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正義と武と吸血鬼
第十二章第10話 イーフゥアとルゥー・フェイ
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夕食が終わり、私たちは部屋に戻ってきた。
「いやあ、食べたでござるな」
「本当ですね。ルーちゃん、お腹一杯になりましたか?」
「はいっ! この国のごはん、とっても美味しいですよねっ」
「そうですね」
「ただ、ちょっとは残してやったほうが良かったでござるよ」
「え? どういうことですか?」
「この国は、少しだけ残すのがマナーなのでござるからな」
「ええと?」
「拙者はもったいないと思うでござるが、この国はそういう文化なのでござるよ」
「はぁ。残せるほど食べ物を用意できるって言いたいんでしょうかねぇ?」
「そうかもしれないでござるな」
「はぁ……」
ううん。ちょっと皇帝には悪いことをしてしまったな。とりあえず種を多めに置いていってあげるとしよう。
「しかし、吸血鬼ですか……」
外を見ていたクリスさんがぼそりとそう呟いた。
「そうですね。ただ、どうしてバレたんでしょうね?」
「あの女がそう簡単にボロを出すとは思えませんが……」
「うーん?」
スイキョウはそもそも御所から出てこないので、バレるということはないはずだ。
ということは、やはりアーデが原因だろうか? アーデは自由に動き回っている印象があるし、もしかするとどこかにふらりと出掛けたときにバレたのかもしれない。
そうは思うものの、考えたところで分かるわけではない。
それにもしかしたらアーデがゴールデンサン巫国の人たちを眷属にしてしまっているという可能性だってゼロではないはずだ。
とはいえ、ここで考えていても埒が明かない。となると、やはりゴールデンサン巫国に行って確認してみるのが一番だろう。
◆◇◆
翌朝、私たちはイーフゥアさんの執務室を訪ねた。
「イーフゥアさん、お久しぶりです」
「聖女様! ようこそお越しくださいました」
久しぶりに会うイーフゥアさんは相変わらず美人だが、なんだか少し疲れているように見える。
「お疲れですか?」
「えっ? あ、はい。ルゥー・フェイ将軍の遠征の準備がありますので」
「ゴールデンサン巫国ですか?」
「えっ? どうしてそれを?」
「昨晩、皇帝陛下から直接聞きました」
「……そうでしたか。おっしゃるとおり、ゴールデンサン巫国に吸血鬼が入り込んでしまったようなのです。このままではこちらにも被害が及ぶ可能性がありますから……あ! ミエシロさんはゴールデンサン巫国のご出身でしたね。すみません。気が回らなくて」
「いや、大丈夫でござるよ。拙者たちも状況を確かめに行きたいのでござるが」
「今は定期船の運航を取りやめていますし、ゴールデンサン巫国からの船の入港も拒否しています。ですから今ゴールデンサン巫国へ渡るのは……」
イーフゥアさんは申し訳なさそうにそう答えた。
「あの、どうにかなりませんか?」
「申し訳ありません。お気持ちは重々承知していますが……」
イーフゥアさんはそういって頭を下げてきた。
うーん。これはちょっと無理そうだ。
そう思っていると、部屋の扉が乱暴に開かれた。
「おい、イーフゥア。ん? 聖女ではないか。来ているとは聞いていたが、ここにいたのか。なんの用だ?」
「はい。ゴールデンサン巫国に吸血鬼がいるという話を聞きいたので、ちょっと様子を見に行きたいとお願いをしていたんですが……」
「なんだと? 吸血鬼は俺の獲物だ! 横取りなど許さん!」
「ええと?」
別に獲物の横取りをしようなんて思っているわけではないのだが……。
「どうしてというのであれば、俺と勝負――」
「将軍、馬鹿なことを言わないでください!」
イーフゥアさんが将軍の言葉を遮った。
「いいですか? これは国の話です。将軍の一存で聖女様に便宜を図ってはいけません。それに、そもそも国家間の紛争に聖女様を利用することは世界聖女保護協定で禁じられています。もしそんなことをしたら大変なことになりますよ!」
「む? むぅ……」
ぴしゃりと言い放ったイーフゥアさんの言葉に将軍は小さくなってしまった。
「そんなわけですので、彼と勝負して勝ったとしても便宜を図って差し上げることはできません」
「ならばそう言った話に関係なく勝負しようではないか。ミエシロよ」
「お? 拙者でござるか? 拙者は前よりもはるかに強くなっているでござるよ?」
「望むとこ――」
「ダメです。いいですか? 将軍は遠征前です。きちんと体調を整えて、万全を期してください。吸血鬼退治ですからね?」
「む……」
またもやイーフゥアさんの言葉に将軍は矛をひっこめた。
あれれ? なんだかイーフゥアさんが主導権を取っているような?
あんなに戦いのことしか考えてなかったあの将軍が!
二年以上経っているとはいえ、驚きの状況だ。思った以上にいイーフゥアさんは上手くやっているらしい。
「な、ならば通常の稽古ならいいだろう?」
「……仕方ありません。ですが、くれぐれも怪我などしないようにしてください」
「よし! さあ! やるぞ! 稽古だ! ミエシロ! それと従者の二人もだ! ついてこい!」
将軍は相変わらずの仏頂面ではあるものの、やや弾んだ声でそう言ったのだった。
「いやあ、食べたでござるな」
「本当ですね。ルーちゃん、お腹一杯になりましたか?」
「はいっ! この国のごはん、とっても美味しいですよねっ」
「そうですね」
「ただ、ちょっとは残してやったほうが良かったでござるよ」
「え? どういうことですか?」
「この国は、少しだけ残すのがマナーなのでござるからな」
「ええと?」
「拙者はもったいないと思うでござるが、この国はそういう文化なのでござるよ」
「はぁ。残せるほど食べ物を用意できるって言いたいんでしょうかねぇ?」
「そうかもしれないでござるな」
「はぁ……」
ううん。ちょっと皇帝には悪いことをしてしまったな。とりあえず種を多めに置いていってあげるとしよう。
「しかし、吸血鬼ですか……」
外を見ていたクリスさんがぼそりとそう呟いた。
「そうですね。ただ、どうしてバレたんでしょうね?」
「あの女がそう簡単にボロを出すとは思えませんが……」
「うーん?」
スイキョウはそもそも御所から出てこないので、バレるということはないはずだ。
ということは、やはりアーデが原因だろうか? アーデは自由に動き回っている印象があるし、もしかするとどこかにふらりと出掛けたときにバレたのかもしれない。
そうは思うものの、考えたところで分かるわけではない。
それにもしかしたらアーデがゴールデンサン巫国の人たちを眷属にしてしまっているという可能性だってゼロではないはずだ。
とはいえ、ここで考えていても埒が明かない。となると、やはりゴールデンサン巫国に行って確認してみるのが一番だろう。
◆◇◆
翌朝、私たちはイーフゥアさんの執務室を訪ねた。
「イーフゥアさん、お久しぶりです」
「聖女様! ようこそお越しくださいました」
久しぶりに会うイーフゥアさんは相変わらず美人だが、なんだか少し疲れているように見える。
「お疲れですか?」
「えっ? あ、はい。ルゥー・フェイ将軍の遠征の準備がありますので」
「ゴールデンサン巫国ですか?」
「えっ? どうしてそれを?」
「昨晩、皇帝陛下から直接聞きました」
「……そうでしたか。おっしゃるとおり、ゴールデンサン巫国に吸血鬼が入り込んでしまったようなのです。このままではこちらにも被害が及ぶ可能性がありますから……あ! ミエシロさんはゴールデンサン巫国のご出身でしたね。すみません。気が回らなくて」
「いや、大丈夫でござるよ。拙者たちも状況を確かめに行きたいのでござるが」
「今は定期船の運航を取りやめていますし、ゴールデンサン巫国からの船の入港も拒否しています。ですから今ゴールデンサン巫国へ渡るのは……」
イーフゥアさんは申し訳なさそうにそう答えた。
「あの、どうにかなりませんか?」
「申し訳ありません。お気持ちは重々承知していますが……」
イーフゥアさんはそういって頭を下げてきた。
うーん。これはちょっと無理そうだ。
そう思っていると、部屋の扉が乱暴に開かれた。
「おい、イーフゥア。ん? 聖女ではないか。来ているとは聞いていたが、ここにいたのか。なんの用だ?」
「はい。ゴールデンサン巫国に吸血鬼がいるという話を聞きいたので、ちょっと様子を見に行きたいとお願いをしていたんですが……」
「なんだと? 吸血鬼は俺の獲物だ! 横取りなど許さん!」
「ええと?」
別に獲物の横取りをしようなんて思っているわけではないのだが……。
「どうしてというのであれば、俺と勝負――」
「将軍、馬鹿なことを言わないでください!」
イーフゥアさんが将軍の言葉を遮った。
「いいですか? これは国の話です。将軍の一存で聖女様に便宜を図ってはいけません。それに、そもそも国家間の紛争に聖女様を利用することは世界聖女保護協定で禁じられています。もしそんなことをしたら大変なことになりますよ!」
「む? むぅ……」
ぴしゃりと言い放ったイーフゥアさんの言葉に将軍は小さくなってしまった。
「そんなわけですので、彼と勝負して勝ったとしても便宜を図って差し上げることはできません」
「ならばそう言った話に関係なく勝負しようではないか。ミエシロよ」
「お? 拙者でござるか? 拙者は前よりもはるかに強くなっているでござるよ?」
「望むとこ――」
「ダメです。いいですか? 将軍は遠征前です。きちんと体調を整えて、万全を期してください。吸血鬼退治ですからね?」
「む……」
またもやイーフゥアさんの言葉に将軍は矛をひっこめた。
あれれ? なんだかイーフゥアさんが主導権を取っているような?
あんなに戦いのことしか考えてなかったあの将軍が!
二年以上経っているとはいえ、驚きの状況だ。思った以上にいイーフゥアさんは上手くやっているらしい。
「な、ならば通常の稽古ならいいだろう?」
「……仕方ありません。ですが、くれぐれも怪我などしないようにしてください」
「よし! さあ! やるぞ! 稽古だ! ミエシロ! それと従者の二人もだ! ついてこい!」
将軍は相変わらずの仏頂面ではあるものの、やや弾んだ声でそう言ったのだった。
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