさに反応はしたが避けきれず、右の肩口を浅く切られてしまう。
「くくく。いかにシンエイ流といえど、テッサイのクソジジイとあの忌々しい女以外は敵ではない」
カンエイが見下すような口調でそう言い放つ。私はこっそりとソウジさんに近づいて治癒魔法で治療する。
「一体なぜ、こんな愚かなことを?」
ソウジさんを治癒しつつ時間稼ぎに話を向ける。
私のこの質問は普通に考えれば何を聞いているのか分かりづらく意味不明にも思えるが、一応ちゃんと意図はある。このカンエイというおじいさん、ちょっと何かコンプレックス的なものを抱えていそうなので、うまくそこをつついてあげれば勝手に喋り出すんじゃないかと思ったのだ。
私としては馬鹿にされたと勘違いしてくれたらいいな、くらいのものだったのだが、どうやらピンポイントで怒りのスイッチを押すことに成功したようだ。
私にそう聞かれたカンエイは一瞬にして顔を真っ赤にして私を怒鳴りつけてきた。
「なぜ、じゃと? 愚か、じゃと? 分家の分際で! 分家は本家の糧となれば良いのじゃ! じゃというのに、スイキョウ様にミツルギの姓を賜り剣としてお認め頂き、生贄は分家のみでよいとお約束頂いたというのに!」
ただ、あまりにも怒っているせいなのか、言っていることが滅茶苦茶で何を言っているのかいまいちよく分からない。
「それを何じゃ! 子も残さず死におって! 女なぞ適当に攫ってきて力づくで孕ませればよいのじゃ! 責任も果たさず! 分家が愚かなせいで! しかもキリナギまで奪っていきよって!」
ええと、つまり、ミエシロのご本家様は生贄の役目を分家に全て押し付けて国剣の地位を得たけど、分家のご当主様が子供を作らないで亡くなったせいでお家断絶になりそうなことを怒っている?
あれ? ということは、最終的に自分達にお鉢が回ってきそうだから怒っている、ということ?
それで女性を誘拐して乱暴しなかったのが悪いと?
あ、何だかすごい腹が立ってきた。こいつ、女性を、いや人を一体なんだと思ってるんだ!
「ルーちゃん、ソウジさん、私、こいつは許せません」
「あたしも同感ですっ。やっちゃいましょう」
「で、でも僕の腕ではあいつには」
ルーちゃんはやる気満々だが、ソウジさんは先ほどやられたせいか気後れしているようだ。
「大丈夫です。ソウジさん、私があいつの動きを止めます。合図したら攻撃してください」
治療を終えた私はソウジさんの目を見ながらそう宣言する。
「くくく、貴様のような小娘に一体何ができるというのじゃ! 切り刻んでぐれるわ!」
明らかにこちらを舐め切っているカンエイが一気に距離を詰めると上段からの刀を打ち込んできた。
「防壁」
私は目の前に防壁を作り出してカンエイの一撃を受け止める。冥竜王の一撃に比べれば何という事はない軽い攻撃だ。
「なんじゃと!? 怪しげな術を使うなぞ卑怯な!」
「は?」
それをお前が言うか? そっちなんか鬼になっている奴がいるくせに!
「このテロリストめが!」
「ルーちゃん!」
「はいっ!」
ルーちゃんが矢を打ち込み、それを刀で弾きながらカンエイが後退する。
「マシロちゃんも!」
「はいっ! マシロっ! 出番だよっ!」
ルーちゃんはマシロちゃんを召喚すると、マシロちゃんが風の刃を打ち込んでいく。
「ぐおおおお」
カンエイは必死になって避けようとするが、私はそれを許さない。
「はい、防壁」
カンエイの動く先にその足運びを邪魔するように防壁を立ててあげる。すると防壁にぶつかったカンエイはバランスを崩し、そこにマシロちゃんの風の刃が襲い掛かる。
「ぐあっ!」
マシロちゃんの風の刃がカンエイの左足に命中し、ふくらはぎがばっくりと開き鮮血が飛び散る。
「ソウジさん!」
「は、はい。任せるでござるっ!」
ソウジさんがカンエイにトドメを刺すべく駆け出す。
「ルーちゃん、援護!」
「はいっ!」
ルーちゃんが矢で援護射撃をする。もちろん、誤射対策に結界を張るのは忘れない。
ちなみにテッサイさんの紹介でルーちゃんは近所の弓術道場に通っていたのだが、このルーちゃんの誤射癖はついぞ改善されなかったと聞いている。なので、私だけでなくソウジさんの安全のためにもこの結界は必要不可欠なのだ。
幸いなことに今回はルーちゃんの誤射は発動せず、狙いすまされた矢がカンエイの眉間に、左胸にと打ち込まれていく。左足に傷を負ったカンエイがその矢を弾いた隙にソウジさんが距離を詰め、そしてがら空きの胴にソウジさんが一撃を入れる。
「が、はっ……」
ソウジさんの胴斬りをまともに受けたカンエイは血を吹き出して倒れこむ。
「お、親父ぃぃぃぃぃぃっ!」
その様子を視界の端で見ていたのか、クリスさんと鍔迫り合いをしていたヨシテルが悲痛な叫び声を上げた。
その隙を見逃さなかったクリスさんはヨシテルの刀をかち上げ、そして冷静に胴へと一撃を入れたのだった。
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一応、カンエイさんは弱いわけではありません。いくらブランクがあるとはいえ、相当な強者の部類に入る人です。ただ、三対一なうえに防壁と結界による守りがカンエイさんには相性が悪すぎました。フィーネちゃんも司令塔として確実に成長していっていますね。
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