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巫女の治める国
第四章第38話 解放、そして……
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キリナギの放った眩い光が収まると、顔を抑えているシズクさんの姿がそこにはあった。
あ、あのどす黒いオーラが消えている!
それを見たクリスさんがふらつきながらも何とか起き上がり、シズクさんのところへと駆けだした。
そして手に持っている折れた刀を手刀で叩き落とすと、そのままシズクさんに完璧なボディーブローを叩き込んだ。
「がっ、はっ」
シズクさんが苦しそうなうめき声をあげる。
そしてクリスさんはそのまま背後に回り、シズクさんの後頭部に手刀で一撃を入れてシズクさんの意識を刈り取った。
「はぁ、はぁ、はぁ、フィーネ様、お見事な判断です」
あれだけボロボロの状態でも機を見てしっかりと仕事を果たしてくれるなんて!
クリスさんはやっぱり頼りになる。
「クリスさんこそ」
私はクリスさんを労いながらクリスさんに治癒魔法をかける。
「ほほほ。見事じゃのう。よもやあの忌々しい刀を持ってきておったとはな。どうやらそなたは本物の聖女のようじゃのう」
スイキョウはそれでも余裕綽々な様子だ。
「じゃが、そなたは助けようとしたその娘によって生贄にされる未来は変わらぬのじゃよ」
「何を言っているんですか? シズクさんはもう気絶しています。後はあなたが倒されて終わりです」
「ほほほ、本当にそうかのう?」
人を小馬鹿にしたような、そして本当に底意地の悪い笑顔でスイキョウは言った。
「シズク、命令じゃ。目を覚ましてこやつらを取り押さえろ」
次の瞬間、シズクさんがぱちりと目を開いて飛び起きた。だがそれに反応したクリスさんがシズクさんを取り押さえた。
シズクさんの目に光は無く、表情もない。いや、クリスさんに抑え込まれて少し苦しそうにしているくらいか。
「ほほほ、良い反応じゃの。じゃがな。シズク、命令じゃ。その女の抑え込みを跳ね除けよ」
次の瞬間、クリスさんの体が数メートル上に弾き飛ばされ地面に転がる。
「「え?」」
そしてシズクさんは、立ち上がることができないでいる。よく見ると腕が曲がってはいけない場所から曲がっている。そして、背中も……
「まさか……」
「ほほほ、壊れてしまったようじゃのう」
そうか。こいつの無理やりに命令を実行させられて、それで体の限界を越えてしまったんだ。
「なんて……ことを……」
私はスイキョウを睨み付けるが相も変わらずスイキョウは笑っている。まるで私たちが苦しむ様子を見るのが嬉しいかのようだ。
「ま、所詮生贄じゃからの。腕が折れておろうが背骨が折れておろうが変わらぬ。もっと言うなら別に死んでいても良いのじゃよ。ほほほほ」
私はスイキョウの耳障りな笑い声を聞きながらも怒りをじっとこらえ、事態を打開する方法を考える。
「ほほほ、そうじゃ、この状態で命令したらどうなるかのう? 今度はどこが折れるかのう? もしかすると歩きながらくたばるかもしれんのう? ほほほほほほ」
命令?
そうだ。スイキョウはずっと、シズクさんに何かをやらせるときに『命令じゃ』と言っていた。
命令? たしか、どこかで……
ふと目の端にルーちゃんの姿が写る。
『命令だ。黙って俺についてこい』
『……はい、ご主人様』
イルミシティのあの暗い地下室での記憶が甦る。
「ルーちゃん、シズクさんの服を脱がせてお腹を出してください!」
「え? あっ、はいっ!」
ルーちゃんが急いでシズクさんの服の前をはだけさせると、そこにはあの忌まわしい呪印が刻まれていた。
急いで駆け寄ると呪印に手を添え私は叫んだ。
「解呪!」
淡い光がシズクさんの体を包み込む。
「あ……あ……」
シズクさんが少し苦しそうな表情を浮かべ、そして徐々に穏やかな表情へと変わっていく。そしてシズクさんを縛っていた隷属の呪印がきれいに消滅した。
そして続いて治癒魔法をかけて折れた背骨と腕、断裂したと思われる筋肉、そして体中の傷を治療していく。
怪我は治ったが耳と尻尾は無くならなかった。
「姉さまっ!」
ルーちゃんが私に抱きついてくる。
「フィーネ様、さすがです」
クリスさんが私をスイキョウから隠すような位置を取りながら私に労いの言葉をかけてくれる。
「ば、馬鹿な!? 隷属の呪印を解呪した、じゃと? もしやキサマ、あの忌まわしい大聖女と同じレベルの力を!? キサマ、もしやあの女の生まれ変わりかっ!?」
スイキョウの表情から余裕が消え、動揺したのか口調まで変わっている。
「私は大聖女様ではありませんよ。完全な別人です。ああ、それと聖女なんてのも行きがかり上でやっているだけのなんちゃって聖女ですから」
「な? この小娘がぁ!」
「あれ? 口調を取り繕う余裕も無くなったんですね? そんなに私が怖いんですか?」
先ほどのまでの仕返しとばかりに私はスイキョウを煽ってやる。するとスイキョウは私をものすごい目で睨み付け、そしてすっと表情を無くす。
「ほほ、いいじゃろう。人形を止めたところで妾に勝てるなどと思ったら大間違いじゃ」
そう言ったスイキョウはその身に黒いオーラを纏う。そしてスイキョウの姿は徐々にその姿を変化していく。
背丈は徐々に大きくなり、体中が青い鱗で覆われていく。そしてお尻からは鱗に覆われた尻尾が生え、顔は蛇、いやドラゴンのような形となる。瞳も縦長の瞳へと変化し、耳はひれのような形となり、頭部には一対の角が生えてきた。
そう、スイキョウは竜人へと変化したのだ。
「さあ、聖女フィーネ・アルジェンタータよ。妾を馬鹿にしたことを後悔させてやろうぞ」
スイキョウは私を睨み付けると、そう宣言したのだった。
あ、あのどす黒いオーラが消えている!
それを見たクリスさんがふらつきながらも何とか起き上がり、シズクさんのところへと駆けだした。
そして手に持っている折れた刀を手刀で叩き落とすと、そのままシズクさんに完璧なボディーブローを叩き込んだ。
「がっ、はっ」
シズクさんが苦しそうなうめき声をあげる。
そしてクリスさんはそのまま背後に回り、シズクさんの後頭部に手刀で一撃を入れてシズクさんの意識を刈り取った。
「はぁ、はぁ、はぁ、フィーネ様、お見事な判断です」
あれだけボロボロの状態でも機を見てしっかりと仕事を果たしてくれるなんて!
クリスさんはやっぱり頼りになる。
「クリスさんこそ」
私はクリスさんを労いながらクリスさんに治癒魔法をかける。
「ほほほ。見事じゃのう。よもやあの忌々しい刀を持ってきておったとはな。どうやらそなたは本物の聖女のようじゃのう」
スイキョウはそれでも余裕綽々な様子だ。
「じゃが、そなたは助けようとしたその娘によって生贄にされる未来は変わらぬのじゃよ」
「何を言っているんですか? シズクさんはもう気絶しています。後はあなたが倒されて終わりです」
「ほほほ、本当にそうかのう?」
人を小馬鹿にしたような、そして本当に底意地の悪い笑顔でスイキョウは言った。
「シズク、命令じゃ。目を覚ましてこやつらを取り押さえろ」
次の瞬間、シズクさんがぱちりと目を開いて飛び起きた。だがそれに反応したクリスさんがシズクさんを取り押さえた。
シズクさんの目に光は無く、表情もない。いや、クリスさんに抑え込まれて少し苦しそうにしているくらいか。
「ほほほ、良い反応じゃの。じゃがな。シズク、命令じゃ。その女の抑え込みを跳ね除けよ」
次の瞬間、クリスさんの体が数メートル上に弾き飛ばされ地面に転がる。
「「え?」」
そしてシズクさんは、立ち上がることができないでいる。よく見ると腕が曲がってはいけない場所から曲がっている。そして、背中も……
「まさか……」
「ほほほ、壊れてしまったようじゃのう」
そうか。こいつの無理やりに命令を実行させられて、それで体の限界を越えてしまったんだ。
「なんて……ことを……」
私はスイキョウを睨み付けるが相も変わらずスイキョウは笑っている。まるで私たちが苦しむ様子を見るのが嬉しいかのようだ。
「ま、所詮生贄じゃからの。腕が折れておろうが背骨が折れておろうが変わらぬ。もっと言うなら別に死んでいても良いのじゃよ。ほほほほ」
私はスイキョウの耳障りな笑い声を聞きながらも怒りをじっとこらえ、事態を打開する方法を考える。
「ほほほ、そうじゃ、この状態で命令したらどうなるかのう? 今度はどこが折れるかのう? もしかすると歩きながらくたばるかもしれんのう? ほほほほほほ」
命令?
そうだ。スイキョウはずっと、シズクさんに何かをやらせるときに『命令じゃ』と言っていた。
命令? たしか、どこかで……
ふと目の端にルーちゃんの姿が写る。
『命令だ。黙って俺についてこい』
『……はい、ご主人様』
イルミシティのあの暗い地下室での記憶が甦る。
「ルーちゃん、シズクさんの服を脱がせてお腹を出してください!」
「え? あっ、はいっ!」
ルーちゃんが急いでシズクさんの服の前をはだけさせると、そこにはあの忌まわしい呪印が刻まれていた。
急いで駆け寄ると呪印に手を添え私は叫んだ。
「解呪!」
淡い光がシズクさんの体を包み込む。
「あ……あ……」
シズクさんが少し苦しそうな表情を浮かべ、そして徐々に穏やかな表情へと変わっていく。そしてシズクさんを縛っていた隷属の呪印がきれいに消滅した。
そして続いて治癒魔法をかけて折れた背骨と腕、断裂したと思われる筋肉、そして体中の傷を治療していく。
怪我は治ったが耳と尻尾は無くならなかった。
「姉さまっ!」
ルーちゃんが私に抱きついてくる。
「フィーネ様、さすがです」
クリスさんが私をスイキョウから隠すような位置を取りながら私に労いの言葉をかけてくれる。
「ば、馬鹿な!? 隷属の呪印を解呪した、じゃと? もしやキサマ、あの忌まわしい大聖女と同じレベルの力を!? キサマ、もしやあの女の生まれ変わりかっ!?」
スイキョウの表情から余裕が消え、動揺したのか口調まで変わっている。
「私は大聖女様ではありませんよ。完全な別人です。ああ、それと聖女なんてのも行きがかり上でやっているだけのなんちゃって聖女ですから」
「な? この小娘がぁ!」
「あれ? 口調を取り繕う余裕も無くなったんですね? そんなに私が怖いんですか?」
先ほどのまでの仕返しとばかりに私はスイキョウを煽ってやる。するとスイキョウは私をものすごい目で睨み付け、そしてすっと表情を無くす。
「ほほ、いいじゃろう。人形を止めたところで妾に勝てるなどと思ったら大間違いじゃ」
そう言ったスイキョウはその身に黒いオーラを纏う。そしてスイキョウの姿は徐々にその姿を変化していく。
背丈は徐々に大きくなり、体中が青い鱗で覆われていく。そしてお尻からは鱗に覆われた尻尾が生え、顔は蛇、いやドラゴンのような形となる。瞳も縦長の瞳へと変化し、耳はひれのような形となり、頭部には一対の角が生えてきた。
そう、スイキョウは竜人へと変化したのだ。
「さあ、聖女フィーネ・アルジェンタータよ。妾を馬鹿にしたことを後悔させてやろうぞ」
スイキョウは私を睨み付けると、そう宣言したのだった。
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