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巫女の治める国
第四章第37話 キリナギ
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「シズクさん!」「シズクさんっ!」「シズク殿っ!」
私たち三人の声が重なる。しかし私たちのその声にシズクさんは眉一つ動かさない。
「スイキョウ! シズクさんに何をしたんですか!」
「ほほほ。あの娘に妾の力を与えて在り様を変えてやっただけよ」
「在り様?」
「やはり頭が悪いのう。もはや人間ではなくなった、ただそれだけの事よ」
「なっ!」
こいつ、何という事を!
「さあ、シズクよ。命令じゃ。そこの聖女以外は殺してもよい。こ奴らを倒すのじゃ」
その命令を聞くや否や、シズクさんの体からどす黒いオーラのようなものが立ちのぼる。そしてシズクさんの周りに無数の青白い炎が現れた。
そしてそれらをまるで雨を降らせるかのようにクリスさんへと打ち込んでいく。クリスさんはひらりひらりと躱しているが全てを避けきることはできない。
「防壁」
私はシズクさんとクリスさんの間に防壁を作り狐火を受け止める。
「フィーネ様、助かりました」
しかしシズクさんは攻撃の手を緩めない。防壁を迂回するように左右と上から鬼火の雨を降らせてくる。
「あっ」
クリスさんは避けきれずに一発をまともに被弾してしまった。
「ええい、結界!」
私は自分の周りの結界を解いてクリスさんを守るために結界を作り出す。その結界に無数の狐火が殺到する。辺りは青白い炎に包まれ洞窟の壁が、水面が、祭壇が青白く照らし出される。私のところにもその熱風が伝わり、頬がちりちりと焼けるような感覚を覚える。
どす黒いオーラに包まれたシズクさんが無表情にクリスさんのいた場所を見つめている。
狐火が消えた瞬間、クリスさんは結界から飛び出すと剣を構えてシズクさんに突撃する。一撃を受けているせいかやや動きが鈍いが、それでも十分に早い。クリスさんが渾身の突きをシズクさんに繰り出す。
シズクさんはクリスさんの動きを目で追っているようには見える。だが、微動だにしない。シズクさんに迎撃する術はないはずだ。どうして?
私は息を呑む。そしてクリスさんの突きはシズクさんの脇腹をとらえ、そして貫いた。
・
・
・
いや、貫いていない。
よく見るとシズクさんから立ち昇るどす黒いオーラがそれを受け止めている。
そうか、今のシズクさんにとってクリスさんの剣は躱す必要が無いのだ。マシロちゃんの風の刃をスイキョウが躱す必要がなかったように。
「なっ……」
渾身の一撃が全く通用しなかったショックでクリスさんが動揺しているようだ。そのクリスさんにシズクさんが無数の狐火を至近距離から打ち込んだ。
「がっ、はっ」
クリスさんは吹き飛ばされ、そのまま倒れ込む。剣は手放していないが、動くこともできない様子だ。
「「クリスさんっ!」」
私たちは急いでクリスさんに駆け寄る。
「ひ、ひどい……」
クリスさんは全身に火傷を負っており、一目見ても危険な状態だと分かる。
「く、治癒魔法を」
私が治癒魔法を掛けようとするが、シズクさんが狐火を打ち込んでくる。私はそれを結界を張って受け止める。
「今のうちに」
私は結界を維持しながら治癒魔法をかける。
その間にもシズクさんは結界に向かって狐火を打ち込み続けているが、私の結界はこの程度の攻撃ではびくともしない。
そして狐火では私の結界を破れないと理解したのか、シズクさんは結界まで歩いて近づいてきた。そして無造作に折れた刀を拾い上げるとそこに先ほどの黒いオーラを纏わせる。そしてその刀で力まかせに結界を切り付けてきた。
ガシィィン
私の結界はそれも受け止めたが、そのあまりの威力に私の結界が歪んだのを感じる。シズクさんは無表情のまま結界を折れた刀で何度も何度も切り付ける。
ガシィィン
ガシィィン
ガシィィン
ガシィィン
徐々に私の結界の歪みが大きくなっていく。
「くっ、このままでは」
私は治癒魔法を止めて結界の維持に魔力を注ぎ込む。
「シズクさんっ! あたし達が分からないんですかっ!」
ルーちゃんの必死の呼びかけにもシズクさんは表情を変えない。
「ほほほほほ。無駄よ。その娘の意思は既にない。その娘はもはや妾の命令のみを聞くただの人形よ」
「くっ」
もはやこれまで、そう思った時、どこかからともなく男性の声が聞こえてきた。
『……聖女よ……』
「え?」
『……我を主の元へ……』
「誰?」
私は周囲を見回すが目に入るのは無表情で結界を斬りつけ続けるシズクさん、涙目でシズクさんに訴えているルーちゃん、苦しそうに横たわるクリスさん、そしてニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべるスイキョウだけだ。男の人なんてどこにもいない。
『……聖女よ……』
私は自分の腰に暖かい存在を感じた。心地よい聖なる力が流れ込んでくるのを感じる。
あ……! これは、キリナギだ。
イッテン流道場で奪い返したシズクさんのキリナギは、何故か私の収納に入れることが出来なかった。そしてクリスさんもソウジさんも持つことが出来なかったため、私が腰にぶら下げてここまで運んできたのだ。
「キリナギ?」
私はキリナギを手で触れながら聞き返す。
『頼む!……我が……主を!』
その必死な声を聞いた私はキリナギを鞘から抜き、そのままシズクさんへと放り投げた。
キリナギは空中で錐揉みしながら緩やかな放物線を描き、私たちからちょうど一メートルちょっとくらいのところで結界を斬りつけているシズクさんへと向かっていく。
そしてシズクさんのすぐそばに到達すると、目も眩むような激しい光を放った!
私たち三人の声が重なる。しかし私たちのその声にシズクさんは眉一つ動かさない。
「スイキョウ! シズクさんに何をしたんですか!」
「ほほほ。あの娘に妾の力を与えて在り様を変えてやっただけよ」
「在り様?」
「やはり頭が悪いのう。もはや人間ではなくなった、ただそれだけの事よ」
「なっ!」
こいつ、何という事を!
「さあ、シズクよ。命令じゃ。そこの聖女以外は殺してもよい。こ奴らを倒すのじゃ」
その命令を聞くや否や、シズクさんの体からどす黒いオーラのようなものが立ちのぼる。そしてシズクさんの周りに無数の青白い炎が現れた。
そしてそれらをまるで雨を降らせるかのようにクリスさんへと打ち込んでいく。クリスさんはひらりひらりと躱しているが全てを避けきることはできない。
「防壁」
私はシズクさんとクリスさんの間に防壁を作り狐火を受け止める。
「フィーネ様、助かりました」
しかしシズクさんは攻撃の手を緩めない。防壁を迂回するように左右と上から鬼火の雨を降らせてくる。
「あっ」
クリスさんは避けきれずに一発をまともに被弾してしまった。
「ええい、結界!」
私は自分の周りの結界を解いてクリスさんを守るために結界を作り出す。その結界に無数の狐火が殺到する。辺りは青白い炎に包まれ洞窟の壁が、水面が、祭壇が青白く照らし出される。私のところにもその熱風が伝わり、頬がちりちりと焼けるような感覚を覚える。
どす黒いオーラに包まれたシズクさんが無表情にクリスさんのいた場所を見つめている。
狐火が消えた瞬間、クリスさんは結界から飛び出すと剣を構えてシズクさんに突撃する。一撃を受けているせいかやや動きが鈍いが、それでも十分に早い。クリスさんが渾身の突きをシズクさんに繰り出す。
シズクさんはクリスさんの動きを目で追っているようには見える。だが、微動だにしない。シズクさんに迎撃する術はないはずだ。どうして?
私は息を呑む。そしてクリスさんの突きはシズクさんの脇腹をとらえ、そして貫いた。
・
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いや、貫いていない。
よく見るとシズクさんから立ち昇るどす黒いオーラがそれを受け止めている。
そうか、今のシズクさんにとってクリスさんの剣は躱す必要が無いのだ。マシロちゃんの風の刃をスイキョウが躱す必要がなかったように。
「なっ……」
渾身の一撃が全く通用しなかったショックでクリスさんが動揺しているようだ。そのクリスさんにシズクさんが無数の狐火を至近距離から打ち込んだ。
「がっ、はっ」
クリスさんは吹き飛ばされ、そのまま倒れ込む。剣は手放していないが、動くこともできない様子だ。
「「クリスさんっ!」」
私たちは急いでクリスさんに駆け寄る。
「ひ、ひどい……」
クリスさんは全身に火傷を負っており、一目見ても危険な状態だと分かる。
「く、治癒魔法を」
私が治癒魔法を掛けようとするが、シズクさんが狐火を打ち込んでくる。私はそれを結界を張って受け止める。
「今のうちに」
私は結界を維持しながら治癒魔法をかける。
その間にもシズクさんは結界に向かって狐火を打ち込み続けているが、私の結界はこの程度の攻撃ではびくともしない。
そして狐火では私の結界を破れないと理解したのか、シズクさんは結界まで歩いて近づいてきた。そして無造作に折れた刀を拾い上げるとそこに先ほどの黒いオーラを纏わせる。そしてその刀で力まかせに結界を切り付けてきた。
ガシィィン
私の結界はそれも受け止めたが、そのあまりの威力に私の結界が歪んだのを感じる。シズクさんは無表情のまま結界を折れた刀で何度も何度も切り付ける。
ガシィィン
ガシィィン
ガシィィン
ガシィィン
徐々に私の結界の歪みが大きくなっていく。
「くっ、このままでは」
私は治癒魔法を止めて結界の維持に魔力を注ぎ込む。
「シズクさんっ! あたし達が分からないんですかっ!」
ルーちゃんの必死の呼びかけにもシズクさんは表情を変えない。
「ほほほほほ。無駄よ。その娘の意思は既にない。その娘はもはや妾の命令のみを聞くただの人形よ」
「くっ」
もはやこれまで、そう思った時、どこかからともなく男性の声が聞こえてきた。
『……聖女よ……』
「え?」
『……我を主の元へ……』
「誰?」
私は周囲を見回すが目に入るのは無表情で結界を斬りつけ続けるシズクさん、涙目でシズクさんに訴えているルーちゃん、苦しそうに横たわるクリスさん、そしてニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべるスイキョウだけだ。男の人なんてどこにもいない。
『……聖女よ……』
私は自分の腰に暖かい存在を感じた。心地よい聖なる力が流れ込んでくるのを感じる。
あ……! これは、キリナギだ。
イッテン流道場で奪い返したシズクさんのキリナギは、何故か私の収納に入れることが出来なかった。そしてクリスさんもソウジさんも持つことが出来なかったため、私が腰にぶら下げてここまで運んできたのだ。
「キリナギ?」
私はキリナギを手で触れながら聞き返す。
『頼む!……我が……主を!』
その必死な声を聞いた私はキリナギを鞘から抜き、そのままシズクさんへと放り投げた。
キリナギは空中で錐揉みしながら緩やかな放物線を描き、私たちからちょうど一メートルちょっとくらいのところで結界を斬りつけているシズクさんへと向かっていく。
そしてシズクさんのすぐそばに到達すると、目も眩むような激しい光を放った!
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