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正義と武と吸血鬼
第十二章第14話 聞き込み調査?
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フィーネたちが飲茶を堪能しているころ、クリスティーナとシズクはナンハイでも治安の悪いとされている一角にやってきていた。
シズクは目深にフードを被っているが、クリスティーナはしっかりと顔を出している。
「シズク殿、なぜ私だけ顔を見せる必要があるのだ?」
「拙者は目をつけられているでござるからな」
「目を?」
「そうでござる」
怪訝そうな表情を浮かべるが、シズクはそれに答える気はないようだ。そこでクリスティーナは質問を変える。
「シズク殿、なぜこのような場所に?」
「普通の手段では渡れない故、普通ではない手段を見つけるのでござるよ」
「だが、このような場所は……」
「あまりフィーネ殿には見せたくないでござるからな」
「ああ」
そういってクリスティーナはちらりと周囲を見た。
スラム街のように薄汚れているわけではないが、明らかに堅気ではない雰囲気の者たちがたむろしている。
彼らには目もくれずに歩いていると、数人の男たちがクリスティーナたちの前に立ちふさがった。
それを避けて歩こうとするが、やはり彼らはその行く手に立ちふさがる。
「なんの用だ?」
「ひゅー、怖いねぇ。でも、ここがどこか分かっているのか?」
「……」
「分かってるんなら、ちょいと遊ぼうや。気持ちよくしてやるぜ?」
「断る」
「ああ!? 俺が遊ぼうっつってんだ! いいからこっちに来い!」
男はクリスティーナの手を乱暴に掴もうとするが、その手をクリスティーナがはたく。
「がっ!? いってぇ! 何しやがる!」
「私は断った。それでも掴まれそうになったのではたいたまでだ」
「オイオイ、いいのかぁ?」
いつの間にかクリスティーナたちは人相の悪い男たちにぐるりと取り囲まれている。その数は十五人ほどだ。
「この人数相手に勝てると思っているのか?」
「ああ、勝てるな。負ける要素がない」
「なんだと!?」
クリスティーナに手をはたかれた男は顔を紅潮させる。
「やっちまえ!」
男たちはクリスティーナたちに襲い掛かる。だが次の瞬間、男たちは全裸になっていた。彼らが着ていた服はコマ切れとなって彼らの足元にはらりと落ちる。
「遅いでござるよ」
「なっ!?」
「ひぃっ」
「ば、化け物!」
怯える男たちの中に特徴的な双竜の入れ墨が入っている男を見つけ、シズクはニヤリと笑った。
「ああ、ちょうどいい。お前たちのボスはどこでござるか?」
「なっ」
「どこでござるか?」
「あ、あ、あ……」
「案内する、でござるな?」
「は、は、はいぃぃぃぃ」
シズクに睨まれたその男は絞り出すようにそう返事をする。
「では、案内するでござるよ」
「こ、こっちです」
全裸の男に連れられ、クリスティーナたちは危険な町のさらに奥へと向かうのだった。
◆◇◆
倉庫らしき場所から地下通路を抜け、入り組んだ路地を通った先の大きな屋敷にクリスティーナたちは案内された。
その屋敷からはいかにもといった風体の四十歳くらいの男が出てきた。
「ボス!」
「おう。ってなんだお前ら! 全裸……まさか!?」
「久しぶりでござるなぁ」
「ゲッ」
男は明らかに嫌そうな表情を浮かべる。
「シズク殿、この男は?」
「レン・ユェシォン。ナンハイ暗黒街の元締めの一人でござるな」
「なっ!?」
「昔、武者修行をしていたときこの男の手下に随分と言い寄られて困ったのでござるよ」
「そ、その話は……」
「あまりにしつこいかった故、全員返り討ちにしたうえでこの男に手出しをしないよう平和的にお願いしたのでござるがな」
「ま、まさか……」
「そうでござるよ」
それを聞いたレン・ユェションはみるみるうちに顔が青くなった。
「おい! シズク・ミエシロには決して手を出すなと命令しただろうが! なんてことを!」
「ま、まさかシズク・ミエシロが人間じゃないなんて聞いてねぇっすよ! それにあいつは一人だって!」
「馬鹿野郎! シズク・ミエシロは聖女の剣になったんだ! しかもあのルゥー・フェイ将軍まで倒してるんだぞ!」
「ルゥー・フェイ将軍を!?」
「そうだ! この馬鹿者が!」
それからレン・ユェションは深々とシズクに頭を下げた。
「申し訳ない! 俺の指導が甘かったせいだ。このとおりだ。頼む、許してくれ」
「……そうでござるな。拙者たちはゴールデンサン巫国に行こうと思っているでござるが、船が出ていなくて困っているのでござるよ」
「っ!?」
レン・ユェションは目を見開いた。
「どこかで船を手に入れることはできないでござるか?」
「そ、それならいい場所がある。ナンハイの南にあるフゥイポーの東にある群島にシュァンユーという漁港がある」
「漁港?」
「ああ。漁港だ。だが、世界中の海で獲れる珍しい魚が集まるんだ」
「……そういうことでござるか。いいことを教えてもらったでござる。クリス殿、行くでござるよ」
「あ、ああ……」
クリスティーナはあまり納得していない様子ではあるものの、シズクに続いて屋敷を後にする。
残されたレン・ユェションは力なく尻もちをついたのだった。
そして宿に戻る道中でクリスティーナはシズクに疑問をぶつける。
「シズク殿、もしや私だけフードを被らないように言ったのは……」
「ああ、囮でござるよ。このあたりで金髪に青い目の女性は珍しいでござるからな」
「……」
「こちらから手を出すわけには行かない故、向こうから手を出してもらう必要があったでござるよ。その中にレン・ユェションの手下がいればいいくらいだったでござるが、一発で釣れたのは運が良かったでござるな」
「……そうか」
クリスティーナはなんとも言えない表情を浮かべたのだった。
◆◇◆
飲茶を堪能できたことは良かったのだが、その後の聞き込み調査でも大した情報を手に入れることができず、夕方になってしまったので宿へと戻ってきた。
そうしてしばらく待っていると、クリスさんとシズクさんが帰ってきた。
「あ、クリスさん、シズクさん、お帰りなさい。何かわかりましたか?」
「ただいまでござる。親切な御仁が貿易船が入る港を教えてくれたでござるよ」
「貿易船ですか?」
「そうでござる。世界中から品が集まる故、きっとゴールデンサン巫国からの船もいるでござるよ」
「さすがですね。ありがとうございます」
「拙者も他人事ではござらんからな」
シズクさんはそう言ってニカッと笑ったのだった。
シズクは目深にフードを被っているが、クリスティーナはしっかりと顔を出している。
「シズク殿、なぜ私だけ顔を見せる必要があるのだ?」
「拙者は目をつけられているでござるからな」
「目を?」
「そうでござる」
怪訝そうな表情を浮かべるが、シズクはそれに答える気はないようだ。そこでクリスティーナは質問を変える。
「シズク殿、なぜこのような場所に?」
「普通の手段では渡れない故、普通ではない手段を見つけるのでござるよ」
「だが、このような場所は……」
「あまりフィーネ殿には見せたくないでござるからな」
「ああ」
そういってクリスティーナはちらりと周囲を見た。
スラム街のように薄汚れているわけではないが、明らかに堅気ではない雰囲気の者たちがたむろしている。
彼らには目もくれずに歩いていると、数人の男たちがクリスティーナたちの前に立ちふさがった。
それを避けて歩こうとするが、やはり彼らはその行く手に立ちふさがる。
「なんの用だ?」
「ひゅー、怖いねぇ。でも、ここがどこか分かっているのか?」
「……」
「分かってるんなら、ちょいと遊ぼうや。気持ちよくしてやるぜ?」
「断る」
「ああ!? 俺が遊ぼうっつってんだ! いいからこっちに来い!」
男はクリスティーナの手を乱暴に掴もうとするが、その手をクリスティーナがはたく。
「がっ!? いってぇ! 何しやがる!」
「私は断った。それでも掴まれそうになったのではたいたまでだ」
「オイオイ、いいのかぁ?」
いつの間にかクリスティーナたちは人相の悪い男たちにぐるりと取り囲まれている。その数は十五人ほどだ。
「この人数相手に勝てると思っているのか?」
「ああ、勝てるな。負ける要素がない」
「なんだと!?」
クリスティーナに手をはたかれた男は顔を紅潮させる。
「やっちまえ!」
男たちはクリスティーナたちに襲い掛かる。だが次の瞬間、男たちは全裸になっていた。彼らが着ていた服はコマ切れとなって彼らの足元にはらりと落ちる。
「遅いでござるよ」
「なっ!?」
「ひぃっ」
「ば、化け物!」
怯える男たちの中に特徴的な双竜の入れ墨が入っている男を見つけ、シズクはニヤリと笑った。
「ああ、ちょうどいい。お前たちのボスはどこでござるか?」
「なっ」
「どこでござるか?」
「あ、あ、あ……」
「案内する、でござるな?」
「は、は、はいぃぃぃぃ」
シズクに睨まれたその男は絞り出すようにそう返事をする。
「では、案内するでござるよ」
「こ、こっちです」
全裸の男に連れられ、クリスティーナたちは危険な町のさらに奥へと向かうのだった。
◆◇◆
倉庫らしき場所から地下通路を抜け、入り組んだ路地を通った先の大きな屋敷にクリスティーナたちは案内された。
その屋敷からはいかにもといった風体の四十歳くらいの男が出てきた。
「ボス!」
「おう。ってなんだお前ら! 全裸……まさか!?」
「久しぶりでござるなぁ」
「ゲッ」
男は明らかに嫌そうな表情を浮かべる。
「シズク殿、この男は?」
「レン・ユェシォン。ナンハイ暗黒街の元締めの一人でござるな」
「なっ!?」
「昔、武者修行をしていたときこの男の手下に随分と言い寄られて困ったのでござるよ」
「そ、その話は……」
「あまりにしつこいかった故、全員返り討ちにしたうえでこの男に手出しをしないよう平和的にお願いしたのでござるがな」
「ま、まさか……」
「そうでござるよ」
それを聞いたレン・ユェションはみるみるうちに顔が青くなった。
「おい! シズク・ミエシロには決して手を出すなと命令しただろうが! なんてことを!」
「ま、まさかシズク・ミエシロが人間じゃないなんて聞いてねぇっすよ! それにあいつは一人だって!」
「馬鹿野郎! シズク・ミエシロは聖女の剣になったんだ! しかもあのルゥー・フェイ将軍まで倒してるんだぞ!」
「ルゥー・フェイ将軍を!?」
「そうだ! この馬鹿者が!」
それからレン・ユェションは深々とシズクに頭を下げた。
「申し訳ない! 俺の指導が甘かったせいだ。このとおりだ。頼む、許してくれ」
「……そうでござるな。拙者たちはゴールデンサン巫国に行こうと思っているでござるが、船が出ていなくて困っているのでござるよ」
「っ!?」
レン・ユェションは目を見開いた。
「どこかで船を手に入れることはできないでござるか?」
「そ、それならいい場所がある。ナンハイの南にあるフゥイポーの東にある群島にシュァンユーという漁港がある」
「漁港?」
「ああ。漁港だ。だが、世界中の海で獲れる珍しい魚が集まるんだ」
「……そういうことでござるか。いいことを教えてもらったでござる。クリス殿、行くでござるよ」
「あ、ああ……」
クリスティーナはあまり納得していない様子ではあるものの、シズクに続いて屋敷を後にする。
残されたレン・ユェションは力なく尻もちをついたのだった。
そして宿に戻る道中でクリスティーナはシズクに疑問をぶつける。
「シズク殿、もしや私だけフードを被らないように言ったのは……」
「ああ、囮でござるよ。このあたりで金髪に青い目の女性は珍しいでござるからな」
「……」
「こちらから手を出すわけには行かない故、向こうから手を出してもらう必要があったでござるよ。その中にレン・ユェションの手下がいればいいくらいだったでござるが、一発で釣れたのは運が良かったでござるな」
「……そうか」
クリスティーナはなんとも言えない表情を浮かべたのだった。
◆◇◆
飲茶を堪能できたことは良かったのだが、その後の聞き込み調査でも大した情報を手に入れることができず、夕方になってしまったので宿へと戻ってきた。
そうしてしばらく待っていると、クリスさんとシズクさんが帰ってきた。
「あ、クリスさん、シズクさん、お帰りなさい。何かわかりましたか?」
「ただいまでござる。親切な御仁が貿易船が入る港を教えてくれたでござるよ」
「貿易船ですか?」
「そうでござる。世界中から品が集まる故、きっとゴールデンサン巫国からの船もいるでござるよ」
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