勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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正義と武と吸血鬼

第十二章第1話 三日月泉の異変

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 精霊の島を目指すため、私たちはレッドスカイ帝国を目指して旅を続けており、今は前回もお世話になったマルコさんの商隊に同行させてもらって砂漠を横断しているところだ。

 マルコさんと会えたのはユルギュで偶然同じ宿に泊まっていたからなのだが、なんとマルコさんはここ一週間ほどユルギュで足止めをくらっていたのだ。

 なんでも突然砂漠に魔物が出るようになったのだそうで、今では護衛なしに砂漠を渡ることは困難な状況になっているとのことだ。

 マルコさんの商隊はノヴァールブールとイェンアン往復することで生計を立てている商隊なわけで、砂漠を渡れないと立ち行かなくなってしまう。

 そこで護衛を雇うためにノヴァールブールへと戻ろうとしていたところ、たまたま私たちがやってきた。

 私たちとしても砂漠の道案内役がいるのは助かるし、マルコさんとしても優秀な護衛が雇えるのは助かる。

 こうして私たち相互の利益が合致したため、再び商隊のお世話になることになったというわけだ。

 ちなみに馬車ではこの砂漠を通れないため、エドにはユルギュでお留守番をしてもらっている。

 そんなわけで二度目の砂漠越えを再び同じマルコさんの商隊と一緒に行っているのだが……。

「出た! デザートマウスの大群だ!」

 先頭のほうからそんな叫び声が聞こえてきた。

 その声を聞いてシズクさんが目にも止まらぬ速さで飛び出していった。そしてしばらくすると何事もなかったかのように戻ってくる。

「シズクさん、どうでした?」
「五十くらいだったでござるな」

 なるほど。大した数ではない気もするが、ラクダの損害などを考えるとそう単純な話ではないのだろう。

「浄化しておきますね」
「そうでござるな」

 私はいつもどおりに種を植え、魔物の遺体を浄化した。

「でも、前回はこんなに魔物は出ませんでしたよね」
「そうでござるな」
「マルコ殿は何かご存じだろうか?」

 クリスさんがマルコさんに話を振ると、マルコさんは難しい表情になった。

「うーん、そうですね。前は魔物なんてほとんど出なかったんですよね。大きな魔物の被害なんて三日月泉にデッドリースコルピが住み着いた件くらいだったかなぁ。ほら、三年前の」

 そういえばそんなこともあったね。懐かしい。

 三日月泉の子供たちは元気にしているだろうか?
 
 そんなことを考えつつも私はラクダに乗り、東を目指すのだった。

◆◇◆

 砂漠の旅も六日目となった。そろそろ三日月泉が見えてくるはずなのだが……。

「お! 見えてきましたよ、フィーネさん。三日月泉です」
「え? ああ、本当ですね。なんだか前に来たときよりも荒れているような……?」
「本当ですか? フィーネさんは目がいいですね」

 そんな会話をしつつも、私たちは集落の入口に到着した。すると村の入口にどこかで見覚えのある男性が立っている。

 ええと、なになに? 鑑定によるとどうやらこの人はラシードさんというらしい。どうやら三年前、私たちがこの集落へ来たときに食中毒の原因を探して村を案内してくれた人のようだ。

「こんにちは、ラシードさん」
「っ!? まさか……聖女様!?」

 ラシードさんは目を見開き、驚いている。

「お久しぶりですね」
「おお! 聖女様が! まさか一度ならず二度までも!」

 ラシードさんはそう言って土下座を始めた。

「あ、あの? ラシードさん? どうしたんですか? 二度ってなんのことですか?」

 しかしラシードさんは土下座をしたまま小さく震えており、鼻をすする音まで聞こえてくる。

「ええと……」
「おーい、ラシード? どうしたんだ?」
「ううっ。マルコ……」

 それからしばらくマルコさんがなだめ続け、ようやくラシードさんは起き上がったのだった。

◆◇◆

「聖女様、申し訳ございません!」

 集落の中に入ると、今度は集落の代表者的ポジションのハーディーさんが土下座して謝ってきた。

「どうしたんですか?」
「そ、それが……」

 なにやら言いにくそうにしている。

「じ、実は、その……」
「ええと?」
「聖女様より賜った花を枯らしてしまったのです! 我々の管理が行き届かないばかりに! 申し訳ございません!」
「えっ!?」

 たしかここには蓮に似た植物が可憐な花を咲かせていたはずだ。それが枯れてしまうなんて!

 ……あれ? ちょっと待てよ? そもそも蓮って何年も花を咲かせ続けるのか?

「リーチェ」

 私はすぐさまリーチェを呼び出した。

「この泉に植えた花が枯れてしまったそうなんですが、原因はわかりますか?」

 リーチェはすぐさま泉のほうへと飛んでいったので、私はすぐにその後を追いかける。

 なるほど。たしかに泉にはあのときの植物は影も形もない。

 するとリーチェはすぐに種を渡してくれた。

「ええと、このまま植えればいいんですか?」

 するとリーチェはコクリとうなずいた。

「もしかして枯れたのって、寿命だったりしますか?」

 するとリーチェはまたしてもコクリと頷いた。

 なるほど。どうやら瘴気を浄化する種を一度植えたらそれで終わりというわけではないらしい。

 納得した私は種を泉にそっと投げ入れるのだった。

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 第十二章も引き続き毎週火曜日、木曜日、日曜日の 19:00 更新となります。
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