勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
428 / 625
滅びの神託

第十章第9話 クリエッリの歓喜(後編)

しおりを挟む
2021/12/13 誤字を修正しました
================

 あれからしばらく悩んだ末にいつもの言葉を言うと皆さんは立ち上がってくれた。どうやらそれ以上は私が何かしなければいけないということはなかったらしく、そのままお祈りは終了となった。

 かといって解散にもならないし、私はこれから何をしたらいいんだろうか?

 採点をしそびれたことが少し心残りではあるものの、わざわざ採点したいからもう一度お祈りをしてくださいなんてことは口が裂けても言えないしね。

 うーん? やっぱりここは素直に帰るしかないかな。

 そう思ったところでジョエルさんが視界の端に映った。

 あ! そういえば何か残していって欲しいと言われていたよね。それなら、リーチェの種をこの神殿の庭に植えさせてもらおう。

「あの」
「なんでしょうか? 聖女様?」

 神殿長さんが私に聞き返してきた。

「もしよかったら、瘴気を浄化する種をこの神殿の庭に植えさせてもらえませんか?」
「なっ!? そのような貴重なものを!?」
「せっかくこうしてお祭りもしていただきましたし、私も何かお礼をしたいんです。ジョエルさんにも何か残していって欲しいと言われていますから」
「「聖女様……!」」

 神殿長さんとジョエルさんの声がハモった。

「ええと、よろしいでしょうか?」
「もちろんでございます! どうぞこちらへ!」

 神殿長さんはそう言ってすぐに中庭へと案内してくれた。中庭は少し前に戦争で踏み荒らされたとは思えないほどきれいに整備されていて、色とりどりの花が咲き乱れている。

 花がある場所はリーチェも嬉しいようで、花に近づいては匂いを嗅いだり撫でたりしている。

 うん。やっぱりリーチェはかわいい。リーチェのかわいさは世界一だ。

「……様?」
「静かにしろ。今フィーネ様は花を愛でておられるのだ」
「え? あ、はい。なんでしょう?」

 しまった。リーチェに見とれていて話を聞いていなかった。

「も、申し訳ございません」
「いえ。私こそ、お話を聞いていなくてすみません。それで、なんでしょうか?」
「は、はい。聖女様。種を植えていただく場所なのですが、あちらの中心にあるスペースはいかがでしょうか? ちょうどあの場所はまだ何を植えるか決まっていなかったのです」
「そうですか。わかりました。ではそうしましょう」

 そうして私は提案された中庭のほぼ中心にある耕された場所へと向かうと、リーチェを召喚して種を貰った。

 リーチェの姿を見た皆さんが「おおっ」と歓声をあげていたが、それも無理はないだろう。だって、リーチェは世界一かわいいからね。

 そんなリーチェから貰った種を私は中心にそっと植えてあげた。特に浄化するものはないし、これだけでいいだろう。

「この子は、周囲に瘴気があればそれを浄化して成長してくれますよ」
「ありがとうございます。聖女様!」

 そういって皆さんはブーンからのジャンピング土下座を披露してくれた。うん。やはり神殿長さんはやり慣れているのだろう。きっちりと指先まで気を配ったいい演技だった。ただ、他の皆さんとの息が合っていなかったのが残念だ。それに他の皆さんの演技もキレが足りなかったように思う。

 そうだね。これは、7点……いや8点でもいいかな? 教皇様たちのような演技を目指して練習に励んでもらいたいものだ。

 別に高得点だったところで何かあるというわけではないけれど……。

◆◇◆

 それから私たちは神殿を出て、再び町中をパレードしながらジョエルさんの領主邸へと戻ってきた。

 正確には領主邸に戻ってくる前港へと立ち寄り、記念式典とやらに参加した。だが特にやることもなく、ただ座ってニコニコしていただけで終わった。

 聖女は単なる偶像だからね。なんとなく希望を持たせてあげるのが仕事だ。

 あ、でもベレナンデウアから出航して沈められた船の船長さんや船員さんに再会できたのにはホッとした。誰も犠牲になっていなくて本当に良かった。

 だが、となるとやはりあの魔物は私を狙って襲ってきたのだろう。

 しかしその目的がどうしてもわからない。魔王を目指すベルードの目的に対して、私のやっていることは相反しないということはベルード本人も言っていたことだ。

 だとすると、どうして私を始末しなければならないのだろうか?

 瘴気が減ることは魔族と魔物にとって悩みの種である衝動が減るということのはずだ。であれば私を始末することになんのメリットもないはずなのだけれど……。

「フィーネ殿。何か悩み事でござるか?」
「いえ。船が魔物に襲われたときのことを考えていました。船員さんたちが無事だったのを見て、あの魔物の目的は私だったんだろうなと」
「そうでござるな」
「ですが、ベルードは自分の指示ではないと言っていました」
「それは本当でござるか? 隠しているだけではござらんか?」
「そう、かもしれませんが……でも、そんな風には見えませんでした。それにベルードのやっていることを考えると、瘴気を浄化できる私がいたほうが都合がいいんじゃないですか?」
「そうでござるが、ベルードの話が全て事実だとは限らないでござるよ。あとは、進化の秘術に関わっている連中全員が同じことを考えているとも限らないでござるな」
「えっと? つまり?」
「ベルードの陣営も一枚岩ではないということかもしれないということでござるよ。部下の中には人間を強く恨んでいる者や、魔物だけの世界を作ろうと企んでいる者がいるかもしれないということでござるな」
「そう、かもしれませんね」

 私は一呼吸おいてからそう答えた。

 イエロープラネットのように、明らかに神の作ったシステムである聖女ですら捻じ曲げて利用しようとしている国だってあるくらいなのだ。魔族の世界でもそういったことがあっても不思議ではないだろう。

「とはいえ、これ以上はここで考えてもわからないでござるよ。それよりフィーネ殿。そろそろ休んだほうがいいでござるよ。明日は王都に向けて出発でござる」
「そうですね。そうしましょう」

 こうして私は思考を打ち切り、王都に思いをはせるのだった。

 親方と奥さんは元気にしているだろうか? それに、シャルは王都にいるのかな?
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界でも馬とともに

ひろうま
ファンタジー
乗馬クラブ勤務の悠馬(ユウマ)とそのパートナーである牝馬のルナは、ある日勇者転移に巻き込まれて死亡した。 新しい身体をもらい異世界に転移できることになったユウマとルナが、そのときに依頼されたのは神獣たちの封印を解くことだった。 ユウマは、彼をサポートするルナとともに、その依頼を達成すべく異世界での活動を開始する。 ※本作品においては、ヒロインは馬であり、人化もしませんので、ご注意ください。 ※本作品は、某サイトで公開していた作品をリメイクしたものです。 ※本作品の解説などを、ブログ(Webサイト欄参照)に記載していこうと思っています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...