勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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砂漠の国

第七章第33話 交渉

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「おお、聖女様! ご無事で何よりです。穢れの民のところへ向かわれたと聞いて肝を冷やしましたぞ」

私たちがヒラールさんと面会すると開口一番、こんなことを言われた。

「いえ。彼らも普通の人間ですから特に危険なこともありませんでしたよ」
「……いくら穢れの民といえども聖女様に手出しをすることなどできなかったという事でしょうな。もし一般市民が立ち入れば身ぐるみはがれてしまう危険な場所です。本当にご無事で何よりでした」

これは……もしかして私の事を本気で心配していたんだろうか?

それにもしそんな危険地帯だったとしても、そうさせているのがこの町の人達なのではないだろうか?

そんな思いをぐっと飲み込むと私はヒラールさんに話を切り出す。

「そんな事よりも、お願いがあります。あの地域はあまりにも衛生環境が悪すぎました。私もできる範囲では洗浄魔法で綺麗にしてきましたが、他に同じような区画があるならきちんと予算をかけて掃除をしてあげてください。放っておくと、あのような場所から疫病が発生するかもしれません」
「おお、左様ですか。それでは、早速焼き払うように手配いたしましょう」
「え?」
「え?」

ダメだ。本当に話が通じない。

「違います。そんなことをしたら死者や怪我人がでてしまうじゃないですか。それに、ただでさえ苦しい生活をしている彼らを殺す気ですか?」
「え? ですが掃除をしろとおっしゃたではありませんか」
「そういう意味ではありません! どうして同じ人間に対してそんな酷いことができるんですか……」

どうしよう。何だか話をしていて悲しくなってきてしまった。

「聖女様。わたしがお話してもよろしいでしょうか?」

俯く私を見かねたのか、サラさんが助けに入ってきてくれた。

「はい。お願いします」

私は何とかその言葉を絞り出した。

「はい。それでは、ヒラール首長。これからは聖女フィーネ・アルジェンタータ様に代わり、ブラックレインボー帝国第一皇女サラ・ブラックレインボーがお話させて頂きます」
「え?」

そう言ってヒラールさんが私を見たので私は頷いて肯定の意を示す。

「かしこまりました。皇女殿下、お話を伺いましょう」
「はい。わたしは現在、故あって聖女様の旅に同行させていただいておりますが、そう遠くないうちに故国に戻ります。その際、貴国で厄介者となっているルマ人、いえ、穢れの民の皆さんを我が国で引き取りたく思っております」
「なっ? そのようなことをしては貴国に穢れが持ち込まれてしまいますぞ? 折角我々で穢れを管理しているというのに」
「構いません。これも聖女様の慈愛に導かれてのこと。きっとこれも神のおぼし召しなのでしょう」
「……では、移送費用もそちらで持ってくれると?」
「お約束いたします」
「なるほど……しかし貴国に移民する者を養うには我が国の資源は十分ではありませんからなぁ」
「……聖女様、よろしいでしょうか?」
「はい?」
「彼らを養うための費用を出せ、と言われているでござるよ」

思わず聞き返した私にシズクさんが助け船を出してくれた。

「私に出せる範囲でしたら」

それを聞いたヒラールさんは満面の笑みを浮かべる。

「ははは。さすがは聖女様でらっしゃいますな。あのような穢れた者どもを助けるために私財をなげうつとは。このヒラール、感銘を受けましたぞ」

いやはや。ホント清々しいまでのクズだ。

「それでは殿下。いつ頃引き取って頂けるので?」
「そう、ですね。国に戻り準備を整える必要があるのでまだはっきりとは申し上げられませんが、来年中には必ずや」
「左様でございますか。それでは聖女様。あの者どもを養う費用として、金貨 3,000 枚ほど頂けますか?」
「その前に、一体何人いるでござるか? そのお金は何に使われるでござるか」

そう言うとヒラールさんは小さく舌打ちをした。

「そうですな。食料の提供に使いましょう。人数ははっきりとは分かっておりません。なにしろあの者どもは勝手に繁殖しますからな」

繁殖って! 言い方というものがあるだろうに。

「わかりました。では、まず昨日のルマ人たちのところに行って希望する人数を聞いてきます。話はそれからで良いですか?」
「もちろんでございます」

こうして何とかルマ人の移住について合意を取り付けた私たちは、再び彼らの居住区画へと足を運んだのだった。
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