174 / 625
巫女の治める国
第四章第41話 真相
しおりを挟む
2020/09/11 誤字を修正しました
================
「ふふ、フィーネは本当に可愛いわね。慌てて魔法を使い過ぎてひっくり返るなんて」
私は床に横たえられ、アーデに膝枕をしてもらっている。彼女な巨大な双丘が邪魔をしてその表情は窺えないが、その声から想像するにずいぶんとご満悦な様子だ。
一応断っておくが、別に羨ましいとか、そういったことは決してない。ないったらないので安心してほしい。
「……アーデ?」
「何かしら?」
「あの、竜人になったり、シズクさんにケモミミと尻尾が生えたり、鬼になったりしたのは一体何なんですか?」
「鬼とやらはわたしは見てないから分からないけれど、スイキョウとあっちの黒狐憑きちゃんは別よ」
「そうなんですか……」
「あっちの黒狐憑きちゃんはね、妖、まあ精霊とか幽霊とか存在を全部ひっくるめてこの国ではそう呼ぶそうなのだけれど、それを憑依させているの。それが、あの子の家系であるミエシロ家の女が引き継ぐとされる【降霊術】よ。ただ、使ってみるまで何が憑くかは分からないと聞いているわ。だから、最悪の場合は悪霊やら破壊衝動を持った妖やらに憑りつかれてそのまま狂って戻れなくなるということもあるそうよ」
「……じゃあシズクさんは?」
「今、憑りついた黒狐とあの子、どちらが強い意志を持っているかじゃないかしら? でも、わたしもみるのは初めてだからよく分からないわ」
「あ、シズクさん!」
私はシズクさんの元へと行こうとするがアーデに止められて膝枕のポジションに引き戻される。
「ダメよ、まだ動いちゃ。あなただって少しは体を休めなくちゃ」
本当だろうか。このまま膝枕していたいだけなのでは?
「もう、疑ってるわね? まったく」
そう言うとアーデは私をお姫様抱っこするとシズクさんのそばへと連れていってくれた。床に横たえられるが膝枕は継続された。
「はい、これでいいかしら?」
「……う、ありがとうございます」
「ふふ、よろしい。そんなに感謝しているのかしら?」
「はい。でも結婚はしませんよ?」
「ぶー」
アーデはわざとらしくむくれたような声を上げるが、その声はとても上機嫌に弾んでいる。
「ふふ、それでね。そのミエシロ家の【降霊術】に目をつけたのがずっと昔のこの国の王様ってわけ」
アーデは話を再開した。
「スイキョウだけではなく、そんなに昔から生贄の儀式をしていたんですか?」
「最初は、生贄でなくて神の声を聞くとか言って適当に【降霊術】を使って占いのような事をしていたそうよ。それにね、ミエシロっていう家名はね、この国の古代文字だと、高貴なる神を宿すための器という意味で『御依代』と書くそうよ」
「それで……御依代……」
「そう。そこに目をつけたのがここに封印されている八頭龍神様、またの名を水龍王ヴァルオルティナとも言うわね」
「え? 水龍王って、あの大魔王に敗れて魔物になったという伝説の?」
「伝説でもおとぎ話でもなくて実在する魔物よ」
「なんでそんな魔物なんかに生贄を捧げているんですか?」
私は思った疑問を素直に口にする。それだけ有名な魔物が封印されているならきちんと伝承が伝わっていても良いだろうに。
「それが水龍王の狡猾だったところね。封印のほんの僅かなほころびから外界に干渉したみたいよ。そして最初は小さな動物の霊あたりを操る。そして長い時間をかけてこのミエシロ家を使う【降霊術】に干渉し続け、神の声を聞くという占いの儀式の形を少しずつ変貌させていったの。八頭龍神というのは元々各地で洪水や山崩れなんかを恐れた人間たちが各地で祀っていた想像上の神様だったそうよ。それに上手く乗っかって、その八頭龍神に成り代わる形でね、この国に生贄の儀式をするという文化を根付かせていったわ。生贄に捧げられた者の魂を、そしてその力を喰らうことで封印を破る力を取り戻すためにね」
「な、なんていう事を……」
「そうして徐々に力を取り戻していった水龍王は、妖を憑依させた状態で生贄を取り込むということを始めたわ。一度により多くの力を取り込むためにね」
アーデはそこで一旦言葉を斬って一呼吸置いた。そして再び口を開く。
「そしてそれが思わぬ形で実を結んだのが丁度 50 年前ね。生贄として捧げられたミエシロの女が蛟という水に棲む竜のような存在を降ろしたの。で、水龍王はそのミエシロの女を殺してその力を啜るのではなく封印の内側へと取り込んだらしいわ。そしてその十何年か後、封印の向こう側からスイキョウが現れて女王となったそうよ」
「それってつまり……」
「真相は分からないわ。これは私の推測だけれど、十何年という期間を考えると無理やり子を産ませたんじゃないかしら? 蛟を降ろして竜の眷属に近い体になったのだから可能かもしれないでしょう? そして、その子供を自らの傀儡として好き放題に国を動かした。スイキョウが国を安定させたのは封印を破って出てくるまでこのやり方を維持するためでしょうね」
どうやら私たちはとんでもない大事に首を突っ込んでいたようだ。
「多分だけどね。今回で封印を破る目途が立っていたんじゃないかしら?」
「え?」
「だって、これで断絶だもの。ミエシロ家」
「ええと?」
「だって、あなた達はミエシロの親戚全員を倒してきたんでしょ?」
「あ、はい。多分そうですね」
「だったらあそこの黒狐憑きちゃんがミエシロ家最後の生き残りよ? それを生贄に捧げちゃったらもう次がないじゃない。これほど手の込んだ事をする奴がそうしたってことは、きっともうチェックメイトだったんじゃないかしら?」
「ああ、なるほど。確かにそうですね」
何というか、うん。よくもまあ、何とかなったものだ。
「ま、このミエシロ家の歴史の話はあそこの階段で伸びてるお爺さんに聞いたことだから、全部本当かどうかは知らないわよ。人間の伝承なんて歪むものだしね」
「え?」
「ふふ。あなたの先回りをしてびっくりさせようと思ってね? それであの黒狐憑きちゃんを追いかけていたの。そうしたら何だか面白いことになっているなって思って、それで調べてみたのよ。あのお爺さん、私が目と目を合わせて真摯にお願いしたら全部教えてくれたわ。なんでも、若い時に生贄に捧げられたミエシロ家の女が忘れられないそうよ。ええと、たしかキキョウって名前だったかしら。ホント、一途な恋って素敵よねぇ。ね、フィーネ。あなたもそう思わない?」
そう言ってアーデは楽しそうに笑ったのだった。
==================
ところで、ミエシロの漢字が御依代だとお気付きだった方ってどのくらいいらっしゃるんでしょう? お気付きだった方は、やはり最初からお気づきだったんでしょうか? それともどこかのタイミングでお気づきになられたのでしょうか?
よろしければ感想などで教えて頂けると嬉しいです。もし簡単に気付かれていたとなると次からはもう少し凝ったものを考えなければ(汗
================
「ふふ、フィーネは本当に可愛いわね。慌てて魔法を使い過ぎてひっくり返るなんて」
私は床に横たえられ、アーデに膝枕をしてもらっている。彼女な巨大な双丘が邪魔をしてその表情は窺えないが、その声から想像するにずいぶんとご満悦な様子だ。
一応断っておくが、別に羨ましいとか、そういったことは決してない。ないったらないので安心してほしい。
「……アーデ?」
「何かしら?」
「あの、竜人になったり、シズクさんにケモミミと尻尾が生えたり、鬼になったりしたのは一体何なんですか?」
「鬼とやらはわたしは見てないから分からないけれど、スイキョウとあっちの黒狐憑きちゃんは別よ」
「そうなんですか……」
「あっちの黒狐憑きちゃんはね、妖、まあ精霊とか幽霊とか存在を全部ひっくるめてこの国ではそう呼ぶそうなのだけれど、それを憑依させているの。それが、あの子の家系であるミエシロ家の女が引き継ぐとされる【降霊術】よ。ただ、使ってみるまで何が憑くかは分からないと聞いているわ。だから、最悪の場合は悪霊やら破壊衝動を持った妖やらに憑りつかれてそのまま狂って戻れなくなるということもあるそうよ」
「……じゃあシズクさんは?」
「今、憑りついた黒狐とあの子、どちらが強い意志を持っているかじゃないかしら? でも、わたしもみるのは初めてだからよく分からないわ」
「あ、シズクさん!」
私はシズクさんの元へと行こうとするがアーデに止められて膝枕のポジションに引き戻される。
「ダメよ、まだ動いちゃ。あなただって少しは体を休めなくちゃ」
本当だろうか。このまま膝枕していたいだけなのでは?
「もう、疑ってるわね? まったく」
そう言うとアーデは私をお姫様抱っこするとシズクさんのそばへと連れていってくれた。床に横たえられるが膝枕は継続された。
「はい、これでいいかしら?」
「……う、ありがとうございます」
「ふふ、よろしい。そんなに感謝しているのかしら?」
「はい。でも結婚はしませんよ?」
「ぶー」
アーデはわざとらしくむくれたような声を上げるが、その声はとても上機嫌に弾んでいる。
「ふふ、それでね。そのミエシロ家の【降霊術】に目をつけたのがずっと昔のこの国の王様ってわけ」
アーデは話を再開した。
「スイキョウだけではなく、そんなに昔から生贄の儀式をしていたんですか?」
「最初は、生贄でなくて神の声を聞くとか言って適当に【降霊術】を使って占いのような事をしていたそうよ。それにね、ミエシロっていう家名はね、この国の古代文字だと、高貴なる神を宿すための器という意味で『御依代』と書くそうよ」
「それで……御依代……」
「そう。そこに目をつけたのがここに封印されている八頭龍神様、またの名を水龍王ヴァルオルティナとも言うわね」
「え? 水龍王って、あの大魔王に敗れて魔物になったという伝説の?」
「伝説でもおとぎ話でもなくて実在する魔物よ」
「なんでそんな魔物なんかに生贄を捧げているんですか?」
私は思った疑問を素直に口にする。それだけ有名な魔物が封印されているならきちんと伝承が伝わっていても良いだろうに。
「それが水龍王の狡猾だったところね。封印のほんの僅かなほころびから外界に干渉したみたいよ。そして最初は小さな動物の霊あたりを操る。そして長い時間をかけてこのミエシロ家を使う【降霊術】に干渉し続け、神の声を聞くという占いの儀式の形を少しずつ変貌させていったの。八頭龍神というのは元々各地で洪水や山崩れなんかを恐れた人間たちが各地で祀っていた想像上の神様だったそうよ。それに上手く乗っかって、その八頭龍神に成り代わる形でね、この国に生贄の儀式をするという文化を根付かせていったわ。生贄に捧げられた者の魂を、そしてその力を喰らうことで封印を破る力を取り戻すためにね」
「な、なんていう事を……」
「そうして徐々に力を取り戻していった水龍王は、妖を憑依させた状態で生贄を取り込むということを始めたわ。一度により多くの力を取り込むためにね」
アーデはそこで一旦言葉を斬って一呼吸置いた。そして再び口を開く。
「そしてそれが思わぬ形で実を結んだのが丁度 50 年前ね。生贄として捧げられたミエシロの女が蛟という水に棲む竜のような存在を降ろしたの。で、水龍王はそのミエシロの女を殺してその力を啜るのではなく封印の内側へと取り込んだらしいわ。そしてその十何年か後、封印の向こう側からスイキョウが現れて女王となったそうよ」
「それってつまり……」
「真相は分からないわ。これは私の推測だけれど、十何年という期間を考えると無理やり子を産ませたんじゃないかしら? 蛟を降ろして竜の眷属に近い体になったのだから可能かもしれないでしょう? そして、その子供を自らの傀儡として好き放題に国を動かした。スイキョウが国を安定させたのは封印を破って出てくるまでこのやり方を維持するためでしょうね」
どうやら私たちはとんでもない大事に首を突っ込んでいたようだ。
「多分だけどね。今回で封印を破る目途が立っていたんじゃないかしら?」
「え?」
「だって、これで断絶だもの。ミエシロ家」
「ええと?」
「だって、あなた達はミエシロの親戚全員を倒してきたんでしょ?」
「あ、はい。多分そうですね」
「だったらあそこの黒狐憑きちゃんがミエシロ家最後の生き残りよ? それを生贄に捧げちゃったらもう次がないじゃない。これほど手の込んだ事をする奴がそうしたってことは、きっともうチェックメイトだったんじゃないかしら?」
「ああ、なるほど。確かにそうですね」
何というか、うん。よくもまあ、何とかなったものだ。
「ま、このミエシロ家の歴史の話はあそこの階段で伸びてるお爺さんに聞いたことだから、全部本当かどうかは知らないわよ。人間の伝承なんて歪むものだしね」
「え?」
「ふふ。あなたの先回りをしてびっくりさせようと思ってね? それであの黒狐憑きちゃんを追いかけていたの。そうしたら何だか面白いことになっているなって思って、それで調べてみたのよ。あのお爺さん、私が目と目を合わせて真摯にお願いしたら全部教えてくれたわ。なんでも、若い時に生贄に捧げられたミエシロ家の女が忘れられないそうよ。ええと、たしかキキョウって名前だったかしら。ホント、一途な恋って素敵よねぇ。ね、フィーネ。あなたもそう思わない?」
そう言ってアーデは楽しそうに笑ったのだった。
==================
ところで、ミエシロの漢字が御依代だとお気付きだった方ってどのくらいいらっしゃるんでしょう? お気付きだった方は、やはり最初からお気づきだったんでしょうか? それともどこかのタイミングでお気づきになられたのでしょうか?
よろしければ感想などで教えて頂けると嬉しいです。もし簡単に気付かれていたとなると次からはもう少し凝ったものを考えなければ(汗
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる