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動乱の故郷
第六章第10話 カポトリアス辺境伯爵家
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その後、私たちは自力で王都を目指すことになった。
なんでも、ウスターシュさんの救援要請をガエル副長が握り潰し、あるいは道中で伝令を魔物の仕業に見せかけて始末していたそうだ。
若いウスターシュさんは経験のあるガエル副長を信頼して任せすぎたせいで私物化され、残念ながらお飾りのトップとなってしまっていたということなのだろう。
ちなみにガエル副長とクズ門兵長のロベールは処刑、さらにクリスさんの警告を受けた後も矢を射掛けた騎士たち 23 名も処刑、更に一連の悪事に加担した騎士や役人など 159 名が処刑または労働刑に処せられることとなった。これはすべてウスターシュさんの判断だ。
また、あの騙されたハンターたちは無罪放免とし、ウスターシュさんは自身の監督責任を問いたいとして、一連の事件の処理を終えた後に国境警備隊長を辞するそうだ。そして、何か聞かれたなら事実をありのままに話してほしいとも言われた。
クリスさんの話によると、王都であれば最低でも廃嫡、場合によっては処刑や追放などもあり得るそうだが、今回の場合は辺境伯爵領での事なので父親であるカポトリアス辺境伯の判断次第なのだという。名前からするとド田舎の貴族っぽい感じなのに、辺境伯爵というのは随分と権力が強いらしい。
ただ、こういう潔いことができるなら、私としてはもう一度チャンスを与えても良いと思うけどね。
ウスターシュさんは悪人ではないようなので、これからしっかりと成長して民のために行動できる領主さんになってくれればと願うばかりだ。
さて、再開された定期便に乗った私たちはカポトリアス辺境伯爵領の領都サマルカに到着した。
予想はしていたが、馬車の停留所は大勢の騎士や衛兵たちが警備しており少し物々しい雰囲気だ。というのも、私たちがカルヴァラを出発するときには早馬が駆けていったし、途中の町からは馬車に護衛の騎士がついていた。これはきっとウスターシュさんが手配したのだろう。
「聖女フィーネ様、聖騎士クリスティーナ殿、そして従者のお二人もようこそ我がサマルカへお越しくださいました」
私がクリスさんにエスコートされて馬車を降りると如何にも貴族っぽい服装の初老の男性がそう言って私たちを出迎えた。
「私はグウェナエル・カポトリアス、このダーシュ地方を預かる辺境伯爵でございます」
「フィーネ・アルジェンタータと申します。お会いできて光栄です」
「こちらこそ、名高き聖女様に我が領をご訪問頂き光栄の至りにございます。もしよろしければ我が屋敷にご滞在賜る栄誉を頂けませんでしょうか?」
「よろこんで」
「ありがたき幸せでございます。ではこちらへ」
そうして私はウスターシュさんの父親であるカポトリアス辺境伯爵の屋敷でお世話になることとなった。
****
「カルヴァラでは愚息が大変なご迷惑をお掛けしたそうで申し訳ございません」
用意された馬車に乗り換えて馬車が進みだすと、グウェナエルさんはすぐに私に謝ってきた。
「いえ。ウスターシュさんもある意味では裏切られた被害者ですから。もちろんトップとしての責任からは逃れられないでしょうが、彼ならばきっとそれを乗り越えて立派な方になられると思います」
私の発言はやや上から目線かもしれないが、これで責任を取って処刑なんてことになるのは可愛そうだと思う。
「左様でございますか。そう仰っていただけると私としても大変助かります」
そう言ってグウェナエルさんは少しの間押し黙ってしまった。その胸中にあるのは父親として息子を処刑せずに済んだという安堵感か、それとも何かの打算なのか。私にはそれを知るすべはない。
「ところで、我がサマルカは白と青の都と呼ばれておりましてな。このように建物の壁は全て白、そして屋根は全て青で塗られております」
グウェナエルさんはそうして話題を変えてきた。馬車の外を見てみるとなるほど、確かに建物が白い。
「確かに真っ白ですね。何か理由はあるのですか?」
「はい。この辺りでは石灰を多く産出するのです。そこで壁を塗る際にはその石灰を昔から利用していたため、必然的に白い壁の家が多くなりました。また、白い壁は夏の強い日差しを遮って建物の中を涼しく保つことができます。そこで、町の美観も考え 80 年程前の我がカポトリアス家の当時の当主が壁を全て白で統一すること決めたのです。その時に青が混ざると涼しそうで良いということで丸屋根を作る際は青で塗ることとなりました」
な、なるほど。屋根の色は何となくだったのね。
だが、白亜の建物が立ち並ぶ中にたまに鮮やかなブルーの丸屋根の建物が混ざっているというのは中々に美しい光景だ。
そんな美しい街並みを楽しんでいると、私たちを乗せた馬車はカポトリアス辺境伯爵のお屋敷へと到着した。
「さ、聖女様、どうぞこちらへ」
グウェナエルさんの案内で私たちは屋敷のエントランスへと足を踏み入れる。するとメイドさんと執事さんがずらりと並んでお出迎えしてくれた。
「「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」」
「ああ。聖女フィーネ・アルジェンタータ様と聖騎士クリスティーナ殿、そして従者のお二人をお連れした。おい、案内を」
すると一人の若い男性が私の前へと歩み出て跪いた。
「お初にお目にかかります。私はカポトリアス辺境伯爵家が次男ベルナール・カポトリアスと申します」
「はじめまして。フィーネ・アルジェンタータと申します」
・
・
・
そしてそのまま何故か微妙な時間が流れる。なんで沈黙しているの?
「え、ええと、ご案内頂ける方はどなたでしょう?」
私が沈黙に耐えかねて口を開くとベルナールさんはショックを受けたような表情をしている。
ええと? どういうこと?
「コ、コホン。おい、メアリー、ご案内しなさい」
「はい。聖女様、どうぞこちらへ。お部屋へとご案内いたします」
「ええと、はい。よろしくお願いいたします」
なんだかよく分からないが気まずい雰囲気の中、私たちはメアリーさんという名のメイドさんに連れられてエントランスホールを後にしたのだった。
なんでも、ウスターシュさんの救援要請をガエル副長が握り潰し、あるいは道中で伝令を魔物の仕業に見せかけて始末していたそうだ。
若いウスターシュさんは経験のあるガエル副長を信頼して任せすぎたせいで私物化され、残念ながらお飾りのトップとなってしまっていたということなのだろう。
ちなみにガエル副長とクズ門兵長のロベールは処刑、さらにクリスさんの警告を受けた後も矢を射掛けた騎士たち 23 名も処刑、更に一連の悪事に加担した騎士や役人など 159 名が処刑または労働刑に処せられることとなった。これはすべてウスターシュさんの判断だ。
また、あの騙されたハンターたちは無罪放免とし、ウスターシュさんは自身の監督責任を問いたいとして、一連の事件の処理を終えた後に国境警備隊長を辞するそうだ。そして、何か聞かれたなら事実をありのままに話してほしいとも言われた。
クリスさんの話によると、王都であれば最低でも廃嫡、場合によっては処刑や追放などもあり得るそうだが、今回の場合は辺境伯爵領での事なので父親であるカポトリアス辺境伯の判断次第なのだという。名前からするとド田舎の貴族っぽい感じなのに、辺境伯爵というのは随分と権力が強いらしい。
ただ、こういう潔いことができるなら、私としてはもう一度チャンスを与えても良いと思うけどね。
ウスターシュさんは悪人ではないようなので、これからしっかりと成長して民のために行動できる領主さんになってくれればと願うばかりだ。
さて、再開された定期便に乗った私たちはカポトリアス辺境伯爵領の領都サマルカに到着した。
予想はしていたが、馬車の停留所は大勢の騎士や衛兵たちが警備しており少し物々しい雰囲気だ。というのも、私たちがカルヴァラを出発するときには早馬が駆けていったし、途中の町からは馬車に護衛の騎士がついていた。これはきっとウスターシュさんが手配したのだろう。
「聖女フィーネ様、聖騎士クリスティーナ殿、そして従者のお二人もようこそ我がサマルカへお越しくださいました」
私がクリスさんにエスコートされて馬車を降りると如何にも貴族っぽい服装の初老の男性がそう言って私たちを出迎えた。
「私はグウェナエル・カポトリアス、このダーシュ地方を預かる辺境伯爵でございます」
「フィーネ・アルジェンタータと申します。お会いできて光栄です」
「こちらこそ、名高き聖女様に我が領をご訪問頂き光栄の至りにございます。もしよろしければ我が屋敷にご滞在賜る栄誉を頂けませんでしょうか?」
「よろこんで」
「ありがたき幸せでございます。ではこちらへ」
そうして私はウスターシュさんの父親であるカポトリアス辺境伯爵の屋敷でお世話になることとなった。
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「カルヴァラでは愚息が大変なご迷惑をお掛けしたそうで申し訳ございません」
用意された馬車に乗り換えて馬車が進みだすと、グウェナエルさんはすぐに私に謝ってきた。
「いえ。ウスターシュさんもある意味では裏切られた被害者ですから。もちろんトップとしての責任からは逃れられないでしょうが、彼ならばきっとそれを乗り越えて立派な方になられると思います」
私の発言はやや上から目線かもしれないが、これで責任を取って処刑なんてことになるのは可愛そうだと思う。
「左様でございますか。そう仰っていただけると私としても大変助かります」
そう言ってグウェナエルさんは少しの間押し黙ってしまった。その胸中にあるのは父親として息子を処刑せずに済んだという安堵感か、それとも何かの打算なのか。私にはそれを知るすべはない。
「ところで、我がサマルカは白と青の都と呼ばれておりましてな。このように建物の壁は全て白、そして屋根は全て青で塗られております」
グウェナエルさんはそうして話題を変えてきた。馬車の外を見てみるとなるほど、確かに建物が白い。
「確かに真っ白ですね。何か理由はあるのですか?」
「はい。この辺りでは石灰を多く産出するのです。そこで壁を塗る際にはその石灰を昔から利用していたため、必然的に白い壁の家が多くなりました。また、白い壁は夏の強い日差しを遮って建物の中を涼しく保つことができます。そこで、町の美観も考え 80 年程前の我がカポトリアス家の当時の当主が壁を全て白で統一すること決めたのです。その時に青が混ざると涼しそうで良いということで丸屋根を作る際は青で塗ることとなりました」
な、なるほど。屋根の色は何となくだったのね。
だが、白亜の建物が立ち並ぶ中にたまに鮮やかなブルーの丸屋根の建物が混ざっているというのは中々に美しい光景だ。
そんな美しい街並みを楽しんでいると、私たちを乗せた馬車はカポトリアス辺境伯爵のお屋敷へと到着した。
「さ、聖女様、どうぞこちらへ」
グウェナエルさんの案内で私たちは屋敷のエントランスへと足を踏み入れる。するとメイドさんと執事さんがずらりと並んでお出迎えしてくれた。
「「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」」
「ああ。聖女フィーネ・アルジェンタータ様と聖騎士クリスティーナ殿、そして従者のお二人をお連れした。おい、案内を」
すると一人の若い男性が私の前へと歩み出て跪いた。
「お初にお目にかかります。私はカポトリアス辺境伯爵家が次男ベルナール・カポトリアスと申します」
「はじめまして。フィーネ・アルジェンタータと申します」
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そしてそのまま何故か微妙な時間が流れる。なんで沈黙しているの?
「え、ええと、ご案内頂ける方はどなたでしょう?」
私が沈黙に耐えかねて口を開くとベルナールさんはショックを受けたような表情をしている。
ええと? どういうこと?
「コ、コホン。おい、メアリー、ご案内しなさい」
「はい。聖女様、どうぞこちらへ。お部屋へとご案内いたします」
「ええと、はい。よろしくお願いいたします」
なんだかよく分からないが気まずい雰囲気の中、私たちはメアリーさんという名のメイドさんに連れられてエントランスホールを後にしたのだった。
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