勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第14話 出発

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2022/07/16 誤字を修正しました
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 三日ほどお城に滞在したのち、私たちは王様からの依頼を受けるという形で再びイエロープラネット首長国連邦を目指すこととなった。

 明日はいよいよ出発だ。少し嫌な思い出のある場所なだけにやや気が重いかもしれない。

 ベッドの上に腰かけた私はちらりと外を見遣る。するとちょうどそこには白く輝く月が窓というスクリーンに映るかのように顔をのぞかせている。

 その月を見てなんとなく気分が落ち着いた私はこれから向かうイエロープラネットについて整理してみる。

 まず、今回は前回のように特使として赴くのではない。今回はホワイトムーン王国の騎士たちが特使として訪問し、全ての段取りを調整してくれることになっている。

 彼らはすでにノヴァールブールを経由して陸路で向かっており、私たちは彼らをゆっくりと追いかける形になるのだ。陸路なのは外洋に出ると魔物に襲われるためだ。どうやら南部だけでなく東部の海にも魔物があふれているのだそうだ。

 次にイエロープラネット首長国連邦の現在についてだが、なんと私に対して行った狼藉が原因で周辺各国から経済制裁を受けているらしい。あの国は香辛料の交易を独占することで富を得ていたわけだが、その通り道であるノヴァールブールをはじめとしたあの地域の独立都市がこぞってイエロープラネット首長国連邦からの荷物に高い関税を掛けた。

 これによってイエロープラネット首長国連邦の商売は大きな打撃を受けることとなった。本来であればそれを撤回させるために軍事行動に出てもおかしくない話なのだが、ホワイトムーン王国、ブルースター共和国、レッドスカイ帝国といった大国が独立都市への支持を表明することでその行動を抑え込んでいるのだそうだ。

 しかも魔物たちが暴れ始めているというこの状況も相まって、今のところ戦争にはなっていない。

 さらにイザールをはじめとする独立都市群に近い北西部に位置する首長国は、なんと驚いたことにイエロープラネット首長国連邦からの離脱を考えているのだそうだ。それを支援するためにホワイトムーン王国も色々と動いていたそうなのだが、魔物たちの影響で海路が使えなくなったことでそこから先の状況はホワイトムーン王国もよく分かっていないらしい。

 ええと、うん。あのときなんとか協定に違反しているってクリスさんが怒っていたのは覚えているけれど、まさかここまで大事になっていたとは。

 聖女なんてただの偶像だというのに、どうやら人々にとっては私の想像以上に大きな意味を持っているようだ。

 ああ、そうそう。それから魔物と瘴気の関係性についてはきちんと教皇様に伝えておいた。教皇様は啓蒙に努めるとは言ってくれたけれど、やはり人間の心の問題に起因しているということもあり解決はかなり難しいように思う。

 たとえば私たちが再会した場所の近くにあったハモラ村の人たちはあんなだった。それに今までの旅を思い返してみても、酷いことをしていた人たちのことを数えだしたらキリがない。

 それでもこの世界の人々が変わらなければ瘴気は生み出され続け、悲劇の連鎖が止むことはないだろう。

 それにしても、神様はどうしてこんな風に世界を作ったのだろうか?

 最初から瘴気などというものが存在しない世界を作ってくれれば、平和に生きていたいだけの子が人を襲わずにはいられなくなるようなことなんてなかったはずなのに。

 よし。今度精霊神様に会えたら聞いてみよう。

 そう決意し、私はベッドに潜り込んだ。

 明日はもう出発だ。早起きするためにもそろそろ眠っておこう。

 そのまま目を閉じた私はすぐに夢の世界へと旅だったのだった。

◆◇◆

「フィーネ嬢。困難な旅となるだろうが、よろしく頼むぞ」
「はい。任せてください。仲間がいますし、それに騎士の皆さんも一緒ですから」

 出発の見送りに来てくれた王様と私はそう軽く言葉を交わす。

「では、いってきます」
「うむ」

 出発の挨拶をした私はクリスさんのエスコートで馬車に乗り込んだ。何度か乗せてもらったことのある王家の紋章があしらわれた豪華な馬車だ。

 そのふかふかの座席に着席し、続いてみんなも着席すると馬車はゆっくりと動き出した。

 私は窓を開けると王様や見送りに来てくれた皆さんに小さく手を振った。

 すると王様は鷹揚に頷き、そしてブーンからのジャンピング土下座を不意打ちで決めてきた。他の皆さんもその後を追うようににブーンからのジャンピング土下座を決める。

 おおっと! びっくりした。ここでのこれは想定外だった。ただ王様の演技はキレがあってとても良かった。それに何より、他の皆さんの演技がまるで示しを合わせたかのようにきれいにそろっていたのもポイントが高い。

 ……そうだね。これはいつぞやの教皇様と同じように10点満点をあげてもいいかもしれない。それくらいの素晴らしい演技だったと思う。

 そんな素晴らしい演技を見た満足感に浸っていると、馬車はお城を出て町中を東へと向かって進んでいく。最初の目的地はイエロープラネット首長国連邦へ行ったときに港として利用したセムノスだ。

 そういえば、ザッカーラ侯爵は元気だろうか?

 そんなことを考えながら窓の外をちらりと見遣ると、町の人たちが私に向かって手を振っていた。

 私が通るということは公表していないと聞いていたが、交通規制が敷かれるということから私が通ることを予想して集まったのかもしれない。

 そんな彼らに応えてあげるのも偶像の役目だろう。

 そう考えた私は営業スマイルを貼り付けると窓から顔を覗かせ、私を見送ってくれる彼らに向けて小さく手を振り返したのだった。
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