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動乱の故郷
第六章第34話 ハンターと瘴気
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2020/09/27 人数の取り違え(13→11)を修正しました
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南の森を撤退して町へと戻ってきた私たちは出発前に集まった広場に集合し、そして犠牲者の追悼式を行っている。
遺体の治められた棺が私たちの前に並べられ、そしてラザレ隊長が音頭を取る。
「犠牲になった勇敢なる騎士たち、そしてハンターたちに、敬礼!」
騎士たちは一斉に敬礼し、私たち、そしてハンターたちも黙とうを捧げる。
「やめ!」
その掛け声で黙とうは終了する。さあ、次は私の出番だ。
私は棺の前に歩み出ると跪く。
「勇敢なる騎士リオネル、騎士ティーノ、騎士バルトロ、そして勇敢なるハンターテオ、ネイロ、トビア、ウーゴ、ザイラ、ガイオ、マルシオ、ルド、あなた方の勇姿は決して忘れません。その御霊に永遠の安らぎを」
そして私は彼らを送ってあげる。
「葬送」
柔らかな光が 11 人の遺体を優しく包み込み、そして消えた。
その後、騎士たちの棺は騎士団に、ハンターたちのものはハンターギルドに引き取られていった。遺族がいる場合は搬送されるが、そうでない場合は共同墓地に埋葬されるそうだ。
追悼式が終わり、解散となったところでこんな会話が聞こえてきた。
「おい、いくらなんでもあの魔物の濃度はヤバかっただろ」
「昨日はあんなじゃなかったのに」
「そろそろ潮時だな」
「ああ、護衛依頼でも受けるか」
なるほど、どうやらハンターたちは逃げる準備に入ったらしい。
「やはり、ハンターたちは逃げるんですね」
私が何の気なしに呟いた独り言がどうやら近くにいたディオンさんの耳に届いてしまっていたらしい。
「俺たちは残りますよ。俺とグレッグはこのアイロールを守るためにハンターになったんですからね」
ディオンさんが自分は違うというアピールしてきた。
「そうなんですね。何だか私が聞いていたハンターの人たちとは随分と違いますね」
「そうですね。俺たちは特殊かもしれないです」
ディオンさんはそういうと少し遠い目をした。
「俺ら、この町の出身で、生まれ育ったこの町を守りたくて、それで最初は衛兵か騎士を目指していたんです」
「それがどうしてハンターになったんですか?」
「この町って、こんな森の中にあるじゃないですか。だから、魔物が一番危ないんですよ。でも、衛兵は森の魔物の駆除はやらないし、騎士だとそもそも他の町に異動になっちゃうかも知れないじゃないですか。それで、ハンターになったんです。両親には滅茶苦茶反対されましたけどね」
ディオンさんはそう言うとバツが悪そうに苦笑いをした。
「それで、ディオンさんは他の人たちとは雰囲気が違うんですね。ディオンさんのようなハンターが増えれば偏見も無くなると思うんですけどね」
私がそう言うとディオンさんは複雑な顔をしている。
「いやぁ、そうなんですけどね。ただ、何故か分からないんですけど皆どんどん性格が悪くなっていくんですよ。昔は孤児院に寄付までしていたハンターがいつの間にか金の亡者みたいになってたりとかして」
そしてディオンさんは自嘲気味な表情で言葉を続けた。
「そうならないのはボア専くらいなんで俺たちもいつまでこうしていられるか……」
「ボア専?」
「ああ、ビッグボアーなんかの食用肉だけを狩っている奴らの事ですよ。あいつらは何故かあんまり性格が変わらないんですよね」
なるほど。あれ? でも瘴気を浴びると邪悪な性格になるって確かクリスさんが言っていたし、それが原因じゃないのかな?
「そのボア専の人たちって、どんな狩りをしているんですか?」
「大抵は罠とかで仕留めたら血抜きだけしてそのまま担いで帰ってくる感じですね」
「なるほど。じゃあ魔石は触らないんですね?」
「そうですね。俺らがビッグボアーを狩った時も解体はしないです。魔石を売ったってあの大きさじゃ二束三文ですから。他の食肉も魔石が小さいから似たようなもんですね」
やはりそうだ。状況的に考えてもこれは間違いないだろう。
「そうでしたか。ハンターの皆さんの性格がおかしくなってしまうのは、解体するときに魔石を触って瘴気を浴びるからだと思います」
「え?」
ディオンさんが固まった。隣にいたグレッグさんも固まっている。
「な、なあ、ディオン。俺たちがまだおかしくなってないのって」
「あ、ああ。ギーさんのおかげだな」
二人の会話に私はついていけない。
「どういうことですか?」
「あ、すみません。ギーさんはギルドから紹介してくれた人なんですけど、俺らのパーティーで解体をしているのはギーさんだけなんです。ベテランだけど斥候だしあんまり強くはないんでサポート役を中心にお願いしてて」
「なるほど。それで解体はギーさんに任せていたんですね」
「はい。ただ、売った素材が微妙に少なかったりしているのでギルドに相談しようかとも思っていたんですけど、それが俺たちの代わりに瘴気を浴びていたせいだったなんて……」
ディオンさんはとても辛そうな顔をしている。きっとギーさんのことで気を病んでいるのだろう。
「いや、でもよう。ギーさんは最初からあんな感じだったぜ?」
「でも、それが瘴気のせいだったとしたら?」
「う……」
グレッグさんも言葉に詰まってしまった。
「ディオンさん、これからは解体するときは魔石に触らないようにして下さい。そして、魔石を触る前は必ず浄化することです。聖水でも良いですし、浄化魔法でも良いでしょう。王都に戻ったら陛下にハンターの皆さんが魔石を触らずに済むように掛け合ってみますね」
「「せ、聖女様っ!」」
ディオンさんとグレッグさんは感動したように私を見つめている。しかし肝心のギーさんの姿は既にそこにはなかった。
その後、ラザレ隊長とアロイスさんにもこの話をしたところ、騎士団では魔石を集めずに燃やして埋めているため問題が起きづらいのだろうとのことだった。
そして、アイロールの町としてもハンターの性格がまともになるのであれば町としては得るものが大きいとのことで、ハンターギルドに町から通達を出すと約束してくれたのだった。
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南の森を撤退して町へと戻ってきた私たちは出発前に集まった広場に集合し、そして犠牲者の追悼式を行っている。
遺体の治められた棺が私たちの前に並べられ、そしてラザレ隊長が音頭を取る。
「犠牲になった勇敢なる騎士たち、そしてハンターたちに、敬礼!」
騎士たちは一斉に敬礼し、私たち、そしてハンターたちも黙とうを捧げる。
「やめ!」
その掛け声で黙とうは終了する。さあ、次は私の出番だ。
私は棺の前に歩み出ると跪く。
「勇敢なる騎士リオネル、騎士ティーノ、騎士バルトロ、そして勇敢なるハンターテオ、ネイロ、トビア、ウーゴ、ザイラ、ガイオ、マルシオ、ルド、あなた方の勇姿は決して忘れません。その御霊に永遠の安らぎを」
そして私は彼らを送ってあげる。
「葬送」
柔らかな光が 11 人の遺体を優しく包み込み、そして消えた。
その後、騎士たちの棺は騎士団に、ハンターたちのものはハンターギルドに引き取られていった。遺族がいる場合は搬送されるが、そうでない場合は共同墓地に埋葬されるそうだ。
追悼式が終わり、解散となったところでこんな会話が聞こえてきた。
「おい、いくらなんでもあの魔物の濃度はヤバかっただろ」
「昨日はあんなじゃなかったのに」
「そろそろ潮時だな」
「ああ、護衛依頼でも受けるか」
なるほど、どうやらハンターたちは逃げる準備に入ったらしい。
「やはり、ハンターたちは逃げるんですね」
私が何の気なしに呟いた独り言がどうやら近くにいたディオンさんの耳に届いてしまっていたらしい。
「俺たちは残りますよ。俺とグレッグはこのアイロールを守るためにハンターになったんですからね」
ディオンさんが自分は違うというアピールしてきた。
「そうなんですね。何だか私が聞いていたハンターの人たちとは随分と違いますね」
「そうですね。俺たちは特殊かもしれないです」
ディオンさんはそういうと少し遠い目をした。
「俺ら、この町の出身で、生まれ育ったこの町を守りたくて、それで最初は衛兵か騎士を目指していたんです」
「それがどうしてハンターになったんですか?」
「この町って、こんな森の中にあるじゃないですか。だから、魔物が一番危ないんですよ。でも、衛兵は森の魔物の駆除はやらないし、騎士だとそもそも他の町に異動になっちゃうかも知れないじゃないですか。それで、ハンターになったんです。両親には滅茶苦茶反対されましたけどね」
ディオンさんはそう言うとバツが悪そうに苦笑いをした。
「それで、ディオンさんは他の人たちとは雰囲気が違うんですね。ディオンさんのようなハンターが増えれば偏見も無くなると思うんですけどね」
私がそう言うとディオンさんは複雑な顔をしている。
「いやぁ、そうなんですけどね。ただ、何故か分からないんですけど皆どんどん性格が悪くなっていくんですよ。昔は孤児院に寄付までしていたハンターがいつの間にか金の亡者みたいになってたりとかして」
そしてディオンさんは自嘲気味な表情で言葉を続けた。
「そうならないのはボア専くらいなんで俺たちもいつまでこうしていられるか……」
「ボア専?」
「ああ、ビッグボアーなんかの食用肉だけを狩っている奴らの事ですよ。あいつらは何故かあんまり性格が変わらないんですよね」
なるほど。あれ? でも瘴気を浴びると邪悪な性格になるって確かクリスさんが言っていたし、それが原因じゃないのかな?
「そのボア専の人たちって、どんな狩りをしているんですか?」
「大抵は罠とかで仕留めたら血抜きだけしてそのまま担いで帰ってくる感じですね」
「なるほど。じゃあ魔石は触らないんですね?」
「そうですね。俺らがビッグボアーを狩った時も解体はしないです。魔石を売ったってあの大きさじゃ二束三文ですから。他の食肉も魔石が小さいから似たようなもんですね」
やはりそうだ。状況的に考えてもこれは間違いないだろう。
「そうでしたか。ハンターの皆さんの性格がおかしくなってしまうのは、解体するときに魔石を触って瘴気を浴びるからだと思います」
「え?」
ディオンさんが固まった。隣にいたグレッグさんも固まっている。
「な、なあ、ディオン。俺たちがまだおかしくなってないのって」
「あ、ああ。ギーさんのおかげだな」
二人の会話に私はついていけない。
「どういうことですか?」
「あ、すみません。ギーさんはギルドから紹介してくれた人なんですけど、俺らのパーティーで解体をしているのはギーさんだけなんです。ベテランだけど斥候だしあんまり強くはないんでサポート役を中心にお願いしてて」
「なるほど。それで解体はギーさんに任せていたんですね」
「はい。ただ、売った素材が微妙に少なかったりしているのでギルドに相談しようかとも思っていたんですけど、それが俺たちの代わりに瘴気を浴びていたせいだったなんて……」
ディオンさんはとても辛そうな顔をしている。きっとギーさんのことで気を病んでいるのだろう。
「いや、でもよう。ギーさんは最初からあんな感じだったぜ?」
「でも、それが瘴気のせいだったとしたら?」
「う……」
グレッグさんも言葉に詰まってしまった。
「ディオンさん、これからは解体するときは魔石に触らないようにして下さい。そして、魔石を触る前は必ず浄化することです。聖水でも良いですし、浄化魔法でも良いでしょう。王都に戻ったら陛下にハンターの皆さんが魔石を触らずに済むように掛け合ってみますね」
「「せ、聖女様っ!」」
ディオンさんとグレッグさんは感動したように私を見つめている。しかし肝心のギーさんの姿は既にそこにはなかった。
その後、ラザレ隊長とアロイスさんにもこの話をしたところ、騎士団では魔石を集めずに燃やして埋めているため問題が起きづらいのだろうとのことだった。
そして、アイロールの町としてもハンターの性格がまともになるのであれば町としては得るものが大きいとのことで、ハンターギルドに町から通達を出すと約束してくれたのだった。
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