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砂漠の国
第七章第41話 包囲
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およそ一週間ほどかけて砂漠を横断し、イザールの町が見えてきた。国境の港町にも関わらず小さな港町であるというのは変わっていないが、一つだけ大きく変わったところがある。
そう、町の外に兵士たちがずらりと並んでいるのだ。
「止まれ! そこの穢れの民とそれに与する偽聖女よ!」
そう大声で叫んだのはイザール首長のカミルさんで、その隣には護衛をしてくれたナヒドさんが立っている。
「はあ。ここの人たちもそうですか」
「フィーネ様に命を救われた者も多いというのに何と恩知らずな!」
「フィーネ殿、後ろも来たでござるよ。いよいよ腹を括る時かもしれないでござるな」
ルーちゃんも弓を手にして臨戦態勢だ。左側は海に面した崖、正面にはイザールの兵士たち、後ろにはエイブラから追いかけてきた兵士たちだ。右側は砂漠だがすぐに囲まれてしまうだろう。
「くっ。結界」
私はとりあえず、ルマ人たちを守るための結界を張る。じわじわと前後の兵士たちが距離を詰めてきて、そしてついには私たちは完全に囲まれてしまった。
「さあ、もう逃げ場はない! そのまま武器を捨てて投降しろ!」
「カミルさん。あなたもルマ人を穢れの民と呼びますか!」
「黙れ! この偽聖女が! 聖剣ルフィカールに否定された者が聖女などと! よくも騙してくれたな!」
いや、その聖剣ルフィカールは今私の腰にあるわけなんだがね。
このルフィカールは収納に入れることができなかっただけでなく、他の聖剣と同じように私以外は誰も持つことができなかったのだ。なので、明らかに宝の持ち腐れではあるがこうして私が持ち歩いているのだ。
「さあ、この結界を解け! イザールにいる穢れの民がどうなっても良いのか?」
あの、それって完全に悪役のセリフじゃないですかね?
それに結界を解けば私たちを信じて集まってくれた 2,000 人以上のルマ人たちに未来はないはずだ。
最悪、私の目の前で虐殺されるなんてこともあり得るだろう。
ああ、何というか、うん。どうして私はこんな人達を助けなきゃいけないんだろうか?
「もう、仕方ないですかね……」
私が腹を括ろうとしたその時だった。突如、イザールの町から火の手が上がった。
「な、何事だ!」
「大変でございます! ホワイトムーンの奴らが穢れの民と手を組んで町で暴れ回っております」
「何だと!? あれほどきっちり監視をつけておけと!」
「それが、ホワイトムーンの奴ら、追加で軍艦を派遣してきやがったんです!」
「何? 奴ら、戦争をする気か? ええい。迎え撃て!」
「で、ですが! 町の混乱の収集が!」
「仕方ない! ナヒド! 町の混乱を収めてこい!」
「ははっ」
ナヒドさんはそう言うと一部の部隊を連れて町へと向かって行った。
「どういう事でござるか?」
「恐らくイエロープラネットの各地に潜んでいた我が国の密偵たちが今回の事を察知し、秘密裏に増援を呼んでくれたのだろう。そうであるならばルマ人たちを輸送する船も手配されているはずだ」
おお、すごい。ホワイトムーン王国の密偵は優秀だ。
「ということは、この囲みを突破して港に辿りつければ良いんですよね?」
「そうですが、この人数で行くとなると」
確かにそれはそうだ。しかも今、町の中は大混乱だそうだし……。
そう思案して周囲を見渡した私の目に、洋上に浮かぶホワイトムーン王国の旗を掲げた船の姿が飛び込んできた。
そうだ! 良いことを思いついた!
「フィーネ様? どうされましたか?」
「あの、ここにいる人たちをその輸送する船に移動させたいんですけど、どれがその船だか分かりませんか?」
「え? ここからですか? 一体どうやって?」
「はい。空に橋をかけてその上を歩いてもらえばいいと思うんです」
「え?」
「どういうことでござるか?」
「ええとですね。今私たちは少し高い場所にいるじゃないですか。だからここから船の場所まで防壁を足場になるように思い切り伸ばして作って、その上を歩いてもらえば良いんじゃないかと思いまして」
確か前の世界で偉い人は海を割って道を作ったはずだ。私には海をどうやったら割れるのかは分からないが、橋を架けることくらいならできるはずだ。
「そのような長さの防壁が作れるのですか?」
「はい。多分、あそこの沖に浮かんでいる船くらいまでなら届くと思うんです」
「あの距離でござるか? ああ、確かによく見ればホワイトムーン王国の旗を掲げてはいるでござるが……」
「どうせここで守っていたってらちが明かないと思います。なのでクリスさん。あの船まで伝言をお願いできますか?」
「かしこまりました。シズク殿、ルミア、フィーネ様を頼むぞ」
「もちろんでござる」
「任せてください」
「それじゃあ、防壁!」
私は思い切り長い防壁を作って道を作る。目に見えない透明の道だというのにクリスさんは何の疑いもなく走っていく。
「なっ!? 空を人が走っているだと!?」
私たちを取り囲んでいる兵士たちからも驚きの声が上がった。
「な、何をしているか! 撃ち落とせ」
カミルさんの怒声に我に返った兵士たちが弓を番えるが、次の瞬間シズクさんによって弓を破壊され、そして瞬く間に昏倒する。
「させないでござるよ。それに人質のルマ人たちが町で戦っているのなら遠慮する理由はないでござるからな」
そう言って暴れるシズクさんに兵士たちが気を取られている間にクリスさんの姿は豆粒のように小さくなったのだった。
そう、町の外に兵士たちがずらりと並んでいるのだ。
「止まれ! そこの穢れの民とそれに与する偽聖女よ!」
そう大声で叫んだのはイザール首長のカミルさんで、その隣には護衛をしてくれたナヒドさんが立っている。
「はあ。ここの人たちもそうですか」
「フィーネ様に命を救われた者も多いというのに何と恩知らずな!」
「フィーネ殿、後ろも来たでござるよ。いよいよ腹を括る時かもしれないでござるな」
ルーちゃんも弓を手にして臨戦態勢だ。左側は海に面した崖、正面にはイザールの兵士たち、後ろにはエイブラから追いかけてきた兵士たちだ。右側は砂漠だがすぐに囲まれてしまうだろう。
「くっ。結界」
私はとりあえず、ルマ人たちを守るための結界を張る。じわじわと前後の兵士たちが距離を詰めてきて、そしてついには私たちは完全に囲まれてしまった。
「さあ、もう逃げ場はない! そのまま武器を捨てて投降しろ!」
「カミルさん。あなたもルマ人を穢れの民と呼びますか!」
「黙れ! この偽聖女が! 聖剣ルフィカールに否定された者が聖女などと! よくも騙してくれたな!」
いや、その聖剣ルフィカールは今私の腰にあるわけなんだがね。
このルフィカールは収納に入れることができなかっただけでなく、他の聖剣と同じように私以外は誰も持つことができなかったのだ。なので、明らかに宝の持ち腐れではあるがこうして私が持ち歩いているのだ。
「さあ、この結界を解け! イザールにいる穢れの民がどうなっても良いのか?」
あの、それって完全に悪役のセリフじゃないですかね?
それに結界を解けば私たちを信じて集まってくれた 2,000 人以上のルマ人たちに未来はないはずだ。
最悪、私の目の前で虐殺されるなんてこともあり得るだろう。
ああ、何というか、うん。どうして私はこんな人達を助けなきゃいけないんだろうか?
「もう、仕方ないですかね……」
私が腹を括ろうとしたその時だった。突如、イザールの町から火の手が上がった。
「な、何事だ!」
「大変でございます! ホワイトムーンの奴らが穢れの民と手を組んで町で暴れ回っております」
「何だと!? あれほどきっちり監視をつけておけと!」
「それが、ホワイトムーンの奴ら、追加で軍艦を派遣してきやがったんです!」
「何? 奴ら、戦争をする気か? ええい。迎え撃て!」
「で、ですが! 町の混乱の収集が!」
「仕方ない! ナヒド! 町の混乱を収めてこい!」
「ははっ」
ナヒドさんはそう言うと一部の部隊を連れて町へと向かって行った。
「どういう事でござるか?」
「恐らくイエロープラネットの各地に潜んでいた我が国の密偵たちが今回の事を察知し、秘密裏に増援を呼んでくれたのだろう。そうであるならばルマ人たちを輸送する船も手配されているはずだ」
おお、すごい。ホワイトムーン王国の密偵は優秀だ。
「ということは、この囲みを突破して港に辿りつければ良いんですよね?」
「そうですが、この人数で行くとなると」
確かにそれはそうだ。しかも今、町の中は大混乱だそうだし……。
そう思案して周囲を見渡した私の目に、洋上に浮かぶホワイトムーン王国の旗を掲げた船の姿が飛び込んできた。
そうだ! 良いことを思いついた!
「フィーネ様? どうされましたか?」
「あの、ここにいる人たちをその輸送する船に移動させたいんですけど、どれがその船だか分かりませんか?」
「え? ここからですか? 一体どうやって?」
「はい。空に橋をかけてその上を歩いてもらえばいいと思うんです」
「え?」
「どういうことでござるか?」
「ええとですね。今私たちは少し高い場所にいるじゃないですか。だからここから船の場所まで防壁を足場になるように思い切り伸ばして作って、その上を歩いてもらえば良いんじゃないかと思いまして」
確か前の世界で偉い人は海を割って道を作ったはずだ。私には海をどうやったら割れるのかは分からないが、橋を架けることくらいならできるはずだ。
「そのような長さの防壁が作れるのですか?」
「はい。多分、あそこの沖に浮かんでいる船くらいまでなら届くと思うんです」
「あの距離でござるか? ああ、確かによく見ればホワイトムーン王国の旗を掲げてはいるでござるが……」
「どうせここで守っていたってらちが明かないと思います。なのでクリスさん。あの船まで伝言をお願いできますか?」
「かしこまりました。シズク殿、ルミア、フィーネ様を頼むぞ」
「もちろんでござる」
「任せてください」
「それじゃあ、防壁!」
私は思い切り長い防壁を作って道を作る。目に見えない透明の道だというのにクリスさんは何の疑いもなく走っていく。
「なっ!? 空を人が走っているだと!?」
私たちを取り囲んでいる兵士たちからも驚きの声が上がった。
「な、何をしているか! 撃ち落とせ」
カミルさんの怒声に我に返った兵士たちが弓を番えるが、次の瞬間シズクさんによって弓を破壊され、そして瞬く間に昏倒する。
「させないでござるよ。それに人質のルマ人たちが町で戦っているのなら遠慮する理由はないでござるからな」
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