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黒き野望
第八章第25話 マライ奪還戦(前編)
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ワイナ山とエンテス山の間の峠を越えた私たちの眼下にマライの町が飛び込んできた。マライの町の前には大量の兵士がおり、陣を敷いて私たちを待ち構えている。
「どうやら準備万端で待ち構えられていたみたいですね」
「恐らく、一昨日の襲撃が失敗したことを伝えた者がいるのでしょう」
「だが、いくらなんでも多勢に無勢でござるな」
「サラ殿下。どう戦うおつもりなんですの? もともとは籠城するという予想でしたわよね?」
そう。私たちは彼らが打って出ては来ないと思っていたのだ。というのも、彼らの戦力の大半を占めるであろう黒兵を無力化する力をこちらが持っている以上、兵力差などあって無いようなものだからだ。
そうであれば、籠城してこちらが攻め疲れをするのを待つほうが得策のはずなのだが……。
「もしかすると、伏兵があるのかもしれません」
サラさんがそう可能性をしてきた。
「伏兵ですか……。ルーちゃん、どうですか?」
「んー、森の中には兵士はいないみたいです。でも魔物ならちょっといるみたいです」
「そうですか……」
まあ、森の中なら魔物が多少いたとしても不思議はない。
「じゃあ真正面からぶつかる気なんですかね?」
「そう、なりそうですね」
サラさんはそう答えるが、サラさんは敵将のその判断が腑に落ちていない様子だ。
「フィーネ様。敵将の立場で考えてみますと打って出るという選択をする可能性はそれなりにあると思います」
「クリスさん、どういうことですか?」
「私たちの兵はおよそ 500 です。それに対して敵兵はゆうに 3,000 を超えているでしょう。それだけの兵力差があれば押しつぶせる、と考えても不思議ではないかと思います。何しろ、彼らは黒兵という恐れを知らない不死身の兵士を率いているのですから」
「だが、彼らはその不死身の兵士が敗れていることは知っているはずでござろう?」
シズクさんの指摘は尤もだ。だからこそ、私たちは敵が籠城してくると考えていたのだ。
「ああ。その通りだ。だが、それでもなお成功体験を捨て去ることができない者というのは一定数いるのだ」
「成功体験? すでに失敗しているではござらんか?」
「その前、つまりこの国を蹂躙したときのことだ。作戦など無くとも力ずくで無理矢理勝利できた、という経験は彼らにとっては衝撃的だったはずだ。それこそ、私たちがフィーネ様の結界が破られるなどということを想像できないようなものだ」
「なるほど。それは確かに想像しにくいでござるが……。一度失敗してもなおそうなるものでござるか?」
「ああ、そうだ。特に、その方法で地位を得た者ほどその傾向にあるものだ」
あ、なるほど。分かってきたぞ。
つまり、敵は無能が率いてるって言いたいのかな?
そう言われると何となくそんな気もしてくる。
「わかりました。じゃあシズクさんはどう思いますか?」
「拙者は……そうでござるな。やはり正面を囮にしてサラ殿を討ち取る策があると思うでござるよ」
「ということは、どこかに伏兵がいるってことですか?」
「伏兵というよりも別動隊や刺客でござるな。もしくは『増援が来ると分かっているから籠城などする必要は無い』という線もあるかもしれないでござるよ」
「ああ、なるほど」
そういう線はあるだろうが、それならそれで好都合だ。そろそろベレナンデウアにはホワイトムーンの艦隊が陽動を仕掛けている頃なのだから私たちのほうに敵の援軍が釣れたらそれで良いし、ベレナンデウアに行ってくれたらそれはそれで都合がいい。
「ということは、伏兵に気をつければ状況は私たちに有利って事ですかね?」
「拙者はそう思うでござるよ」
「……そう、ですわね。わたくしも同意見ですわ」
シャルも私たちと同じ意見のようだ。そしてその議論を聞いていたサラさんは決断を下す。
「籠城していないなら好都合です。予定通り、敵の黒兵を削っていきましょう」
それと時を同じくして伝令がやってきた。
「敵軍の一隊がこちらに向かって進軍を開始しました!」
「総員、祝福の矢を!」
サラさんが号令を飛ばし、それに従って兵士たちが弓を構える。ちなみにこの祝福の矢というのは私がラヤ峠の砦で回収したものだ。浄化魔法を付与した矢を祝福の矢という名前で呼んでいるだけで別に伝説の武器とかそいういった特別なものではない。
「放て!」
射程に入ったところでサラさんの号令で一斉に矢が放たれると、雨あられのように敵兵へと降り注ぐ。
その矢を受けた黒兵たちは次々と塵となって消えていき、それを掻い潜って私たちの兵士たちのところに辿り着くころにはほんの数十人にまでその数を減らしていた。
もちろん、その黒兵たちも浄化魔法が付与された剣であっという間に塵となって消滅する。
よし。緒戦は私たちの完勝だ。
さすがにあれを見てまた同じような突撃を繰り返すことは無いだろう。
さて、次はどんな一手を打ってくるのだろうか?
そう思って見ていると、今度は何と全ての部隊が一斉にこちらへと移動を始めた。
「え? まさかゴリ押しですか?」
予想外の選択肢に私の口から思わずそんな言葉がこぼれた。そんな私の隣ではクリスさんとシズクさんが呆れた様子でその戦況を見つめている。
「……数に任せた力押しでござるな」
「あれでは……兵たちはたまったものではありませんね。もっとも、黒兵たちにそんな感情が残っているのかは分かりませんが……」
クリスさんは悲しそうに顔を伏せる。どうやら黒兵たちに同情しているようだ。そういえばクリスさんはホワイトムーン王国で部隊を率いていたのだった。だからこそ、きっとこんなやり方は認められないのだろう。
そんな会話をしている私たちを尻目にサラさんは再び攻撃命令を下す。
「第二射! 撃て!」
そして先ほどと同様に矢の雨が降り注ぎ、黒兵たちが塵となって消えていく。
私たちはそのままこちらの矢が尽きるまで撃ち続け、敵兵の半数ほどが塵となって消えたところで兵士同士がぶつかる近接戦闘へと移行したのだった。
「どうやら準備万端で待ち構えられていたみたいですね」
「恐らく、一昨日の襲撃が失敗したことを伝えた者がいるのでしょう」
「だが、いくらなんでも多勢に無勢でござるな」
「サラ殿下。どう戦うおつもりなんですの? もともとは籠城するという予想でしたわよね?」
そう。私たちは彼らが打って出ては来ないと思っていたのだ。というのも、彼らの戦力の大半を占めるであろう黒兵を無力化する力をこちらが持っている以上、兵力差などあって無いようなものだからだ。
そうであれば、籠城してこちらが攻め疲れをするのを待つほうが得策のはずなのだが……。
「もしかすると、伏兵があるのかもしれません」
サラさんがそう可能性をしてきた。
「伏兵ですか……。ルーちゃん、どうですか?」
「んー、森の中には兵士はいないみたいです。でも魔物ならちょっといるみたいです」
「そうですか……」
まあ、森の中なら魔物が多少いたとしても不思議はない。
「じゃあ真正面からぶつかる気なんですかね?」
「そう、なりそうですね」
サラさんはそう答えるが、サラさんは敵将のその判断が腑に落ちていない様子だ。
「フィーネ様。敵将の立場で考えてみますと打って出るという選択をする可能性はそれなりにあると思います」
「クリスさん、どういうことですか?」
「私たちの兵はおよそ 500 です。それに対して敵兵はゆうに 3,000 を超えているでしょう。それだけの兵力差があれば押しつぶせる、と考えても不思議ではないかと思います。何しろ、彼らは黒兵という恐れを知らない不死身の兵士を率いているのですから」
「だが、彼らはその不死身の兵士が敗れていることは知っているはずでござろう?」
シズクさんの指摘は尤もだ。だからこそ、私たちは敵が籠城してくると考えていたのだ。
「ああ。その通りだ。だが、それでもなお成功体験を捨て去ることができない者というのは一定数いるのだ」
「成功体験? すでに失敗しているではござらんか?」
「その前、つまりこの国を蹂躙したときのことだ。作戦など無くとも力ずくで無理矢理勝利できた、という経験は彼らにとっては衝撃的だったはずだ。それこそ、私たちがフィーネ様の結界が破られるなどということを想像できないようなものだ」
「なるほど。それは確かに想像しにくいでござるが……。一度失敗してもなおそうなるものでござるか?」
「ああ、そうだ。特に、その方法で地位を得た者ほどその傾向にあるものだ」
あ、なるほど。分かってきたぞ。
つまり、敵は無能が率いてるって言いたいのかな?
そう言われると何となくそんな気もしてくる。
「わかりました。じゃあシズクさんはどう思いますか?」
「拙者は……そうでござるな。やはり正面を囮にしてサラ殿を討ち取る策があると思うでござるよ」
「ということは、どこかに伏兵がいるってことですか?」
「伏兵というよりも別動隊や刺客でござるな。もしくは『増援が来ると分かっているから籠城などする必要は無い』という線もあるかもしれないでござるよ」
「ああ、なるほど」
そういう線はあるだろうが、それならそれで好都合だ。そろそろベレナンデウアにはホワイトムーンの艦隊が陽動を仕掛けている頃なのだから私たちのほうに敵の援軍が釣れたらそれで良いし、ベレナンデウアに行ってくれたらそれはそれで都合がいい。
「ということは、伏兵に気をつければ状況は私たちに有利って事ですかね?」
「拙者はそう思うでござるよ」
「……そう、ですわね。わたくしも同意見ですわ」
シャルも私たちと同じ意見のようだ。そしてその議論を聞いていたサラさんは決断を下す。
「籠城していないなら好都合です。予定通り、敵の黒兵を削っていきましょう」
それと時を同じくして伝令がやってきた。
「敵軍の一隊がこちらに向かって進軍を開始しました!」
「総員、祝福の矢を!」
サラさんが号令を飛ばし、それに従って兵士たちが弓を構える。ちなみにこの祝福の矢というのは私がラヤ峠の砦で回収したものだ。浄化魔法を付与した矢を祝福の矢という名前で呼んでいるだけで別に伝説の武器とかそいういった特別なものではない。
「放て!」
射程に入ったところでサラさんの号令で一斉に矢が放たれると、雨あられのように敵兵へと降り注ぐ。
その矢を受けた黒兵たちは次々と塵となって消えていき、それを掻い潜って私たちの兵士たちのところに辿り着くころにはほんの数十人にまでその数を減らしていた。
もちろん、その黒兵たちも浄化魔法が付与された剣であっという間に塵となって消滅する。
よし。緒戦は私たちの完勝だ。
さすがにあれを見てまた同じような突撃を繰り返すことは無いだろう。
さて、次はどんな一手を打ってくるのだろうか?
そう思って見ていると、今度は何と全ての部隊が一斉にこちらへと移動を始めた。
「え? まさかゴリ押しですか?」
予想外の選択肢に私の口から思わずそんな言葉がこぼれた。そんな私の隣ではクリスさんとシズクさんが呆れた様子でその戦況を見つめている。
「……数に任せた力押しでござるな」
「あれでは……兵たちはたまったものではありませんね。もっとも、黒兵たちにそんな感情が残っているのかは分かりませんが……」
クリスさんは悲しそうに顔を伏せる。どうやら黒兵たちに同情しているようだ。そういえばクリスさんはホワイトムーン王国で部隊を率いていたのだった。だからこそ、きっとこんなやり方は認められないのだろう。
そんな会話をしている私たちを尻目にサラさんは再び攻撃命令を下す。
「第二射! 撃て!」
そして先ほどと同様に矢の雨が降り注ぎ、黒兵たちが塵となって消えていく。
私たちはそのままこちらの矢が尽きるまで撃ち続け、敵兵の半数ほどが塵となって消えたところで兵士同士がぶつかる近接戦闘へと移行したのだった。
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