383 / 625
人と魔物と魔王と聖女
第九章第9話 上陸
しおりを挟む
防壁の上を歩いて海を渡った私は無事に島へと上陸した。だがそこは荒波の押し寄せるごつごつとした岩場で、目の前には高い崖がそそり立っている。しかもその崖は海に向かってせり出しており、とてもではないが登れそうにない。
「うーん。困りましたね」
まあこの状況になりそうなことは海の上を歩いている途中で気付いていたのだが、複数の防壁を同時に展開することが出来ないためすでに手遅れだった。
結界と組み合わせればどうにかなるような気もしたのだが、何かの拍子で失敗して海に落ちるのも嫌だったからね。
とりあえず上陸してから考えようと思った私はこうして歩いて海岸までやってきたというわけだ。
「リーチェ、どうすればいいと思いますか?」
海の上でずっと話し相手になってくれていたリーチェに尋ねてみる。
「え? 飛んでいけばいい? でも私の【蝙蝠化】のスキルはまだレベルが……ああ、そういえば【闇属性魔法】のスキルレベルを上げたから【蝙蝠化】もレベルアップできるんでしたね」
うん。リーチェが言うならきっと間違いないはずだ。それに、もし途中で解けても落ちる前に防壁で足場を作ればなんとかなるような気がする。
そう考えた私は【蝙蝠化】に SP を 10 ポイント割り振ってレベルを 2 に上げた。
そして早速【蝙蝠化】を発動して蝙蝠へと変身すると小さな翼を懸命に羽ばたかせて空へと舞い上がる。
海からの強い風に何度もバランスを崩しそうになるものの、墜落してしまうようなことは無かった。
なるほど。これはきっとレベルが 2 に上がったおかげなのだろう。昔だったら間違いなくこの風でバランスを崩していたと思う。それに10秒経ったというのにまだ蝙蝠の状態を維持できているというのが素晴らしい。
と、思っていたのだが崖の上まであと数メートルのところで【蝙蝠化】の効果がれてしまった。
「あ、防壁」
元の姿に戻った私は慌てて足場を作り出した。
なるほど、どうやらレベル 2 になった【蝙蝠化】の持続時間はおよそ1~2分ほどのようだ。もう一度【蝙蝠化】を使おうとしても使えないので、しばらく待たなければいけないのはレベルが上がっても変わらないらしい。
ん?
視線を感じて上を見上げると、リーチェが崖の上から手招きをしている。来て欲しいと言われているのはわかるのだが、一体どうすれば?
え? 妖精?
ああ、なるほど。そういえばそんなスキルがあったね。
妖精なら羽根が生えてそうなので飛べる気がするけど、10 秒であそこまで飛べるだろうか?
不安になった私は【妖精化】に SP を投入してレベルを 2 に上げてから、妖精化を発動した。
体が突然小さくなる感覚は【蝙蝠化】と似たような感じだが、【蝙蝠化】のときとは少し感覚が違う。【蝙蝠化】は体が小さくなって腕が翼に変わるイメージだが、【妖精化】の場合は体が単に小さくなって背中に羽根が生えているようなイメージだ。
だが、どうすれば飛べるのかは感覚としてわかる。
うん。これなら大丈夫そうだ。
私はすぐにリーチェのところへと辿りついた。
「リーチェ。着きましたよ」
私がそう言うとにっこりとリーチェは笑みを浮かべてくれた。
うんうん。リーチェはやっぱりかわいいね。
それに今の私はリーチェと同じくらいの背の高さなので同じ目線も世界を見られるというのも嬉しいものだ。
これなら【妖精化】をレベルアップさせていくのも良いかもしれないね。
そんなことを思っていると【妖精化】の制限時間が来てしまい、私は元の姿へと戻ってしまった。
うん。【妖精化】は毎日使ってレベルアップさせよう。
そう決意したところで私は周囲の様子を確認する。
まず、後ろは当然海だ。見渡す限りの大海原が広がっている。どこかに陸地が見えれば、という期待も虚しく、こちら側からは海しか見当たらない。
それから下を見下ろせばもちろん海面が見える。100 メートル、いや 200 メートルくらいはあるだろうか?
うーん。やっぱりこの高さを普通に登るのは無理そうだ。翼を持たない者がこの場所へと辿りつくことは不可能なように思える。
さて、肝心の陸地のほうだがちょっと不思議な地形になっている。まず、どうやら私は火山の火口、いやカルデラを見下ろしているような気がする。
というのも私の目の前には広い円形の窪地が広がっており、それをぐるりと取り囲むように山がそびえ立っている。そしてその窪地の中心には小さな丸い形をした山があるのが特徴的だ。
別にマグマがボコボコと湧き出ているわけではないが、こういう地形は火山の火口やカルデラ以外に私は知らない。
それともう一つわかることは、どうやらここは島だということだ。カルデラを挟んで反対側の山の向こうに何があるのかはわからないが、これはもしかすると海底火山が隆起してできた絶海の孤島というやつではないのだろうか?
人が住んでいる島であればありがたいのだが……。
まあ、それはこのカルデラを囲む山の尾根をぐるりと歩いて回ってみればわかることだろう。
そう考えた私はこの時計回りに回るべく、ゆっくりと歩きだしたのだった。
「うーん。困りましたね」
まあこの状況になりそうなことは海の上を歩いている途中で気付いていたのだが、複数の防壁を同時に展開することが出来ないためすでに手遅れだった。
結界と組み合わせればどうにかなるような気もしたのだが、何かの拍子で失敗して海に落ちるのも嫌だったからね。
とりあえず上陸してから考えようと思った私はこうして歩いて海岸までやってきたというわけだ。
「リーチェ、どうすればいいと思いますか?」
海の上でずっと話し相手になってくれていたリーチェに尋ねてみる。
「え? 飛んでいけばいい? でも私の【蝙蝠化】のスキルはまだレベルが……ああ、そういえば【闇属性魔法】のスキルレベルを上げたから【蝙蝠化】もレベルアップできるんでしたね」
うん。リーチェが言うならきっと間違いないはずだ。それに、もし途中で解けても落ちる前に防壁で足場を作ればなんとかなるような気がする。
そう考えた私は【蝙蝠化】に SP を 10 ポイント割り振ってレベルを 2 に上げた。
そして早速【蝙蝠化】を発動して蝙蝠へと変身すると小さな翼を懸命に羽ばたかせて空へと舞い上がる。
海からの強い風に何度もバランスを崩しそうになるものの、墜落してしまうようなことは無かった。
なるほど。これはきっとレベルが 2 に上がったおかげなのだろう。昔だったら間違いなくこの風でバランスを崩していたと思う。それに10秒経ったというのにまだ蝙蝠の状態を維持できているというのが素晴らしい。
と、思っていたのだが崖の上まであと数メートルのところで【蝙蝠化】の効果がれてしまった。
「あ、防壁」
元の姿に戻った私は慌てて足場を作り出した。
なるほど、どうやらレベル 2 になった【蝙蝠化】の持続時間はおよそ1~2分ほどのようだ。もう一度【蝙蝠化】を使おうとしても使えないので、しばらく待たなければいけないのはレベルが上がっても変わらないらしい。
ん?
視線を感じて上を見上げると、リーチェが崖の上から手招きをしている。来て欲しいと言われているのはわかるのだが、一体どうすれば?
え? 妖精?
ああ、なるほど。そういえばそんなスキルがあったね。
妖精なら羽根が生えてそうなので飛べる気がするけど、10 秒であそこまで飛べるだろうか?
不安になった私は【妖精化】に SP を投入してレベルを 2 に上げてから、妖精化を発動した。
体が突然小さくなる感覚は【蝙蝠化】と似たような感じだが、【蝙蝠化】のときとは少し感覚が違う。【蝙蝠化】は体が小さくなって腕が翼に変わるイメージだが、【妖精化】の場合は体が単に小さくなって背中に羽根が生えているようなイメージだ。
だが、どうすれば飛べるのかは感覚としてわかる。
うん。これなら大丈夫そうだ。
私はすぐにリーチェのところへと辿りついた。
「リーチェ。着きましたよ」
私がそう言うとにっこりとリーチェは笑みを浮かべてくれた。
うんうん。リーチェはやっぱりかわいいね。
それに今の私はリーチェと同じくらいの背の高さなので同じ目線も世界を見られるというのも嬉しいものだ。
これなら【妖精化】をレベルアップさせていくのも良いかもしれないね。
そんなことを思っていると【妖精化】の制限時間が来てしまい、私は元の姿へと戻ってしまった。
うん。【妖精化】は毎日使ってレベルアップさせよう。
そう決意したところで私は周囲の様子を確認する。
まず、後ろは当然海だ。見渡す限りの大海原が広がっている。どこかに陸地が見えれば、という期待も虚しく、こちら側からは海しか見当たらない。
それから下を見下ろせばもちろん海面が見える。100 メートル、いや 200 メートルくらいはあるだろうか?
うーん。やっぱりこの高さを普通に登るのは無理そうだ。翼を持たない者がこの場所へと辿りつくことは不可能なように思える。
さて、肝心の陸地のほうだがちょっと不思議な地形になっている。まず、どうやら私は火山の火口、いやカルデラを見下ろしているような気がする。
というのも私の目の前には広い円形の窪地が広がっており、それをぐるりと取り囲むように山がそびえ立っている。そしてその窪地の中心には小さな丸い形をした山があるのが特徴的だ。
別にマグマがボコボコと湧き出ているわけではないが、こういう地形は火山の火口やカルデラ以外に私は知らない。
それともう一つわかることは、どうやらここは島だということだ。カルデラを挟んで反対側の山の向こうに何があるのかはわからないが、これはもしかすると海底火山が隆起してできた絶海の孤島というやつではないのだろうか?
人が住んでいる島であればありがたいのだが……。
まあ、それはこのカルデラを囲む山の尾根をぐるりと歩いて回ってみればわかることだろう。
そう考えた私はこの時計回りに回るべく、ゆっくりと歩きだしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
異世界でも馬とともに
ひろうま
ファンタジー
乗馬クラブ勤務の悠馬(ユウマ)とそのパートナーである牝馬のルナは、ある日勇者転移に巻き込まれて死亡した。
新しい身体をもらい異世界に転移できることになったユウマとルナが、そのときに依頼されたのは神獣たちの封印を解くことだった。
ユウマは、彼をサポートするルナとともに、その依頼を達成すべく異世界での活動を開始する。
※本作品においては、ヒロインは馬であり、人化もしませんので、ご注意ください。
※本作品は、某サイトで公開していた作品をリメイクしたものです。
※本作品の解説などを、ブログ(Webサイト欄参照)に記載していこうと思っています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる