勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
348 / 625
黒き野望

第八章第17話 進化の秘術

しおりを挟む
それから私たちはウルバノ将軍が落ち着くのを待ってサラさんを呼び戻し、ウルバノ将軍経由でサラさんに掛けられた呪いも解いてあげた。

「サラ様。申し訳ございません。私は……!」

ウルバノ将軍が涙ながらにサラさんに謝罪をして、サラさんもそれに安堵したような表情を浮かべている。

うん。良かった。サラさんもこの将軍のことを悪く思っていないみたいだしね。

「サラ様、私の知る限りの全てをお話いたします」

そうしてウルバノ将軍はゆっくりと内部の事情を語り始めた。

「アルフォンソ様は『進化の秘術』と呼ばれる謎の術を用いて人間をあの得体のしれない何かへと進化させているのです」
「進化? あれがですか?」
「はい。アルフォンソ様は『進化した』と仰っていました」

あんなのはとても進化したようには見えないけれど……。

「そうして兵となったあれの事を我が軍では黒兵と呼んでおります」
「黒兵……」
「アルフォンソ様は先帝陛下を弑逆しいぎゃくしたのち、サラ様をベレナンデウアへと逃したサカリアス大将軍をも殺害しました」
「そんな! サカリアスがお兄さま、いえ、愚兄に遅れを取るなど!」

顔を青くしてそう叫んだサラさんにウルバノ将軍は首を横に振った。

「サカリアス大将軍は確かに一太刀入れ、アルフォンソ様をお止めしたのです。ですが、どうやらアルフォンソ様はご自身にも『進化の秘術』を用いており、殺すことができなかったのです」
「え?」
「サカリアス大将軍は何度斬っても死なぬ黒兵とアルフォンソ様を前に力尽き、そして最後は黒兵へと改造されました」
「そんな! ではサカリアスは!」
「あの中に混ざっていたかもしれません」
「ああっ!」

サラさんはあまりのショックに顔を覆ってしまう。

「拙者からも質問があるでござる。ウルバノ将軍はどうやってあの死なない兵を従えていたのでござるか?」
「黒兵が私の命令に従うのはアルフォンソ様がその様に命じているからで、私が裏切ればすぐに私を殺しにかかっていたはずです」
「なるほど。ではもう一つ。今まで戦ってきた死なない兵にはまともな理性がある様には見えなかったでござるが、アルフォンソは国を治めているでござるな。どうしてアルフォンソには理性が残っているでござるか?」
「わかりません。なぜアルフォンソ様が正気を保ち、他の者たちが正気を無くしてアルフォンソ様の命令に従う人形のような存在に成り果てたのかは分かりません。恐らくは術者であれば問題ない、ということなのではないかと思いますが……」
「ウルバノ! その秘術を掛けられたものを元に戻すことはできないのですか!?」

サラさんの問いにウルバノ将軍は首を横に振る。

「『進化の秘術』を解除する術は存在しないとアルフォンソ様ご自身が仰っておりました。ただ……」
「ただ?」
「まだ研究途中でもある、とも」
「……そう、ですか」

そう言って顔を伏せたサラさんはすぐにハッとした表情になる。

「研究途中という事は、もしや若い男ばかりを連れ去っているのは!?」
「はい。実験材料とするためです。そして国内では数が不足してきたため友好国であったホワイトムーン王国に兵を差し向けたのです」
「え? じゃああの侵略は人体実験をするため?」
「そんな! それじゃあユーグさんは!」
「ユーグ? それはもしやホワイトムーン王国の聖騎士殿の事ですか?」
「知っているんですか!?」

私は思わず大きな声を出してしまった。

「はい。力があり聖剣に認められた意志の強い実験材料が手に入ったとアルフォンソ様が……」
「なんてことを!」

私は怒りのあまり手を強く握りこみ、そして唇を噛んだ。

「フィーネ様……」

そんな私をクリスさんがそっと労ってくれたのだった。

****

それからもウルバノ将軍に色々と話を聞いたが、どうやらブラックレインボー帝国内をほぼ手中に収めたアルフォンソの一番の興味は『進化の秘術』の完成らしい。

ホワイトムーン王国を占領して実験材料を確保する予定だったらしいのが、私たちに撃退されたことで計画が狂っているのだそうだ。

ちなみに若い男性ばかりが実験材料として選ばれているのにもいくつか理由があり、その中でも一番の理由は若い男性が兵士として戦わせたときにもっとも強力だったからなのだそうだ。

また、女性を残しているのは子供を生ませて次の実験材料を確保するためらしい。

いや、もう。何と言うか。どう考えても頭がおかしい。

アルフォンソにとって人間は単なるモルモットか何かと同じ扱いなのだろうか?

そして一体何をどうすればこんな高慢な考え方ができるようになるのだろうか?

それから何よりもまずいのはユーグさんだ。

その秘術とやらはどのくらいの期間で人間を黒兵にすることができるのかは分からないが、元に戻す方法が無いとなるともう残された時間は僅かかもしれない。

「クリスさん、シズクさん、急いでシャルと合流しましょう」
「はい」
「そうでござるな。ルミア殿を呼んでくるでござるよ」
「お待ちください。私も!」
「サラさんは伝令として連れてきた二人をホワイトムーン王国へと送ってください。港が確保できたんですから援軍を呼びましょう」
「……わかりました。すぐに軍を整えて追いかけます」
「はい。お願いします」

こうして私たちは足早にバジェスタの町を出発すると、シャルの待つ陣地へと向かうのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...