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砂漠の国
第七章第38話 血塗られた歴史
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広い宮殿内で完全に迷子になった私たちはサラさんの占いで行く道を決めたのだが、何故かもう長らく使われていないであろう地下牢に辿りついてしまった。
「うーん、どうしてこんな場所に出てしまったんでしょうね?」
「でも姉さま。兵士たちには見つかっていないですよ?」
「そうれはそうなんですけど……」
鉄格子も錆びてボロボロになっており、牢屋の中にも動く者は誰もいない。亡くなってからかなりの時間が経っているであろう白骨死体があちこちに転がっている。
「酷いですね。葬送」
私はそれぞれの白骨死体を全て送ってあげる。
「あとは、あの一番奥の厳重な扉のところだけですね」
「フィーネ様。お任せください」
クリスさんがそう言って鉄の扉を斬り捨てた。ガランガランと大きな音を響かせて扉は崩れ落ちる。
私たちが中に入るとそこには粗末な貫頭衣を着た男性の姿があった。
いや、違う。人の形をしているがその体はうっすらと半透明で向こう側の壁が透けて見える。これは、幽霊だ。
そして彼は拷問でもされたのだろうか? 体中に痛々しい傷痕が残っている。
「うっ!」
クリスさんがうめき声をあげるが、以前のように取り乱すことはない。どうやらエタなんとかという技で斬れるようになった事もあり徐々に苦手を克服しつつあるらしい。
「こんにちは」
私はその幽霊に声をかける。しかし私の声に反応しない。
うーん、サラさんが見ているけどまあいいか。
──── 【闇属性魔法】でこの男性を正気に戻して話せるように
ほとんど見えないけれど、僅かな闇の魔力がこの男性の幽霊に吸い込まれていく。
「う、く、よくもルマの同胞を……」
「こんにちは。あなたはルマ人なのですか?」
「え? な? え? 貴女様はもしや……聖女、様?」
「ええと、はい。一応そう呼ばれていますね」
「おおお。遂に探し求めていた聖女様にお会いできた! 私の名はバルトロ。聖剣ルフィカールに選ばれし聖騎士です。聖女様。どうか私に貴女様のお名前を教えては頂けませんか?」
「フィーネ・アルジェンタータです」
「おお! 聖女フィーネ様! どうか私に、貴女様に剣を捧げることをお許しください」
ああ、そうか。この人はまだ自分が死んだことを理解できていないんだ。ただ、聖剣に選ばれるだけあって強靭で高潔な精神を持っていたのだろう。そのおかげで悪霊にならずにすんだのかもしれないが、ここはやはりきちんと送ってあげるべきだろう。
「バルトロさん。すみません。今日、聖剣ルフィカールを手に持ちましたがどうやら聖剣はその力を失っているようなのです。それに――」
「何をおっしゃいますか。聖女フィーネ様、今貴女様が腰に佩いていらっしゃるその剣こそが我が聖剣ルフィカールです」
「はい? ということは、あの剣は偽物で本物の聖剣を封印した?」
「おお、奴らはその様な事をしていたのですか! ルマの民を虐殺し、私から聖剣を奪うだけでは飽き足らずそのような神に背く非道な行いを!」
「奴ら、とは誰の事ですか?」
「え? 何を仰っているのですか? 砂漠の民エイブラ族に決まっているではありませんか。奴らは卑劣にも我々ルマの民を騙して女子供を人質にし、多くの男達を殺して土地を奪ったのです。あれほどの血が流れた惨劇をお忘れですか!?」
バルトロさんは怒りに震えた様子だ。だが、これはきっとバルトロさんが生きていた時代に起こったことなのだろう。
「クリスさん。そのような事があったのですか?」
「私も存じ上げておりません。ただ、イエロープラネット首長国連邦が成立したのは今からおよそ 100 年前の事です。その際には様々な部族間での争いがあったとは聞いていますが詳しい事までは……」
「という事は、100 年前にエイブラ族がルマ人達の土地を奪ってここに定住したせいでルマ人たちは住む土地を失った、ということですか。そして 60 年前にはルマ人たちを根絶しようとして穢れの民などというものを作った、ということですかね」
「おそらくは……」
なるほど。だからあの人たちはルマ人たちをあそこまで敵視しているのか。そして自分達の後ろ暗い歴史を消すために民族浄化をしている、と。
「バルトロさん。お怒りは分かりますが、バルトロさんはもう神の御許に召される時です」
「え? ……な、何を? 私はまだ戦えます! 聖女様をお守りし、ルマの民の希望となるためにずっと耐えてきたのです!」
「バルトロさん……」
「私は! 私は! お、おおぉぉぉぉぉぉ!」
半透明のバルトロさんに僅かに黒い靄が纏わりついてきた。
ああ、これは多分私たちのせいでエイブラ族に対する怒りを思い出し、そのせいで悪霊になりかけているんだろう。
せめてそうなる前にきちんと送ってあげよう。
「鎮静」
「あ、あ、ア、ア。せい、じょ、ふぃーね、さま……」
どうにか落ち着いてくれたようだ。それにバルトロさんの意識はまだあるようだ。
「バルトロさん。貴方の想いは私が受け継ぎ、ルマの民は私が救います。ですからどうか、どうか安らかに眠ってください」
私はそういうと跪いて祈りの姿勢を取る。
「偉大なる聖騎士バルトロよ。我、フィーネ・アルジェンタータの名においてその高潔なる御霊を天に送らん。汝に聖なる祝福と安らぎが与えられんことを」
そして、バルトロさんの魂が救われ、安らかに眠れることを強く願い、葬送魔法を発動する。
「ふぃー、ね、さ……お、お、ぉ……か……」
最後に何を言おうとしたのかは分からなかったが、私が最後に見たバルトロさんの目からは涙がこぼれていたような気がした。
「うーん、どうしてこんな場所に出てしまったんでしょうね?」
「でも姉さま。兵士たちには見つかっていないですよ?」
「そうれはそうなんですけど……」
鉄格子も錆びてボロボロになっており、牢屋の中にも動く者は誰もいない。亡くなってからかなりの時間が経っているであろう白骨死体があちこちに転がっている。
「酷いですね。葬送」
私はそれぞれの白骨死体を全て送ってあげる。
「あとは、あの一番奥の厳重な扉のところだけですね」
「フィーネ様。お任せください」
クリスさんがそう言って鉄の扉を斬り捨てた。ガランガランと大きな音を響かせて扉は崩れ落ちる。
私たちが中に入るとそこには粗末な貫頭衣を着た男性の姿があった。
いや、違う。人の形をしているがその体はうっすらと半透明で向こう側の壁が透けて見える。これは、幽霊だ。
そして彼は拷問でもされたのだろうか? 体中に痛々しい傷痕が残っている。
「うっ!」
クリスさんがうめき声をあげるが、以前のように取り乱すことはない。どうやらエタなんとかという技で斬れるようになった事もあり徐々に苦手を克服しつつあるらしい。
「こんにちは」
私はその幽霊に声をかける。しかし私の声に反応しない。
うーん、サラさんが見ているけどまあいいか。
──── 【闇属性魔法】でこの男性を正気に戻して話せるように
ほとんど見えないけれど、僅かな闇の魔力がこの男性の幽霊に吸い込まれていく。
「う、く、よくもルマの同胞を……」
「こんにちは。あなたはルマ人なのですか?」
「え? な? え? 貴女様はもしや……聖女、様?」
「ええと、はい。一応そう呼ばれていますね」
「おおお。遂に探し求めていた聖女様にお会いできた! 私の名はバルトロ。聖剣ルフィカールに選ばれし聖騎士です。聖女様。どうか私に貴女様のお名前を教えては頂けませんか?」
「フィーネ・アルジェンタータです」
「おお! 聖女フィーネ様! どうか私に、貴女様に剣を捧げることをお許しください」
ああ、そうか。この人はまだ自分が死んだことを理解できていないんだ。ただ、聖剣に選ばれるだけあって強靭で高潔な精神を持っていたのだろう。そのおかげで悪霊にならずにすんだのかもしれないが、ここはやはりきちんと送ってあげるべきだろう。
「バルトロさん。すみません。今日、聖剣ルフィカールを手に持ちましたがどうやら聖剣はその力を失っているようなのです。それに――」
「何をおっしゃいますか。聖女フィーネ様、今貴女様が腰に佩いていらっしゃるその剣こそが我が聖剣ルフィカールです」
「はい? ということは、あの剣は偽物で本物の聖剣を封印した?」
「おお、奴らはその様な事をしていたのですか! ルマの民を虐殺し、私から聖剣を奪うだけでは飽き足らずそのような神に背く非道な行いを!」
「奴ら、とは誰の事ですか?」
「え? 何を仰っているのですか? 砂漠の民エイブラ族に決まっているではありませんか。奴らは卑劣にも我々ルマの民を騙して女子供を人質にし、多くの男達を殺して土地を奪ったのです。あれほどの血が流れた惨劇をお忘れですか!?」
バルトロさんは怒りに震えた様子だ。だが、これはきっとバルトロさんが生きていた時代に起こったことなのだろう。
「クリスさん。そのような事があったのですか?」
「私も存じ上げておりません。ただ、イエロープラネット首長国連邦が成立したのは今からおよそ 100 年前の事です。その際には様々な部族間での争いがあったとは聞いていますが詳しい事までは……」
「という事は、100 年前にエイブラ族がルマ人達の土地を奪ってここに定住したせいでルマ人たちは住む土地を失った、ということですか。そして 60 年前にはルマ人たちを根絶しようとして穢れの民などというものを作った、ということですかね」
「おそらくは……」
なるほど。だからあの人たちはルマ人たちをあそこまで敵視しているのか。そして自分達の後ろ暗い歴史を消すために民族浄化をしている、と。
「バルトロさん。お怒りは分かりますが、バルトロさんはもう神の御許に召される時です」
「え? ……な、何を? 私はまだ戦えます! 聖女様をお守りし、ルマの民の希望となるためにずっと耐えてきたのです!」
「バルトロさん……」
「私は! 私は! お、おおぉぉぉぉぉぉ!」
半透明のバルトロさんに僅かに黒い靄が纏わりついてきた。
ああ、これは多分私たちのせいでエイブラ族に対する怒りを思い出し、そのせいで悪霊になりかけているんだろう。
せめてそうなる前にきちんと送ってあげよう。
「鎮静」
「あ、あ、ア、ア。せい、じょ、ふぃーね、さま……」
どうにか落ち着いてくれたようだ。それにバルトロさんの意識はまだあるようだ。
「バルトロさん。貴方の想いは私が受け継ぎ、ルマの民は私が救います。ですからどうか、どうか安らかに眠ってください」
私はそういうと跪いて祈りの姿勢を取る。
「偉大なる聖騎士バルトロよ。我、フィーネ・アルジェンタータの名においてその高潔なる御霊を天に送らん。汝に聖なる祝福と安らぎが与えられんことを」
そして、バルトロさんの魂が救われ、安らかに眠れることを強く願い、葬送魔法を発動する。
「ふぃー、ね、さ……お、お、ぉ……か……」
最後に何を言おうとしたのかは分からなかったが、私が最後に見たバルトロさんの目からは涙がこぼれていたような気がした。
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