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動乱の故郷
第六章第8話 反逆者
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2020/10/01 誤字を修正しました
==============
「シズクさん、何があったんですか?」
「この男が襲撃の首魁に見えたゆえ、捕まえてきたござるよ。そして彼らは何故かは分からぬが襲われた故、返り討ちにしたでござるよ」
「ふ、副長っ!?」
私の問いにシズクさんが答え、そしてシズクさんが捕まえてきた騎士の男を見た小隊長さんが驚きの声を上げる。
「副長?」
「は、はい。聖女様。この方は第五騎士団国境警備隊副長のガエル・バコヤンニス様です」
「それが何で私たちを襲撃したんですかね?」
「……ええと、私に聞かれましても……」
クリスさんがものすごい殺気を放っている。
「国境警備隊の副長が王国の聖女であるフィーネ様を襲撃し、その従者たるシズク殿を第二分隊が攻撃したということは、第五騎士団は王国に弓を引く決心をしたと、そういうことか?」
「そ、そのようなことは! 我々は第五騎士団所属でございますが、その前に王に剣を捧げた騎士です! 陛下と我が国が誇る聖女様に弓引くなどあり得ません」
「よし、ならばこの裏切り者どもを拘束せよ!」
「は、ははっ!」
クリスさんの指示でガエルという男と第二分隊の 10 人を縛りあげると、私たちはカルヴァラの町へと引き返したのだった。
****
そして私たちはカルヴァラの町の門へとやってきた。しかし門は開門されず、城壁から矢を射掛けられた。そしてそこには昨日投獄されたはずのクズ門兵長のロベールの姿があった。
「見ろ! あれが聖女様を騙る偽物だ! 奴は森に魔物を狩りに行くと言って森に入ったが、森の中でハンターたちを卑劣にも殺したのだ! 奴を怪しんだ国境警備隊の仲間が追跡し、その現場を目撃したっ! あいつは断じて聖女なんかじゃない! 人を殺してその生き血を啜る吸血鬼のような悪女だっ!」
「出で行け! 偽聖女!」
「こいつ! 聖女様を騙るな!」
ロベールの言葉に城壁の上に陣取る兵士たちが私を罵ってくる。
全く身に覚えはないがどうやら私がハンターを殺したことになっているらしい。
まあ、聖女は行きがかり上やっているだけだし吸血鬼というところも当たっているので遠からず、といったところかな。
「ば、馬鹿なことを言うな! あれだけ素晴らしい【聖属性魔法】と【回復魔法】を使われる聖女様を吸血鬼のような悪女とはっ! 貴様無礼にも程があるぞっ!」
小隊長さんがそう言って擁護してくれているけれど、私は吸血鬼なんだよね。もう面倒なので訂正する気もないが。
「ああん? 誰かと思えば貴様は第九小隊の隊長殿ではないか。小隊長などと偉そうにしているが、所詮は平民だな! 聖女様の見分けすらつかぬとは。平民のくせに小隊長などになるから部下が苦労するのだよ!」
ううん、貴族のくせに見分けのつかないこの人は一体、などとツッコミを入れてはいけないんだろうな。はぁ。
まさかこんな低レベルな煽りに乗るやつはいないだろう、と思っていたのだが、小隊長は顔を真っ赤にしているのでどうやら効果は抜群だ。
「ウスターシュ様がこれを知ったらただでは済まないぞっ!」
小隊長が必死に絞り出した言葉をロベールは鼻で笑う。
「はんっ。ウスターシュ様はそこの偽聖女に魔法で操られておられるのだ。その偽聖女を始末すれば正気に戻られる」
「なっ」
小隊長は絶句する。私も呆れて物が言えない。どこをどうするとこんな考え方ができるんだろうか?
「フィーネ様、行って参ります。皆、手出しは無用だ」
クリスさんが静かにそう言うと聖剣を抜き放つ。
「え? あ、えーと、はい。いってらっしゃい?」
城壁あるけど、クリスさんどうする気?
「我が名はクリスティーナ、聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾にしてホワイトムーン王国近衛騎士団特務部隊所属の聖騎士だ。我が聖剣セスルームニルに誓った正義に基づき、これより逆賊ロベールを討伐する。開門せよ! 我に弓引く行為は国王陛下と神に対する反逆と知れ!」
「うるさい! あいつも偽物だっ! 矢を放て!」
ロベールの一声でクリスさんに矢が射掛けられる。クリスさんはそれを腰を落として躱すと一気に城門へと肉薄する。
「はっ!」
そしてそのまま剣を振りぬくと城門を瞬く間にぶった切って人が通れる分の穴を開けた。
「ひいぃぃぃぃ」
それを見た城門を守る騎士たちが何とも情けない声を上げながら逃げまどう。彼らからしてみればクリスさんが城門を斬るなんて思ってもみなかったのだろうが、それでも民を守る騎士様があんな状態になるというのは何とも情けない話だ。
「ば、馬鹿なぁ!」
ロベールは目を見開いて驚いている。でもよく考えてみると将軍だったら一蹴りで城壁ごと壊しそうだし、シズクさんだったらいつの間にか城壁の上にいたりしそうだ。それにアーデやベルード、スイキョウなんかが相手ならもうあいつの首は飛んでいるだろう。
仮にも聖騎士を名乗った相手に喧嘩を売るならそのくらいは覚悟すべきだったんじゃないかな?
すぐにクリスさんが城壁の上に姿を現す。そして抵抗する騎士たちをばっさばっさと切り倒すとあっという間にロベールのところへと辿りついた。
「あ、あ、あ、た、たすけ……」
どうやらロベールは尻もちをついたようだ。下から見上げているため城壁の上のロベールの姿は見えなくなった。そしてクリスさんは剣を振るう。
「ぎゃぁぁぁぁ」
ロベールの悲鳴が響き渡る。そしてクリスさんがもう一度剣を振り上げた瞬間、ウスターシュさんの声が響いた。
「何をしている! これは一体何の騒ぎだ!」
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「シズクさん、何があったんですか?」
「この男が襲撃の首魁に見えたゆえ、捕まえてきたござるよ。そして彼らは何故かは分からぬが襲われた故、返り討ちにしたでござるよ」
「ふ、副長っ!?」
私の問いにシズクさんが答え、そしてシズクさんが捕まえてきた騎士の男を見た小隊長さんが驚きの声を上げる。
「副長?」
「は、はい。聖女様。この方は第五騎士団国境警備隊副長のガエル・バコヤンニス様です」
「それが何で私たちを襲撃したんですかね?」
「……ええと、私に聞かれましても……」
クリスさんがものすごい殺気を放っている。
「国境警備隊の副長が王国の聖女であるフィーネ様を襲撃し、その従者たるシズク殿を第二分隊が攻撃したということは、第五騎士団は王国に弓を引く決心をしたと、そういうことか?」
「そ、そのようなことは! 我々は第五騎士団所属でございますが、その前に王に剣を捧げた騎士です! 陛下と我が国が誇る聖女様に弓引くなどあり得ません」
「よし、ならばこの裏切り者どもを拘束せよ!」
「は、ははっ!」
クリスさんの指示でガエルという男と第二分隊の 10 人を縛りあげると、私たちはカルヴァラの町へと引き返したのだった。
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そして私たちはカルヴァラの町の門へとやってきた。しかし門は開門されず、城壁から矢を射掛けられた。そしてそこには昨日投獄されたはずのクズ門兵長のロベールの姿があった。
「見ろ! あれが聖女様を騙る偽物だ! 奴は森に魔物を狩りに行くと言って森に入ったが、森の中でハンターたちを卑劣にも殺したのだ! 奴を怪しんだ国境警備隊の仲間が追跡し、その現場を目撃したっ! あいつは断じて聖女なんかじゃない! 人を殺してその生き血を啜る吸血鬼のような悪女だっ!」
「出で行け! 偽聖女!」
「こいつ! 聖女様を騙るな!」
ロベールの言葉に城壁の上に陣取る兵士たちが私を罵ってくる。
全く身に覚えはないがどうやら私がハンターを殺したことになっているらしい。
まあ、聖女は行きがかり上やっているだけだし吸血鬼というところも当たっているので遠からず、といったところかな。
「ば、馬鹿なことを言うな! あれだけ素晴らしい【聖属性魔法】と【回復魔法】を使われる聖女様を吸血鬼のような悪女とはっ! 貴様無礼にも程があるぞっ!」
小隊長さんがそう言って擁護してくれているけれど、私は吸血鬼なんだよね。もう面倒なので訂正する気もないが。
「ああん? 誰かと思えば貴様は第九小隊の隊長殿ではないか。小隊長などと偉そうにしているが、所詮は平民だな! 聖女様の見分けすらつかぬとは。平民のくせに小隊長などになるから部下が苦労するのだよ!」
ううん、貴族のくせに見分けのつかないこの人は一体、などとツッコミを入れてはいけないんだろうな。はぁ。
まさかこんな低レベルな煽りに乗るやつはいないだろう、と思っていたのだが、小隊長は顔を真っ赤にしているのでどうやら効果は抜群だ。
「ウスターシュ様がこれを知ったらただでは済まないぞっ!」
小隊長が必死に絞り出した言葉をロベールは鼻で笑う。
「はんっ。ウスターシュ様はそこの偽聖女に魔法で操られておられるのだ。その偽聖女を始末すれば正気に戻られる」
「なっ」
小隊長は絶句する。私も呆れて物が言えない。どこをどうするとこんな考え方ができるんだろうか?
「フィーネ様、行って参ります。皆、手出しは無用だ」
クリスさんが静かにそう言うと聖剣を抜き放つ。
「え? あ、えーと、はい。いってらっしゃい?」
城壁あるけど、クリスさんどうする気?
「我が名はクリスティーナ、聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾にしてホワイトムーン王国近衛騎士団特務部隊所属の聖騎士だ。我が聖剣セスルームニルに誓った正義に基づき、これより逆賊ロベールを討伐する。開門せよ! 我に弓引く行為は国王陛下と神に対する反逆と知れ!」
「うるさい! あいつも偽物だっ! 矢を放て!」
ロベールの一声でクリスさんに矢が射掛けられる。クリスさんはそれを腰を落として躱すと一気に城門へと肉薄する。
「はっ!」
そしてそのまま剣を振りぬくと城門を瞬く間にぶった切って人が通れる分の穴を開けた。
「ひいぃぃぃぃ」
それを見た城門を守る騎士たちが何とも情けない声を上げながら逃げまどう。彼らからしてみればクリスさんが城門を斬るなんて思ってもみなかったのだろうが、それでも民を守る騎士様があんな状態になるというのは何とも情けない話だ。
「ば、馬鹿なぁ!」
ロベールは目を見開いて驚いている。でもよく考えてみると将軍だったら一蹴りで城壁ごと壊しそうだし、シズクさんだったらいつの間にか城壁の上にいたりしそうだ。それにアーデやベルード、スイキョウなんかが相手ならもうあいつの首は飛んでいるだろう。
仮にも聖騎士を名乗った相手に喧嘩を売るならそのくらいは覚悟すべきだったんじゃないかな?
すぐにクリスさんが城壁の上に姿を現す。そして抵抗する騎士たちをばっさばっさと切り倒すとあっという間にロベールのところへと辿りついた。
「あ、あ、あ、た、たすけ……」
どうやらロベールは尻もちをついたようだ。下から見上げているため城壁の上のロベールの姿は見えなくなった。そしてクリスさんは剣を振るう。
「ぎゃぁぁぁぁ」
ロベールの悲鳴が響き渡る。そしてクリスさんがもう一度剣を振り上げた瞬間、ウスターシュさんの声が響いた。
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