勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第20話 騎士団の伝統

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 しばらく森の中を走っていくと、少し開けた場所で大量の狼の魔物が血を流してボロボロのニコラくんたちをぐるりと取り囲んでいた。

 これは、五十頭くらいはいるだろうか?

 どうやらかなりの怪我人が出ているらしく、ここまで血の匂いが漂ってきている。これは、ちょっと危ないかもしれない。

「フォレストウルフの群れでござるな。いくら新人とはいえ、これに遅れを取るのは少々厳しいでござろう」

 んん? どういうこと?

「フィーネ様! 早く助けてやりましょう!」
「そうですね。私とルーちゃんは大丈夫ですから、彼らを助けてあげてください」
「かしこまりました」
「行くでござるよ」

 そうして飛び出していった二人は、文字通り一瞬でフォレストウルフたちを斬り伏せた。

「姉さまっ。精霊たちが、近くにもう魔物はいないって言っています」
「そうですか。ありがとうございます」
「フィーネ殿。怪我人を頼むでござるよ」

 精霊の助けを借りられるのは便利だな、などと思っているとシズクさんが遠くから声をかけてきた。

「はい。今行きます」

 そう短く返事をすると、シズクさんのところへと小走りに駆け寄った。

 するとそこにはニコラくんを含む多くの若い騎士たちがあちこちから血を流して倒れている。

「ではまとめて治しますね。治癒!」

 軽く発動した治癒魔法によって彼らの傷は、一瞬で何もなかったかのように塞がった。

 うん。やはり【回復魔法】も前と比べてかなり強化されている。これもきっと【魔力操作】のスキルレベルをカンストしたおかげだろう。

 さて。怪我人もいなくなったし、あとは瘴気を浄化してあげないとね。

 私はさっとリーチェを召喚すると、いつもどおりにフォレストウルフたちの遺体を浄化してあげる。

「聖女様、ありがとうございます」

 ん? 後ろで誰かの声がしたような?

 いや。今は瘴気をなんとかすることのほうが先決だ。

 私はその声を無視してリーチェに魔力を渡してあげる。するとリーチェはいつもどおりに花びらを降らせてくれ、それから私は種をそっと放り投げた。最後に魔力を再びリーチェに渡すと花びらは光り輝き、フォレストウルフたちの遺体は小さな魔石だけを残して消滅したのだった。

 後はわずかに芽吹いた種をきちんと地面に植えてやり、魔石を回収して仕事は完了だ。

「あ、あの、その……せ、聖女様……」

 遠慮がちな声が聞こえてきたので振り返ると、そこには尻もちをついて驚くニコラくんの姿があった。

「ああ、はい。無事で何よりです。それよりも、危険ですから戻りましょう」
「は、はい……」

 私はニコラくんたちを促して歩き始める。彼らは随分としょげた様子だが、私たちが駆けつけていなければ命を落としていたかもしれないのだ。

 やはり、ニコラくんに実戦はまだ早かったのではないかと思う。

「クリスさん。さすがに人選ミスだったんじゃないでしょうか?」
「……そうですね。いくら見習いとはいえ、まさかフォレストウルフごときに遅れを取るとは思いませんでした」

 ああ、なるほど。そういう強さの魔物ということか。

「ですが、第五騎士団の方針ですので……」
「はあ。そうですか」

 とはいえ、戦力にならないレベルの人を前に出すのはどうなのだろうか?

 って、あれ? そもそも騎士団の皆さん、何もしていないような?

「……クリスさん。もしかしてこれ、私たちだけで勝手に森に入って浄化してあげたほうが手っ取り早かったのではないでしょうか?」
「……申し訳ございません」
「ええぇ」

◆◇◆

 あれから何度か見習いたちの救助をしところで今日の魔物退治は終了となり、サマルカへと戻ってきた。

「聖女様。本日はご助力を賜りまして、誠にありがとうございました」
「はぁ。あの、団長さん」
「なんでしょうか?」
「どうして団長さんたちではなく見習いの子たちばかりが戦っていたのでしょうか?」
「それは……見習いたちがどうしても志願して参ったのです。本日のようなことは騎士であればいつかは必ず通る道ですので、本人たちがもっともやる気のあるときにやらせてやろうと考えた次第でございます。その結果として聖女様のお手を煩わせてしまったのは大変申し訳ございません」
「はぁ。それはいいんですが、どうして経験のある騎士の方が一緒に行って指導してあげないのでしょうか?」
「えっ?」
「えっ?」

 私の抱いた疑問があまりにも意外だったようで、エンゾさんは驚きの声を上げた。そしてそんな風に驚きの声を上げられたことが意外で私は思わず同じような驚きの声を上げてしまう。

「あの、そんなにおかしいですか? 経験のある騎士の方が引率していればあんなことにはならないと思うんですけど……」
「……考えたこともありませんでした。代々ずっとこのやり方をしておりましたので、これが正しいのだとばかり……」

 私がちらりとクリスさんを横目でみると、なんとクリスさんまで感動したかのような表情で私のことを見ている。

 ええっ!? クリスさんもまさかこのやり方が正しいって思い込んでいたわけ?

 最近はそうでもないのですっかり忘れていたが、よく考えたらクリスさんはもともと脳筋なのだった。

 いわゆる体育会系の伝統みたいな感じで、これまでのやり方に疑問を抱かなかったのだろう。

「ええと、ではぜひとも見習いの皆さんの犠牲がなるべく少なくなるようなやり方を考えてみてください」
「ははっ!」

 エンゾさんはそう言ってブーンからのジャンピング土下座を決めた。

 まあ、悪くない演技だったけど7点かな。理由は、そうだね。なんとなく私がうんざりした気分になっていたからということで許してほしい。次回はもうちょっと普通の気分のときに採点させてほしいと思う。
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