267 / 625
動乱の故郷
第六章第40話 アイロール防衛戦(5)
しおりを挟む
2020/10/15 誤字を修正しました
================
フィーネ達から持ち場を引き継いだ騎士たちは、暗くなったのに合わせて跳ね橋を上げて籠城戦の構えを取っていた。暗い森の中に怪しく光る無数の魔物の瞳が城壁の上に立つ兵士たちをじっと見つめている。
今日だけで数百、いや数千の魔物を倒しているはずだ。それでも一向に数が減らない点からも、この魔物暴走の規模が如何に大きいかが見て取れる。
しかし、アイロールの町はこれまで魔物たちの侵入を拒んできた自慢の城壁と水堀の二つで守られている。懸念されていたオーガの姿もなく、危なかったブラッドクロウの群れも聖女の機転により全滅させた。
やはりアイロールの町は堅固だ。
そんな安心感からか、城壁の上では談笑する騎士たちの姿も見て取れる。
「しかし、すごい数だよな。あんだけいて上位種があんまりいないってのはどうなってるんだろうな?」
「さあな。でもその方が楽でいいんじゃねぇか? 上位種いなきゃバカばっかだからな」
「ちげぇねぇな。はははは」
そんな騎士たちを隊長が注意する。
「おい! 何を無駄話をしている!」
叱られた騎士たちは慌てて敬礼すると持ち場に戻るが一度緩んだ雰囲気は変わらない。
しかしその時だった。
「隊長、あそこに何かおかしなものが」
「んん? 何だ?」
隊長がその騎士のもとへ行き暗闇に目を凝らす。
「ん? 何か動いている気はするが、あれはなんだ? 照らせないか」
「ははっ」
部下の騎士が松明を長い棒の先に括りつけてずいと前に差し出す。
ガサガサガサガサ
「うえっ」
「うおっ」
二人は同時に声を上げる。
松明の明かりに照らし出されたのは黒光りする巨大なゴキブリの大群であった。
「まずい! 魔物の死骸にジャイアントローチが群がっている! 早く火属性魔術師を連れてこい!」
「は、ははっ!」
隊長の声に弾かれるように一人の騎士が走って休んでいる魔術師を呼びに行く。
「クソッ。よりにもよってジャイアントローチまでいるなんて!」
「隊長、確かに気持ち悪いっすけど、そんなにヤバいんすか? ここはこんなに高いんすし、大丈夫なんじゃないっすか?」
状況を理解していない若い騎士が呑気な声で隊長に質問する。
「バ、バカ者。あいつはな……飛ぶんだ」
「え?」
ブブブブブブ
その時、一斉にジャイアントローチの群れが大きな羽音と共に宙を舞うと広い水堀を飛び越えて城壁に取りついた。そしてそのままカサカサと気持ち悪い動きで城壁を登ってくる。
「う、うわぁぁぁぁ」
「バカ者! うろたえるな!」
悲鳴を上げる若い騎士を一喝する。そして冷静に指示を下していく。
「全員、上がってくるジャイアントローチを叩き落とせ! こいつらは火に弱い! 松明でもいいから燃やせ! 町の中に入れるな! 食料を食いつくされるぞ!」
「「「「ははっ!」」」」
騎士たちは何とか上がってくるジャイアントローチたちに松明の火を押し当てる。
その瞬間、ジュッと焦げるような音と共にジャイアントローチの表面が火に包まれて落下していく。
「ハ、ハハハ。クソッ。脅かしやがって。これなら全部燃やしてやる!」
その様子を見た若い騎士も他の騎士に倣って松明を押し当てようと手を伸ばす。
しかしその脇をするりと抜けたジャイアントローチはその騎士に顔面に張り付くとガリガリと兜を噛み千切ろうとしてくる。
「ええい! 離れんか!」
隊長が剣でジャイアントローチの腹を突き刺して引き剥がすとそのまま城壁の外へと投げ捨てる。落下したジャイアントローチに別のジャイアントローチが群がる。
「くそ、あいつら共食いもするのか! おい! 大丈夫か!」
隊長が若い騎士に声をかけるが既に放心状態なのか、返事がない。ジャイアントローチにかじられた兜が少し欠けているが命に別条はないはずだ。
「くそっ! 穴を埋めろ。ん? あれは?」
そう指示を出した隊長は森からぼんやりとした白っぽいものがこちらにやってくるのを見つける。
「レ、レイス!? 何故レイスがこんなところに!?」
そのレイスと歩調を合わせるようにゾンビが、スケルトンが、そして今日倒したはずの魔物のゾンビがこちらへと向かってやってくるではないか!
「ば、馬鹿な。一体何が!?」
レイスたちは水堀の上を何事もなかったかのように渡り、そして城壁をさも当然のようにすり抜けると町の中へ侵入した。
ゾンビたちもまるで吸い寄せられるかのようにまっすぐと町を目指し、そのまま水堀の中へと転落していった。それでも次から次へとゾンビたちは水堀の中へと飛び込んでいき、やがてゾンビたちの体で水堀に橋が架けられてしまう。
「あ、あ、あ、で、伝令! 伝令! 至急聖女様をお呼びしてアンデッドどもを浄化していただくんだ! それと、ジャイアントローチの侵入に備えるようにラザレ隊長に伝えろ!」
「ははっ!」
命令を聞いた伝令が大急ぎで駐屯地へと走り出す。町の中には既にレイスたちが侵入して町の人たちに襲い掛かっており、家の中からは助けを求める悲痛な叫び声が聞こえてくる。
その声に一瞬立ち止まった伝令の男だったが、迷いを振り払うかのように頭を振ると駐屯地へと向けて走っていったのだった。
================
フィーネ達から持ち場を引き継いだ騎士たちは、暗くなったのに合わせて跳ね橋を上げて籠城戦の構えを取っていた。暗い森の中に怪しく光る無数の魔物の瞳が城壁の上に立つ兵士たちをじっと見つめている。
今日だけで数百、いや数千の魔物を倒しているはずだ。それでも一向に数が減らない点からも、この魔物暴走の規模が如何に大きいかが見て取れる。
しかし、アイロールの町はこれまで魔物たちの侵入を拒んできた自慢の城壁と水堀の二つで守られている。懸念されていたオーガの姿もなく、危なかったブラッドクロウの群れも聖女の機転により全滅させた。
やはりアイロールの町は堅固だ。
そんな安心感からか、城壁の上では談笑する騎士たちの姿も見て取れる。
「しかし、すごい数だよな。あんだけいて上位種があんまりいないってのはどうなってるんだろうな?」
「さあな。でもその方が楽でいいんじゃねぇか? 上位種いなきゃバカばっかだからな」
「ちげぇねぇな。はははは」
そんな騎士たちを隊長が注意する。
「おい! 何を無駄話をしている!」
叱られた騎士たちは慌てて敬礼すると持ち場に戻るが一度緩んだ雰囲気は変わらない。
しかしその時だった。
「隊長、あそこに何かおかしなものが」
「んん? 何だ?」
隊長がその騎士のもとへ行き暗闇に目を凝らす。
「ん? 何か動いている気はするが、あれはなんだ? 照らせないか」
「ははっ」
部下の騎士が松明を長い棒の先に括りつけてずいと前に差し出す。
ガサガサガサガサ
「うえっ」
「うおっ」
二人は同時に声を上げる。
松明の明かりに照らし出されたのは黒光りする巨大なゴキブリの大群であった。
「まずい! 魔物の死骸にジャイアントローチが群がっている! 早く火属性魔術師を連れてこい!」
「は、ははっ!」
隊長の声に弾かれるように一人の騎士が走って休んでいる魔術師を呼びに行く。
「クソッ。よりにもよってジャイアントローチまでいるなんて!」
「隊長、確かに気持ち悪いっすけど、そんなにヤバいんすか? ここはこんなに高いんすし、大丈夫なんじゃないっすか?」
状況を理解していない若い騎士が呑気な声で隊長に質問する。
「バ、バカ者。あいつはな……飛ぶんだ」
「え?」
ブブブブブブ
その時、一斉にジャイアントローチの群れが大きな羽音と共に宙を舞うと広い水堀を飛び越えて城壁に取りついた。そしてそのままカサカサと気持ち悪い動きで城壁を登ってくる。
「う、うわぁぁぁぁ」
「バカ者! うろたえるな!」
悲鳴を上げる若い騎士を一喝する。そして冷静に指示を下していく。
「全員、上がってくるジャイアントローチを叩き落とせ! こいつらは火に弱い! 松明でもいいから燃やせ! 町の中に入れるな! 食料を食いつくされるぞ!」
「「「「ははっ!」」」」
騎士たちは何とか上がってくるジャイアントローチたちに松明の火を押し当てる。
その瞬間、ジュッと焦げるような音と共にジャイアントローチの表面が火に包まれて落下していく。
「ハ、ハハハ。クソッ。脅かしやがって。これなら全部燃やしてやる!」
その様子を見た若い騎士も他の騎士に倣って松明を押し当てようと手を伸ばす。
しかしその脇をするりと抜けたジャイアントローチはその騎士に顔面に張り付くとガリガリと兜を噛み千切ろうとしてくる。
「ええい! 離れんか!」
隊長が剣でジャイアントローチの腹を突き刺して引き剥がすとそのまま城壁の外へと投げ捨てる。落下したジャイアントローチに別のジャイアントローチが群がる。
「くそ、あいつら共食いもするのか! おい! 大丈夫か!」
隊長が若い騎士に声をかけるが既に放心状態なのか、返事がない。ジャイアントローチにかじられた兜が少し欠けているが命に別条はないはずだ。
「くそっ! 穴を埋めろ。ん? あれは?」
そう指示を出した隊長は森からぼんやりとした白っぽいものがこちらにやってくるのを見つける。
「レ、レイス!? 何故レイスがこんなところに!?」
そのレイスと歩調を合わせるようにゾンビが、スケルトンが、そして今日倒したはずの魔物のゾンビがこちらへと向かってやってくるではないか!
「ば、馬鹿な。一体何が!?」
レイスたちは水堀の上を何事もなかったかのように渡り、そして城壁をさも当然のようにすり抜けると町の中へ侵入した。
ゾンビたちもまるで吸い寄せられるかのようにまっすぐと町を目指し、そのまま水堀の中へと転落していった。それでも次から次へとゾンビたちは水堀の中へと飛び込んでいき、やがてゾンビたちの体で水堀に橋が架けられてしまう。
「あ、あ、あ、で、伝令! 伝令! 至急聖女様をお呼びしてアンデッドどもを浄化していただくんだ! それと、ジャイアントローチの侵入に備えるようにラザレ隊長に伝えろ!」
「ははっ!」
命令を聞いた伝令が大急ぎで駐屯地へと走り出す。町の中には既にレイスたちが侵入して町の人たちに襲い掛かっており、家の中からは助けを求める悲痛な叫び声が聞こえてくる。
その声に一瞬立ち止まった伝令の男だったが、迷いを振り払うかのように頭を振ると駐屯地へと向けて走っていったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる