勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第47話 聖女の奇跡

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「出ます! クリスさん! シズクさん! あいつのところまで道を作ってください。ルーちゃんは下がって! 後から騎士の人たちと合流してください!」

 そう叫ぶと私は結界を解き、一直線にシャルのところへと走り出す。

「姉さまっ!?」
「フィーネ様! お待ちください!」
「拙者が前に出るでござる!」

 炎龍王のところでシャルが踏まれたのが見えていたであろうシズクさんが前に出て道を切り開いてくていれる。

 どうやらクリスさんは私の後ろから追いかけてきているようだ。

 あっと、そうだった。もう私のほうがクリスさんよりもAGIのステータスが高いのだった。だから私が全力で走ればこうなってしまうのも仕方がない。

 そう思ってちらりと振り返ると、クリスさんとルーちゃんが後ろから必死に追いかけてきているのが目に映った。

 そうしてシズクさんが切り開いてくれた道を進み、ようやく炎龍王の前に到着した。

 そこにはまだ炎龍王に踏みつぶされているシャルと、地面に横たわるアランさんの姿があった。

「シャル! シャル!」

 必死に呼び掛けるが、シャルからの返事はない。いや、あれは……。

「フィーネ殿。シャルロット殿はもう……」

 シズクさんが沈痛な面持ちでそう言って首を横に振った。

「フィーネ様!」
「姉さまっ! 置いてかないでください! あたしだって戦いますっ! ……え? シャルロットさん?」
「シャルロット様!?」

 ルーちゃんとクリスさんも炎龍王に踏みつけられているシャルに気付き、そして息をのんだ。

「まだです! お願いします。シャルを! シャルを助けたいんです!」

 私のそんな言葉を聞いていたのか、炎龍王はシャルを踏みつけていた足を持ち上げる。

「シャル!」

 それから炎龍王はもう一度力を込めてシャルと体を踏みつけた。

 グシャリ、と血が飛び散る。

「こ、このっ!」

 私は水の槍を炎龍王の顔面に向けて放った。

「GRYU?」

 私の水の槍は命中したのだが、まったく効いていないようだ。どうやらスキルレベル3程度の水の槍では傷一つ与えられないらしい。

 炎龍王がお返しとばかりにブレスを吐いてきたので私はそれを結界で防いだ。さすがにカンストしている【聖属性魔法】の結界はこの程度の炎ではビクともしない。

「あいつの足をどけてくれたら、私が防壁でシャルを守ります。だから、どうか!」
「だが、フィーネ殿。シャルロット殿は……」
「お願いします!」
「……かしこまりました。フィーネ様。私もあのような冒涜を許すことはできません。シズク殿! 手を貸してくれ」
「そうでござるな。フィーネ殿。任せるでござるよ!」

 クリスさんはそう言って結界の外へと躍り出て、炎龍王の右へと回りこんだ。それに対してシズクさんは正面から突っ込んでいく。

 目にも止まらぬ速さで突進するシズクさんを炎龍王はちゃんと見えているようで、しっかりと飛び込んでくるシズクさんに向けてブレスを合わせてきた。

 だが私は防壁を炎龍王の大きく開いた口の中に設置し、そのブレスを腹の中に逆流させてやる。

 その隙にシズクさんがシャルを踏みつけている足を斬りつけ、そしてクリスさんが横から炎龍王の胴体を斬りつけた。

 「GRYAAAAAA」

 どうやら有効打になったようだ。炎龍王が怒りの雄たけびを上げ、シャルを踏んづけていた足をどかした。

「今! 防壁!」

 私は炎龍王の口の中に設置した防壁を解除し、新たにシャルを守るように防壁を設置した。

「あたしもいますっ! マシロ!」

 ルーちゃんはマシロちゃんを召喚して風の刃を飛ばした。風の刃は炎龍王の顔面に命中したものの、傷をつけることはできなかった。

「ううっ」
「ルーちゃん。大丈夫です。他の魔物が出てきたらお願いしますね」
「……はい」

 しょんぼりしているが、こればかりは仕方がない。何しろ、相手はあの炎龍王と思われる相手なのだ。生半可な攻撃が通用するはずがない。

「クリスさん、シズクさん。あいつをシャルから遠ざけてください」
「お任せください!」
「こっちでござるよ!」

 シズクさんは炎龍王に攻撃すると見せかけては離れるという動作を繰り返し、少しずつ炎龍王をシャルから引き離していく。

 クリスさんはシズクさんのその動きに合わせるように斬撃を飛ばして炎龍王がシズクさんだけを攻撃しないように牽制している。

 そうして少しずつ動かした結果、炎龍王をシャルから引き離すことに成功した。

「ありがとうございます! 結界!」

 私はシャルのもとへと駆け寄ると結界を展開した。

「あ、あの、姉さま。シャルロットさんは……」

 ルーちゃんが言いにくそうにしながらもおずおずとそう言った。

 わかっている。シャルはもう、死んでいるということは。

 体は完全に潰れており、息だってしていない。

 でも、私には【蘇生魔法】がある。

 もちろんこんな風に使うことを想定して【蘇生魔法】を取ったわけじゃない。

 でも、ここで使わずにいつ使うというんだ!

 私は大きく息を吐いてから意識を集中し、【蘇生魔法】を発動した。

 すると私の手の平から柔らかな優しい光があふれだし、シャルの遺体を包み込んだ。すると独特の感覚で魔力が流れていくのを感じるとともに、魔力がすさまじい勢いで消費されていく。

 あ、これは……いける、かも?

 ダメだ! MPが!

「ルーちゃん!」
「は、はい!」
「そこに出したMPポーションを私に飲ませてください」

 私は収納の中から急いでMPポーションを取り出して地面に転がした。

「え? 今ですか?」
「はい! 早く! 私のMPが尽きる前に!」
「わ、わかりました。はい、姉さま」

 ルーちゃんが差し出してくれたMPポーションを一気に飲み干すと、少しだけMPが回復した。だが、まだまだ減っていくスピードのほうが速い。私は収納からありったけのMPポーションを取り出して地面に転がした。

「ルーちゃん。もっと! どんどんお願いします」
「は、はい」

 そうしてルーちゃんから何十本ものMPポーションを飲ませてもらいながら【蘇生魔法】を使いつづけていると、何かの手応えが返ってきた。

 あ? これは、もしかして?

「すごい……」

 そんなルーちゃんの声が聞こえてくる。

 そしてシャルはというと、あれだけ滅茶苦茶に潰されていた体が綺麗に治っていた。そして、シャルのまぶたがピクリと動いたのだ!

「シャル?」
「あ……フィーネ?」

 シャルは目を開けて、私の名前を呼んだ。

 そう。たしかに私の名前を呼んだのだ!
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