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正義と武と吸血鬼
第十二章第3話 驢肉黄麺
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「さ、ここですよ。今日はせっかくなんで、ご馳走させてください」
「ありがとうございます」
マルコさんに連れられてやってきたのは大衆食堂風の場所だった。幸いなことに、このお店には私たちの絵は飾られていない。
店内に入り、席に着くと数分で料理が運ばれてきた。
「え?」
「ああ、ここはこの料理しかやってないんですよ」
差し出された料理は二皿に分かれていて、一皿はお肉の上にパクチーが乗せられている。もう一皿は薄黄色の細麺の上に豆腐の入った赤茶色でとろみのついた餡がたっぷりとかかっている。
「これは驢肉黄麺というこの町の伝統料理です。ロバの肉と餡かけ麺をセットで食べます。このあたりでは昔から『天上の龍肉、地上のロバ肉』と言ってロバの肉を食べていたそうです」
「へぇ」
龍の肉って美味しいのだろうか?
少なくとも炎龍王や冥龍王のお肉を食べたいとは思わないが……。
「特に黄麺は有名で、『龍のひげのように細く、金線のように長く、食べると香りが口に広がる』と人気なんですよ。石窟寺院の壁画にもこの麺が描かれているほどです」
「そんなに昔からあるんですね」
「はい。今では店によってレシピもバラバラで、味もかなりバリエーションがあります。ここは二皿で出してますけど、一皿で出すところもあります。それに餡だってもっと辛いところもあれば、ラクダのひき肉を入れている店もありますよ。私はここが一番好きですけど」
「なるほど」
ロバ肉というのははじめて食べるので少し楽しみだ。
「いただきます」
私はまず、ロバ肉を食べてみることにした。
見た目は脂身のない薄切りのチャーシューといったところだ。
私はそれを勢いよく口の中に放り込んだ。
ん! これは!
くせがほとんどない。あっさりしていてとても食べやすく、臭みのない良質な赤身肉の味だ。
噛めばしっかり肉のうま味が口いっぱいに広がり、肉につけられた下味がじんわりとしみだしてくる。
私はそのまま口の中にパクチーを運んだ。
うん、なるほど。こうするとスッとした独特の香りが鼻から抜け、肉のパラダイスとなっていた口の中に清涼な一陣の風が吹き抜ける。
これはおいしい!
続いて私は麺を食べてみる。
餡がしっかり絡みついた麺を口に運んだ。するとピリリとした辛さの中に何かの肉から取った出汁の味が隠れており、それが一体となってまず私の舌を、そして鼻を楽しませてくれる。
続いて細いのにしっかりとした歯ごたえのある麺がその餡の美味しさをしっかりと支えてくれている。もちもちとした食感と、噛めば噛むほど口の中を駆け巡る小麦の香りはこの麺を打ってくれた職人の腕がいかに素晴らしいのかを如実に現していると言えるだろう。
「姉さまっ! 一緒に食べるともっと美味しいですよ」
そう言われてルーちゃんのほうを見ると、ルーちゃんの隣にはすでに四枚のお皿が積み重なっていた。
五皿目を食べているルーちゃんは餡とロバ肉を絡めて口に運び、さらに麺まで口に運んだ。
「やってみますね」
私はルーちゃんの真似をしてみる。
んん! これは!
すごく合う!
今までも美味しかったというのに、こうすることで欠けたピースがしっかりと噛み合ったかのように完成された美味しさになった。
ロバ肉のしっかりした赤身肉の味と餡の味と香り、パクチーの香り、そして麺のもちもち感が重厚なオーケストラとなって舌を楽しませてくれる。
うん! 美味しい!
私は夢中になって肉と麺を食べ、気が付けば完食していたのだった。
心地よい満腹感に少しボーっとしていると、マルコさんが驚きの声を上げた。
「ええっ!? まだ食べるのっ?」
「おかわりっ! あと五皿お願いしますっ」
ちらりとそちらを見ると、ルーちゃんの隣にはすでに十皿が積み上がっていた。さらにもう五皿食べるつもりらしい。
いつもどおりではあるが、マルコさんはあんぐりと口を開けている。
まあ、ルーちゃんだしこれくらいは普通に食べるのは当たり前だ。
それから次々と運ばれてくる料理をルーちゃんは次々と平らげていく。
「マルコさん、支払いは私も……」
「あ、いえ。ここは大衆向けなんでお金は全然問題ないんですけどね。ただ、ルミアさんの大食いっぷりが……」
「そうですね。でもルーちゃんのお母さんのほうがもっとたくさん食べますよ」
「えっ!? あれより食べるの!? エルフって大食いなんだ。なんだかイメージが……」
マルコさんはなんとも言えない微妙な表情で幸せそうに食べるルーちゃんを眺めている。
ええと、多分家系の問題だと思うけれど……。
「ありがとうございます」
マルコさんに連れられてやってきたのは大衆食堂風の場所だった。幸いなことに、このお店には私たちの絵は飾られていない。
店内に入り、席に着くと数分で料理が運ばれてきた。
「え?」
「ああ、ここはこの料理しかやってないんですよ」
差し出された料理は二皿に分かれていて、一皿はお肉の上にパクチーが乗せられている。もう一皿は薄黄色の細麺の上に豆腐の入った赤茶色でとろみのついた餡がたっぷりとかかっている。
「これは驢肉黄麺というこの町の伝統料理です。ロバの肉と餡かけ麺をセットで食べます。このあたりでは昔から『天上の龍肉、地上のロバ肉』と言ってロバの肉を食べていたそうです」
「へぇ」
龍の肉って美味しいのだろうか?
少なくとも炎龍王や冥龍王のお肉を食べたいとは思わないが……。
「特に黄麺は有名で、『龍のひげのように細く、金線のように長く、食べると香りが口に広がる』と人気なんですよ。石窟寺院の壁画にもこの麺が描かれているほどです」
「そんなに昔からあるんですね」
「はい。今では店によってレシピもバラバラで、味もかなりバリエーションがあります。ここは二皿で出してますけど、一皿で出すところもあります。それに餡だってもっと辛いところもあれば、ラクダのひき肉を入れている店もありますよ。私はここが一番好きですけど」
「なるほど」
ロバ肉というのははじめて食べるので少し楽しみだ。
「いただきます」
私はまず、ロバ肉を食べてみることにした。
見た目は脂身のない薄切りのチャーシューといったところだ。
私はそれを勢いよく口の中に放り込んだ。
ん! これは!
くせがほとんどない。あっさりしていてとても食べやすく、臭みのない良質な赤身肉の味だ。
噛めばしっかり肉のうま味が口いっぱいに広がり、肉につけられた下味がじんわりとしみだしてくる。
私はそのまま口の中にパクチーを運んだ。
うん、なるほど。こうするとスッとした独特の香りが鼻から抜け、肉のパラダイスとなっていた口の中に清涼な一陣の風が吹き抜ける。
これはおいしい!
続いて私は麺を食べてみる。
餡がしっかり絡みついた麺を口に運んだ。するとピリリとした辛さの中に何かの肉から取った出汁の味が隠れており、それが一体となってまず私の舌を、そして鼻を楽しませてくれる。
続いて細いのにしっかりとした歯ごたえのある麺がその餡の美味しさをしっかりと支えてくれている。もちもちとした食感と、噛めば噛むほど口の中を駆け巡る小麦の香りはこの麺を打ってくれた職人の腕がいかに素晴らしいのかを如実に現していると言えるだろう。
「姉さまっ! 一緒に食べるともっと美味しいですよ」
そう言われてルーちゃんのほうを見ると、ルーちゃんの隣にはすでに四枚のお皿が積み重なっていた。
五皿目を食べているルーちゃんは餡とロバ肉を絡めて口に運び、さらに麺まで口に運んだ。
「やってみますね」
私はルーちゃんの真似をしてみる。
んん! これは!
すごく合う!
今までも美味しかったというのに、こうすることで欠けたピースがしっかりと噛み合ったかのように完成された美味しさになった。
ロバ肉のしっかりした赤身肉の味と餡の味と香り、パクチーの香り、そして麺のもちもち感が重厚なオーケストラとなって舌を楽しませてくれる。
うん! 美味しい!
私は夢中になって肉と麺を食べ、気が付けば完食していたのだった。
心地よい満腹感に少しボーっとしていると、マルコさんが驚きの声を上げた。
「ええっ!? まだ食べるのっ?」
「おかわりっ! あと五皿お願いしますっ」
ちらりとそちらを見ると、ルーちゃんの隣にはすでに十皿が積み上がっていた。さらにもう五皿食べるつもりらしい。
いつもどおりではあるが、マルコさんはあんぐりと口を開けている。
まあ、ルーちゃんだしこれくらいは普通に食べるのは当たり前だ。
それから次々と運ばれてくる料理をルーちゃんは次々と平らげていく。
「マルコさん、支払いは私も……」
「あ、いえ。ここは大衆向けなんでお金は全然問題ないんですけどね。ただ、ルミアさんの大食いっぷりが……」
「そうですね。でもルーちゃんのお母さんのほうがもっとたくさん食べますよ」
「えっ!? あれより食べるの!? エルフって大食いなんだ。なんだかイメージが……」
マルコさんはなんとも言えない微妙な表情で幸せそうに食べるルーちゃんを眺めている。
ええと、多分家系の問題だと思うけれど……。
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