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武を求めし者
第五章第37話 チィーティエン防衛戦
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「それでは行って参ります。フィーネ様、戦果をご期待ください」
「姉さまっ、行ってきますっ!」
「はい。くれぐれも無茶はしないでくださいね。戦果よりも、必ず無事に戻ってきてください」
「必ずや」
「任せてくださいっ!」
私は夜明けと共にクリスさん、ルーちゃん、そして一般兵の皆さん 50 人を西門から見送った。
私は心配で心配で仕方がなかったので、昨日のうちに SP を 20 ポイント使って【付与】のスキルレベルを 3 に上げた。そのうえでクリスさんの鎧、そしてルーちゃんは付与できる防具を持っていなかったので下着の心臓の位置に銀糸を縫い込んで【聖属性魔法】の防壁を付与した。
弓矢を撃ってくるゴブリンもいるそうなので、万が一の時に致命的な一撃でも防いでくれればと思う。
もちろんクリスさんとルーちゃんと一緒に行動する一般兵の皆さんの鎧にも防壁を付与した。味方がやられなければそれだけ二人が生還する可能性も高くなるはずだ。
そうして私たちはクリスさんたちの姿が見えなくなったのを確認すると城壁へと登る。
戦いが始まる前から救護所に行ってもやることはないし、かと言って自室に籠っているのは性に合わない。というわけで、メインの戦場になると思われる町の南側を城壁の上から見学しているのだ。
チィーティエンは東西と北の三ヵ所に門がある城郭都市で、北は死なない獣にやられたフゥーイエ村やイァンシュイに、西はツィンシャに、東は帝都イェンアンへと続いている。南は果てしなく深い森と山々が広がっており、さらに進むと天空山脈という山脈で、その名の通り非常に高い山々がそびえている。
私たちは近くにあった高い物見櫓に登り周囲を見渡した。既に布陣は完了しているようで、しっかりと隊列を組んだ兵士たちがゴブリンたちの渡河を防ぐべく待ち構えている。
私は南の川の対岸に小さく動く影を見つけた。
「あ、ゴブリンが来ましたね。見るのは二度目ですが、やっぱりあの緑の気持ち悪い生き物は慣れませんね」
「フィーネ殿、あの距離でも見えるでござるか? ここからは相当な距離があるでござるよ?」
「ほら、私一応、そういう種族ですから」
見張りの兵士もいるので私が吸血鬼であるということはぼかして話している。
「ああ、そうでござったな。拙者も目が良くなったおかげで何か緑っぽいものがいる、くらいであれば分かるでござるが、さすがにフィーネ殿のように細かいところまでは分からないでござるよ」
「そうですか。あ、矢を射掛け始めましたね」
私は戦場の状況に目を向ける。川を渡ろうと無理やり侵入したゴブリンたちに向かって次々と矢が射掛けられ、そして次々と倒していく。
だが、やはり数の暴力というのは恐ろしいものだ。徐々に川はその死体で埋まり、水深が浅くなっていく。
しかも、なんとあいつらは仲間の死体を盾代わりに使い始めたのだ。そして矢の数が徐々に減ってきたころに仲間を盾に渡河に成功する個体が徐々に出始めてきた。
「ああ、川は突破されてしまいそうですね」
「……拙者にはそこまで詳しく見えないでござるよ」
「うーん、どうして結界や防壁を使わないんですかね?」
「……どういうことでござるか?」
「え? だって、壁を作って進む道を制限して一ヵ所に集めれば一網打尽にできるじゃないですか。そうすればあんなに矢を無駄にしないで済むのになって思いまして」
「……そんな広範囲に防壁を作れるでござるか?」
「やったことないですけど、百メートルや二百メートルくらいなら簡単にできる気がするんですよね。たぶん。MP も随分とアップしましたし」
「……そんなことを一人でできるのはフィーネ殿くらいなものでござるよ。だから将軍も考えもしなかったのでござろうな」
シズクさんがあきれ顔で私にそう言った。
うん、なるほど。どうやら私はやらかしていたらしい。
「……今から行ってももう遅いですかね?」
「……遅いでござろうな」
何とも微妙な空気が私たちを包む。その空気に耐えきれなくなった私は戦場へと視線を移す。
矢を射かけていた兵士たちは全員下がり槍と盾を持った兵士たちが川を渡ってきたゴブリンたちと戦っている。流石に訓練された兵士だけあってばっさばっさと倒している。
「この分なら大丈夫そうですかね。兵士の皆さんもゴブリンは楽勝で倒していますよ?」
「いや、まだまだこれからでござるよ。ロードがいる以上、最初に出てくるゴブリンたちはいくらでも代えの利く捨て駒でござる。ホブゴブリンやゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャーといった連中が出てきてからが勝負でござるよ」
そのシズクさんの言葉通り、川の向こうからひと際体格の大きなゴブリンが現れた。
「あ、大きいゴブリンが来ました。あれ、もしかしたらシズクさんよりも大きいかもしれないですね」
「ああ、それは恐らくホブゴブリンでござるな。力が強く、体格に優れた魔物でござるよ」
流石にここからでは声は聞こえないが、兵士たちが少し怯えているのは見て取れる。ホブゴブリンは大きく咆哮を上げたような仕草をすると、そのまま兵士たちのところへとゴブリンの死体を盾にしながら突っ込んで行く。
そしてそのままゴブリンの死体で思い切り兵士の一人を打ち付けた。成すすべなく吹っ飛んだ彼は、槍を手放して数メートル先に転がって動かなくなった。
「あ、まずい! 助けに行かなきゃ!」
「フィーネ殿、ダメでござるよ。将軍にも打って出るのは禁止されているでござる」
「でも! あの兵士の人が! 助けなきゃ!」
「フィーネ殿、運ばれてくるのを待つでござるよ。それがフィーネ殿の役目でござる」
「ううっ」
やっぱり助けられるのにすぐに助けに行ってはいけないとう状況がもどかしい。もどかしいけど……一体どうしたら……!
「フィーネ殿、救護所に戻るでござるよ。運び込まれている人がいるかもしれないでござる」
「……そうですね。はい。そうします」
私は今すぐ行けば彼を助けられるのではないかという未練を残しつつも、救護所へと向かうのだった。
「姉さまっ、行ってきますっ!」
「はい。くれぐれも無茶はしないでくださいね。戦果よりも、必ず無事に戻ってきてください」
「必ずや」
「任せてくださいっ!」
私は夜明けと共にクリスさん、ルーちゃん、そして一般兵の皆さん 50 人を西門から見送った。
私は心配で心配で仕方がなかったので、昨日のうちに SP を 20 ポイント使って【付与】のスキルレベルを 3 に上げた。そのうえでクリスさんの鎧、そしてルーちゃんは付与できる防具を持っていなかったので下着の心臓の位置に銀糸を縫い込んで【聖属性魔法】の防壁を付与した。
弓矢を撃ってくるゴブリンもいるそうなので、万が一の時に致命的な一撃でも防いでくれればと思う。
もちろんクリスさんとルーちゃんと一緒に行動する一般兵の皆さんの鎧にも防壁を付与した。味方がやられなければそれだけ二人が生還する可能性も高くなるはずだ。
そうして私たちはクリスさんたちの姿が見えなくなったのを確認すると城壁へと登る。
戦いが始まる前から救護所に行ってもやることはないし、かと言って自室に籠っているのは性に合わない。というわけで、メインの戦場になると思われる町の南側を城壁の上から見学しているのだ。
チィーティエンは東西と北の三ヵ所に門がある城郭都市で、北は死なない獣にやられたフゥーイエ村やイァンシュイに、西はツィンシャに、東は帝都イェンアンへと続いている。南は果てしなく深い森と山々が広がっており、さらに進むと天空山脈という山脈で、その名の通り非常に高い山々がそびえている。
私たちは近くにあった高い物見櫓に登り周囲を見渡した。既に布陣は完了しているようで、しっかりと隊列を組んだ兵士たちがゴブリンたちの渡河を防ぐべく待ち構えている。
私は南の川の対岸に小さく動く影を見つけた。
「あ、ゴブリンが来ましたね。見るのは二度目ですが、やっぱりあの緑の気持ち悪い生き物は慣れませんね」
「フィーネ殿、あの距離でも見えるでござるか? ここからは相当な距離があるでござるよ?」
「ほら、私一応、そういう種族ですから」
見張りの兵士もいるので私が吸血鬼であるということはぼかして話している。
「ああ、そうでござったな。拙者も目が良くなったおかげで何か緑っぽいものがいる、くらいであれば分かるでござるが、さすがにフィーネ殿のように細かいところまでは分からないでござるよ」
「そうですか。あ、矢を射掛け始めましたね」
私は戦場の状況に目を向ける。川を渡ろうと無理やり侵入したゴブリンたちに向かって次々と矢が射掛けられ、そして次々と倒していく。
だが、やはり数の暴力というのは恐ろしいものだ。徐々に川はその死体で埋まり、水深が浅くなっていく。
しかも、なんとあいつらは仲間の死体を盾代わりに使い始めたのだ。そして矢の数が徐々に減ってきたころに仲間を盾に渡河に成功する個体が徐々に出始めてきた。
「ああ、川は突破されてしまいそうですね」
「……拙者にはそこまで詳しく見えないでござるよ」
「うーん、どうして結界や防壁を使わないんですかね?」
「……どういうことでござるか?」
「え? だって、壁を作って進む道を制限して一ヵ所に集めれば一網打尽にできるじゃないですか。そうすればあんなに矢を無駄にしないで済むのになって思いまして」
「……そんな広範囲に防壁を作れるでござるか?」
「やったことないですけど、百メートルや二百メートルくらいなら簡単にできる気がするんですよね。たぶん。MP も随分とアップしましたし」
「……そんなことを一人でできるのはフィーネ殿くらいなものでござるよ。だから将軍も考えもしなかったのでござろうな」
シズクさんがあきれ顔で私にそう言った。
うん、なるほど。どうやら私はやらかしていたらしい。
「……今から行ってももう遅いですかね?」
「……遅いでござろうな」
何とも微妙な空気が私たちを包む。その空気に耐えきれなくなった私は戦場へと視線を移す。
矢を射かけていた兵士たちは全員下がり槍と盾を持った兵士たちが川を渡ってきたゴブリンたちと戦っている。流石に訓練された兵士だけあってばっさばっさと倒している。
「この分なら大丈夫そうですかね。兵士の皆さんもゴブリンは楽勝で倒していますよ?」
「いや、まだまだこれからでござるよ。ロードがいる以上、最初に出てくるゴブリンたちはいくらでも代えの利く捨て駒でござる。ホブゴブリンやゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャーといった連中が出てきてからが勝負でござるよ」
そのシズクさんの言葉通り、川の向こうからひと際体格の大きなゴブリンが現れた。
「あ、大きいゴブリンが来ました。あれ、もしかしたらシズクさんよりも大きいかもしれないですね」
「ああ、それは恐らくホブゴブリンでござるな。力が強く、体格に優れた魔物でござるよ」
流石にここからでは声は聞こえないが、兵士たちが少し怯えているのは見て取れる。ホブゴブリンは大きく咆哮を上げたような仕草をすると、そのまま兵士たちのところへとゴブリンの死体を盾にしながら突っ込んで行く。
そしてそのままゴブリンの死体で思い切り兵士の一人を打ち付けた。成すすべなく吹っ飛んだ彼は、槍を手放して数メートル先に転がって動かなくなった。
「あ、まずい! 助けに行かなきゃ!」
「フィーネ殿、ダメでござるよ。将軍にも打って出るのは禁止されているでござる」
「でも! あの兵士の人が! 助けなきゃ!」
「フィーネ殿、運ばれてくるのを待つでござるよ。それがフィーネ殿の役目でござる」
「ううっ」
やっぱり助けられるのにすぐに助けに行ってはいけないとう状況がもどかしい。もどかしいけど……一体どうしたら……!
「フィーネ殿、救護所に戻るでござるよ。運び込まれている人がいるかもしれないでござる」
「……そうですね。はい。そうします」
私は今すぐ行けば彼を助けられるのではないかという未練を残しつつも、救護所へと向かうのだった。
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