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動乱の故郷
第六章第45話 現れた上位種
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2021/12/12 誤字を修正しました
================
私たちは魔物を大量になぎ倒しながらかなり森の奥深くへとやってきた。おそらくチィーティェンでゴブリンを相手に夜中まで戦った時を超える量の魔物を倒したのではないかと思う。
流石に魔物の数も減ってきたし、何よりここに来て魔物の種類に変化が現れた。これまでは圧倒的にゴブリン、ビッグボアー、オーク、フォレストウルフ、ホーンラビットあたりが多かったのだが、ついにオーガの姿を見かけるようになったのだ。
「姉さまっ! あっちからおっきいのが来ますっ!」
耳を済ますとルーちゃんが指さした方向からドシンドシンと重たそうな足音が聞こえてくる。
なるほど。どうやらオーガよりも重たそうな足音だ。そして動きも随分と素早いらしい。
「ガァァァァ」
雄たけびを上げて巨大なオーガが 10 匹ほどのオーガを引き連れて現れた。この巨大なオーガは普通のオーガの 1.5 倍くらいの大きさだ。という事は大体 7 メートルくらいってとかな?
もう大きさがインフレしすぎてどれも大きいという感想にしかならない。
「あれが今回の魔物暴走の親玉ですかね?」
「かもしれません。オーガであの大きさですと、私も見るのは初めてなのですがグレートオーガという、オーガの上位種だと思われます」
クリスさんが冷静に分析する。
「グレートオーガだとゴブリンキングと同じ災厄級の魔物でござるか。ようやく骨のある相手が出てきたでござるな!」
そう言ってシズクさんがグレートオーガに突撃を仕掛ける。それに呼応するかのようにクリスさんも突撃し、ルーちゃんはマシロちゃんに指示を出して風の刃を飛ばす。
私の仕事は今のところ結界を維持したままとりあえずは見学だ。
一瞬にして間合いを詰めたシズクさんがグレートオーガの周りを固めるオーガの足をまるで豆腐でも斬るかのように切断し、地面に突っ伏したオーガの心臓にクリスさんが剣を突き立てて次々とトドメを刺していく。
マシロちゃんの風の刃はグレートオーガを襲い、その顔面に小さな傷をつけた。
「グガァァァァ」
怒ったグレートオーガが私たちの方へと向かって走り出した瞬間、シズクさんが一瞬のうちにグレートオーガの太い両足を切断した。突如として両足を失ったグレートオーガはバランスを失い、顔面から地面へと突っ伏した。そこにクリスさんが飛びかかり、体重を乗せてグレートオーガの心臓へと剣を突き立てる。血を吹き出したグレートオーガは苦悶の声を上げてピクリと痙攣し、そしてそのまま動かなくなったのだった。
あれ? あっという間に終わってしまった。
これは、災厄級(笑)ということで良いのだろうか?
「大したことなかったでござるな」
「ああ。だがグレートオーガはさすがに硬かったな」
「そうでござるな」
そ、そうだったんだ。何の問題もないように見えたけれど……
私たちはグレートオーガの死体を浄化し、そして浄化した魔石を取り出すと収納へとしまう。
「これで解決、ですかね?」
「姉さま、まだです。あっちの方にトレントの群れがいます。あれを倒さないと森が死んじゃいますっ」
やはりルーちゃんとしてはトレントを見過ごせないようだ。前も苦戦はしたが、火をつけるためのアルコールは持ってきているし、何とかなるな?
「じゃあ、トレントを駆除したら一度戻りましょうか」
「はい。それがよろしいかと思います」
「そうでござるな。きっとフィーネ殿は心配されているでござるよ?」
私たちはルーちゃんの案内でトレントの群れへと向かうのだった。
****
「この空き地は、一体何なんでしょうね?」
私たちの目の前には、ぽっかり開けた空き地が広がっている。下草もまるで丁寧に刈り取られたかのように地面がむき出しになっている。その空き地を挟んで反対側の森を少し入った場所にトレントたちの群れがいるのが見て取れる。何故森の中がよく見えるのかというと、トレントたちの周囲の森は枯れ果てているからだ。下草も枯れており、枯れた木々がまばらに立っているだけで、視界を遮るものはほとんどない。
これが、ルーちゃんの言っていた森が死ぬという事のようだ。
「何かの、儀式の跡、でござるか?」
シズクさんは空き地の中央を指さしてそう言った。空き地の中央にはあまり古いわけではなさそうな小さな祭壇のようなものがある。しかしそこには捧げ物があるわけでもないし、何か強い魔力を感じるわけでもない。
一体この祭壇は何なのだろうか?
「姉さま、それよりもトレントを」
私たちが謎の祭壇に気を取られていると、ルーちゃんが私たちを本来の目的に引き戻す。
「何だか、やたらと太いやつがいますね」
トレントたちは木々の更に向こう側にいるため、正確な数は分からないが結構な数がいるようで、ゆっくりとアイロールの町の方を目指して歩いている。
そして、そのトレントたちの中心に、やたらと太くて背の高いトレントがいるのだ。
「やはり、あれは……」
「エビルトレント、でござろうな……」
クリスさんとシズクさんはどうやら心当たりがあるようだ。ルーちゃんは憎々し気にトレントを睨みつけている。
「エビルトレントっていうのは何ですか? やっぱりトレントの上位種ですか?」
「その通りです。トレントの上位種で、これも災厄級の魔物です。トレント同様、引っこ抜いて魔石を取り出さなければならないので大変厄介ですが、トレント同様火属性魔法が弱点ですので、ここを突けば割と討伐しやすい部類なのですが……」
クリスさんはそう言ってちらりとシズクさんを見る。シズクさんはうっ、とたじろいで顔を伏せた。
「うーん、どうしましょう? あれだけ密集しているとちょっと面倒ですよね。ただのトレントだってこの間は手こずった訳ですし」
「でもっ、このまま増えたら森がっ」
「それにアイロールの町に眠り粉を撒かれるとかなり面倒なことになります」
なるほど。確かに森も町も大変なことになりそうな気はするが、今の私たちであれほどの数のトレントを倒せる気はしない。
私はちらりとシズクさんを見るが、シズクさんは首を横に振る。
「分かりました。撤退しましょう」
私たちとは相性が悪いし、町に戻れば火属性の魔法を使える魔術師もいるのだ。
わざわざ無茶をする必要はない。
そう考えた私は撤退を決断したのだった。
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私たちは魔物を大量になぎ倒しながらかなり森の奥深くへとやってきた。おそらくチィーティェンでゴブリンを相手に夜中まで戦った時を超える量の魔物を倒したのではないかと思う。
流石に魔物の数も減ってきたし、何よりここに来て魔物の種類に変化が現れた。これまでは圧倒的にゴブリン、ビッグボアー、オーク、フォレストウルフ、ホーンラビットあたりが多かったのだが、ついにオーガの姿を見かけるようになったのだ。
「姉さまっ! あっちからおっきいのが来ますっ!」
耳を済ますとルーちゃんが指さした方向からドシンドシンと重たそうな足音が聞こえてくる。
なるほど。どうやらオーガよりも重たそうな足音だ。そして動きも随分と素早いらしい。
「ガァァァァ」
雄たけびを上げて巨大なオーガが 10 匹ほどのオーガを引き連れて現れた。この巨大なオーガは普通のオーガの 1.5 倍くらいの大きさだ。という事は大体 7 メートルくらいってとかな?
もう大きさがインフレしすぎてどれも大きいという感想にしかならない。
「あれが今回の魔物暴走の親玉ですかね?」
「かもしれません。オーガであの大きさですと、私も見るのは初めてなのですがグレートオーガという、オーガの上位種だと思われます」
クリスさんが冷静に分析する。
「グレートオーガだとゴブリンキングと同じ災厄級の魔物でござるか。ようやく骨のある相手が出てきたでござるな!」
そう言ってシズクさんがグレートオーガに突撃を仕掛ける。それに呼応するかのようにクリスさんも突撃し、ルーちゃんはマシロちゃんに指示を出して風の刃を飛ばす。
私の仕事は今のところ結界を維持したままとりあえずは見学だ。
一瞬にして間合いを詰めたシズクさんがグレートオーガの周りを固めるオーガの足をまるで豆腐でも斬るかのように切断し、地面に突っ伏したオーガの心臓にクリスさんが剣を突き立てて次々とトドメを刺していく。
マシロちゃんの風の刃はグレートオーガを襲い、その顔面に小さな傷をつけた。
「グガァァァァ」
怒ったグレートオーガが私たちの方へと向かって走り出した瞬間、シズクさんが一瞬のうちにグレートオーガの太い両足を切断した。突如として両足を失ったグレートオーガはバランスを失い、顔面から地面へと突っ伏した。そこにクリスさんが飛びかかり、体重を乗せてグレートオーガの心臓へと剣を突き立てる。血を吹き出したグレートオーガは苦悶の声を上げてピクリと痙攣し、そしてそのまま動かなくなったのだった。
あれ? あっという間に終わってしまった。
これは、災厄級(笑)ということで良いのだろうか?
「大したことなかったでござるな」
「ああ。だがグレートオーガはさすがに硬かったな」
「そうでござるな」
そ、そうだったんだ。何の問題もないように見えたけれど……
私たちはグレートオーガの死体を浄化し、そして浄化した魔石を取り出すと収納へとしまう。
「これで解決、ですかね?」
「姉さま、まだです。あっちの方にトレントの群れがいます。あれを倒さないと森が死んじゃいますっ」
やはりルーちゃんとしてはトレントを見過ごせないようだ。前も苦戦はしたが、火をつけるためのアルコールは持ってきているし、何とかなるな?
「じゃあ、トレントを駆除したら一度戻りましょうか」
「はい。それがよろしいかと思います」
「そうでござるな。きっとフィーネ殿は心配されているでござるよ?」
私たちはルーちゃんの案内でトレントの群れへと向かうのだった。
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「この空き地は、一体何なんでしょうね?」
私たちの目の前には、ぽっかり開けた空き地が広がっている。下草もまるで丁寧に刈り取られたかのように地面がむき出しになっている。その空き地を挟んで反対側の森を少し入った場所にトレントたちの群れがいるのが見て取れる。何故森の中がよく見えるのかというと、トレントたちの周囲の森は枯れ果てているからだ。下草も枯れており、枯れた木々がまばらに立っているだけで、視界を遮るものはほとんどない。
これが、ルーちゃんの言っていた森が死ぬという事のようだ。
「何かの、儀式の跡、でござるか?」
シズクさんは空き地の中央を指さしてそう言った。空き地の中央にはあまり古いわけではなさそうな小さな祭壇のようなものがある。しかしそこには捧げ物があるわけでもないし、何か強い魔力を感じるわけでもない。
一体この祭壇は何なのだろうか?
「姉さま、それよりもトレントを」
私たちが謎の祭壇に気を取られていると、ルーちゃんが私たちを本来の目的に引き戻す。
「何だか、やたらと太いやつがいますね」
トレントたちは木々の更に向こう側にいるため、正確な数は分からないが結構な数がいるようで、ゆっくりとアイロールの町の方を目指して歩いている。
そして、そのトレントたちの中心に、やたらと太くて背の高いトレントがいるのだ。
「やはり、あれは……」
「エビルトレント、でござろうな……」
クリスさんとシズクさんはどうやら心当たりがあるようだ。ルーちゃんは憎々し気にトレントを睨みつけている。
「エビルトレントっていうのは何ですか? やっぱりトレントの上位種ですか?」
「その通りです。トレントの上位種で、これも災厄級の魔物です。トレント同様、引っこ抜いて魔石を取り出さなければならないので大変厄介ですが、トレント同様火属性魔法が弱点ですので、ここを突けば割と討伐しやすい部類なのですが……」
クリスさんはそう言ってちらりとシズクさんを見る。シズクさんはうっ、とたじろいで顔を伏せた。
「うーん、どうしましょう? あれだけ密集しているとちょっと面倒ですよね。ただのトレントだってこの間は手こずった訳ですし」
「でもっ、このまま増えたら森がっ」
「それにアイロールの町に眠り粉を撒かれるとかなり面倒なことになります」
なるほど。確かに森も町も大変なことになりそうな気はするが、今の私たちであれほどの数のトレントを倒せる気はしない。
私はちらりとシズクさんを見るが、シズクさんは首を横に振る。
「分かりました。撤退しましょう」
私たちとは相性が悪いし、町に戻れば火属性の魔法を使える魔術師もいるのだ。
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