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欲と業
第十一章第18話 冥龍王の最後(前編)
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「頼み、ですか?」
「うむ。冥龍王ヴァルガルム様を救ってやってはくれぬか?」
「え?」
「フィーネ殿は、あの炎龍王ヴァルグレイブをも倒したのじゃろう?」
「はい」
「今のそなたであれば、ヴァルガルム様を救うことができるはずじゃ。頼む、フィーネ殿。いや、聖女フィーネ・アルジェンタータ殿! 頼む!」
インゴールヴィーナさんは縋るような目でそう訴えると、頭を下げてきた。
「でも、封印を解けばこの里は……」
「……儂らも、外に被害が及ばぬように協力しよう。じゃから、頼む! あのお優しかったヴァルガルム様をこのままになど!」
クリスさんたちをちらりと見る。
「フィーネ様であれば、冥龍王の闇の力に対抗することは容易いでしょう」
「はい。あたしも、なんとかしたいですっ」
「賛成でござるよ。フィーネ殿がいる今こそが、ヴァルガルム殿を救うチャンスでござろうからな」
三人とも神妙な面持ちで頷くと、口々に賛成してくれた。
「わかりました。やってみましょう」
「おお! ありがとう!」
こうして私たちはかつて封印のメンテナンスをしたあの洞窟へと向かうのだった。
◆◇◆
私たちは再び冥龍王の分体と戦った地下ドームへとやってきた。三年くらい前に封印をメンテナンスしたばかりなので、今回は冥龍王の分体が出てきていて柱をかじっているということはない。
「封印の本体はその祠の地下じゃ」
「わかりました」
インゴールヴィーナさんに言われ、私は祠に近づいた。祠は結界で厳重に封印されているが、この結界は聖属性だ。
「フィーネ様、どうなさるおつもりですか?」
「え? 普通に入るつもりですよ?」
私はそう答えると、そのまま結界の中に歩いて入る。
「フィーネ様!? お待ちください!」
クリスさんが慌てて私の後について中に入ろうとするが、なんと見えない壁に阻まれてしまった。
「フィーネ様!」
「フィーネ殿!」
「姉さま!」
うん? あ、そうか。私以外はこの方法で入れないのか。
じゃあ、こうすればいいかな?
私は一度外に出ると、封印に穴を開けるような格好で結界を展開した。
「これでみんな中に入れますか?」
「……滅茶苦茶じゃな」
「姉さま……」
「フィーネ様、お一人で行かれるなど……」
「あまり心配させないでほしいでござるよ。いくらフィーネ殿と相性のいい相手とはいえ、龍王と冠される相手でござるよ?」
「そうですね。すみません。つい……」
そうして全員が中に入ると、すぐさま結界を修復した。これでもう大丈夫だろう。
それから私は祠の扉を開けた。
するとその内部は見た目とは違って少し広くなっており、そこに降りるための階段がぽっかりと口を開けている。
「その階段を下った先に、ヴァルガルム様がおるのじゃ」
「わかりました。行きましょう」
「はい」
そうして階段をゆっくりと降りていくと、やがて巨大な地下ドームに辿りついた。先ほどの祠があった地下ドームは半径三十メートルほどだったが、ここはさらに大きい。そしてその中央には祠ではなく祭壇のようなものがある。
だが、肝心の冥龍王の姿はどこにもない。
「姉さま、いないですよ?」
「あの中央に祭壇があるじゃろう? あそこに封じられておるのじゃ」
「そうなんですか。行ってみましょう」
そうして私たちは祭壇の目の前にやってきた。
「うーん? どうやって冥龍王に会えばいいんですか?」
「それは、儂にも分からぬ。ここはヴァルガルム様がご自分でやられたのじゃ」
「え?」
ここに来てまさかの会う手段がないというオチがあるなんて!
「じゃから、聖属性魔法ではないのじゃ。じゃが、炎龍王をも滅ぼしたフィーネ殿の力ならどうにかできるのではないか?」
いやいやいや。それは無理じゃないかな。いくら【聖属性魔法】をカンストしているからって、なんでもかんでもできるわけじゃない。
「いえ、さすがにそれは――」
「フィーネ殿、もしかするとこの封印も進化の秘術なのではござらんか?」
「え?」
「もしそうなら、リーチェ殿の種でどうにかなるのではござらんか?」
そうなのだろうか?
いや、でもやってみる価値はあるかもしれない。失敗したってここに種を置いていけばいいだけだしね。
そう考えた私はリーチェを召喚して種を貰い、それを祭壇に捧げた。
すると種はあっと今に発芽する。まるで苔が祭壇を覆っていくかのようにみるみる成長し、あっという間に祭壇とその周辺は緑の絨毯に覆われた。
すると祭壇の向こう側の空間が歪み始める。その歪みは徐々に大きくなり、やがて一対の翼を持つ巨大な黒竜が姿を現した。まるで夜空を吸い込んだかのような漆黒の鱗からは黒い靄を纏っている。
あれは……やはり瘴気なのだろう。
しかしその身に纏う瘴気は少しずつではあるが、確実に流れ落ちていく。その先には緑の絨毯があり、まるでそれを糧にしているかのようにどんどん緑の範囲を広げていっている。
やがて緑の絨毯は冥龍王の体をも覆っていき、やがてすっぽりと包み込んでしまった。
「これは、どうすればいいんでしょうね……?」
困り果ててそう呟くが、その答えを知っている者は当然ながら誰もいない。
無言のまましばらくすると、苔の塊となった冥龍王が頭を少しだけ持ち上げた。冥龍王は目を開けるとそこにはまるで闇の塊のような瞳があり、こちらをじっと見つめてくる。
すると冥龍王はおもむろに立ち上がり、口を大きく開けた!
「うむ。冥龍王ヴァルガルム様を救ってやってはくれぬか?」
「え?」
「フィーネ殿は、あの炎龍王ヴァルグレイブをも倒したのじゃろう?」
「はい」
「今のそなたであれば、ヴァルガルム様を救うことができるはずじゃ。頼む、フィーネ殿。いや、聖女フィーネ・アルジェンタータ殿! 頼む!」
インゴールヴィーナさんは縋るような目でそう訴えると、頭を下げてきた。
「でも、封印を解けばこの里は……」
「……儂らも、外に被害が及ばぬように協力しよう。じゃから、頼む! あのお優しかったヴァルガルム様をこのままになど!」
クリスさんたちをちらりと見る。
「フィーネ様であれば、冥龍王の闇の力に対抗することは容易いでしょう」
「はい。あたしも、なんとかしたいですっ」
「賛成でござるよ。フィーネ殿がいる今こそが、ヴァルガルム殿を救うチャンスでござろうからな」
三人とも神妙な面持ちで頷くと、口々に賛成してくれた。
「わかりました。やってみましょう」
「おお! ありがとう!」
こうして私たちはかつて封印のメンテナンスをしたあの洞窟へと向かうのだった。
◆◇◆
私たちは再び冥龍王の分体と戦った地下ドームへとやってきた。三年くらい前に封印をメンテナンスしたばかりなので、今回は冥龍王の分体が出てきていて柱をかじっているということはない。
「封印の本体はその祠の地下じゃ」
「わかりました」
インゴールヴィーナさんに言われ、私は祠に近づいた。祠は結界で厳重に封印されているが、この結界は聖属性だ。
「フィーネ様、どうなさるおつもりですか?」
「え? 普通に入るつもりですよ?」
私はそう答えると、そのまま結界の中に歩いて入る。
「フィーネ様!? お待ちください!」
クリスさんが慌てて私の後について中に入ろうとするが、なんと見えない壁に阻まれてしまった。
「フィーネ様!」
「フィーネ殿!」
「姉さま!」
うん? あ、そうか。私以外はこの方法で入れないのか。
じゃあ、こうすればいいかな?
私は一度外に出ると、封印に穴を開けるような格好で結界を展開した。
「これでみんな中に入れますか?」
「……滅茶苦茶じゃな」
「姉さま……」
「フィーネ様、お一人で行かれるなど……」
「あまり心配させないでほしいでござるよ。いくらフィーネ殿と相性のいい相手とはいえ、龍王と冠される相手でござるよ?」
「そうですね。すみません。つい……」
そうして全員が中に入ると、すぐさま結界を修復した。これでもう大丈夫だろう。
それから私は祠の扉を開けた。
するとその内部は見た目とは違って少し広くなっており、そこに降りるための階段がぽっかりと口を開けている。
「その階段を下った先に、ヴァルガルム様がおるのじゃ」
「わかりました。行きましょう」
「はい」
そうして階段をゆっくりと降りていくと、やがて巨大な地下ドームに辿りついた。先ほどの祠があった地下ドームは半径三十メートルほどだったが、ここはさらに大きい。そしてその中央には祠ではなく祭壇のようなものがある。
だが、肝心の冥龍王の姿はどこにもない。
「姉さま、いないですよ?」
「あの中央に祭壇があるじゃろう? あそこに封じられておるのじゃ」
「そうなんですか。行ってみましょう」
そうして私たちは祭壇の目の前にやってきた。
「うーん? どうやって冥龍王に会えばいいんですか?」
「それは、儂にも分からぬ。ここはヴァルガルム様がご自分でやられたのじゃ」
「え?」
ここに来てまさかの会う手段がないというオチがあるなんて!
「じゃから、聖属性魔法ではないのじゃ。じゃが、炎龍王をも滅ぼしたフィーネ殿の力ならどうにかできるのではないか?」
いやいやいや。それは無理じゃないかな。いくら【聖属性魔法】をカンストしているからって、なんでもかんでもできるわけじゃない。
「いえ、さすがにそれは――」
「フィーネ殿、もしかするとこの封印も進化の秘術なのではござらんか?」
「え?」
「もしそうなら、リーチェ殿の種でどうにかなるのではござらんか?」
そうなのだろうか?
いや、でもやってみる価値はあるかもしれない。失敗したってここに種を置いていけばいいだけだしね。
そう考えた私はリーチェを召喚して種を貰い、それを祭壇に捧げた。
すると種はあっと今に発芽する。まるで苔が祭壇を覆っていくかのようにみるみる成長し、あっという間に祭壇とその周辺は緑の絨毯に覆われた。
すると祭壇の向こう側の空間が歪み始める。その歪みは徐々に大きくなり、やがて一対の翼を持つ巨大な黒竜が姿を現した。まるで夜空を吸い込んだかのような漆黒の鱗からは黒い靄を纏っている。
あれは……やはり瘴気なのだろう。
しかしその身に纏う瘴気は少しずつではあるが、確実に流れ落ちていく。その先には緑の絨毯があり、まるでそれを糧にしているかのようにどんどん緑の範囲を広げていっている。
やがて緑の絨毯は冥龍王の体をも覆っていき、やがてすっぽりと包み込んでしまった。
「これは、どうすればいいんでしょうね……?」
困り果ててそう呟くが、その答えを知っている者は当然ながら誰もいない。
無言のまましばらくすると、苔の塊となった冥龍王が頭を少しだけ持ち上げた。冥龍王は目を開けるとそこにはまるで闇の塊のような瞳があり、こちらをじっと見つめてくる。
すると冥龍王はおもむろに立ち上がり、口を大きく開けた!
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