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欲と業
第十一章第31話 地獄の沙汰も金次第
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エルムデンでやるべきことを終え、私たちは再びリルンへとやってきた。私たちは再び大歓迎され、迎賓館にも泊めてもらうことになった。
するとなんとなく予想はしていたが、私たちのところにアスランさんがやってきた。しかも今度は大統領とも一緒だったので断れず、仕方ないので会って話をすることとなった。
「聖女様、その節は大変失礼をいたしました」
会うなり、アスランさんは私たちに謝罪をしてきた。
「ええと、何について謝っているんでしょうか?」
「全てでございます。アポもなしにお伺いした件も、聖女様のご意向を知らなかったとはいえ種を転売したことも、申し訳ございませんでした」
「……そうですか」
「種につきましては販売先から買い戻し、教会と相談して魔物による被害の多い地域へとお送りいたしました」
うーん? どうしよう。そこまでしてもらったんならもうこれ以上この件で怒るのはちょっと大人げない気もするぞ。
「わかりました。そういうことでしたら、種の件は水に流しましょう」
「ありがとうございます!」
「お許しいただけて良かったですな、アスラン殿」
「ええ」
アスランさんは心底ホッとしたような表情を浮かべている。
まあ、私としてもアスランさんをいじめたいわけじゃないからね。
ただ、そんなことよりも聞かなきゃいけないことがある。
「ところでアスランさん」
「はい、なんでしょうか?」
「実は――」
私はエルムデンでのことを話した。
「奴隷の取引をしていたアミスタット商会を運営していたマフィアが、その親分のマフィアがハスラングループと親密な関係だと言っていました」
するとアスランさんは何かを考えるように、しばらく虚空を見つめた。
「……それはもしや、ヘットナーファミリーのことでしょうか?」
「はい。そうです」
「なるほど。たしかにハスラングループはヘットナーファミリーと付き合いはあります」
「でも、マフィアなんですよね?」
「はい。彼らはたしかにマフィアと自ら名乗っています。ですが、彼らは法に触れるような行為はしていないのです」
「え?」
「犯罪を犯していないのですから、我々としても付き合いを止めるなどという発想はございません」
「でも奴隷売買のことは!」
「ええ、そうですね。ヘットナーファミリーはかなり危険な橋を渡り、奴隷売買の情報を得てくれたと聞いております。聖女様は、最初に私たちがお会いしたときのことを覚えてらっしゃいますか?」
「え? ええと、たしか教会の裏から秘密の通路を通っていきましたね」
「はい。そうせねばならぬほどに、奴隷売買を暴くことは危険だったのです。一歩間違えば、私だって暗殺されていた可能性がありました」
うーん。そう言われてみればそんな気もするな。でも、知らなかったなんてことはあるんだろうか?
「もちろん聖女様の仰るようにヘットナーファミリーが何か悪事を働いている可能性はあるでしょう。ですが、世の中はきれいごとだけでは回らないのもまた事実なのです。我が国においてヘットナーファミリーはアミスタット商会を運営していたマフィアのような犯罪集団ではありません。その点につきましては、どうかご理解いただけますようよろしくお願いいたします」
ここは、やっぱり【魅了】を使ってでも話してもらったほうがいいだろうか?
私は困ってちらりとシズクさんとクリスさんを見るが、二人とも首を横に振った。
いや、そうだよね。やっぱりさすがにそれはないよね。
アスランさんは犯罪者ではないんだし、誰かに濡れ衣を着せられているわけでもないのだ。
犯罪をしているという確信があるわけでもないのに、無理やりしゃべらせるなんて絶対にダメだ。
私はちらりと大統領のほうを見る。
「アスラン殿の仰るとおりでございます」
なるほど。じゃあ、仕方がないのだろう。
「……わかりました」
「感謝いたします」
私の返事にアスランさんは笑顔でそう答えたのだった。
◆◇◆
「ううん。どうなってるんでしょうか。マフィアって自分で言っていても犯罪者じゃないなんて……」
アスランさんと大統領が帰ったあと、部屋に戻った私はクリスさんにそう愚痴をこぼした。
「そうですね。私も犯罪者でないマフィアというのは初耳です。しかしブルースター共和国が犯罪者ではないと認めている以上、私たちが首を突っ込む問題ではありません。それこそ国際問題にもなりかねません」
「……そうですよね」
とはいえ、どうにも釈然としない。
「地獄の沙汰も金次第、といったところではござらんか?」
「え? 賄賂を受け取っているってことですか?」
「不思議ではござらんよ? エルムデンでは裁判官が買収されていたではござらんか」
「それは……」
たしかにパウルさんは病気の奥さんの薬を買うために、ヨハンさんに有利な判決を下していた。
もちろんパウルさんの奥さんは治してあげたが、だからといってパウルさんが牢屋から出た後のことはどうなるかわからない。
「ま、こういった問題はどこにでもあるでござるよ。いちいち気にして解決しようとしていたら、いつになっても精霊の島に辿りつけないでござるよ」
「……それもそうですね」
ホワイトムーン王国にだっておかしな貴族はたくさんいたし、人間とはそういうものなのかもしれない。
でも、だから瘴気が……。
なんともやりきれない気分で、モヤモヤしたものが私の心をずっしりと重くしたのだった。
するとなんとなく予想はしていたが、私たちのところにアスランさんがやってきた。しかも今度は大統領とも一緒だったので断れず、仕方ないので会って話をすることとなった。
「聖女様、その節は大変失礼をいたしました」
会うなり、アスランさんは私たちに謝罪をしてきた。
「ええと、何について謝っているんでしょうか?」
「全てでございます。アポもなしにお伺いした件も、聖女様のご意向を知らなかったとはいえ種を転売したことも、申し訳ございませんでした」
「……そうですか」
「種につきましては販売先から買い戻し、教会と相談して魔物による被害の多い地域へとお送りいたしました」
うーん? どうしよう。そこまでしてもらったんならもうこれ以上この件で怒るのはちょっと大人げない気もするぞ。
「わかりました。そういうことでしたら、種の件は水に流しましょう」
「ありがとうございます!」
「お許しいただけて良かったですな、アスラン殿」
「ええ」
アスランさんは心底ホッとしたような表情を浮かべている。
まあ、私としてもアスランさんをいじめたいわけじゃないからね。
ただ、そんなことよりも聞かなきゃいけないことがある。
「ところでアスランさん」
「はい、なんでしょうか?」
「実は――」
私はエルムデンでのことを話した。
「奴隷の取引をしていたアミスタット商会を運営していたマフィアが、その親分のマフィアがハスラングループと親密な関係だと言っていました」
するとアスランさんは何かを考えるように、しばらく虚空を見つめた。
「……それはもしや、ヘットナーファミリーのことでしょうか?」
「はい。そうです」
「なるほど。たしかにハスラングループはヘットナーファミリーと付き合いはあります」
「でも、マフィアなんですよね?」
「はい。彼らはたしかにマフィアと自ら名乗っています。ですが、彼らは法に触れるような行為はしていないのです」
「え?」
「犯罪を犯していないのですから、我々としても付き合いを止めるなどという発想はございません」
「でも奴隷売買のことは!」
「ええ、そうですね。ヘットナーファミリーはかなり危険な橋を渡り、奴隷売買の情報を得てくれたと聞いております。聖女様は、最初に私たちがお会いしたときのことを覚えてらっしゃいますか?」
「え? ええと、たしか教会の裏から秘密の通路を通っていきましたね」
「はい。そうせねばならぬほどに、奴隷売買を暴くことは危険だったのです。一歩間違えば、私だって暗殺されていた可能性がありました」
うーん。そう言われてみればそんな気もするな。でも、知らなかったなんてことはあるんだろうか?
「もちろん聖女様の仰るようにヘットナーファミリーが何か悪事を働いている可能性はあるでしょう。ですが、世の中はきれいごとだけでは回らないのもまた事実なのです。我が国においてヘットナーファミリーはアミスタット商会を運営していたマフィアのような犯罪集団ではありません。その点につきましては、どうかご理解いただけますようよろしくお願いいたします」
ここは、やっぱり【魅了】を使ってでも話してもらったほうがいいだろうか?
私は困ってちらりとシズクさんとクリスさんを見るが、二人とも首を横に振った。
いや、そうだよね。やっぱりさすがにそれはないよね。
アスランさんは犯罪者ではないんだし、誰かに濡れ衣を着せられているわけでもないのだ。
犯罪をしているという確信があるわけでもないのに、無理やりしゃべらせるなんて絶対にダメだ。
私はちらりと大統領のほうを見る。
「アスラン殿の仰るとおりでございます」
なるほど。じゃあ、仕方がないのだろう。
「……わかりました」
「感謝いたします」
私の返事にアスランさんは笑顔でそう答えたのだった。
◆◇◆
「ううん。どうなってるんでしょうか。マフィアって自分で言っていても犯罪者じゃないなんて……」
アスランさんと大統領が帰ったあと、部屋に戻った私はクリスさんにそう愚痴をこぼした。
「そうですね。私も犯罪者でないマフィアというのは初耳です。しかしブルースター共和国が犯罪者ではないと認めている以上、私たちが首を突っ込む問題ではありません。それこそ国際問題にもなりかねません」
「……そうですよね」
とはいえ、どうにも釈然としない。
「地獄の沙汰も金次第、といったところではござらんか?」
「え? 賄賂を受け取っているってことですか?」
「不思議ではござらんよ? エルムデンでは裁判官が買収されていたではござらんか」
「それは……」
たしかにパウルさんは病気の奥さんの薬を買うために、ヨハンさんに有利な判決を下していた。
もちろんパウルさんの奥さんは治してあげたが、だからといってパウルさんが牢屋から出た後のことはどうなるかわからない。
「ま、こういった問題はどこにでもあるでござるよ。いちいち気にして解決しようとしていたら、いつになっても精霊の島に辿りつけないでござるよ」
「……それもそうですね」
ホワイトムーン王国にだっておかしな貴族はたくさんいたし、人間とはそういうものなのかもしれない。
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