勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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正義と武と吸血鬼

第十二章第20話 再会

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 翌朝、私たちはスイキョウに会うため御所へとやってきた。というのも昨日の夕方にスイキョウの使者がやってきて、私たちを御所に招待してきたのだ。

 やはり私たちが来たことをアーデは知っており、すぐさま迎えを寄越したということなのだと思う。

 ここは……謁見の間、とでも言えばいいのだろうか?

 私たちは畳敷きの広い和室に通された。目の前の薄い簾の向こうにはあのスイキョウの姿がある。

「よう来たのう。ホワイトムーン王国の聖女フィーネ・アルジェンタータ殿。以前は急用が入ってしまったが、こうして会えたことを嬉しく思うぞ」
「こちらこそ、お会いできて光栄です」

 と、こんなやり取りをしているものの、このスイキョウはアーデの忠実なるしもべだ。元は水龍王の操り人形だったわけで、相変わらずこの国には影の支配者が君臨していることになる。

 もっともアーデが悪いことをしているわけでないため、とやかく言うつもりはない。

 それから当たり障りのない会話を続けていると、スイキョウが話題を変えてきた。

「さて、せっかくじゃ。今日はここに泊まっていくがよい。道場には使いを出しておこう」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

 こうして私たちはそのまま御所でお世話になることになり、奥の部屋に案内される。

「……刀は、取り上げられなかったでござるな」
「私たちですからね」
「そうでござるな」

 そう答えたシズクさんは何やら微妙な表情をしている。

「こちらでございます。どうごゆるりとおくつろぎください」
「ありがとうございます」

 そうして通された部屋は立派な和室だった。感じとしては、以前サキモリの港で泊まったお部屋をさらに豪華にしたような感じだ。すだれで仕切られた別室もあり、庭園も良く見える。

 さすがは御所のゲストルームといったところだろうか?

「ああ、やっと来たのね。待ちわびたわ」
「っ!?」

 突然の声に驚いて振り向くと、そこにはいつの間に侵入したのか嬉しそうなアーデの姿があった。

「アーデ!?」
「そうよ。あなたの婚約者の」
「いえ、婚約はお断りしたはずですが……」
「今は、でしょ? それより、本当に存在進化したのね。その感じだと、精霊神様かしら?」
「あ、はい。そうですね」
「ふふふ。やっぱりわたしの目に狂いはなかったわ」

 アーデは嬉しそうに笑うと、私をぎゅっと抱きしめた。身長差があるため、私の頭はアーデの柔らかな胸に押し付けられる。

「むー、く、苦しい……」
「あら、ごめんなさい。わたし、嬉しくって」

 アーデは私を放すといたずらっ子のようにぺろりと舌を出した。

「それにしても嬉しいわ。わたしに会いに来てくれるなんて。もしかして結婚する気になったのかしら?」
「いえ、そういうわけではなく……」
「いいわ。いくらでも待っていてあげる。時間は無限にあるんだもの」
「はぁ……」

 アーデと話をしているとどうにもペースが狂う。

「ええとですね。ゴールデンサン巫国に来たのには目的が二つあってですね」
「ええ。恋人であるわたしに会いに来たのが一つね」
「恋人じゃないですけど、一つはそうです」
「まあっ! 愛しているだなんて嬉しいわ!」
「言ってないですけど……」

 だめだ。アーデのペースに巻き込まれると話が進まない。

「ともかくですね。レッドスカイ帝国にアーデのことがバレているみたいなんです。それで吸血鬼を討伐するって……」
「知ってるわよ。軍を送ってこようとしてるんでしょ?」
「ど、どうしてそれを?」
「そりゃあ、いきなり貿易船と定期船を止められたら何かあるって分かるわ」
「分かってるならなんとか止めないと!」
「どうして?」
「えっ!?」

 アーデの質問に虚を突かれた私は思わず言葉を失った。

「だって、わたしは何もしていないわ。政治にも一切口出ししていないもの。わたしがやっているのは水龍王が悪さをしないように見張っているくらいね」
「……」
「それに、あなたに嫌われたくないから眷属も増やしていないわ」
「はい」
「だから、わたしは人間たちを守るために力を使う気なんてないもの。別に何かしてもらっているわけでもないし。もしこの国が滅んだら別の場所に移動するだけよ」

 さも当然といった様子でアーデはさらりとそう言った。

「でも、戦争はたくさんの人が……」
「人間の国だもの。人間が勝手に守ればいいわ。大体、あなたは聖女なんだから国同士の戦争に介入しちゃいけないんじゃないの? 世界聖女保護協定、だったかしら?」
「それは……」

 私は言い返すことができなかった。

「ま、そういうことよ。それにね。多分勝つんじゃないかしら?」
「え?」
「なんかこの国の人間たち、わたしがドン引きするレベルで容赦がないもの」
「はぁ」
「ま、フィーネの知り合いくらいなら助けてあげるわ。あなたが悲しむ姿は見たくないもの」

 アーデはそう言うと、パチンとウィンクをしてくる。

「それで、もう一つって?」
「はい。もう一つは精霊の島に行きたいんです」
「精霊の島? なあに? それ」
「この国の北東の海に、常に霧に包まれた海があって、精霊界の境界があるそうなんです。私たちはその先に精霊の島があると考えていて、そこに行きたいんです」
「精霊の島、ねぇ。聞いたことはないけど、常に霧の出ている帰らずの海は誰かが話していたわね。フィーネたちはそこに行くの?」
「はい。精霊神様に会う必要があるんです」
「そう。分かったわ。それなら船は用意してあげるから、準備が整うまではゆっくりしていくといいわ」
「ありがとうございます」

 私がお礼を言うと、アーデは嬉しそうに表情を崩す。

「どうってことないわ。フィーネは未来のお嫁さんだもの」
「いえ、それとこれとは……」
「あら、照れちゃって。フィーネったら本当にカワイイわね」
「ええぇ」
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