勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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砂漠の国

第七章最終話 出港

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「フィーネ様。全員無事に船に乗り込みました」

ルマ人たちが渡り終えたのを確認したクリスさんがそう報告しに戻ってきてくれた。

「クリスさん、ありがとうございます。あとは、町の中の人達の救出ですね」
「はい。しかし、あれは一体何ごとですか?」

クリスさんがビタンとなって祈りの言葉を唱え続けている兵士たちを見て怪訝そうな表情を浮かべている。

「ええと、実は――」

私がかいつまんで説明すると、クリスさんは「やはりそうですか」と嬉しそうに答えたのだった。

そんな私たちの様子に焦っているのか、カミルさんが大声で周りの兵士を怒鳴りつける。

「え、ええい! 何をしているか! 偽聖女に祈るなど!」

そんなカミルさんの前にクリスさんが近寄る。

「イエロープラネット首長国連邦イザールの首長カミル殿。私はホワイトムーン王国近衛騎士団特務隊所属、聖騎士クリスティーナだ」

それから一呼吸おくとはっきりと通る声で宣言した。

「我々ホワイトムーン王国は、我が国の特使にして聖女であらせられるフィーネ・アルジェンタータ様に対して行った貴国の暴挙に断固抗議をする。貴国のその行いは我が国と貴国の信頼関係を破壊するだけでなく、世界聖女保護協定にも完全に違反している。誠意ある対応を頂けない場合、我々はあらゆる手段を取る用意があることをここに通告する!」

あらゆる手段という事は、戦争も辞さないということだろう。

「な? わ、我々を脅す気か?」
「カミル殿。どう取って頂いても構わないが、貴殿と貴国の態度次第では取り返しのつかない事態になるという事は認識すべきだ」
「何?」
「既にホワイトムーン王国は世界聖女保護協定加盟各国に対して貴国の行いを告発する使者を送った」
「な、何だと? だが、こ奴は偽聖女ではないか! 我が国の聖剣ルフィカールに拒絶されたならこ奴は聖女ではない!」

そう言い募るカミルさんにクリスさんは一つため息をついた。そして反論するために口を開くが、その口調はあきれ果てているのか諭す様なものへと変わっている。

「それは貴国の認識が間違っているのですよ。聖剣が聖騎士を選び、その聖騎士が聖剣によって聖女のもとへと導くのです。この事は世界聖女保護協定にも明記されております」
「違うっ! 我が国では!」
「エイブラの宮殿の地下に【闇属性魔法】にて封じられていた聖剣ルフィカールはフィーネ様のお力により解放されました。そしてそれは世界聖女保護協定の規定に基づき、聖女であるフィーネ様が押収されました」
「え?」
「そしてエイブラ族が聖剣ルフィカールに選ばれし聖騎士バルトロとその同胞であるルマ人たちに行った非道な行為も既にフィーネ様のお耳に入っています」
「な? ど、どうしてそれを……」

カミルさんの顔がさっと青ざめた。どうやらようやく事の重大さを理解したようだ。

「な、ならばここで!」
「既にこの話は我が国の伝令の手によって本国へと運ばれています。ここで我々を始末しようなどと考えてもそれは無駄なことです」

クリスさんはぴしゃりとカミルさんの反論を止める。

「う、ぐぬぬぬ。がっ」

唸っているカミルさんをイザールの町から戻ってきたナヒドさんが後ろからいきなり殴りつけた。

「聖女フィーネ・アルジェンタータ様、そして聖騎士と従者の皆様、大変失礼致しました。我々イザール守備隊は聖女様に従います。どうぞ、イザールへとお入りください」
「ば、何を勝手なぐはっ」

なおも言い募ろうとしたカミルさんを再びナヒドさんが殴りつけたのだった。

****

それから私たちはイザールの町に入り、そのままキング・ホワイトムーン号に乗り込んだ。また、イザールのルマ人たちは別のホワイトムーン王国の輸送船に全員乗り込んで脱出済みだ。

なんでも、私たちの乗るこのキング・ホワイトムーン号は特別な船であり、王族や聖女、そして許可された関係者以外は乗せられない決まりになっているらしい。本来、サラさんも身元が確認されていないので本当は乗せてはいけないそうなのだが、私がサラさんを他国の皇族と認めたということで特別に許可されたそうだ。

そして、私たちが保護したルマ人たちを運ぶために用意された輸送船はなんと 20 隻だ。

この町でも数百人のルマ人たちが追加されたため、一隻に 150 人近い人を押し込む形となってしまった。

そのため快適な旅とは行かないだろうが、それでもホワイトムーン王国はブラックレインボー帝国との戦争で苦しい中かなりの戦力を割いて私たちを助けてくれたことになる。

国王様にはあとでちゃんとお礼を言っておかないとね。

私は船の甲板で次第に遠くなっていくイエロープラネットの黄色い大地を眺める。

「フィーネ様。どうされましたか?」
「いえ。私のしたことは正しかったのかな、と急に不安になったんです。町に残ったルマの人たちはきっともっと酷い目に合いますよね? だったら全員無理矢理にでも連れてきた方が……」
「フィーネ様。もしそうしていたらダルハからルマ人を連れ出すことはできなかったでしょう。そう思ったからこそ、彼らは残ることを選んだのです。そんな彼らの想いを繋いでいくことが、私たちと、そして何より生き残ったルマ人たちの使命です」
「そう、かもしれませんね」

そう言われてもこの胸のモヤモヤは晴れることは無い。もしかしたら、これからずっと背負っていくべきことなのかもしれない。

「フィーネ様は 3,000 人近い虐げられた者たちを救ったのです。もっと胸を張ってください」

顔を上げると何かの海鳥が飛んでいるのが見える。そして視線を下ろすと冬の弱い日差しが波間に反射しキラキラとまるで宝石のように輝いている。

「そう、ですね……」

そう答えた私たちの間を冬の冷たい風が通り過ぎていったのだった。
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