544 / 625
正義と武と吸血鬼
第十二章第12話 ナンハイへ
しおりを挟む
「どうしてこんなことになっているんですか! 将軍!」
「う……それは……」
将軍が負けたという噂を聞いて飛んできたイーフゥアさんが事情を知るや否や、将軍のことを叱り始めた。
まさかな光景ではあるが、完全に主導権はイーフゥアさんにあるらしい。
「しかも聖女様からこんな請求をされるなんて! クリスティーナさんのこともかなり痛めつけたそうじゃないですか!」
「ぐっ……次は勝つ……」
将軍は悔しそうにしているものの、負けたということについては素直に認めており、言い訳はしていない。ただ、次やったらクリスさんたちは殺されてしまうような気もする。
あ、ちなみにあのあとシズクさんとも試合をしたのだが、なんとあっさりとシズクさんが勝ってしまった。
シズクさんもあれからかなりレベルアップしており、スピードの面で勝負にならなかったのだ。
かく言う私も今回は将軍の動きをしっかりと目で追うことができた。前回はほとんど何をしているのか分からなかったのだから、これもきっとレベルアップしたおかげなのだろう。
「そういう問題じゃありません! 大体、大事な吸血鬼退治の前に怪我をするなんて!」
「ぐっ」
イーフゥアさんはかなり怒っているようで、くどくどと説教をしている。
ええと、他人の説教を観察する趣味もないし、私たちはとりあえず撤収しようかな。
こうして私たちは修練場を後にしたのだった。
◆◇◆
それからもう一日宮殿でお世話になった私たちはイェンアンを出発し、ナンハイへと向かう乗合馬車に乗り込んだ。ナンハイまでは馬車と舟を乗り継いでおよそ二週間の旅となる。
元々はイェンアンも観光しながらゆっくり精霊の島を目指そうと思っていたのだが、戦争の準備がされていると知ってしまった以上は呑気に観光などしていられない。
アーデがゴールデンサン巫国の人たちを残らず眷属にしてしまったというのならば話は別だが、きっとそんなことはないはずだ。
それに戦争となれば犠牲になるのは弱い人たちなのだ。普通に暮らしていた人々が住むところを焼かれ、殺される。
そんなことがあっていいはずがない。
私たちが戦争を止めることができないにしても、どうにか一般人の避難くらいはさせてあげたいと思うのだ。
だからこうしてゴールデンサン巫国への玄関口であるナンハイを目指しているわけだが、ナンハイからの定期船が止められているというのが一番のネックだ。
だがイェンアンにいるよりは情報が手に入るだろうし、最悪自分たちで小型の船を調達するということも視野に入れている。
結界さえきちんと張っておけば嵐も魔物も問題ないし、マシロちゃんがいるので風もある程度はなんとかなる。
そんなことを考えながら、私たちは馬車に揺られるのだった。
◆◇◆
そんなこんなで私たちはナンハイの町に到着した。久しぶりのナンハイだが、以前よりも活気がない気がする。
やはり船が止まっているからだろうか?
この町の観光もしたかったのだが、今はそれどころではないのが残念だ。
私たちはとりあえず前回イーフゥアさんに案内してもらった宿に向かう。
「っ! 聖女様? また当宿にお選びいただけるとは! ありがとうございます! さあ、どうぞこちらへ」
どうやら女将さんは私たちのことを覚えていたようで、すぐに前回宿泊した部屋に案内してくれた。
「同じ部屋ですよね? こんなにいいお部屋がよく空いていましたね」
「そうなんですよ! 普段でしたら商人の方のご予約で埋まってしまうのですが、このところは……」
「何かあったんですか?」
「それがですね。ゴールデンサン巫国への渡航が陛下の勅命で禁止されてしまったんですよ。ナンハイは交易の町ですから、それだけで大打撃です。グリーンクラウドからの交易も魔物のせいで滞り気味ですし、本当に……」
女将さんはそう言って暗い顔をした。
「どうしてゴールデンサン巫国への渡航が禁止になったか、ご存じですか?」
「それがさっぱりなんですよ。ゴールデンサン巫国が吸血鬼に乗っ取られたせいで陛下が吸血鬼退治に乗り出すとか、色々と噂はありますけど……」
「そうですか。どうにかゴールデンサン巫国に渡る方法はありませんか? 仲間の故郷なんです」
「そうでしたか。ですが私のような一市民ではとても……」
女将さんはそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「分かりました。ありがとうございます」
やはりそう簡単にはいかなさそうだ。
「お役に立てず申し訳ございません」
「いえ、無茶なことを言ってこちらこそすみませんでした」
「それではどうぞごゆっくり」
女将さんはそう言って部屋から出ていった。
「ふぅ。やっぱり難しそうですね」
「聞き込み調査をしてみる必要がありそうですね」
「はい」
「じゃ、じゃああたしもっ」
「……そうですね。二手に別れて聞き込み調査をしてみましょう」
こうして私たちはゴールデンサン巫国へと渡る方法を探すこととなったのだった。
「う……それは……」
将軍が負けたという噂を聞いて飛んできたイーフゥアさんが事情を知るや否や、将軍のことを叱り始めた。
まさかな光景ではあるが、完全に主導権はイーフゥアさんにあるらしい。
「しかも聖女様からこんな請求をされるなんて! クリスティーナさんのこともかなり痛めつけたそうじゃないですか!」
「ぐっ……次は勝つ……」
将軍は悔しそうにしているものの、負けたということについては素直に認めており、言い訳はしていない。ただ、次やったらクリスさんたちは殺されてしまうような気もする。
あ、ちなみにあのあとシズクさんとも試合をしたのだが、なんとあっさりとシズクさんが勝ってしまった。
シズクさんもあれからかなりレベルアップしており、スピードの面で勝負にならなかったのだ。
かく言う私も今回は将軍の動きをしっかりと目で追うことができた。前回はほとんど何をしているのか分からなかったのだから、これもきっとレベルアップしたおかげなのだろう。
「そういう問題じゃありません! 大体、大事な吸血鬼退治の前に怪我をするなんて!」
「ぐっ」
イーフゥアさんはかなり怒っているようで、くどくどと説教をしている。
ええと、他人の説教を観察する趣味もないし、私たちはとりあえず撤収しようかな。
こうして私たちは修練場を後にしたのだった。
◆◇◆
それからもう一日宮殿でお世話になった私たちはイェンアンを出発し、ナンハイへと向かう乗合馬車に乗り込んだ。ナンハイまでは馬車と舟を乗り継いでおよそ二週間の旅となる。
元々はイェンアンも観光しながらゆっくり精霊の島を目指そうと思っていたのだが、戦争の準備がされていると知ってしまった以上は呑気に観光などしていられない。
アーデがゴールデンサン巫国の人たちを残らず眷属にしてしまったというのならば話は別だが、きっとそんなことはないはずだ。
それに戦争となれば犠牲になるのは弱い人たちなのだ。普通に暮らしていた人々が住むところを焼かれ、殺される。
そんなことがあっていいはずがない。
私たちが戦争を止めることができないにしても、どうにか一般人の避難くらいはさせてあげたいと思うのだ。
だからこうしてゴールデンサン巫国への玄関口であるナンハイを目指しているわけだが、ナンハイからの定期船が止められているというのが一番のネックだ。
だがイェンアンにいるよりは情報が手に入るだろうし、最悪自分たちで小型の船を調達するということも視野に入れている。
結界さえきちんと張っておけば嵐も魔物も問題ないし、マシロちゃんがいるので風もある程度はなんとかなる。
そんなことを考えながら、私たちは馬車に揺られるのだった。
◆◇◆
そんなこんなで私たちはナンハイの町に到着した。久しぶりのナンハイだが、以前よりも活気がない気がする。
やはり船が止まっているからだろうか?
この町の観光もしたかったのだが、今はそれどころではないのが残念だ。
私たちはとりあえず前回イーフゥアさんに案内してもらった宿に向かう。
「っ! 聖女様? また当宿にお選びいただけるとは! ありがとうございます! さあ、どうぞこちらへ」
どうやら女将さんは私たちのことを覚えていたようで、すぐに前回宿泊した部屋に案内してくれた。
「同じ部屋ですよね? こんなにいいお部屋がよく空いていましたね」
「そうなんですよ! 普段でしたら商人の方のご予約で埋まってしまうのですが、このところは……」
「何かあったんですか?」
「それがですね。ゴールデンサン巫国への渡航が陛下の勅命で禁止されてしまったんですよ。ナンハイは交易の町ですから、それだけで大打撃です。グリーンクラウドからの交易も魔物のせいで滞り気味ですし、本当に……」
女将さんはそう言って暗い顔をした。
「どうしてゴールデンサン巫国への渡航が禁止になったか、ご存じですか?」
「それがさっぱりなんですよ。ゴールデンサン巫国が吸血鬼に乗っ取られたせいで陛下が吸血鬼退治に乗り出すとか、色々と噂はありますけど……」
「そうですか。どうにかゴールデンサン巫国に渡る方法はありませんか? 仲間の故郷なんです」
「そうでしたか。ですが私のような一市民ではとても……」
女将さんはそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「分かりました。ありがとうございます」
やはりそう簡単にはいかなさそうだ。
「お役に立てず申し訳ございません」
「いえ、無茶なことを言ってこちらこそすみませんでした」
「それではどうぞごゆっくり」
女将さんはそう言って部屋から出ていった。
「ふぅ。やっぱり難しそうですね」
「聞き込み調査をしてみる必要がありそうですね」
「はい」
「じゃ、じゃああたしもっ」
「……そうですね。二手に別れて聞き込み調査をしてみましょう」
こうして私たちはゴールデンサン巫国へと渡る方法を探すこととなったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
異世界でも馬とともに
ひろうま
ファンタジー
乗馬クラブ勤務の悠馬(ユウマ)とそのパートナーである牝馬のルナは、ある日勇者転移に巻き込まれて死亡した。
新しい身体をもらい異世界に転移できることになったユウマとルナが、そのときに依頼されたのは神獣たちの封印を解くことだった。
ユウマは、彼をサポートするルナとともに、その依頼を達成すべく異世界での活動を開始する。
※本作品においては、ヒロインは馬であり、人化もしませんので、ご注意ください。
※本作品は、某サイトで公開していた作品をリメイクしたものです。
※本作品の解説などを、ブログ(Webサイト欄参照)に記載していこうと思っています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる