勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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正義と武と吸血鬼

第十二章第6話 チェンツァン山の鶏(後編)

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 それからコカトリスが突如出現してはそれを倒すというのを数時間ほど続け、ようやくコカトリスの出現が止まった。

 おそらく、コカトリスを出現させていた何かが瘴気を使い切ったのだと思う。

 私たちはその何かを探し、塔の中をくまなく調べて回った。

 そして最上階にやってきた私たちは、アイロールとダルハで見かけたあの祭壇が設置されているのを見つけた。

「これは……」
「まさか……」

 黒いもやのようなものをわずかにまとっているので、これはまだ生きているのだろう。

「浄化します」

 私はダルハで苦労していたことを思い出し、フルパワーで祭壇に浄化魔法をかける。

 しかしその予想に反し、さしたる抵抗もなく祭壇は一瞬にして浄化された。

 あれ? これは一体?

 ……あ、そうだった。あのときとは違って自分の出力が桁違いなんだった。

「これで大丈夫ですね」
「はい。お疲れ様でした」

 それから私は窓から外の景色を眺めてみる。

 なるほど。観光名所というだけあって、見晴らしが素晴らしい。

 眼下にはチェンツァンの町並みが広がっており、さらに遠くにはイェンアンの町並みまで見えるではないか!

 さすがにここからだとイェンアンの町中の様子は城壁や建物の陰になってあまりよく見えないが、城壁の上で兵士の人たちが警備している様子が見てとれる。

 だが、チェンツァンの町は上から見下ろす形なのでよく見える。

 お! あれは昨日食べた羊の串焼きのお店だ。

 ということはチェンツァン油麺の屋台も……あれ? マルコさんがまたチェンツァン油麺を食べている。

 なるほど。昨日話していたとおりで、マルコさんは本当にあの料理が好きなようだ。

「何が見えるのですか?」
「あ、クリスさん。マルコさんがまたチェンツァン油麺を食べていますよ」
「……そうなのですか。私にはさっぱりです」
「帰ったらまた食べるのもいいかもしれませんね」
「あっ! 賛成ですっ! チェンツァン油麺、おいしかったですもんねっ!」
「はい」
「じゃあ、帰りましょうか。あ、でもその前に種を植えたほうが良さそうですね。あの祭壇がまた動き出したら困りますし」
「そうですね」

 こうして私たちは塔を出ると近くの地面に種を植え、チェンツァンの町へと戻るのだった。

◆◇◆

 マルコさんと落ち合った私たちはチェンツァン油麺の屋台のところへと移動し、コカトリスを退治したことを伝えた。

「ええっ!? 鶏の魔物はコカトリスだったんですか?」
「そうですね」
「しかもあのコカトリスを簡単に退治してしまうなんて……」
「私たち、それなりに修羅場をくぐってきてますから」
「そうですか。なんか、すごい人に護衛してもらっちゃったなぁ」

 マルコさんはそう言って頬をく。

「あはは、そうですね。ですが私たちも砂漠を渡れて助かりましたから」
「そう言ってもらえると嬉しいです。あ、今日も食事代は俺が出しますんで、好きなだけ食べてください」
「え? いいんですか?」
「もちろんですよ」
「ありがとうございます。あ! でも」
「どうしたんですか? 遠慮なんてしないでください」
「そうじゃなくて、マルコさんはお昼もここでしたよね?」
「えっ!?」
「塔の上から見つけちゃいました。ここでチェンツァン油麺を買って食べてましたよね」
「あ、あの距離からですか?」
「え? ああ、そうでした。ほら、私、実は目がいいんですよ」
「そ、そうですか。聖女様はなんでもお見通しってことですね……」

 マルコさんはそう言って引きつった笑みを浮かべた。

「姉さまっ! 食べましょうよっ!」

 そう言いながらもルーちゃんはすでにチェンツァン油麺に箸をつけていた。

「ああ、そうですね。じゃあ、いただきます」

 私も二日連続のチェンツァン油麺を味わうのだった。

 うん。やっぱりこの麺は美味しいね!

◆◇◆

 フィーネたちは翌日チェンツァンの町を出発し、イェンアンへと向かった。

 それからさらに数日後の深夜、塔の内部にはヘルマンの姿があった。ヘルマンはフィーネによって浄化された祭壇を確認している。

「……強力ではあるが、祭壇に掛けられたのはただの浄化魔法だな。しかしここまで根こそぎなくなっているのは一体なぜだ? まるで瘴気が消滅したかのようではないか」

 それからもヘルマンは祭壇の状態を熱心に調べている。

「聖属性魔法も極めればここまでになるのか。いや、そのような話は聞いたことが……」

 そう呟くと、ヘルマンは祭壇を回収した。

「いずれにせよ、その実力は間違いなく歴代最高であろうな。それでも聖女にはこれを破壊する能力はないのか」

 ヘルマンはどことなく残念そうな様子だ。

「いや、だが現にこの塔の周辺からは瘴気が消えているのだ。これは一体……?」

 ヘルマンはそうして塔の内部を隅々まで調べて回るが、外に植えられた種の存在にたどり着くことはできなかった。

「仕方がない。聖女についてはまた調べればいいだろう。まずは人間の数を減らし、瘴気の発生量を減らすほうが先決だ」

 ヘルマンはそう独白すると、まるで闇に溶けるように姿を消したのだった。
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