勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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正義と武と吸血鬼

第十二章第23話 オオダテ温泉

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 私たちは早速専用の露天風呂にやってきた。

 浴槽は無色透明のお湯を満々とたたえており、正面にはオオダテの美しい山並みが広がっている。そして下のほうからは川のせせらぎが聞こえてくる。

 うん。素晴らしい立地だ。こうして自然を眺めながらいただく温泉はありきたりだが、最高という表現がぴったりだ。

 そしてこの無色透明のお湯だが……。

 私は臭いを嗅ぎ、そして軽く舐めて味を確かめる。

「姉さまっ! この温泉にはどんな効果があるんですか?」
「はい。このお湯はカルシム・ナトリウム硫酸塩泉で、切り傷や火傷、湿疹、ニキビなどに効果があります。他にも冷え性などにも効果がありますし、飲むことでお腹の調子を整える効果もありますが……」
「あっ! あたしにぴったりですねっ!」
「ルーちゃん、お腹の調子が悪かったんですか?」
「え? そんなことないですよ?」
「じゃあどうして?」
「だって、たくさん食べたらお腹も疲れますよ? だから調子を整えてあげるのって大事かなって」

 ……ならば食べ過ぎないようにすればいいのでは?

 そんなことを思っている私を尻目にルーちゃんは竹のパイプから浴槽に注がれているから手で受け止め、口をつけた。

「んー、なんか微妙な味?」
「温泉水はそんなに美味しいものじゃありませんから」
「でもお腹にいいんですよねっ?」

 ルーちゃんがもう一杯と口を付けるので私は慌てて止める。

「あまり飲みすぎても体に悪いですから、もうそのくらいで十分です」
「えっ?」

 ルーちゃんはすぐに両手を離した。お湯はルーちゃんの両手から肢体を伝い、浴槽のお湯へと流れ落ちる。

 私も体を洗うと湯船に体を沈める。

 ううん。やっぱり温泉は気持ちいい。こうしてお湯につかりながらのんびりしていると、束の間ではあるが嫌なことを忘れられる。

 瘴気のこと、戦争を仕掛けようとしているレッドスカイ帝国のこともそうだ。

 ああ、レッドスカイ帝国といえば、将軍は……。

「そういえばルーちゃん」
「なんですか?」
「強くなりましたね」
「えっ? どうしたんですか? いきなり」
「だって、あの将軍から一本取ったじゃないですか」
「でもあれは……私だけじゃ……」

 自分一人では将軍に勝てないことはしっかりと理解しているようで、少し自信なさげな様子だ。

「ルーちゃんはクリスさんと違って後衛なんですから、近づかれないようにするのが基本じゃないですか」
「それはそうですけど……」
「だから、あれでいいと思いますよ」
「……」
「それに、あの戻ってくる矢はすごかったですよ」
「えへへ」

 私がそう褒めると、ルーちゃんは嬉しそうに表情を崩す。

「あとは、私のほうに矢が飛んでこなければもっといいんですけどね」

 私が冗談めかしてそう言うと、ルーちゃんは顔を赤くする。

「むぅー。姉さまがいじわるするっ」
「あはは、冗談ですよ。結界があるので大丈夫ですから」
「ホントにっ?」
「はい。本当です」
「姉さまっ」

 ルーちゃんが私にぎゅっと抱きついてきたので、私はルーちゃんを抱き返す。

 ルーちゃんに背を追い越されたとはいえ、まだまだ大きくは変わらない。だから私がお姉さんなのだと思っていたのだが……。

 ふにっ。

 何やら柔らかいものが押し付けられている感触がある。

 これは……まさか?

 そっと確認するとそこには膨らみ始めたルーちゃんの柔らかな丘があり、それが私に押し付けられているのだ。

 そ、そ、そ、そんな馬鹿な!

 まさかルーちゃんに背だけでなくそっちでも追い越された!?

 悔しいやら嬉しいやら、なんとも言えない気分だ。

 いや、うん。ルーちゃんの成長は嬉しいが、嬉しいが……。うん。嬉しいのだが……。

 考えがまとまらなくなった私はルーちゃんの温もりを感じながら、ボーっと美しい木々を眺めるのだった。
◆◇◆

「姉さまっ! いいお湯でしたねっ!」
「はい。そうですね」

 妹分に追い抜かれたショックを引きずりつつも、私たちは部屋へと戻ってきた。

 部屋ではクリスさんは鎧の手入れをしており、シズクさんは座禅を組んで瞑想している。

「フィーネ様、お湯加減はいかがでしたか?」
「はい。とてもいいお湯でしたよ」
「……フィーネ様、どうされました? どこか表情が優れないように見えるのですが……」

 クリスさんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

「あ、いえ。そんなことはないですよ。ルーちゃんが成長したんだなぁ、としみじみ思っただけです」
「ルミアが? ああ、そうですね。ルミアは努力を重ねていますから」
「えへへ」

 クリスさんの賛辞にルーちゃんは嬉しそうにしている。

 ええと、私も成長したいのだがどうすればいいのだろうか?
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