555 / 625
正義と武と吸血鬼
第十二章第23話 オオダテ温泉
しおりを挟む
私たちは早速専用の露天風呂にやってきた。
浴槽は無色透明のお湯を満々とたたえており、正面にはオオダテの美しい山並みが広がっている。そして下のほうからは川のせせらぎが聞こえてくる。
うん。素晴らしい立地だ。こうして自然を眺めながらいただく温泉はありきたりだが、最高という表現がぴったりだ。
そしてこの無色透明のお湯だが……。
私は臭いを嗅ぎ、そして軽く舐めて味を確かめる。
「姉さまっ! この温泉にはどんな効果があるんですか?」
「はい。このお湯はカルシム・ナトリウム硫酸塩泉で、切り傷や火傷、湿疹、ニキビなどに効果があります。他にも冷え性などにも効果がありますし、飲むことでお腹の調子を整える効果もありますが……」
「あっ! あたしにぴったりですねっ!」
「ルーちゃん、お腹の調子が悪かったんですか?」
「え? そんなことないですよ?」
「じゃあどうして?」
「だって、たくさん食べたらお腹も疲れますよ? だから調子を整えてあげるのって大事かなって」
……ならば食べ過ぎないようにすればいいのでは?
そんなことを思っている私を尻目にルーちゃんは竹のパイプから浴槽に注がれているから手で受け止め、口をつけた。
「んー、なんか微妙な味?」
「温泉水はそんなに美味しいものじゃありませんから」
「でもお腹にいいんですよねっ?」
ルーちゃんがもう一杯と口を付けるので私は慌てて止める。
「あまり飲みすぎても体に悪いですから、もうそのくらいで十分です」
「えっ?」
ルーちゃんはすぐに両手を離した。お湯はルーちゃんの両手から肢体を伝い、浴槽のお湯へと流れ落ちる。
私も体を洗うと湯船に体を沈める。
ううん。やっぱり温泉は気持ちいい。こうしてお湯につかりながらのんびりしていると、束の間ではあるが嫌なことを忘れられる。
瘴気のこと、戦争を仕掛けようとしているレッドスカイ帝国のこともそうだ。
ああ、レッドスカイ帝国といえば、将軍は……。
「そういえばルーちゃん」
「なんですか?」
「強くなりましたね」
「えっ? どうしたんですか? いきなり」
「だって、あの将軍から一本取ったじゃないですか」
「でもあれは……私だけじゃ……」
自分一人では将軍に勝てないことはしっかりと理解しているようで、少し自信なさげな様子だ。
「ルーちゃんはクリスさんと違って後衛なんですから、近づかれないようにするのが基本じゃないですか」
「それはそうですけど……」
「だから、あれでいいと思いますよ」
「……」
「それに、あの戻ってくる矢はすごかったですよ」
「えへへ」
私がそう褒めると、ルーちゃんは嬉しそうに表情を崩す。
「あとは、私のほうに矢が飛んでこなければもっといいんですけどね」
私が冗談めかしてそう言うと、ルーちゃんは顔を赤くする。
「むぅー。姉さまがいじわるするっ」
「あはは、冗談ですよ。結界があるので大丈夫ですから」
「ホントにっ?」
「はい。本当です」
「姉さまっ」
ルーちゃんが私にぎゅっと抱きついてきたので、私はルーちゃんを抱き返す。
ルーちゃんに背を追い越されたとはいえ、まだまだ大きくは変わらない。だから私がお姉さんなのだと思っていたのだが……。
ふにっ。
何やら柔らかいものが押し付けられている感触がある。
これは……まさか?
そっと確認するとそこには膨らみ始めたルーちゃんの柔らかな丘があり、それが私に押し付けられているのだ。
そ、そ、そ、そんな馬鹿な!
まさかルーちゃんに背だけでなくそっちでも追い越された!?
悔しいやら嬉しいやら、なんとも言えない気分だ。
いや、うん。ルーちゃんの成長は嬉しいが、嬉しいが……。うん。嬉しいのだが……。
考えがまとまらなくなった私はルーちゃんの温もりを感じながら、ボーっと美しい木々を眺めるのだった。
◆◇◆
「姉さまっ! いいお湯でしたねっ!」
「はい。そうですね」
妹分に追い抜かれたショックを引きずりつつも、私たちは部屋へと戻ってきた。
部屋ではクリスさんは鎧の手入れをしており、シズクさんは座禅を組んで瞑想している。
「フィーネ様、お湯加減はいかがでしたか?」
「はい。とてもいいお湯でしたよ」
「……フィーネ様、どうされました? どこか表情が優れないように見えるのですが……」
クリスさんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「あ、いえ。そんなことはないですよ。ルーちゃんが成長したんだなぁ、としみじみ思っただけです」
「ルミアが? ああ、そうですね。ルミアは努力を重ねていますから」
「えへへ」
クリスさんの賛辞にルーちゃんは嬉しそうにしている。
ええと、私も成長したいのだがどうすればいいのだろうか?
浴槽は無色透明のお湯を満々とたたえており、正面にはオオダテの美しい山並みが広がっている。そして下のほうからは川のせせらぎが聞こえてくる。
うん。素晴らしい立地だ。こうして自然を眺めながらいただく温泉はありきたりだが、最高という表現がぴったりだ。
そしてこの無色透明のお湯だが……。
私は臭いを嗅ぎ、そして軽く舐めて味を確かめる。
「姉さまっ! この温泉にはどんな効果があるんですか?」
「はい。このお湯はカルシム・ナトリウム硫酸塩泉で、切り傷や火傷、湿疹、ニキビなどに効果があります。他にも冷え性などにも効果がありますし、飲むことでお腹の調子を整える効果もありますが……」
「あっ! あたしにぴったりですねっ!」
「ルーちゃん、お腹の調子が悪かったんですか?」
「え? そんなことないですよ?」
「じゃあどうして?」
「だって、たくさん食べたらお腹も疲れますよ? だから調子を整えてあげるのって大事かなって」
……ならば食べ過ぎないようにすればいいのでは?
そんなことを思っている私を尻目にルーちゃんは竹のパイプから浴槽に注がれているから手で受け止め、口をつけた。
「んー、なんか微妙な味?」
「温泉水はそんなに美味しいものじゃありませんから」
「でもお腹にいいんですよねっ?」
ルーちゃんがもう一杯と口を付けるので私は慌てて止める。
「あまり飲みすぎても体に悪いですから、もうそのくらいで十分です」
「えっ?」
ルーちゃんはすぐに両手を離した。お湯はルーちゃんの両手から肢体を伝い、浴槽のお湯へと流れ落ちる。
私も体を洗うと湯船に体を沈める。
ううん。やっぱり温泉は気持ちいい。こうしてお湯につかりながらのんびりしていると、束の間ではあるが嫌なことを忘れられる。
瘴気のこと、戦争を仕掛けようとしているレッドスカイ帝国のこともそうだ。
ああ、レッドスカイ帝国といえば、将軍は……。
「そういえばルーちゃん」
「なんですか?」
「強くなりましたね」
「えっ? どうしたんですか? いきなり」
「だって、あの将軍から一本取ったじゃないですか」
「でもあれは……私だけじゃ……」
自分一人では将軍に勝てないことはしっかりと理解しているようで、少し自信なさげな様子だ。
「ルーちゃんはクリスさんと違って後衛なんですから、近づかれないようにするのが基本じゃないですか」
「それはそうですけど……」
「だから、あれでいいと思いますよ」
「……」
「それに、あの戻ってくる矢はすごかったですよ」
「えへへ」
私がそう褒めると、ルーちゃんは嬉しそうに表情を崩す。
「あとは、私のほうに矢が飛んでこなければもっといいんですけどね」
私が冗談めかしてそう言うと、ルーちゃんは顔を赤くする。
「むぅー。姉さまがいじわるするっ」
「あはは、冗談ですよ。結界があるので大丈夫ですから」
「ホントにっ?」
「はい。本当です」
「姉さまっ」
ルーちゃんが私にぎゅっと抱きついてきたので、私はルーちゃんを抱き返す。
ルーちゃんに背を追い越されたとはいえ、まだまだ大きくは変わらない。だから私がお姉さんなのだと思っていたのだが……。
ふにっ。
何やら柔らかいものが押し付けられている感触がある。
これは……まさか?
そっと確認するとそこには膨らみ始めたルーちゃんの柔らかな丘があり、それが私に押し付けられているのだ。
そ、そ、そ、そんな馬鹿な!
まさかルーちゃんに背だけでなくそっちでも追い越された!?
悔しいやら嬉しいやら、なんとも言えない気分だ。
いや、うん。ルーちゃんの成長は嬉しいが、嬉しいが……。うん。嬉しいのだが……。
考えがまとまらなくなった私はルーちゃんの温もりを感じながら、ボーっと美しい木々を眺めるのだった。
◆◇◆
「姉さまっ! いいお湯でしたねっ!」
「はい。そうですね」
妹分に追い抜かれたショックを引きずりつつも、私たちは部屋へと戻ってきた。
部屋ではクリスさんは鎧の手入れをしており、シズクさんは座禅を組んで瞑想している。
「フィーネ様、お湯加減はいかがでしたか?」
「はい。とてもいいお湯でしたよ」
「……フィーネ様、どうされました? どこか表情が優れないように見えるのですが……」
クリスさんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「あ、いえ。そんなことはないですよ。ルーちゃんが成長したんだなぁ、としみじみ思っただけです」
「ルミアが? ああ、そうですね。ルミアは努力を重ねていますから」
「えへへ」
クリスさんの賛辞にルーちゃんは嬉しそうにしている。
ええと、私も成長したいのだがどうすればいいのだろうか?
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
異世界でも馬とともに
ひろうま
ファンタジー
乗馬クラブ勤務の悠馬(ユウマ)とそのパートナーである牝馬のルナは、ある日勇者転移に巻き込まれて死亡した。
新しい身体をもらい異世界に転移できることになったユウマとルナが、そのときに依頼されたのは神獣たちの封印を解くことだった。
ユウマは、彼をサポートするルナとともに、その依頼を達成すべく異世界での活動を開始する。
※本作品においては、ヒロインは馬であり、人化もしませんので、ご注意ください。
※本作品は、某サイトで公開していた作品をリメイクしたものです。
※本作品の解説などを、ブログ(Webサイト欄参照)に記載していこうと思っています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる