勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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欲と業

第十一章第36話 隠された修道院(後編)

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「セブニッツ修道院は、またの名を贖罪しょくざい修道院というのですじゃ」
「贖罪修道院!?」

 聞いたこともない言葉に私は思わず聞き返した。

「そのとおりですじゃ」
「贖罪修道院って、なんですか?」
「罪を犯した者のための修道院、つまり魔物を間近で見て自らの罪を顧み、神に懺悔ざんげし祈りを捧げるための場所ですじゃ」
「……それは、普通の修道院とは何が違うんですか?」
「贖罪修道院は、魔物の多く出る人里離れた場所にあるのですじゃ。人の罪の写し鏡である魔物の姿をより間近で見て、自らの罪を深く反省できるように、と」
「え? そんな場所にいたら魔物に襲われてしまうんじゃないですか?」
「……そうですのう。きっと生きてはおれますまい」
「……」

 いや、その理屈はおかしいのではないだろうか?

 たしかに魔物は人間の歪んだ欲望から生み出される瘴気が原因で、人を襲わずにはいられないという衝動に駆られている。

 だからそんなことをしたって魔物が減るわけではない。それこそ人間が瘴気を生み出さずにすむほど改心しなければ無理だろう。

 それに商会長のお嬢さんというのは、死刑にされるほどの罪を犯していたのだろうか?

「その修道院には、どういう人が送られるんですか?」
「修道院に行く者は、罪を自覚した者が自分で行くのですじゃ。誰かが無理やり送るということはございませんのぅ」
「え?」

 それってつまり、反省した人が自殺をしに行くのを見て見ぬふりをしたってことだよね?

「村長さん、すぐにその修道院に案内してもらえませんか?」
「……そうして差し上げたいのは山々なのですがのぅ。魔物のいる地です故、どうか……」
「え? でも、女性が行きましたよね?」
「……そこまでご存じでしたか」

 村長さんはそう言って大きくため息をついた。

「たしかに少し前、ロラがどこかのお嬢さんを送っていきました。ですが、そのことをロラは随分と後悔しておるようなのですじゃ。どうせもう生きてはおりませぬ故、そっとしておいてはもらえませぬかのぅ」
「……」

 そういうことか。それはたしかに心の傷が抉られるだろうし、言いたくないと言っていたのも無理はないかもしれない。

 何しろロラさんはその人を見殺しにした、いや、自殺の手助けをしたとも言える状況なのだ。

 であればなおのこと、私はここでこのまま引き下がるわけにはいかない。

「わかりました」

 私がそう言うと、村長さんは露骨にホッとしたような表情を浮かべた。それに対して、クリスさんとルーちゃんは意外そうに私のほうを見ている。

「では、その修道院のある場所を教えてください。私たちだけで行きます」
「フィーネ様?」
「だって、まだ魔物に殺されたと決まったわけではありませんからね。一度行って、確認してみたいんです」

 私の言葉にルーちゃんはパッと表情を輝かせた。

「仕方がありませんのぅ。修道院の場所は――」

 こうして私たちは村長さんから修道院の場所を教えてもらい、扉を開けるのに必要だという鍵を受け取ったのだった。

◆◇◆

 翌朝、出発しようと駐屯小屋から出てきた私たちの前にロラさんがやってきた。何か決意を固めたような表情をしている。

「あの! 聖女様!」
「はい」
「どうか私に道案内させてください!」
「いいんですか?」
「はい。その、村長から聖女様には全部話したって聞きました。それで、その! 私、ずっとあの人にひどいことをしたんじゃないかって思ってて……。もう遅いかもしれないけど、でもやっぱり連れていっちゃダメだったんじゃないかって……」

 言っていることはとりとめがないが、かなり後悔していたということはよく分かる。

「大丈夫です。今ならまだ間に合うかもしれませんよ」
「っ! 聖女様!」

 ロラさんはブーンからのジャンピング土下座を決めた。

 うん。6点だね。感情が演技に大きく影響して崩れているので、もうちょっときちんと演技をすることを考えたほうがいいだろう。

 というか、ことあるごとに私を拝むのは止めて欲しい。私を拝んだところでご利益はなんてないんだし、どうせなら隣にいる彼氏のレジスさんにでも抱きつきばいいのではないだろうか?

 レジスさんだってロラさんを慰められて嬉しいだろうし、そうすればきっと二人が末永く爆発する日も近づくと思うのだ。

「神の御心のままに」

 そんなことを考えているなどとはおくびにも出さずにいつもの言葉でロラさんを起こすと、私たちはすぐに修道院へと出発したのだった。
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