勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
355 / 625
黒き野望

第八章第24話 ワイナ・エンテスの戦い

しおりを挟む
2021/03/30 誤字を修正しました
2021/12/12 誤字を修正しました
================

それから一週間後、私たちは 500 の兵士を引き連れてラヤ峠の砦を出発した。このままマライ攻略を行うためだ。

ラヤ峠からマライまではこのペースで五日ほどの道のりだという。

本来であればベレナンデウアを攻めるホワイトムーン王国の艦隊ときっちり示しを合わせて行動したほうが良いのだろうが、電話などという便利なものがないためそれは難しい。

だが、逆算するとおよそこのくらいの時間に出発すればベレナンデウアにホワイトムーン王国の艦隊が攻め込むのと私たちがマライの町に到着するのが同じくらいになるのだそうだ。

私にはそういった細かいことはよく分からないので、まずはマライを取り返す戦いに集中したいと思う。

あの非道なアルフォンソを野放しになどしておけない。そのためにはサラさんに皇帝となってこの国を立て直してもらわなければ困るのだ。

それに何より、ユーグさんを取り返すのだ。私のたった一人の友達の婚約者にちょっかいを出したことを必ず後悔させてやる!

そんな決意と共に私は街道を進む。

いくつかの登り降りを繰り返しながらも進むたびに少しずつ高度が下がっていき、徐々にではあるが高く成長した木も見かけるようになってきた。

そうして三日ほど歩いた私たちは少し早いが森の中で野営を行うこととなった。なんでも、この先は少し険しい地形となっており、ワイナ山とエンテス山という二つの山の間の峠越えという難所が待ち構えているそうだ。

この難所を越えればマライの町まであとは坂を下るだけらしく、とても重要な場所でもある。

「順調ですね」
「はい。愚兄もまさか自分が撤退してすぐに砦が抜かれてるなどとは思ってもいないのではないでしょうか?」
「……だといいですけど」

これがフラグにならなければよいのだが。

そんな会話をしつつも天幕がテキパキと張られていき、私たちは食事の準備に取り掛かろうとしたちょうどその時だった。

「敵襲!」

誰かの鋭い声が聞こえてきた。それからすぐに先頭の方で剣のぶつかる音が聞こえてくる。

「状況は?」
「それが、何者かの襲撃を受けているようです」

サラさんが近くの兵士に状況を確認させているが、どうやらきちんと状況を把握できていないようだ。

「んー、囲まれてるみたいですっ」

どうやらルーちゃんは精霊に確認したようだ。そして次の瞬間、迂回したと思われる敵部隊が私たちをめがけて突撃してきた。

「おっと?」

私はとりあえず彼らの前に防壁を設置した。すると突然現れた防壁に進路を塞がれた形になった敵部隊は思い切り防壁に激突し、いつか見たような将棋倒しが発生する。

うん。いきなり止まるのは危険だよね。

そして私は将棋倒しになって倒れている彼らに浄化魔法を放つとそのまま塵となって消滅した。

残るは後ろで将棋倒しに巻き込まれなかった黒兵だけのはず……。

おや? 何人か消滅していない兵士もいるようだ。

「ば、ばか、な……」

将棋倒しに巻き込まれた兵士の一人がそう言いながらよろよろと立ち上がる。

どうやら黒兵をあっさりと倒されたことが信じられないのだろう。呆然と立ち尽くす敵兵はあっという間に私たちの兵士によって取り押さえられ、残りの黒兵たちも浄化魔法を付与した剣の前に塵となって消滅した。

「フィーネ殿。また呪いがあるかもしれないでござるよ」
「ああ、そうですね。解呪」

すると確かに手応えと共に呪いが解かれ、呪いが解けた敵兵はそのまま気絶した。

「はあ。どういう呪いなのかはわかりませんが、本当にアルフォンソは性格が悪いんですね」
「……愚兄が申し訳ございません」
「いえ、サラさんのせいではないですよ。サラさんはこうして頑張っていますから」
「……ありがとうございます」

サラさんは複雑な表情でそう返事をしたのだった。

◆◇◆

それから三十分ほどの時間が経った。戦闘はまだ続いているが、どうやら私たちが押しているらしい。

私たちを襲ってきた敵部隊はおよそ 1,000 ほどで、その九割以上が黒兵だったらしい。

黒兵が相手であれば私たちの兵士の方が戦闘能力でいえば上なのだ。しかもこちらは私とシャルが怪我人を片っ端から治療しているため倒れた兵士が再び前線に復帰してくるというあちらのお株を奪うゾンビ戦法ができる。

それに対してあちらの自慢の黒兵は浄化魔法によってあっさりと塵と化す。

当初は倍近い兵力に押され気味だったもののその差は徐々に埋まっていき、やがて逆転した。

こうなれば後はこちらが一方的に敵兵を蹂躙していくだけだ。

さらに三十分ほどの時間が経つと私たちを襲ってきた敵部隊は全滅し、生き残った敵兵も私が呪いを解いてやるとそのまま気絶したのだった。

ちなみに私たちの被害は重傷者 21 名に軽症者が 83 名だったが、私とシャルで手分けをして治療したため実質的に被害はゼロだった。

◆◇◆

その後ルーちゃんが森の精霊にお願いして周囲を確認してもらい、敵兵の姿が無いことを確認した私たちは捕まえた敵兵の尋問を行った。

とりあえず私たちは捕虜を収容している天幕の外で聞き耳を立てているのだが……。

「聖女は力を使えないって話だったのに。くそっ! 騙された」
「一体どうなってるんだ!」
「すんげぇ美人をヤれるって聞いてたのによぅ」

なるほど。どうやらこいつらは自発的に私とシャルを攻撃することに加担していたらしい。

「不愉快な輩ですわね」
「そうですね。アルフォンソは呪いが上手くいったと思っているんでしょうね」
「申し訳ございません。あの者どもにはきちんと罰を受けさせます」
「サラさんが謝ることではないですよ」
「……ありがとうございます」

きっと、あんなのでもサラさんにとっては自分の民ということなのだろう。私がもし同じような状況になったとき、サラさんのように振る舞えるかと問われればその自信は無い。

やはり人の上に立つ人というのはそうあるべくして人の上に立っているのだろう。

アルフォンソにしろ、イエロープラネットの人たちにしろ、サラさんのああいう姿勢を見習ってほしいものだ。

その後も尋問は続いたがこれといった情報は得られそうもなかった。きっと、ただの捨て駒だったのだろう。

こうして私たちは彼らと話すことなくそれぞれの天幕へと戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...